胃と腸 48巻2号 (2013年2月)

今月の主題 大腸ESDの適応と実際

序説

大腸ESDの適応と実際 田中 信治
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 大腸で内視鏡治療の対象となる上皮性腫瘍病変は,早期癌以外にも良性病変である腺腫性病変が多く存在しており,この点で内視鏡治療の適応病変が早期癌である食道や胃と大きく異なっている.大腸腺腫にも微小病変など治療の必要のないものもあるが,基本的には前癌病変として内視鏡治療の適応である.一方,大腸では拡大内視鏡観察によるpit pattern診断学1)2)などの微細診断学が早くから確立し臨床導入されたことにより,腺腫と癌の判別やSM浸潤部位や浸潤程度の診断学が発展してきた.このような背景のもと,正確な術前診断によって適切な症例を選択すれば,大きな病変も分割による内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)で根治可能であることが示され,現在も世界中で実践されている3)~6)

 しかし,その一方で,スネアEMRでは対応できないものの,“内視鏡的な一括切除が必要な病変"の条件も明らかにされてきている.こうした“スネアEMRでは対応できないが内視鏡的一括切除が必要な病変"に対して,外科的手術ではなく低侵襲・低コストな内視鏡治療で摘除したいという内視鏡医の強い願望のもと,大腸でも内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)に関する臨床研究が活発に行われ,新しいデバイス・周辺機器の開発(Fig. 1)や病態学に基づいたESDの適応基準などが検討されてきた7)~10)

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要旨 これまで大腸病変に対する内視鏡治療は,内視鏡的粘膜切除術(EMR)が主流であったが,最近では内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が徐々に普及してきている.ESDは腫瘍径にかかわらず病変を一括切除でき,正確な病理学的評価も可能であるため,優れた治療である.しかし,大腸腫瘍は病変ごとに固有の特徴があり,通常所見および正確なpit pattern診断を行って,過不足のない適切な治療が行われなければならない.当院でのESDの適応は,スネアによる一括EMRが困難と言われる20mm以上で,術前深達度がSM微小浸潤までと予測できる病変のうち,(1) LST-NG(pseudo depressed type),(2) スネアEMRでVi型pit pattern部の一括切除が困難と思われる病変,(3) 線維化を伴いnon-lifting sign陽性を呈する病変,(4) 内視鏡切除後でEMR困難な遺残再発病変,などである.しかしESDは技術的な難易度が高く,術者の技術や病変の位置,内視鏡操作性も加味したうえで慎重に判断されるべきである.

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要旨 ESDを安全確実に再現性をもって施行するには,粘膜下層の血管網を適切に処理し,血管網と固有筋層間の層に至ることが重要である.さらに,この剝離深度を維持することで出血・線維化などの困難例に対処することが可能になる.また,ESDにおいて最も重要なことは,根治性の判断に必要な癌の浸潤距離・様式や脈管侵襲の有無をも評価可能な質の高い切除標本を得ることである.適切な剝離深度での切除は,質の高い切除標本を得ることにもつながる.

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要旨 大腸の粘膜下層の線維化の成因には,(1) 癌の粘膜下層への浸潤,(2) 人為的要因(術前生検,局注の既往,EMR後局所遺残・再発),(3) 腸管の蠕動運動,(4) 慢性炎症(炎症性腸疾患など)が挙げられる.大腸ESDは,このようなEMRでは切除困難もしくは不可能な病変に対して,技術的に困難ではあるものの,一括切除が期待できる手技である.しかし,穿孔の危険性がより高く,長時間の手技となることがある粘膜下層の線維化を有する病変に対するESDには,高い技術と経験が必要である.大腸ESDを安全かつ確実に完遂するには,病変の困難性を術前に予測したうえで,術者は技量および経験とのバランスを図る必要がある.

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要旨 大腸ESDは,胃などに比べると難易度が高いと言われている.その理由として,大腸は長い管腔臓器であり内視鏡の操作性が不安定になりやすいことや,ひだや彎曲の存在により,病変とESDナイフが垂直に対峙しやすいことなどが考えられる.ダブルバルーン内視鏡は,小腸の観察・治療を目的として開発されたが,そのオーバーチューブバルーンで腸管のたわみやループを抑制することで,内視鏡の操作性を安定させることが可能である.筆者らは2004年9月から2012年3月の期間に行った大腸ESD 632病変中,通常内視鏡ではESD困難と考えられた58病変にダブルバルーン内視鏡を用いたESDを行い,その有用性を確認した.また,垂直に対峙する病変に対してはSAFEKnifeVが有用であると考えられた.

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要旨 肛門管の上縁は恥骨直腸筋の上縁,すなわち歯状線の上方に位置する6~12mmの移行上皮部の境界であるHerrmann線に一致する.側方発育傾向を有するLSTは,しばしば,直腸(Rb)から移行上皮部分に進展し,歯状線に接する.以上のうち,推定深達度MやSM浅層にとどまる病変は局所一括切除であるESDの適応となる.したがって,歯状線に接する病変に対するESDの適応は,原則として,大腸ESD標準化検討部会の提唱する基準と同様で,内視鏡的一括切除が必要な病変のうち,(1) スネアによる一括切除が困難な,LST-NG,特にpseudo-depressed type,Vi型pit patternを呈する病変,SM軽度浸潤癌,大きな陥凹型腫瘍,癌が疑われる大きな隆起性病変,(2) 粘膜下層に線維化を伴う粘膜内病変,(3) 潰瘍性大腸炎などの慢性炎症を背景としたsporadicな局在腫瘍,(4) 内視鏡的切除後の局所遺残再発早期癌である.一方,ESD術後に肛門狭窄が危惧される亜全周から全周性の病変は相対的適応と判断され,狭窄対策が課題である.歯状線に接するESD症例を12例経験したが,大きさ平均は46.4mmで遺残再発や偶発症は認めていない.本手技では,知覚神経を有する歯状線部分において局所麻酔剤を用いた疼痛対策が必要となる.また,剝離では移行上皮部の粘膜下層の内痔静脈層,ならびに上直腸動脈の肛門枝の止血操作を確実に行うことが重要となる.一方,ESDは従来から施行されてきたTARと比較して局所再発をほとんど認めないこと,診断から治療の一連の流れの中で行いうる低侵襲の治療であることなどの点で優れており,今後歯状線に接する病変の治療において重要な役割を担うと思われた.

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要旨 ハイブリッドESD(EMR併用ESD)は,病変周囲を切開後に必要かつ十分なだけ粘膜下層を剝離したうえでスネアリングするESDとEMRの利点を兼ね備えた手技であり,術時間の短縮,粘膜下層剝離操作に伴う穿孔予防(特に病変が正面に対峙している場合など),EMRでは一括摘除が困難な病変を確実に一括摘除できることなどが利点である.ハイブリッドESDの適応病変はESDの適応病変に準じるが,大きさからみた適応は,一括摘除が必要な最大径30mm大強までの病変である.ハイブリッドESDを行う際に最も重要なポイントは,粘膜下層剝離からスネアリングに移行するタイミングである.その目安としては,病変が切除潰瘍の辺縁から全周性に径10mm以上距離があり,粘膜下層が筋層直上まで十分に剝離され,スネア内に病変が十分に入る径20mm以下に縮んだ状態である.使用するスネアは,先端が跳ねず,筋層への押し付けが可能な硬性スネアが有用である.

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要旨 従来,大腸ESDに対して使用する高周波ナイフは,使用方法や形態から先端系ナイフ,IT系ナイフに分類されてきたが,現在ではさらに,安全性を追求したナイフや処置困難な部位の切除に特化したナイフなど様々な処置具が開発されている.術者は,それらのナイフを使い分けることでより安全なESDを行うことができるようになっているが,そのためにはそれぞれのナイフの特徴を理解し,そのナイフに適した状況で使用することが重要である.

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要旨 スネアによる従来の内視鏡摘除法(conventional endoscopic resection ; CER)は,径20mm以上の大腸腫瘍一括切除には限界がある.一方,先進施設ではESD(endoscopic submucosal dissection)も導入してきた.本報告は,大腸癌研究会のプロジェクト研究(前向きコホート研究)の結果の一部であるが,径20mm以上の大腸腫瘍内視鏡治療に関して,全国18施設で1,845病変が登録された(CERは1,029病変,ESDは816病変).CER群,ESD群の一括切除率は,それぞれ56.9%,94.5%(p<0.01),平均治療時間は,18±23分,96±69分(p<0.001)であった.穿孔率と後出血率は,それぞれ0.8%,1.6%および2.0%,2.2%で,いずれも低値であった.径40mm以上のCER一括切除率は12.3%と低いが,ESDは93%と高かった(p<0.01).ESDは普及しつつあるが,径40mm以上の病変の治療時間は長く(129±83分),先進施設・熟練医での実施が望ましい.

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はじめに

田中 今日は,お忙しい中をお集まりいただきまして,ありがとうございます.2012年4月から大腸に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)が保険適用になりましたので,その理解を深める意味も含めて座談会を組ませていただきました.

 大腸ESDの適用についてその解釈に少し混乱が生じているようですので,まず,この適用のことからディスカッションしたいと思います.

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 〔患者〕 60歳代,男性.

 〔現病歴〕 主訴は特になし.検診の胃X線検査で要精査となり,近医で上部消化管内視鏡検査を受けたところ,前庭部前壁に病変を認め,精査加療目的で紹介となった.

 〔胃X線検査所見〕 腹臥位充盈像では,前庭部前壁に長径2cm大の,立ち上がりが急峻な周囲隆起を伴う深いバリウム斑を認めた(Fig. 1a).二重造影像では,陥凹辺縁の大部分は平滑かつシャープであるが,一部に棘状のはみ出しがみられた.また,ひだ集中や胃壁の伸展不良は認めず,隆起部の粘膜模様は周囲の萎縮粘膜と同様だった(Fig. 1b).側面像では,あたかも憩室のような,中心に深い陥凹を伴うなだらかな陰影欠損として描出された(Fig. 1c).圧迫像では,陥凹はしっかりと残るが,周囲隆起の伸展性は良好であった(Fig. 1d, e).

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要旨 患者は64歳,男性.自覚症状なし.近医の上部消化管内視鏡検査にて,SCJ(squamocolumnar junction)近傍に隆起性病変を指摘され,精査加療目的で当院へ紹介された.食道X線検査では食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)に長径10mmの分葉状の隆起性病変として描出され,食道内視鏡では一部表面に白苔を伴う発赤調の亜有茎性隆起であった.周囲の粘膜にはSSBE(short segment Barrett esophagus)を伴っており,前医での生検で分化型腺癌が検出されていたため,Barrett食道腺癌と術前診断し,内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)にて切除した.病理組織学的には深達度MMの高分化腺癌であった.切除標本の病理組織学的所見では,Barrett上皮との連続性はなく,切除標本における肉眼的形態や,粘膜固有層~粘膜深層を主座として食道噴門腺やその導管に類似した腺管形態を示したことから食道噴門腺に由来する原発性食道腺癌と推測された.

画像診断道場

食道隆起性病変 高木 靖寛
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 患 者 : 59歳,男性.

 主 訴 : 背部痛.

 既往歴 : 53歳時 ; 急性膵炎,57歳時 ; 糖尿病,59歳時 ; 肺結核.

 生活歴 : 喫煙4本.飲酒5合~1升/日.

 現病歴 : 2011年10月より背部痛が出現し,原因精査のため行われた上部消化管内視鏡検査で切歯より25cmに隆起性病変を指摘された.

Coffee Break

見る 2.なにを見るか 長廻 紘
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 「トウンダは車内の通路に立って煙草を吸っていた.喫煙厳禁の掲示板が目に入らなかった.意に添わないものは人間だれでも目に入らないものだ.(J.ロート『果てしなき逃走』)」.見ることは主観的な行為であるが,誰にでも言葉どおりにできるとはかぎらない.人はありのままに見ようともしない.物はありのままに見えるのではない.誰でも見るけれども,真にものを見ることのできる者はあまりいない.何をどのように見るかは各人各様,各人の能力に応じる.見る人に見えるように,その人の器量に合ったようにしか見えない.また,知らずしらずのうちに色眼鏡をかけて,その色を通して見ている.ここに診断という技術が必然的にもつ落とし穴がある.個人差を排して,なにものにも捉われない眼で,色眼鏡に被われない眼で見ることができるよう努力する.見視観といって,身体のどのレベル(眼,脳,心)で見るかが問われる.こちらに見る主体(観)があり,むこうに見られるものとしての客体(観)がある.主客分離した立場から「見る」が成り立つが,一流の診断家は自己を無にして物になり切る瞬間がある.それを「ものになりきって見る(芭蕉)」という.

 見る方法には二つある.全体を満遍なく見る「見」と,特定の部分(要素)を集中的に見る「視」.そして,それらを心が統合してみる「観」.全体と部分は循環している.全体を知るためには部分が分からねばならず,部分を知るためには全体が分からねばならない.内視鏡検査の基本も「全体を見ると部分を見る」の繰り返しである.片方に傾くのは十全の検査とはいえない.気になる部分に注意がいきすぎると全体は疎かになり,全体をよく見ようとすると手薄になる局所ができる.

早期胃癌研究会

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 2012年 4月の早期胃癌研究会は4月11日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は飯石浩康(大阪府立成人病センター消化器内科)と入口陽介(東京都がん検診センター消化器内科),病理は鬼島宏(弘前大学大学院医学研究科病理生命科学講座)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは蔵原晃一(松山赤十字病院胃腸センター)が「順行性小腸X線造影の撮影法について」と題して行った.

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 2012年6月の早期胃癌研究会は2012年6月27日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は小澤俊文(佐藤病院消化器内科)と岩男泰(慶應義塾大学病院予防医療センター),病理は八尾隆史(順天堂大学医学部人体病理病態学)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは斉藤裕輔(市立旭川病院消化器病センター)が「注腸造影の撮影法─炎症性疾患を中心に─」と題して行った.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

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 本書の初版は1997年に上梓され,第一級の教科書として君臨し続けている.「なのに,なぜ,今さら挿入法なのだろう?」というのが,本書を手に取った最初の思いであった.しかし,序にもあるように,大腸内視鏡はこの15年間にpit patternの診断からNBIや超拡大診断,治療領域ではpolypectomyからpiecemeal polypectomy,ESD等々,極めて多様な対応が求められてきており,挿入に手間取っているようでは大腸内視鏡医として与えられた使命を果たせないのである.著者の挿入例数はこの15年間に20万件に達したそうであるが,そのキャリアの大部分は自身が開発した拡大内視鏡によっている.本機器は先端硬性部が長く太径でもあり,一般に挿入が難しい.このスコープを自在に操っている中に,挿入技術にいっそうの磨きがかかり,遂にはartの域に達したのであろう.本書はこうして完成した軸保持短縮法を何とか多くの内視鏡医に伝えたいという熱い思いにあふれている.

 これまでの挿入法はというと,one-man methodの創始者である新谷弘実先生のright-turn shortening(強いアングル操作で先端を粘膜ひだに引っかけ,右回旋しながら引き戻すことで腸管の直線化を図る)がよく知られている.これに対し,軸保持短縮法ではup-downのアングル操作を控え,可及的に先端硬性部を真っ直ぐに保ち,管腔の走行を的確に想定しながら,トルクを加えつつ順次スコープを挿入していくことを基本としている.筆者もUPDを用いた著者のライブデモンストレーションを見せていただいたことがあるが,確かに先端部を強く屈曲するようなシーンは一度もなかった.

第19回「白壁賞」論文募集
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 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

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 “これほどの書をよく出したものだ”.それが読後の素直な感想である.

 ESDは1995年に細川がITナイフを用い,ERHSEに準じて全周切開による粘膜切除を試みたのが嚆矢とされるが,1999年に共同開発者の小野,後藤田らが粘膜下層の剝離操作を加えることで,より正確な切除が可能となることを明らかにしたことから,その後の相次ぐ様々なデバイスの開発とも相まって急速に進歩し,今日では押しも押されもせぬ標準的治療となっている.しかし,この十数年間の進歩の影には数多くの苦い経験や失敗例があり,いつ潰れてもおかしくない状況にも見舞われている.これを乗り越える気力と工夫と技量があったからこそ,今日の位置を占めることができたのであるが,それは一面において偶発症との戦いとも言えるのである.一方,“必要は発明の母”ということがあるが,正にデバイスの開発や治療技術の進歩がそれで,当時全く不十分であった作業条件は次々と改善され,今日ではデバイスや作業条件に起因するような失敗例は少なくなっている.問題は,術者の判断に起因する偶発症である.切りすぎによる術後狭窄,術中穿孔,遅発性穿孔,大量出血,術後の機能障害等々,様々な落とし穴が待っている.それらがどのような状況下で引き起こされたのか実例を通じて正しく理解できれば,常に最悪のシナリオを想定することが可能となり,偶発症の具体的な一連の予防策がイメージできるようになるはずである.本書のねらいはその辺にあるように思われる.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 斉藤 裕輔
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 2012年4月から保険適用となった大腸ESDの特集が,「胃と腸」誌でも組まれることとなった.本特集号の目的は,大腸ESDについて,大きさの面からではなく“診断学の面"から適応について理解し,最新の処置具を含む治療技術の詳細と成績について学び,大腸ESDにおける今後の一般化をどのように進めるか,について読者に感じ,考えていただくことである.和田論文では大腸ESDの診断学からみた適応の重要性について述べており,まず大腸ESDの適応とならないSM深部浸潤癌の肉眼的特徴が述べられた.またLST-NGでは多中心性にSM浸潤を来し,術前に(NBI)拡大観察を用いても浸潤部位の診断が困難であること,強い線維化がみられる例があることから,ESDの絶対適応病変であることを記憶すべきとともに,EMRを行う際には癌を疑う部分を分断しないように切除すべきであることを再認識した.豊永論文では,具体的な成績などは示されていなかったものの,大腸ESDの具体的な技術,特に出血の予防策について解説されており,大腸ESDにおいても,胃のESDと同様,粘膜切開深度および剝離深度の調節により出血の予防が可能となり,SM浸潤距離,脈管侵襲が確実に評価可能な質の高い病理標本が得られるとの利点が強調された.既に大腸ESDを行って(苦労して)いる読者のstep upにつながることが十分に期待される.浦岡論文では大腸ESDの困難性を増加させる線維化への対策について解説がなされており,SMの線維化は大腸ESDにおける最も障害となるもので,術前の線維化の有無の予測が重要であることが強調されている.ただし,高度線維化例の対応は大腸ESDの熟達者でもかなり困難な現状であることが理解できた.同様に井野論文では,操作性の低下によって困難性の増す大腸ESDの克服法について解説がなされており,バルーン内視鏡やSAFEKnife Vの使用が推奨されている.これら2論文から,強度の線維化が予測される病変,特殊なdeviceを用いて行う必要性の高いESDは現状では一般に行われるべきではなく,専門のセンター病院で行われるべきであると考える.為我井論文では歯状線に接する病変の切除におけるESDの経肛門的切除に対する根治性と安全性における優位性が解説されており,肛門部の局所解剖,ESDの適応と,これまでの成績,さらには疼痛対策と出血対策などの技術的側面についても詳細に記載されており,編者も大変勉強になる内容であった.岡論文ではEMR併用ESD(ハイブリッドESD)の有用性および具体的方法について述べられており,スネアに病変が入る40mm程度までの病変の切除が,比較的短時間かつ少ない偶発症の頻度で行えるという利点が強調されている.本法は所要時間の短いEMRの利点と,完全切除率が高いESDの利点を合わせ持った,比較的容易に行える手技であり,ESDのサルベージオプションとしても今後広く普及すべき手技と考えられる.また,主題研究として中島論文では,大腸癌研究会のプロジェクト研究結果について報告されており,一般病院ではなく全国のセンター病院での成績ではあるが,ESDはEMRに比較して,治療時間は長いものの,一括切除率は高く,合併症率に差はない.また,ESDの問題点として,大きさ40mm以上の病変では切除時間が長いため,センター病院での切除が望ましい,という前向きのデータが掲載され,大腸ESDの最先端の現状が明らかとなった.

 本特集号は当初の企画のねらいが十分に達成された内容である,と編者は感じている.つまり,診断の重要性から一般的なESDの技術,さらにステップアップするための名人の秘技,センター病院で行われるべき困難例の特徴と予測,下部直腸のESD,ハイブリッドESD,日本の先端施設における大腸ESDに関する科学的データといった要素が凝縮されており,大腸ESDに関する現状,さらに,序説で田中先生がおっしゃっておられる“大腸ESDの安全で効率的な一般化"に向けての問題点と対策(の一部)が明らかになっていると考える.次回,本誌で大腸ESDの特集が企画されるときには,本法がさらに進化し,安全で効率的な一般化がなされ,EMR,ESD,外科手術の役割分担が綺麗に完成していることを期待する.

次号予告

基本情報

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胃と腸
48巻2号 (2013年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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