胃と腸 43巻2号 (2008年2月)

今月の主題 消化管GIST―診断・治療の新展開

序説

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 GIST(gastrointestinal stromal tumor)は消化管の中胚葉由来の間葉系腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor;GIMT)の大部分を占める腫瘍である.これまで平滑筋原性腫瘍とされていた腫瘍の多くが電子顕微鏡や免疫組織化学的な研究によりGISTであることが明らかにされた.現在,消化管間葉系腫瘍の80%がGISTで,15%が平滑筋腫,5%が神経鞘腫に相当すると報告されている.食道から直腸までの消化管から発生し,発生部位として胃が50~60%,小腸が20~30%で,大腸と食道が5%とされる.

 GISTは本誌の36巻9号「GIST(gastrointestinal stromal tumor)―概念と臨床的取り扱い」(2001年)に初めて取り上げられた.ここでは,これまで広義のGIST,狭義のGISTという呼称が用いられ臨床において混乱がみられていた状況に対して,狭義のGISTすなわち平滑筋系マーカーにも神経原系マーカーにも染色されない腫瘍をGISTとして特集が組まれ,概念や取り扱いについて最新の成績を示している.現在では,GISTとは狭義のGISTを指す.

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要旨 胃腸管間質細胞腫瘍(GIST)は消化管に発生する間葉系腫瘍で最も多く,その大半はKIT蛋白を発現する.高頻度にKIT遺伝子異常を有し,少数例ではPDGFRA変異を有する.これまでの研究で,KIT/PDGFRA変異亜型は,GISTの発生部位,細胞型,KIT蛋白発現,予後と相関があることがわかってきた.また,消化管外にもGIST同様の組織像,KIT/PDGFRA遺伝子異常を有する腫瘍が存在することも明らかとなった.KIT蛋白をターゲットとした分子標的治療薬も開発され一定の効果がみられるが,今後はさらに個々の臨床病理学的特徴や遺伝子異常に応じた治療が期待される.

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要旨 GISTのほとんどは単発性に発生するが,極めてまれに多発性GISTに遭遇することがある.それらには,通常の散発性に発生するGISTの他,c-kit,PDGFRA遺伝子の胚細胞変異をもつ家族性GIST,神経線維腫症1型に伴って発生する多発GIST,傍神経節腫を合併するCarney triad,Carney-Stratakis dyadに伴うGISTなどが含まれていると考えられ,それぞれの腫瘍発生にかかわる遺伝子的背景は多様である.したがって適切に分子標的治療薬を使用するためにも,これら多発性GISTに遭遇した際には,患者,遺伝子的背景に基づいてGISTを亜型分類しておくことが必要であると考える.

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要旨 GISTの概念・分類に関しては,現在広くWHOの定義,分類が使用されているが,今なおそれにもいくつかの臨床病理学的問題点が指摘されている.われわれはGIST 124例を含むGIMT 262例を,c-kitを含めた免疫染色結果に基づきMuscle cell(M)type97例,Neural cell(N)type0例,Cajal cell(C)type103例,Mixed cell(Mixed)type(M+C,N+C,M+N,M+N+C)41例,Undifferentiated cell(U)type21例の5型に分類し,この5型の悪性度と予後,およびGIST(CとU型)の主として腫瘍径,発育形式,細胞密度,核分裂数,Ki-67 labeling indexなどの悪性度の指標につき検索した.その結果,M型は97.9%が良性であるのに対し,C型の78.6%およびU型の95.2%は悪性ないし境界領域であった.また予後ではC型,Mixed型,およびU型はM型と比較し有意に予後不良であった.また,GISTの悪性度の評価に関しては,2cmを超える腫瘍径,Skandalakis分類の壁内型発育以外の発育(管内型,管外型,混合型発育),細胞密度高度,400倍50視野で5個以上の核分裂数,Ki-67 labeling indexなどが悪性度の指標となりうるとの結果であった.このことからわれわれの5型分類はある程度の予後予測にも有用と考えた.そして,これらの因子の多変量解析の結果,独立かつ有意な因子は発育形式と腫瘍径であることが判明したので,GISTの最も重要な悪性度の指標は発育形式と腫瘍径であると結論した.

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要旨 gastrointestinal stromal tumor(GIST)の大部分は,c-kitもしくはplatelet-derived growth factor receptor(PDGFR)αの機能獲得型変異によって発生することが解明されて以来,その診断・治療・予後に関する概念・戦略も大きく変化した.そのためGISTの悪性度評価も,形態組織学的方法から進んで,種々の分子病理学的方法を用いた検討に期待が寄せられるようになってきた.本稿では,分子病理学的因子からみたGISTの悪性度評価を検討した最近の知見から,細胞増殖関連抗原,細胞周期蛋白,c-kitとPDGFRα遺伝子異常,およびそのほかの遺伝子異常について概説する.

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要旨 外科的切除されたGIST 27例(胃25例,十二指腸1例,大腸1例)のEUS像はA type 13例,B type 8例,C type 6例であった.病理組織像を対比すると,B typeの多くは腫瘤内に出血巣を認め,C type全例に腫瘤内に融解壊死の部分を認めた.EUS像ではC type(内部に無エコーの部分を有する例),あるいは内部エコーが不均一な例に悪性度が高かった.EUS-FNAはGIST 18例に実施され,吸引細胞診によりGISTを示唆された例は66.7%であった.十分な組織標本が採取され,生検標本として病理学的診断されたのは14例(77.8%)で,このうちGISTあるいはGIST疑いと診断された例は11例(78.6%)であった.両者を合わせたGISTとの診断は88.9%(16例/18例)であった.

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要旨 GISTの画像診断に要求されるのはより正確な病期の特定と治療効果の判定である.imatinibを中心とした治療が標準化した現在,CTやMRIを中心としたcross-sectional anatomyと18FDG PET(PET/CT)による核医学から得られる情報が最も重要となってくる.腫瘍の増殖にブドウ糖が必要で,増殖の盛んな腫瘍であればあるほど18FDGの取り込みが強く,その取り込みの程度や摂取率の経時的変化の定量化は,GISTの病態の把握や治療効果の判定に多大な貢献をしている.従来の形態画像診断の利点と限界を踏まえ,糖代謝という新たな側面から見た画像をうまく取り込んで臨床に役立てていく必要がある.

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要旨 当科のGIST症例37例,43病変を分析した.当科治療の初発GISTの部位は胃(66%)が最も多く,十二指腸(14%)が続いた.外科治療は主に局所切除が行われた.NCCNのリスク分類Highに相当する病変では,11例中10例で転移・再発がみられた.転移・再発GIST症例の予後は3年生存率29%と不良であったが,外科治療が行われた症例では3年生存率100%と予後良好であった.初発GIST治療では手術が行われ,転移・再発例においてはimatinibが加わる.両者を組み合わせた治療体系の確立が今後の課題である.

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要旨 切除不能,転移性,あるいは再発性の消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;GIST)の治療の原則はimatinibの投与である.imatinibの治療効果は,奏功率40~60%,病変コントロール率80%と高く,その効果判定にはFDG-PETの取り込み低下ないし消失,CTでの低吸収化が有用である.imatinibにより,進行GIST症例の再進行までの期間は中央値で約2年,全生存期間は中央値で約5年と改善された.しかし,imatinibの治療継続とともにimatinib耐性GISTも出現している.現在,進行・再発GISTは外科治療単独でもimatinib単独でも根治は難しく,これらを組み合わせた集学的治療に期待が寄せられている.

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要旨 GISTは消化管由来の間質腫瘍の中で最も頻度が高い腫瘍であるが,その発生頻度は1~2人/100,000人/年程度と比較的まれな腫瘍である.GISTは粘膜下腫瘍の形態をとるため,切除後に初めて診断されるケースが多いこともあり,その自然史は明らかになっていない.GISTの自然史を予想するために,EUS下生検にてGISTの確定診断後に患者希望や合併症により経過観察となった症例の経時的変化を検討した.経過観察となった16例のGISTにおいて,観察期間の中央値は6.4年で範囲は2.5~10.7年であった.16例中,14例は大きさ,形態とも変化がなかったが2例は増大した.このうち1例は急速に増大し,外科治療を行ったが術後再発を来した.また胃癌により胃全摘となった症例の詳細な検討の結果,数mmの顕微鏡的GISTは100例中35例であると報告されていることから,一部のGISTが増大し,多くのGISTは大きさを変えずにとどまる可能性があると考えられた.

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要旨 症例は60歳男性.2001年1月,近医で胃穹窿部後壁の1.5cm大の粘膜下腫瘍を指摘され,経過観察を勧められたがその後の通院はなかった.2005年1月,貧血を来し当科に紹介入院となった.X線・内視鏡検査では頂部に潰瘍を伴う平滑な隆起がみられた.超音波内視鏡検査では,第4層と連続し内部がやや不均一な低エコー性腫瘤として描出され,長径は4cmであった.腹腔鏡補助下胃部分切除を施行したところ,病変は割面が灰白色を呈する充実性腫瘤で,錯綜する紡錘形細胞より構成されていた.免疫染色ではc-kitとCD34に陽性,α-SMAとS-100に陰性,核分裂像4/50HPF,Ki-67標識率は4.6%であった.以上よりlow risk gradeのgastrointestinal stromal tumorと診断した.

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要旨 症例は60歳,男性.便柱細小と排便後出血を主訴に受診した.大腸内視鏡検査で直腸Rb前壁に潰瘍を有さない4cm大の粘膜下腫瘍を認めた.生検で採取されたのは健常粘膜のみであった.2週間後の再検時には頂部に広い潰瘍形成を認め,腫瘍の縮小を認めた.潰瘍深部からの生検でGISTと診断できた.2か月後手術直前の再検査でさらに潰瘍の消失と腫瘍の変形,縮小を認めた.腹会陰式直腸切断術が施行され,35mm大で細胞分裂像を伴わないc-kit陽性の紡錘形細胞腫瘍を確認し,低リスクGISTと最終診断した.分葉構造の間隙部や周辺に出血を伴っており,生検による粘膜損傷,糞便による物理的影響,腫瘍内出血,壊死などが形態変化の原因として推察された.

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要旨 症例は74歳,男性.糖尿病で入院した際にスクリーニング目的で実施した腹部超音波検査で最大径46mmで一部に嚢胞性変化を伴う腫瘤が見い出された.超音波カラードプラで辺縁部に血流シグナルを認め,CT,MRIでも辺縁部にのみ造影効果を認めた.Levovist(R)造影超音波では造影早期より強く辺縁部が濃染し,内部には造影効果はみられなかった.これらの所見から血流が豊富な腫瘍であり,小腸X線で空腸から発生し壁外に大きく発育した腫瘍であることが判明したため,gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断し腫瘍摘出術を行った.腫瘍の内部は変性した腫瘍組織と血液成分が充満した空洞より成り,辺縁部は組織学的にc-kit陽性の紡錘形細胞で構成されていることからGISTと診断した.腹部超音波,造影超音波は侵襲がなく,GISTのような腹部腫瘍に対して存在診断から質的診断まで非常に有用な検査と考えられた.

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要旨 症例は60歳代の女性.検診で異常を指摘され,近医で上部消化管内視鏡(GIS)が施行された.胃隆起性病変が認められたため精査治療目的で当院に入院となった.入院時のGISで体上部前壁に約3cmの粘膜下腫瘍(SMT)があり,その他に穹窿部から胃角にかけて小型のSMTが多発していた.超音波内視鏡で第4層から連続する内部エコー均一な腫瘍として認められた.腹部超音波で左側腹部に約30mmの腫瘤があり小腸腫瘍が疑われた.開腹所見で胃は粘膜面のみならず漿膜側にも無数の小結節が認められ,小腸にはTreitz靱帯から約10cmと100cmの部位に壁外性発育する腫瘤がみられた.胃全摘および小腸腫瘤摘出術を施行した.病理組織学的所見ではHE染色では紡錘形で柵状に配列する腫瘍細胞がみられ,KIT,CD34が陽性であった.また胃固有筋層内にKIT陽性のCajal介在細胞の過形成が無数に存在し,さらに生殖細胞系列にc-kit遺伝子変異も認められたことから家族性多発性GISTと診断した.本疾患は現在までに15家系の報告しかなく,貴重な症例と考え報告した.

早期胃癌研究会

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 2007年9月の早期胃癌研究会は9月19日(水)に一ツ橋ホールにて開催された.司会は井上晴洋(昭和大学横浜市北部病院消化器センター),田中信治(広島大学光学医療診療部),岩下明徳(福岡大学筑紫病院病理部)が担当した.また,第13回白壁賞と第32回村上記念「胃と腸」賞の授賞式がとり行われた.

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 2007年10月の早期胃癌研究会は10月24日(水)によみうりホールで開催された.司会は斉藤裕輔(市立旭川病院消化器病センター)と細川治(福井県立病院外科),病理を鬼島宏(弘前大学病理生命科学)が担当した.また第13回白壁賞と第32回村上記念「胃と腸」賞の受賞論文講演がとり行われ,第13回白壁賞受賞論文「食道m3・sm癌の最新の診断―X線診断の立場から」を高木靖寛(福岡大学筑紫病院消化器科)が,第32回村上記念「胃と腸」賞受賞論文「早期胃癌に対する内視鏡的切除の適応拡大―未分化型腺癌について」を滝沢耕平(静岡県立静岡がんセンター内視鏡科)が,それぞれ講演した.

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欧文目次

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 『がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか』が医学書院から刊行された.編集は内富庸介,藤森麻衣子の両氏,執筆は国立がんセンター東病院,同中央病院,聖隷三方原病院,癌研有明病院,静岡県立静岡がんセンターなど,いずれも日々がん患者や家族と濃密に接するベテラン揃いである.

 患者,家族と,医療従事者との関係,特に患者と医師の間の意思疎通,コミュニケーションは医療の原点である.最近の診療現場の多忙さは危機的である.限られた時間の中で患者と医師がコミュニケーションを図ることは至難になりつつある.とは言え,患者―医師関係を構築するうえでコミュニケーションは避けて通れない.

編集後記 八尾 隆史
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 GISTという概念が提唱された当初は臨床的にも病理的にもとまどいと混乱が生じていたが,この数年でその分類や概念も定着しc-kit遺伝子変異に対する分子標的治療の開発がなされ,この領域は診断から治療において目覚ましい進歩を遂げたと言える.しかしながらその進歩の一方で,c-kit陰性のGISTや,まれではあるが多発性・家族性GISTなども報告され,診断と治療に関する新たな問題も生じてきた.そこで,本号で最新の知見によるGISTの概念の整理と臨床的・病理的診断(悪性度評価)や内科的・外科的治療法の進歩を明らかにすることを目的とした.

 病理的には,GISTの細胞分化の多様性と悪性度の関連やc-kit以外の遺伝子異常,多発性・家族性GISTにおける遺伝子変異の特殊性,遺伝子異常と悪性度の関連,悪性度評価に関する研究の進歩,消化管外の腹腔内に発生するGISTの特徴,GISTの自然史などがわかりやすく解説されている.また,臨床的には超音波検査やCT,MRI,PETの診断への応用と有用性,最新の外科的および薬物的治療方針が示され,本号はこれまでの知見の総括に加えて報告されていなかった新知見も含まれており,当初のねらい以上に充実した内容となったと思われる.

基本情報

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胃と腸
43巻2号 (2008年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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