胃と腸 49巻11号 (2014年10月)

今月の主題 胃癌ESD適応拡大病変の経過と予後

序説

胃癌内視鏡治療の適応拡大 小野 裕之
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はじめに

 かつて,胃癌を内視鏡的に治癒せしめる,ということは内視鏡医,消化器内科医の悲願の一つであった.現在では,先人たちの努力によって早期胃癌の半数近くが内視鏡治療されるようになっており,またその適応も拡大されつつある.

 しかし一方で,胃癌に対する内視鏡治療の適応を拡大するうえで解決すべき重要な課題が大きく二つある.一つは技術的な問題である.病変を切除する技術がなければ適応を拡大することはできないのは自明であろう.もう一つは,リンパ節転移の問題である.内視鏡治療は胃の内側からのアプローチであり,胃病変を技術的に切除することができても,リンパ節転移があるならば癌を根治させることはできない.この二つの課題に対して現在まで多くの努力が払われ,一歩ずつ着実に進んできた.

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要旨 当院で1999〜2006年までの間に術前適応を満たした初発の早期胃癌に対し,ESDを施行した患者は1,956例で,ESD後に適応拡大治癒切除(分化型優位)と判定された713例の予後を明らかにした(追跡完遂割合91.7%,観察期間中央値7.1年).所属リンパ節転移を1例,局所再発と遠隔転移を1例,異時性癌を129例(18.1%)に認め,うち局所再発と遠隔転移の1例と異時性癌の2例の計3例が胃癌死した.5年全生存率,疾患特異的生存率,相対生存率は92.2%,99.9%,105.6%で,胃粘膜内癌外科切除例や一般の日本人対象集団と比べても予後良好であり,ESDは適応拡大病変に対し根治性の高い治療法であった.

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要旨 近年,早期胃癌の内視鏡治療の適応は腫瘍径20mm以下,潰瘍なしの未分化型粘膜内癌にまで臨床研究として拡大されているが,その長期予後は明らかになっていない.今回,ESDを行った未分化型粘膜内癌の長期予後を検討した.109例にESDを行い,治癒切除率は81.7%,観察期間62.6か月(中央値)で原病死3例,他病死11例,5年全生存率,疾患特異的生存率は89.8%,96.9%であった.手術された未分化型適応拡大病変50例とESD治癒切除の89例を比較し,手術の5年全生存率,疾患特異的生存率はともに100%,ESDは90.9%,97.5%で有意差はなかった.未分化型適応拡大病変に対するESDは治療選択のひとつとなりえる.

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要旨 術前に内視鏡治療適応外と判断した早期胃癌に対し,何らかの理由で初期治療として内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を選択した104症例の治療成績および予後を検討した.一括断端陰性切除率は71%と低く,また出血・穿孔などの偶発症発生率は高かった.ESD後の病理学的評価により治癒切除と判断されたのは16%であった.全体の5年生存率は72%であったが,疾患特異的5年生存率は93%と良好であった.年齢や併存疾患などで外科手術が困難な早期胃癌症例では,偶発症のリスクを考慮のうえで,ESDは治療法の選択肢のひとつとなりうる.

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要旨 ESDを施行した早期胃癌593例735病変を,治癒切除例(A群 ; 490例),断端陽性・判定不能ないし分割切除などの技術的要因による非治癒切除例(B群 ; 46例),病理学的理由による非治癒切除で経過観察した病変(C群 ; 13例),外科的切除を追加した病変(D群 ; 44例)に分類し,適応外病変の経過と予後を検討した.いずれの群でも経過観察中のリンパ節転移や遠隔転移は認めなかった.D群における手術時の癌遺残率とリンパ節転移率は各々6.8%であった.Kaplan-Meier法による生存曲線においても各群間に差は認めなかった.一方,疾患特異的生存率はB,C,D群は100%であったのに対し,A群で異時性異所再発病変のため胃癌死を2例認めた.以上より,本研究においては適応外病変の経過観察中に遠隔転移や胃癌死がないことが確認された.

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要旨 早期胃癌2,295例に対してESDを施行した後の病理組織学的診断にて,ESD適応外病変と診断された271例のうち97例に追加外科切除を行った.追加外科切除症例の臨床病理学的検討では8例にリンパ節転移が認められ,肉眼型分類における非陥凹型(隆起型・平坦型)と静脈侵襲陽性はリンパ節転移の危険因子であった.追加外科切除後の経過では血行性転移再発を3例に認め,うち1例では腹部大動脈周囲リンパ節にも転移がみられた.再発を来した3例は全例原病死した.ESD後に適応外病変と診断された粘膜下層浸潤(T1b)胃癌79例に追加外科切除を行った結果,76例(96%)には再発を認めなかった.T1b胃癌においてもESDを先行して適応外病変であった場合には追加胃切除を行うという治療戦略は,一次治療として外科的胃切除を選択するのと同程度の治療効果が期待できる.

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要旨 2003年1月から2010年12月までの間に,対象施設でESDが施行された早期胃癌症例は,ガイドライン適応病変6,456症例,7,979病変,適応拡大病変4,202症例,5,781病変であった.このうち,2014年3月31日の時点で局所遺残再発あるいは転移再発を来した症例について臨床病理学的特徴,経過と予後について検討を行った.局所遺残再発は,ガイドライン適応病変では14例(0.22%),適応拡大病変では53症例(1.26%)であり,有意に適応拡大病変で局所遺残再発が高率であった(p<0.05).ガイドライン適応病変では,胃体部の平坦・陥凹型が多く,適応拡大病変では部位による差はなく,平坦・陥凹型が多く未分化型混在癌が9例(17%)含まれていた.非治癒切除は,ガイドライン適応病変9例(64%),適応拡大病変40例(75%)であり,適応拡大病変で非治癒切除の割合が高かった.局所遺残再発例に対する追加治療は,内視鏡治療,外科治療はそれぞれ,ガイドライン適応病変では12例,1例,適応拡大病変では46例,5例といずれも9割の症例で内視鏡治療が選択されていた.また,内視鏡治療のほとんどの症例でESDが施行されていた.転移再発はガイドライン適応病変にはなく,適応拡大病変6例(0.14%)にみられた(p<0.05).深達度はMとSM1がそれぞれ3例ずつで,腫瘍径は55mmの1例を除いて21mm以下の病変であった.組織型では未分化型混在癌(分化型優位)が半数を占め,全例治癒切除の判定であった.非常に低率ではあるが,適応拡大病変については転移再発を考慮した術前の説明と経過観察が重要であり,未分化型混在癌の取扱いが今後の課題である.

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要旨 胃癌ESDを受けた500例を経過観察(中央値5.2年)し,119例(24%)に同時性多発癌,61例(12%)に異時性多発癌が発見された.異時性例に原病死はないが,3例はSM2であった.また,EMR/ESDを受けた524例においてH. pylori感染,時代背景(1990年代vs. 2000年代),背景粘膜萎縮,同時多発,性別などの因子別に異時性多発癌累積発見率を検討した.同時多発例と男性から高率に異時多発癌が発見され,H. pylori陰性例からの発見は陽性例と同等であった.発癌を認めた胃炎粘膜からは,同時・異時合わせて30%以上の多発癌が発生することを念頭に置き,ESDの前後には慎重な内視鏡観察が必要である.

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要旨 患者は81歳,男性.2013年2月に胃体下部後壁の隆起性病変に対してESD(endoscopic submucosal dissection)を施行した.病理診断は48mmの0-I型分化型粘膜内癌で,適応拡大治癒切除であった.15か月後の腹部超音波検査と腹部造影CT検査で2か所の肝転移と,胃の小彎リンパ節転移を疑う所見を認めた.PET-CTでも同部位に集積がみられたが,他の原発を疑う所見は認めなかった.画像所見と経過よりESD治癒切除後の転移再発と診断した.追加の病理検索でも明らかな非治癒因子は検出されなかった.本稿では,ESD治癒切除後にリンパ節,肝転移再発を来したまれな早期胃癌の症例について報告する.

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 ものは「在る」から見えるか,「見る」から在るか.哲学が始まって以来の大問題とされる.そんなことがわたしに分かるはずがないが,考えるのは自由である.「内視鏡で見る」ことを例にとって考えてみる.

 機器とそれを使って行う内視鏡検査それ自体は面白くもおかしくもない.面白くなり検査にのめり込むようになるには,ヘレン・ケラーにおける冷たい水のようなきっかけとなるエピソードが要る.内視鏡医が消化管の中に見るものは無数にある.それらを見ることは業務として坦々と進む.消化管粘膜はいわば群盲が触れる象である.ある日,早期癌・IIcを見たとき消化管外で見ることのできない神秘的な姿に打たれるということがありうる.打たれた人は内視鏡にのめり込んで行く.ヘレンの水・waterである.盲目のヘレンがwaterを理解したと同じように,早期癌・IIcは内視鏡初心者が内視鏡診断に開眼する冷たい水である.そうでない人は単なる内視鏡医として終わるか,その世界から去ってゆく.縁無き衆生である.早期胃癌を内視鏡で見たとき,ある種の人は内視鏡診断とはこういう事だとはじめて心の底から分かる.すくなくとも私はそうであった.

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要旨 患者は70代,男性.近医の上部消化管内視鏡検査で食道に異常を指摘され,精査・加療目的に当院へ紹介となった.通常内視鏡検査で,上切歯列より18cmの頸部食道に憩室を伴った食道異所性胃粘膜を認めた.左壁側に発赤調の粗糙粘膜を認め,NBI拡大内視鏡像では表面の腺管構造の配列は不均一で表面に異常血管を有し,生検で高分化型腺癌を認めた.頸部食道切除術が施行され深達度T1a-MMの高分化型管状腺癌であった.腺癌組織は異所性胃粘膜との連続性を認め,異所性胃粘膜から発生した食道腺癌と考えられた.同病変のNBI拡大内視鏡像は分化型胃癌に類似した所見であった.

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はじめに─総論的事項

 粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)は表面が周囲粘膜と同様の正常上皮で覆われ,なだらかな立ち上がりを呈し,時にbridging foldを伴うことが基本である.鑑別すべき胃のSMT様病変として,広義の消化管間葉系腫瘍(gastrointestinal stromal tumor ; GIST)をはじめ,悪性リンパ腫,迷入膵,カルチノイド,転移性腫瘍,癌などがあげられる(Table 1).上部消化管内視鏡検査でSMTを発見した場合,形状,占居部位,大きさ,色調,表面性状,陥凹や潰瘍の有無,硬さ,多発性の有無を考慮し,観察する必要がある.また,大きさが3cm以上,表面が不整や結節状を呈する,陥凹や潰瘍を有する,大きさが急速に増大しているといった場合には悪性を疑う指標となる1)

 本稿では広義のGIST,SMT様胃癌,転移性腫瘍,迷入膵,その他について症例を提示し概説する.

早期胃癌研究会

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 2013年10月の早期胃癌研究会は2013年10月23日(水)に笹川記念会館国際会議場で開催された.司会は,門馬久美子(がん・感染症センター都立駒込病院内視鏡科),松本主之(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野),病理を新井冨生(東京都健康長寿医療センター病理診断科)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,竹内学(新潟大学医歯学総合病院消化器内科)が「消化管疾患 : 診断と鑑別の進め方─食道陥凹性病変の診断と鑑別」と題して行った.

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欧文目次

第21回「白壁賞」論文募集
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 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 小山 恒男
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 本号は静岡がんセンターの小野,滋賀医科大学の九嶋,佐久医療センターの小山で企画を担当した.本誌で胃癌ESDの適応拡大を論じるのは,43巻1号(2008年)の「早期胃癌ESD─適応拡大を求めて」以来である.2008年の時点ではまだ長期成績が不明であったため,今回は適応拡大病変に絞って,その予後を詳細に検討することとした.

 まず,胃癌ESDの先駆者である小野が序説にて,EMRからESDへと進化する過程で,胃癌に対する内視鏡治療の適応が変わってきたことを解説し,本号の意義を明確にした.

次号予告

基本情報

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胃と腸
49巻11号 (2014年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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