胃と腸 46巻12号 (2011年11月)

今月の主題 Barrett食道癌の診断

序説

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 欧米では食道腺癌の多くはBarrett腺癌で,1990年代以降その著しい増加を示している.一方,日本では発癌年代である60歳以上ではHP(Helicobacter pylori)感染率が78~80と極めて高く,HP関連胃癌が多くを占め,食道胃接合部を含めた食道腺癌の頻度はまだ低い.しかし最近Barrett腺癌に遭遇する頻度は高くなっており,今後日本人でも若年者のHP感染率の低下とともに,同部位の腺癌の発生が増加することが予測されてい.

 食道腺癌の中には胃噴門部癌の食道進展したものと,Barrett腺癌がある.早期癌ではその区別が容易であるが,進行癌で,特に食道下部全周に病変が及ぶとその区別は必ずしも容易ではない.また,食道腺癌はリンパ節転移率が高いと報告されており,早期診断による治療が重要である.

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要旨 Barrett食道(BE)癌および食道・胃接合部(EGJ)癌を年代別に解析した.進行食道癌におけるBE癌の頻度は1990年代から2000年代で0.5%から2.8%に上昇し,進行胃癌におけるEGJ癌の頻度は1960年代から2000年代で4.0%から8.0%に上昇していた.1990年以降の224例の標本を見直し,BEを有さない食道・胃接合部癌(非BE接合部癌群),short segment BEから発生したと考えられるBE癌(SSBE癌群)およびlong segment BEから発生したと考えられるBE癌(LSBE癌群)の3群に分け,臨床病理学的特徴と担癌胃粘膜の状態をupdated Sydney systemに準じた総合的評価で3群間の比較検討を行った.updated Sydney systemの全項目のスコアは非BE群で有意に高く,早期病変において背景胃粘膜が組織学的に“H. pylori陰性・非萎縮性胃粘膜”と判定されたものは,非BE接合部癌群,SSBE癌群とLSBE癌群でそれぞれ24%,65%,63%であった.H. pyloriの感染率の低下とともに,今後本邦においてもBarrett腺癌を含むEGJ癌は増加する可能性が示唆された.

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要旨 Barrett食道は,正常状態では一致している食道胃接合部(EGJ)と扁平上皮円柱上皮接合部(SCJ)とが乖離(SCJが口側に移動)し,これらの間が円柱上皮粘膜で被覆された状態である.SCJの同定は容易であるが,固有筋層もしくは柵状血管で定義されるEGJを病理組織学的に決定するのは困難である.食道であることの指標(食道腺,食道腺導管,扁平上皮島,粘膜筋板の二重化)と参考所見(扁平上皮化生様変化,噴門腺粘膜,胃底腺粘膜の分布)とを総合的に判断し,EGJが存在し得る領域を狭めていき,真のEGJに近づけてゆく必要がある.接合部癌の病理診断ではSCJの肛門側に上述した食道の指標が確認できるか否かが重要であるが,病理組織診断の限界を知り臨床所見を合わせた総合的な診断が望まれる.

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要旨 粘膜下層までにとどまる下部食道・食道胃接合部領域の腺癌26例を病理学的に検討した.食道腺癌,接合部腺癌,噴門部胃腺癌間で組織像に明瞭な差異は認められないが,Barrett食道長が長いものには,粘膜内低分化腺癌成分を含む病変,0-IIb成分,腫瘍・非腫瘍の鑑別が困難な異型腺管の出現がやや多い傾向にあった.下部食道・食道胃接合部領域に発生する腺癌は,大部分がGERDを背景に発生するという共通点があり,病理学的特徴にも類似性があるが,Barrett食道の長さを規定する因子によって,異なった群に分けられる可能性がある.特にBarrett食道長の短いものやBarrett食道を伴わないものに関しては,Barrett粘膜を介さない直接的発癌が本態で,Barrett食道は傍癌的な位置づけである可能性がある.

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要旨 本邦ではBarrett食道癌の頻度が低いためBarrett食道癌の深達度の評価とリンパ節転移に関する研究は少ない.そこで,当院でリンパ節郭清を含む切除が施行されたBarrett食道癌64例の特徴を,深達度とリンパ節転移との関連を中心に検討した.Barrett食道癌のリンパ節転移率は45%で,深達度別にみると粘膜内癌で29%,粘膜下層浸潤癌で24%,固有筋層以深浸潤癌で71%であった.早期の分化型癌に限ると,リンパ節転移は腫瘍径20mm以上,粘膜下層深達度1,000μm以上,脈管侵襲陽性例に多く認められた.粘膜内癌で脈管侵襲あるいはリンパ節転移を認めたものが3例あり,いずれも腫瘍が粘膜筋板内に浸潤していた.このうち2例は分化型と未分化型の混在型で,もう1例は分化型であったが腫瘍径が80mmと大きかった.粘膜筋板が錯綜・断片化したものが多く,腫瘍の深達度診断はしばしば苦慮した.Barrett食道癌の深達度診断とリンパ節転移リスクの関連については今後,他施設共同研究を含めたさらなる議論が必要であろう.

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要旨 Barrett食道および,そこに発生する腺癌についてX線撮影法,所見の読影について概説し,自験例のX線所見を病理所見と対比して検討した.食道胃接合部(EGJ)やsquamo-columnar junction(SCJ)が同定できれば腫瘍の発生母地の推定がX線でも可能であった.また,Barrett食道のX線像である顆粒状~網状の微細な粘膜模様もX線で描出でき,さらにその中の腫瘍を二重造影で良好に描出できれば,正面像の陰影斑の形,濃さ,または隆起成分の不整像,大きさ,立ち上がりなどから病変の成り立ちが推定でき,側面像による変形や伸展不良所見の有無から深達度の鑑別も可能と考えられた.しかし,平坦で側方に拡がる進展部の診断には困難性が示唆された.

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要旨 Barrett食道癌の拾い上げのためには通常内視鏡検査でよく観察することが大切なのは言うまでもない.日本においてはSSBEから発生するBarrett食道癌が多いので,特に食道胃接合部をよく観察しなければ,微小なBarrett食道癌を拾い上げることは困難である.当科で経験した表在型Barrett食道癌は,0~2時方向,すなわち前壁~右壁に存在することが多く,色調は8割以上の症例で発赤調を呈していた.よって,Barrett粘膜内の0~2時方向に存在する発赤部位に注意することが重要である.さらに,逆流性食道炎治療後に明らかとなるBarrett食道癌があること,生検後に病変が扁平上皮に覆われ診断が困難となるBarrett食道癌が存在することも認識しておく必要がある.

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要旨 当院の9例のBarrett癌を対象に癌の好発部位と,IEEとしてインジゴカルミン撒布,白色光およびNBI拡大観察,酢酸撒布法による内視鏡像を検討した.癌の好発部位はSCJ直下でSSBEでは0~2時,LSBEでは6~10時であった.その部位の色調変化で癌を疑った場合,インジゴカルミン,白色光またはNBI拡大で胃癌に準じた診断を行う.NBIからの情報では診断困難な場合は酢酸エンハンス拡大観察で腺管構造に癌特有な像があるか観察し,形態学的観察で鑑別が困難な場合は酢酸ダイナミック・ケミカル法で白色化の早期消失部を癌と考える手順が効率的と考えられた.

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要旨 表在性Barrett腺癌の早期発見において,まずは通常内視鏡で発赤・凹凸不整の所見を見落とさないことが重要である.次に拡大内視鏡を併用したNBI観察を行う際には,最初に中等度拡大観察でBarrett粘膜・食道全体を観察する.腫瘍を疑う病変を認めた際,その辺縁から中心へと病変全体を観察し,粘膜模様の異常所見(不整な粘膜模様や粘膜模様の微小化・消失)の有無とその領域性(demarcation lineの有無)について評価する.その後,拡大率を上げて,不整な微小血管像(拡張と形状不均一)の有無を評価する.この診断手順を応用すれば,NBI拡大内視鏡は拾い上げ診断に加え,内視鏡的切除術前の腫瘍範囲診断においても強力な診断ツールとなりえる.

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要旨 2000年11月から2011年3月までに内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)にて治療したBEA(Barrett's esophageal adenocarcinoma)30例,36病変を対象とし,側方進展範囲診断を検討した.側方進展範囲は拡大内視鏡で行い,全例が一括切除された.割入り標本の実体顕微鏡像上に癌の範囲をマッピングし,内視鏡像と対比することで内視鏡上の側方進展範囲を確認した.主肉眼型は0-I型が7病変,0-IIa型が17病変,0-IIb型が4病変,0-IIc型が8病変であった.純粋な0-IIb型を除く32病変中16例(50%)でIIb進展を合併し,その範囲は5(1~53)mmであった.通常内視鏡での随伴IIb診断率は25%(4/16)であったが,拡大観察では94%(15/16)であった.36病変中30病変(83%)がSCJ(squamocolumnar junction)と接していた.このうち13病変は扁平上皮下を口側へ進展し,その平均距離は4.3(最大9)mmであった.扁平上皮下進展を示唆する所見としてSMT様の厚み,扁平上皮下の異常血管透見,扁平上皮の小孔が挙げられたが,所見のない病変も3例(23%)存在した.

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要旨 表在型Barrett食道癌12例に対して,NBI拡大内視鏡を用い,calibervariation(CV)の出現の有無を検討した.さらに,免疫組織学的に粘膜表層のSMA陽性血管の出現とVEGFの発現有無を検討した.SM癌4例は全例CVがNBI拡大内視鏡で観察できた.4例とも免疫組織学的検討では粘膜表層にSMA陽性の血管平滑筋を伴った血管が出現し,VEGF陽性であった.M癌8例(SMM 7例,DMM 1例)中2例がCV陽性であり,深達度はDMM 1例,SMM 1例であった.免疫組織学的にはM癌において粘膜表層のSMA陽性血管の出現は3例にみられた.M癌ではVEGF陽性例は2例あり,1例はCV陽性例であった.Barrett食道癌においてもCVの出現はSM癌を示唆する所見となりうる可能性があると考えられた.

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要旨 Barrett食道癌の深達度診断におけるEUSの診断能について検討した.高周波数細径超音波プローブでは,粘膜筋板から粘膜下層が線維化の影響で層構造の分離が不明瞭であることが多い.食道腺や脈管などが混在することで不均一に描出され,腫瘍との境界も不鮮明になりやすく,T1a-SMM/LPMとT1a-DMMの鑑別,T1a-DMM/SM1の診断は難しかった.SM2/SM3の診断能は比較的良好であった.周囲の健常部から腫瘍部へとプローブを動かして,層構造の変化をとらえる必要がある.リニア型EUSは腺上皮レベルにとどまる粘膜癌の描出には限界があるが,粘膜下層深部癌の深達度診断は良好であった.先端バルーンによる圧排で深く読みすぎる傾向があるので注意を要した.

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要旨 ドイツ人の表在型下部食道腺癌およびその周囲粘膜の解析結果とラット胃・十二指腸液逆流モデルを用いた実験結果に文献的考察を加え,Barrett食道癌の組織発生について考察した.SSBE(short segment Barrett esophagus)にみられるcardiac-type mucosaは,胃側もしくは胃食道接合部に存在する噴門腺が食道側に伸びた胃型粘膜が多い.一方,LSBE(long segment Barrett esophagus)にみられる杯細胞のあるspecialized intestinal metaplasiaは,高濃度の胆汁酸を含む胃液の逆流により発生した化生性の腸型粘膜であり,SSBEより発癌率は高いことが示唆された.

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要旨 患者は60歳代,女性.便潜血陽性の精査にて直腸に腫瘤を指摘され当院に紹介となった.下部内視鏡検査にて直腸に25mm大の粘膜下腫瘍様の病変を認め,対側には20mm大の表面平滑な丈の低い隆起性病変を伴っていた.上部内視鏡検査では胃体部に褪色調の微小陥凹が散在していた.生検病理組織所見から,いずれもMALTリンパ腫と診断した.全身検索にて病変は胃と直腸に限局していたため,臨床病期Stage I(Lugano国際会議分類)と診断した.H. pylori除菌療法を施行するも直腸病変の増大を認め,リツキシマブ単剤による2次療法を施行した.8クール終了後に直腸病変はほぼ消失,胃,直腸ともに病理学的寛解を得た.

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1概念,病態

 リンパ濾胞性直腸炎(lymphoid follicular proctitis ; LFP)は健常な粘膜に覆われたリンパ濾胞の,直腸に限局する原因不明の過形成で,従来,潰瘍性直腸炎(ulcerative proctitis ; UP)と呼ばれる直腸に限局する慢性潰瘍性大腸炎(chronic ulcerative colitis ; CUC)の亜型と考えられてきた1)2).LFPは1985年Potetら3)によりideopathic follicular proctitisとして初めて学会報告され,その後,Flejouら2)が1988年に直腸にリンパ濾胞増生を認めた20症例の臨床的,病理学的所見を詳細に検討しUPから新しい疾患概念としてLFPを区別した.

 LFPは40歳以下に好発し,性差を認めない.臨床症状は主に排便に関連した間欠出血で,時にテネスムス,腹痛,便秘,痔核などがみられるときがある.全身状態は良好で発熱,体重減少はなく,下痢は通常認めない2)4)

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欧文目次

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

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消化管画像診断学の歴史そのものとも言える一冊

 現在,消化器内科医にとって,早期胃癌における治療の興味はESD,診断の興味は内視鏡,とりわけ拡大内視鏡,NBIであり,X線造影検査に興味を示す若い医師はごく少数の時代である.確かに近年の内視鏡診断・治療機器の進歩は著しいものがあり,X線造影検査機器の進歩に比較して飛躍的といっても過言ではない.しかしながら,早期胃癌診断におけるX線造影検査は既に不要となってしまったのであろうか? この「早期胃癌アトラス」を熟読した後には上述した不要論を唱える者は皆無となるであろう.

 消化管造影検査の中で胃は最も一般的に行われているが,実際,本当の意味での精密検査となると,大腸や小腸と比較して胃は圧倒的に難しい.被患者の体格や胃の形,病変の存在部位などに撮影技術が勝てず,満足な病変の描出に失敗した経験が小生にも山ほどある.本アトラスにはこれまでの日本の早期胃癌の最も美しいX線像が選りすぐって掲載されており,ぜひご覧いただきたい.本アトラスの造影所見は鳥肌が立つほどの画質である.国宝級の芸術といっても過言ではない.これほどの美しいX線造影像を一同に見られることに喜びすら感じる.また,本アトラスの造影所見から概観撮影としてのX線のすごさを改めて感じる.X線,内視鏡検査のゴールは病理の肉眼像であるが,本アトラスのX線像とマクロ像を対比していただきたい.本アトラスに掲載されているX線像が病理の肉眼像を凌駕していることがわかる.すなわち,われわれのゴールの域を超えて病変の微細所見が描出されているのである.今後も造影検査を行うときには目標とされるべき画像である.さらに,画像のみならず,総論および各論のそれぞれの初めの部分にコンパクトにエッセンスがまとめられているが,その一言一言には3先生,その他大勢の先人の消化器医の膨大な汗と努力の結晶がつづられている.

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 早期胃癌研究会では,毎月原則として5例の症例が提示され,臨床所見,病理所見ともに毎回詳細な症例検討が行われている.2003年より,年間に提示された症例の中から最も優れた症例に最優秀症例賞が贈られることになった.

 8回目の表彰となる早期胃癌研究会2010年最優秀症例賞は,藤枝市立総合病院消化器科・丸山保彦氏の発表した「透視と内視鏡で特徴的所見が得られた好酸球性食道炎の1例」〔早期胃癌研究会症例として,本誌46巻10号に掲載〕に贈られた.2011年9月21日(水),笹川記念会館で行われた早期胃癌研究会の席上で,その表彰式が行われた.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 春間 賢
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 H. pylori感染率の低下と除菌療法の普及により,確実にH. pylori感染と関連がある消化性潰瘍や萎縮性胃炎は減少しつつある.したがって,萎縮性胃炎を母地に発生する胃癌は,将来必ずや減少する.一方,逆流性食道炎やBarrett食道はH. pylori非感染者に多く,消化性潰瘍や胃癌に変わり増加し,かつ,将来の消化器疾患診療の中心となる疾患である.

 Barrett食道癌は,Barrett食道や逆流性食道炎を発生母地として発生することが以前から指摘されており,逆流性食道炎の頻度が著しく上昇している本邦では,Barrett食道癌の診断や治療について関心を向けないわけにはいかない.Barrett食道癌について,その診断や病態について詳細な検討を行うには,早期さらに初期病変の診断が重要である.症状の持続期間が長い,かつ症状の強い患者に内視鏡検査を行う欧米では,早期のBarrett食道癌の診断は困難である.唯一,Barrett食道のサーベイランスが行われているが,主に生検による診断で,Barrett食道癌の初期像を内視鏡的に診断できる施設は限られている.

次号予告

基本情報

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胃と腸
46巻12号 (2011年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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