胃と腸 47巻13号 (2012年12月)

今月の主題 右側大腸腫瘍の臨床病理学的特徴

序説

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はじめに

 大腸癌を結腸癌と直腸癌に分けると,結腸癌,特に右側結腸癌の増加が著しい.年間登録でみると結腸癌が約15,000例,直腸癌が約10,000例である1).特に60歳以上の女性の右側結腸癌,なかでも50歳で左側大腸癌を手術し,70歳で再び右側の癌が発見される,いわゆるinterval cancerが増加している2)3).見逃しか高齢者発症であるかは別にして,低い平坦な病変,あるいは結節集簇,LST(laterally spreading tumor)4)を背景にした癌が多いとされる.言い換えると,(1) K-ras遺伝子野生型でCpG islandメチル化形質(CpG island methylator phenotype ; CIMP)と共存するBRAF遺伝子異常〔後述する,SSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)関連〕の癌が高齢者にみられること,(2) LSTの増加,である.LSTにはG(granular type)とNG(non-granular type)がある.LST-Gはras遺伝子変異を伴い,LST-NGはras遺伝子野生型が多いとされている5).LSTも右側大腸癌の臨床病理学的特徴を解析するうえで,重要な鍵となる病変であるが,原稿枚数が大幅に超過することになるので,定義も含めて主題論文に譲ることにする.(1) について,以下言及する.

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要旨 結腸は系統発生的にみて,哺乳動物になってから食物残渣を固形化するために発達・分化した区域で,種による差が大きい.ヒトの右側に位置する近位結腸と左側に位置する遠位結腸では,発生(中腸vs.後腸),血管支配(上腸間膜動脈vs.下腸間膜動脈),神経分布(交感神経 : 胸髄vs.腰髄,副交感神経 : 延髄vs.仙髄),生理機能(ゆっくりした動き,食物残渣の固形化vs.短時間に糞塊を送る),上皮細胞(杯細胞の粘液性状,Paneth細胞の存否など)に関して差異が認められる.その境界は横行結腸にあると言われているが,明瞭なものの線引きはできないし,またそれぞれの要素で想定されている境界が一致するかどうかも検証されていない.横行結腸は右あるいは左の結腸のいずれかに帰属させることはできないと思われる.

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要旨 右側結腸癌と左側結腸癌では,その臨床病理学的因子や予後,遺伝子的背景が異なるとされる.左右結腸癌の違いにつき当科の成績と欧米からの大規模報告の結果を比較した.右側結腸癌は左側に比べ女性の割合が高く,平均年齢が高い.また低分化腺癌や粘液癌の割合が高い.虫垂~上行結腸の癌でその傾向が特に顕著であり,横行結腸癌は上行結腸癌と下行結腸癌の中間の性質を示す.予後については右側結腸癌のほうが左側より悪いとの報告も多いが,最近の大規模報告によれば,リンパ節転移や遠隔転移を伴わないStage I/II症例では左右同等かむしろ左側のほうが不良,Stage III症例では右側のほうが不良,という結果であった.

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要旨 大腸癌の発癌機序は,発生部位によって異なっていることが指摘されている.筆者らは,癌および周囲粘膜から採取された分離腺管の分子異常を発生部位別に検討した.203例(左側133例,右側70例)の癌および80例の背景粘膜から腺管分離法で分離腺管を回収した.癌腺管のDNAを用いて,p53,K-ras,BRAF変異,LOH〔loss of heterozygosity(1p,5q,17p,18q,22q)〕およびMSI(microsatellite instability)解析を行った.さらに,癌腺管および正常腺管のDNAメチル化解析(SFRP1,SFRP2,SFRP5,DKK2,DKK3,mir34b/c,RASSF1A,IGFBP7,p16,MLH1)も検討した.癌腺管で,p53変異は左側に多く,BRAF変異は右側に多かった.各染色体のLOHおよびmir34b/cのメチル化の頻度は左側で高く,一方,DKK3,RASSF1A,MLH1のメチル化頻度は右側で高かった.背景粘膜の正常腺管のメチル化率はSFRP1,SFRP2で比較的高く,背景の正常腺管では一定の遺伝子でメチル化率の上昇がみられた.大腸癌発癌メカニズムは左側と右側では異なることが示唆された.

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要旨 右側大腸に多く癌を発生する疾患として,遺伝性非ポリポーシス大腸癌〔HNPCC(hereditary non-polyposis colorectal cancer),Lynch症候群〕,大腸鋸歯状病変(特にsessile serrated adenoma/polyp ; SSA/P),虫垂癌が挙げられる.HNPCCは若年発症,右側大腸癌,大腸多発癌,多臓器重複癌を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患であり,約90%にマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability ; MSI)を認める.SSA/Pは右側結腸MSI陽性大腸癌の前駆病変の1つであり,SSA/P併存癌は高齢者,女性,右半結腸に多く存在し,進行癌を除いた早期癌に限ると無茎型病変が多い.また,M癌とSM癌間では病変全体の大きさに有意差はないが,SSA/P部を除いた癌部の大きさではSM癌が有意に大きかったという報告がある.原発性虫垂癌は,比較的まれな疾患であるが,42例の報告によると,平均年齢は62.0歳で,男性18例,女性24例であったとされている.

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要旨 近年,大腸鋸歯状病変群,特にSSA/PがMSI陽性大腸癌の前駆病変として注目されているが,臨床および病理学的に問題点も内在している.筆者らは,高画素拡大内視鏡を用いた所見を中心に病理学的,遺伝子学的に大腸鋸歯状病変群を検討するtranslational researchを通じて,大腸鋸歯状病変群の内視鏡的特徴について検討した.その結果,平坦型でかつ開II型pitであれば,遺伝子学的にも同一病変群と認識でき,SSA/Pとして診断することが可能で,それ以外の表面微細構造が加わることで組織像,形態も変化していた.悪性ポテンシャルを有することが疑われるSSA/Pとは,開II型pit以外の表面微細構造が加わった隆起傾向を示す病変であると総括することが妥当であると考えた.一方,TSAや中間型病変に関しては検討課題も見い出され,さらなる症例の蓄積とtranslational researchによる検討が必要であると結論した.

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要旨 当院において10年間で治療された側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)1,337症例(1,541病変)に対して,臨床病理学的特徴(性別,年齢,腫瘍径,病理)を部位・亜分類別に比較することにより,右側結腸LSTの特徴を明らかにした.右側結腸LSTは,(1) 全LSTの60.9%を占める,(2) 性差は認めない,(3) 高齢者に多い,(4) LST-NGが多い,(5) 平均腫瘍径は他部位と比較すると小さくSM癌率も低い,という特徴があった.

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要旨 1995年~2012年3月の17年間に外科的に切除された虫垂腫瘍19例(低異型度粘液性腫瘍3例,分化型腺癌1例,粘液癌1例,低分化腺癌1例,粘液性囊胞腺癌11例,杯細胞カルチノイド2例)を対象とし,臨床病理学的因子の抽出および粘液形質,ミスマッチ修復遺伝子発現低下を免疫組織学的に検討した.粘液性囊胞腺癌の82%が,MUC2,MUC5AC陽性,胃腸混合型の粘液形質を有していたが,ほかの腫瘍でMUC5AC陽性例は認められなかった.また,ミスマッチ修復遺伝子発現低下を粘液性囊胞腺癌で3例認めた.粘液形質の観点から,粘液性囊胞腺癌はほかの癌あるいは低異型度粘液性腫瘍とは大きく異なった腫瘍である可能性があり,また,粘液性囊胞腺癌の一部はserrated neoplasia pathwayを介した癌化経路を有する可能性が示された.

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要旨 近年の大腸癌の発癌機構に関する研究から,大腸癌の発生経路には,マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability ; MSI)や染色体不安定性(chromosomal instability ; CIN)に加えて,エピゲノム異常が関与していることが明らかになってきた.MSI陽性大腸癌は,右側大腸に好発し予後良好である.一方,CIN陽性の大腸癌は,様々な遺伝子の変異が介在していることから,多様な臨床像を呈する.エピゲノム異常に起因する大腸癌のうちCIMP(CpG island methylator phenotype)は,右側結腸に好発し,BRAFの変異を伴う予後のよいCIMP1/CIMP-HとK-rasの変異を伴い予後の悪いCIMP2/CIMP-lowが存在する.さらに左側結腸のDNAメチル化異常は,主に加齢によりDNAメチル化の影響を受けやすい遺伝子がDNAメチル化していることが明らかとなった.これらのゲノム・エピゲノム異常が,左右大腸癌での異なる病理像や形態学,臨床経過に影響を及ぼしていると考える.

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要旨 目的 : Stage II~III大腸癌における右側と左側の臨床像や予後の差異を明らかにし,右側,左側における補助化学療法の適応を検証する.対象 : 1991~2005年に当院で根治切除されたStage II~III大腸腺癌1,568例(Stage II/III 747/821例)を対象とした.結果 : 右側大腸癌は左側大腸癌に比べ高齢で女性が多く,T4が多く,リンパ節転移が少なく,腫瘍径が大きく,低分化腺癌・粘液癌・印環細胞癌が多かった.Stage IIでは右側大腸癌の予後は左側大腸癌に比べ良好であったが,Stage IIIでは差を認めなかった.ASCO,ESMOに規定されたhigh risk Stage IIは左側大腸癌では予後不良だったが,右側大腸癌では差を認めなかった.結論 : Stage II右側大腸癌の補助化学療法の適応決定には,新たな再発危険因子の同定が必要である.

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要旨 Lynch症候群はミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列異常による,発癌リスクの高い疾患群である.患者,家系内に大腸癌・子宮内膜癌・胃癌など,多種多様な癌が発生し,特徴的な病態を示す.しかしながら,一般臨床における認知度はいまだ低く,診断に至らない潜在的な患者の拾い上げが課題である.本稿では,Lynch症候群患者における大腸癌の臨床的特徴につき概説し,さらに,患者の拾い上げの実際,確定診断に至る過程,その後のサーベイランスなど,実臨床に則したLynch症候群患者の診療について述べる.

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要旨 患者は70歳代,女性.上行結腸に中心陥凹を伴う発赤調の隆起性病変を認め,正色調の平坦隆起が連続していた.NBI拡大観察では陥凹部は密度が疎で不規則な微小血管像を呈しており,平坦部分では微小血管を視認できなかった.クリスタルバイオレット染色後拡大観察では陥凹部に一致してVi型高度不整pitを認め,平坦部分はII型pitであった.HPまたはSSA/Pから発生したIIa+IIc型SM深部浸潤癌と診断した.組織学的に高異型度高分化腺癌がSSA/Pと連続し,陥凹部の中心では髄様癌が粘膜下層まで浸潤していた.癌細胞の核におけるMLH1とPMS2の染色性が消失しており,MSI-highの癌であることが示唆された.

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要旨 胃体下部から直腸までの消化管と虫垂に千個以上の隆起性病変を形成した1症例を報告した.(1) 本症例の病変の主体は6mm以下の半球状隆起で中心陥凹を伴い,胃のタコイボ型びらん類似の形態を示した.これらのびらんは白苔の付着がある活動期の病変,白苔の付着がない治癒期の病変など様々であった.(2) 半球状隆起の他に大きさ1~2mmの小平坦隆起や0.5mm前後の微小環状発赤などの病変も認められた.(3) いずれの病変も病理学的には限局性の炎症性細胞浸潤,腺窩上皮の過形成,リンパ濾胞の過形成,再生上皮,微小血管の増生,などから成り,種々の大きさや時期のびらんによって形成された病変と解釈された.(4) 以上の所見から,本症例はerosive gastro-intestinal polyposisと呼称するのがよいと考えた.なお,PubMedと医中誌で調べた限りでは同様の症例は見い出せなかった.

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要旨 患者は70歳代,男性.胸焼けにて上部内視鏡検査を施行したところ,前庭部に2型癌を認めた.多臓器に転移を認めなかったため,胃亜全摘,D2リンパ節郭清術を施行した.病理検査にて2型の早期胃癌,AFP陽性の胃肝様腺癌と診断した.早期胃肝様腺癌はまれなため,症例を報告する.

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症 例

 患 者 : 50歳代,男性.

 主 訴 : 自覚症状なし.

 既往歴 : 特記事項なし.

 現病歴 : 検診胃X線検査で異常を指摘された.

早期胃癌研究会

2012年5月の例会から 細川 治 , 松田 圭二
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 2012年5月の早期胃癌研究会は2012年5月11日(金)にグランドプリンスホテル新高輪・国際館パミール「北辰」で開催された.司会は細川治(横浜栄共済病院)と松田圭二(帝京大学外科),病理は大倉康男(杏林大学医学部病理学教室)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは野村昌史(手稲渓仁会病院消化器病センター)が「逆行性小腸X線造影の実際」と題して行った.

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欧文目次

第19回「白壁賞」論文募集
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 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

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大腸内視鏡の基本となる教科書

 待ちに待った本が刊行された.大腸内視鏡の世界のトップリーダーである著者による,質の高い大腸内視鏡診療をめざすすべての消化器内視鏡医のための教科書である.序文に書かれているように,“初版時の時代背景と異なる内視鏡の世界が到来しており,診断・治療面でのドラスティックな変化の中で,大腸内視鏡挿入法が万古不易のままではありえない”というコンセプトでまとめられた本書は,まさに軸保持短縮法を軸とし,安全で確実な大腸内視鏡挿入法について,豊富なイラストや内視鏡像を用いてわかりやすく解説している.また本書は,『大腸内視鏡挿入法』と題しているが,内容としては大腸内視鏡に関する基礎のみならず,大腸内視鏡の診断,治療に関する最新の情報もコンパクトに掲載されている.

 さて,初版の発刊以来15年が経過し,この間に蓄積された豊富な経験に基づき,そして機器の改良,進歩により挿入法も進化しているが,その基本はone man methodであることに変わりがない.そして,挿入技術とともに変わらないのが心構えである.確かに以前に比べると,新しい機器の登場,適切な上級医による指導,シミュレーターやコロンモデルによる修練などにより挿入が比較的容易になったことは事実である.しかしながら,上部消化管内視鏡に比し大腸内視鏡検査は難しい手技であり,また,ベテランであっても挿入困難例に遭遇することはまれではない.そこで重要なのは著者が強調している“熱意と忍耐”である.すなわち,“急がば廻れ”であり,基本に立ち返る心構えである.その難しさを安全,確実に乗り越えていくための解説が具体的に,わかりやすく書かれている.そのわかりやすさは,“現場のみが教える珠宝の言葉・真実(序文より)”に裏打ちされているためである.これに加えて,もう1つの本書の特色は,豊富なCOLUMNとして記載されたコメントである.基本は外科医であり,またスポーツマンである著者ならではのコメントであり,スポーツになぞらえた含蓄のある内容であり,大変楽しく読める.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 鶴田 修
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 近年,右側大腸癌の頻度の増加が著しいとされ,LST病変や鋸歯状病変(SSA/P)がその前駆病変として注目されている.さらには,右側と左側大腸癌の発癌遺伝子経路の違いも取り沙汰されている.

 序説では藤盛先生が,右側大腸癌の増加の原因として,SSA/P,LST-Gや高齢化(age-related methylation)の存在を挙げ,SSA/Pの病理診断基準の問題点についても言及している.

次号予告

「胃と腸」第47巻 総目次

基本情報

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胃と腸
47巻13号 (2012年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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