胃と腸 48巻1号 (2013年1月)

今月の主題 潰瘍合併早期胃癌の診断と治療

序説

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はじめに

 病巣内に潰瘍を有する胃癌に対する診断は,「胃と腸」誌でこれまで特集として取り上げられたことはなかった.その理由として,これらの病変では,開放性潰瘍においては潰瘍周囲の炎症性細胞浸潤や浮腫による影響,潰瘍瘢痕においては瘢痕に伴う線維組織の修飾により,X線検査,内視鏡検査,超音波内視鏡検査のいずれによっても,深達度の正確な診断が困難であることが挙げられる.しかし,胃癌に対して内視鏡的切除が行われるようになると,潰瘍の有無,特に潰瘍瘢痕の有無を正確に診断することが適応を決定するうえで重要な要因となる.また,癌巣内潰瘍の存在は内視鏡的切除により得られた標本を検索し,根治の判定を行ううえでも必要である.

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要旨 内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)標本および手術標本を用いて,癌巣内潰瘍(UL)合併早期胃癌の病理学的特徴について検討した.ESD標本の検討では,生検痕による線維組織の拡がりは2.7mm以下であった.切除標本の検討では,真のULは粘膜筋板から固有筋層に向かって,線維組織が扇状に拡がる形態を示した.pT1a(M)症例において,粘膜内で分化型癌優位の病変は未分化型癌優位の病変よりも線維組織の拡がりが大きく,固有筋層まで線維組織が達する症例が多く,ESDの難易度が高いと考えられる病変が多かった.pT1b(SM)症例では,分化型癌優位病変の粘膜下層浸潤はULの線維組織外にみられ,線維組織内での癌浸潤は乏しい病変が多かった.一方,未分化癌優位の病変では線維組織内にびまん性浸潤を示す病変が多かった.UL合併早期胃癌にESDを行う場合,その病理学的特徴を熟知したうえで治療を行う必要がある.

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要旨 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除(EMR)や粘膜下層剝離術(ESD)が一般的に行われるに従って,胃癌治療ガイドラインでの標準治療から,さらに適応拡大切除が盛んに行われるようになってきた.これらはいずれもリンパ節転移危険因子の1つとして,癌巣内の消化性潰瘍併存が挙げられている.したがって,切除検体における消化性潰瘍有無の判定は極めて重要となっている.しかし,潰瘍瘢痕,特にUL-II scarと術前の生検瘢痕との区別が困難な場合もある.生検瘢痕のほとんどは,極めて限局した粘膜筋板と粘膜下層の変化であるのに対し,潰瘍瘢痕では,粘膜筋板の範囲を超えた線維化が粘膜下層全層にわたって認める.それでも,粘膜下層がわずかしか切除されない例では両者の区別が困難である.

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要旨 2007年4月から2012年3月までの5年間に,当センターで経験した5mm以上の陥凹型早期胃癌442例471病変(分化型 : 374病変,未分化型 : 97病変)を対象として,病理組織学的に潰瘍合併の有無を分析した.潰瘍合併率は,分化型30.2%,未分化型54.6%と未分化型で高率であった.「胃癌治療ガイドライン」では,深達度と潰瘍の有無で治療法選択を行うため,ESD適応・非適応の境界となる腫瘍径で比較検討した.深達度pMの潰瘍合併率は,分化型癌では,30mm以下で18.4%,31mm以上で53.3%,未分化型癌では,20mm以下で13.6%,21mm以上で51.8%であり,ESD非適応の境界となる腫瘍径以上で高率であった.精密X線検査での潰瘍の存在診断率は,分化型癌の31mm以上,未分化型癌の20mm以上ではともに80%以上と高率であった.潰瘍の存在診断が不良であったのは,萎縮型のU・M領域小彎に存在する腫瘍径20mm以下の分化型癌に多かった.潰瘍合併早期胃癌の検診X線によるX線検査良悪性の拾い上げ正診率は,69.2%と高率であったが,潰瘍の形態だけでなく,潰瘍周囲の0-IIcあるいはIIb病変が描出されている場合に正確に診断されており,適切な追加撮影が有効であった.精密X線検査による深達度の正診率は,分化型pM+pSM1 : 72.9%,未分化型pM+pSM1 : 41.7%で,とくに未分化型癌で深達度を深読みする傾向があり,正診率が低率であった.二重造影法では空気を少量から増量し過伸展まで撮影して,バリウム斑の濃度,ひだ集中や粘膜集中の程度,粘膜像を詳細に読影し,圧迫撮影では,圧迫の強弱による形態の変化に注意して読影することが重要であった.

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要旨 早期胃癌において,内視鏡治療で根治できる症例は多くなったが,潰瘍合併早期癌はいまだ内視鏡治療を困難にしている.筆者らは,陥凹型早期胃癌に対して内視鏡治療,もしくは外科的切除術を行った患者をretrospectiveに検索し,潰瘍合併早期胃癌の特徴について検討を行った.潰瘍合併早期胃癌は,非合併早期胃癌と比べて年齢が低く(p<0.0001),病変のサイズが大きいものが多く(p<0.0001),深達度もSM癌の割合が高く(p<0.0002),未分化型の癌の割合が高かった.また,内視鏡診断と病理組織診断による潰瘍合併の有無の診断一致率は,89%と高い結果であったが,不一致の内容としては,内視鏡診断で潰瘍合併を見落としている症例が多かった(17例vs 9例).

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要旨 EUSによる正常胃壁の基本層構造と早期胃癌深達度診断の基本について述べ,さらに,潰瘍合併早期胃癌のEUS深達度診断能について検討した.過去5年間に当センターで切除された早期胃癌1,826病変のうち,EUSが施行された636病変の描出不良率は11.5%(73病変)であり,描出不良率はL領域で高かった.描出不良例を除いたUL(+)型早期胃癌188病変で,EUSによる深達度診断能を検討したところ,UL(+)IIc型ではpM~SM1,pSM2で90.6%,67.6%,IIc+III型ではpM~SM1,pSM2で80%,60%の正診率であった.また,潰瘍合併早期胃癌は内視鏡治療の難易度が高く,ESDによる一括切除率は適応病変と比べ有意に低かった.術前のEUSにより,深達度のみならず,ULの深さを診断することが可能であり,術者の選択に有用であると考えられた.

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要旨 2002年9月~2010年12月の間に,当施設において,早期胃癌に対してESDを施行した2,143病変(1,874症例)を,潰瘍合併早期胃癌〔UL(+)群〕428病変と潰瘍非合併早期胃癌〔UL(-)群〕1,715病変に分類し,治療成績についてretrospectiveに比較検討を行った.両群で,一括切除率,後出血率に有意差は認めなかったが,UL(+)群ではUL(-)群と比して有意に,一括断端陰性切除率が低く,治療時間が長く,術中穿孔率が高いという結果であった.潰瘍合併早期胃癌に対するESDの難易度はいまだ高く,今後さらなる工夫が求められる.また,潰瘍合併早期胃癌に対するESDは長期エビデンスに乏しく,臨床研究の位置づけであり,内視鏡医の技量によっては,熟練施設への紹介や,最初から外科手術も考慮するべきである.長期治療成績に関しては,現在進行中の多施設前向き試験の結果が期待される.

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要旨 潰瘍瘢痕合併例のESDでは,瘢痕の位置と程度により,ストラテジーが異なる.2004年1月~2012年3月までに早期胃癌に対してESDを施行した1,489症例のうち,潰瘍瘢痕合併165症例を対象として検討した.剝離時に病変を損傷せずに一括切除された完全切除群(n=143)と,剝離時に粘膜下層側から病変を損傷したり,分割切除となった不完全切除群(n=22)の2群に分けて検討した.不完全切除群は小彎19%(17/91),小彎以外7%(5/74)と小彎側に有意に多かった.また腫瘍径3.1cm以上の適応外病変では不完全切除群が29%(10/34),3.0cm以下の適応拡大病変では9%(12/131)と適応外病変で有意に多かった.腫瘍径3cm以下で不完全切除となった12例中8例はU・M領域の小彎に存在しており,U,M,小彎の潰瘍合併症例に対する治療成績向上が残された課題と考えられた.

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要旨 2005年3月~2011年4月の間,当院でESDが施行された早期胃癌1,504例中,病理学的にUL(+)と診断された217例を対象とし,内視鏡的UL(+)と病理学的UL(+)の臨床病理学的差異について検討を行った.UL(+)例ではガイドライン内病変に比し,陥凹型が多く,深達度SMの頻度が高かった.また,治癒切除率が低かった.病理学的UL(+)適応拡大病変については,胃癌死,再発は認めなかった.IIIs症例は11例あり,4例が経過観察されているが再発は認めていない.病理学的UL(+)の正診率は125/217(57.6%)であった.誤診の頻度が高かった部位は,胃角大彎,前庭部大彎であった.また,内視鏡的にUL(+)と診断されたが病理でUL(-)症例は34例あり,最も多い部位はM領域後壁であった.34例は,いずれも何らかの線維化が粘膜下層に確認され,病理では生検痕と診断された.

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長南(司会) 皆様,お忙しい中お集まりいただきまして,ありがとうございます.本日は,“潰瘍合併早期胃癌の内視鏡治療について”というテーマで座談会を開催したいと思います.

 ESD(endoscopic submucosal dissection)が開発されてから,10余年が経ちます.この間,2006年に保険収載されてESDはさらに普及し,適応拡大傾向にあります.

Coffee Break

見る 1.見るとは 長廻 紘
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 内視鏡を一生の仕事としてきた.内視鏡は見ることを中心に置いた技術ということができる.そのせいだろう,見るということに関しては人一倍関心を持ち,どういうことかと常々考えてきた.そして,見るということは想像以上に奥深いものとわかってきた.

 「見る」は,日本人,日本語にとってそうであるように,世界中どこでも非常に大きな意味をもつ行為であり,言葉である.たとえば,日本語の見るは知る,見者は賢者でもある.見切る,見極める,見破る,見抜く,見通すなどの「見」を語頭に置いた動詞は,表れていない本質や真相をはっきり見届けて判断する,全部を見る,見込みがないと諦める,見届ける,ものごとの奥底までを知り尽くす,など先の先まで知ることにつながっている.

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要旨 患者は50歳代,男性.検診の上部消化管造影検査で,胃前庭部に隆起性病変を指摘されたが,生検にて悪性所見が認められなかったために近医で経過観察となっていた.6年後,病変サイズの増大を認めたことから当院に紹介され受診となった.上部消化管内視鏡検査では,なだらかな立ち上がりを有し,表面は非腫瘍粘膜で被覆されたふたコブ様の隆起性病変を認めた.6年前と比較して病変サイズは約2倍に増大を認めた.生検では確定診断に至らず,診断目的にESDを施行した.切除後の病理組織標本から胃炎症性類線維ポリープ(IFP)と診断した.経過観察中に増大傾向を認め,非典型的な内視鏡像を呈していたことにより,術前診断が困難であったと考えられた.

画像診断道場

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症 例

 患 者 : 70歳代,男性.

 主 訴 : なし.

 現病歴 : 近医で施行したスクリーニング内視鏡検査で食道癌と診断され,精査・治療目的で紹介された.

 飲酒歴 : 日本酒2合/日×50年.

 喫煙歴 : たばこ20本/日×50年.

早期胃癌研究会

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 2012年 3月の早期胃癌研究会は3月 21日(水)に笹川記念会館国際会議場にて開催された.司会は小野裕之(静岡県立静岡がんセンター内視鏡科)と趙栄済(洛和会音羽病院消化器病センター),病理は石黒信吾(ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター)が担当した.2例目終了後,2011年早期胃癌研究会最優秀症例賞の表彰式が行われ,一宮西病院消化器内科・大橋憲嗣先生による「食道上皮の著しい錯角化増殖をきたし絨毛様の形態を呈した食道扁平上皮癌の1例」が表彰され,症例の解説が行われた.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 長南 明道
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 早期胃癌に対するESDの普及・適応拡大に伴い,以前にも増してULの有無が内視鏡治療の適応決定や根治度判定の重要な因子となっている.しかし,臨床でUL(+)と診断しても,病理学的にUL(-)と判定されたり,逆に臨床でUL(-)と診断したにも関わらず,病理学的にUL(+)であったりしてULと生検痕の鑑別に迷うなど,臨床と病理が乖離することも少なくない.そこで,本特集の企画小委員である小野,海崎,長南で検討し,UL(+)早期胃癌の臨床病理学的特徴,診断,内視鏡治療の実態を明らかにすることを目指した.

 まずUL(+)早期胃癌の臨床病理学的特徴について,入口らは手術例も含めた検討で,潰瘍合併率が分化型30mm以下では18.4%,未分化型20mm以下では13.6%であったとしている.藤崎らもESD症例のうちUL(+)例は14.3%であったとしている.このようにESD適応拡大病変の潰瘍合併率は2割未満とみてよさそうである.また (1) UL(+)早期胃癌では大きな病変が多いこと(長井ら),(2) 未分化型が多いこと(長井ら),(3) SM癌が多いこと(長井ら,藤崎ら),(4) ULの深さはUL-IIが圧倒的に多いこと(海崎ら,三宅ら,藤崎ら),(5) UL(+)M癌では分化型癌は未分化型に比べ,線維化径,線維化厚ともに大きいものが多いこと(海崎ら),(6) UL(+)SM癌では,分化型癌はULの線維化巣外での癌の浸潤が主で,潰瘍中心部には癌浸潤を認めないものが多いこと(海崎ら)などの特徴が挙げられている.

次号予告

基本情報

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胃と腸
48巻1号 (2013年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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