--------------------
書評「ESDと偶発症―進む勇気と退く勇気」
吉田 茂昭
1
1青森県立中央病院
pp.222
発行日 2013年2月25日
Published Date 2013/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403113729
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
“これほどの書をよく出したものだ”.それが読後の素直な感想である.
ESDは1995年に細川がITナイフを用い,ERHSEに準じて全周切開による粘膜切除を試みたのが嚆矢とされるが,1999年に共同開発者の小野,後藤田らが粘膜下層の剝離操作を加えることで,より正確な切除が可能となることを明らかにしたことから,その後の相次ぐ様々なデバイスの開発とも相まって急速に進歩し,今日では押しも押されもせぬ標準的治療となっている.しかし,この十数年間の進歩の影には数多くの苦い経験や失敗例があり,いつ潰れてもおかしくない状況にも見舞われている.これを乗り越える気力と工夫と技量があったからこそ,今日の位置を占めることができたのであるが,それは一面において偶発症との戦いとも言えるのである.一方,“必要は発明の母”ということがあるが,正にデバイスの開発や治療技術の進歩がそれで,当時全く不十分であった作業条件は次々と改善され,今日ではデバイスや作業条件に起因するような失敗例は少なくなっている.問題は,術者の判断に起因する偶発症である.切りすぎによる術後狭窄,術中穿孔,遅発性穿孔,大量出血,術後の機能障害等々,様々な落とし穴が待っている.それらがどのような状況下で引き起こされたのか実例を通じて正しく理解できれば,常に最悪のシナリオを想定することが可能となり,偶発症の具体的な一連の予防策がイメージできるようになるはずである.本書のねらいはその辺にあるように思われる.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.