胃と腸 41巻3号 (2006年3月)

今月の主題 腸管悪性リンパ腫―最近の知見

序説

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腸管原発悪性リンパ腫は,消化管原発悪性リンパ腫の20~30%を占め,十二指腸から直腸までの腸管に原発巣を認める.その定義として,以前は病期I/II期に限定したDawsonの基準(1961年)が用いられていたが,近年はIV期例までを含むLewinの基準(1978年)が用いられることが多い.後者の定義に従うと,病変の主体が十二指腸・小腸・大腸に存在すれば,他臓器やリンパ節浸潤の有無にかかわらず,腸管原発とみなされる.

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悪性リンパ腫の診断は,①病理組織所見(morphology),②免疫学的表現型(immunophenotype),③分子病態(genetic features),および,④臨床病態(clinical manifestations)の4点を総合的に勘案して行う必要がある.このような観点から再整理されたものが,2001年に公刊された新訂WHO分類である.この新訂WHO分類に準じて,自験例を中心に腸管悪性リンパ腫の病理学的特徴を概説した.腸管悪性リンパ腫の大部分は非Hodgkinリンパ腫に帰属し,その大半をB細胞性腫瘍が占め,主たる病型はびまん性大細胞型リンパ腫,Burkittリンパ腫,MALTリンパ腫,マントル細胞リンパ腫および濾胞性リンパ腫であった.後3者はlymphomatous polyposisの肉眼形態を前2者に比べて示しやすく,マントル細胞リンパ腫の生命予後は他病型に比べて有意に不良であった.またT細胞性腫瘍の頻度は低かったが,その生命予後はB細胞性リンパ腫に比べて極端に有意に不良であった.以上の点から腸管悪性リンパ腫に対して適切な治療を遂行するためには,自施設における“信頼に足る”検索手技の確立と体制の整備ならびに新訂WHO分類に準じた精度の高い病理診断が不可欠であると結論づけられた.

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腸管悪性リンパ腫は多彩であるが臓器特異性が存在する.びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)はどこでもかなりの頻度があるが,十二指腸は濾胞性リンパ腫が下行脚に好発するという特徴がある.空腸回腸ではT細胞性リンパ腫がしばしばみられ,臨床的に進行が速く予後不良例が多い.大腸では,MALTリンパ腫とDLBCLが主体である.前者は隆起性で一部では特異性の高いt(11 ; 18)(q21 ; q21)がある.この異常を持つものは陰性例に比してBCL10の高発現とともに臨床病期が高い傾向があり,注意を要する.多臓器を侵すMALTリンパ腫について検討するとその大半が大腸病変を有している.消化管を広く侵す病態としてlymphomatous polyposisが知られているが,これはマントル細胞リンパ腫が主体であり,t(11 ; 14)(q13 ; q32)に関与するcyclin D1 高発現が診断的な価値が高い検査である.

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小腸悪性リンパ腫(ML)の腸管病変や病理組織学的所見の特徴を中心に検討した.対象は小腸原発ML23例である.病変部位は空・回腸18例,十二指腸5例で,病変数は単発16例,多発7例であった.X線造影を中心に評価した肉眼型は,空・回腸MLは潰瘍型が9例で最も多く,以下隆起型5例,動脈瘤型3例などであった.十二指腸MLは,隆起型が3例を占め多かった.組織型はB細胞由来が21例を占め,内訳はdiffuse large B-cell lymphomaが17例,follicular lymphomaが4例であった.前者は潰瘍型から隆起型まで種々の肉眼形態を呈したが,後者は多発する白色顆粒状隆起が特徴的所見であった.小腸MLの肉眼形態は病理組織学的所見を反映するものと考える.

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大腸原発悪性リンパ腫の41症例45病変についてX線・内視鏡所見の特徴と病理組織学的所見との対比について検討した.大腸悪性リンパ腫の肉眼型は隆起型・潰瘍型・びまん型の3つに分類した.肉眼型と深達度の関連では,隆起型より潰瘍型でより深い傾向にあった.病理組織学的にはびまん性大細胞型リンパ腫は潰瘍型が多く深達度が深い傾向にあり,MALTリンパ腫では隆起型が多く深達度も浅いものが多い傾向にあった.悪性リンパ腫の画像診断においては隆起部分の粘膜下腫瘍様の所見を注意深く捉えることが重要であると思われた.また腫瘍の大きさ・管腔の狭窄に比べ通過障害の症状に乏しいことも特徴的であった.

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腸管原発悪性リンパ腫113例(MALTリンパ腫33例,濾胞性リンパ腫9例,マントル細胞リンパ腫2例,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫46例,Burkittリンパ腫7例,リンパ芽球性リンパ腫3例,T細胞性リンパ腫13例)を対象として治療法と予後の関連を遡及的に解析した.非外科的治療群(除菌,放射線または化学療法 ; n=23)と外科的切除群(n=90)ではoverall survival(OS),event-free survival(EFS)ともに差はみられなかった.多変量解析の結果,T/B免疫表現型と臨床病期のみがOSおよびEFSの独立した予後規定因子であった.複数腸管浸潤はEFSのみの予後因子であった.現時点では,外科的切除と化学療法の併用が限局した腸管悪性リンパ腫の標準的治療であるが,今後,非外科的治療の適応について,前向き研究による評価が必要と考えられる.

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節外性リンパ腫は,リンパ腫全体の24~48%を占め,その発生部位も多岐にわたるが腸管もその代表的部位であり,胃腸原発のリンパ腫は非Hodgkinリンパ腫の5~10%を占める.病型ではびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)を中心とするaggressive non-Hodgkin's lymphoma(NHL)が最も頻度が高い.腸管原発のaggressive NHLに対しては,局所病変部の出血,穿孔などのコントロールを兼ねた切除術後に,限局期であればCHOP(DLBCLならrituximabを併用したR-CHOP)療法の3~4コース後の放射線照射(区域照射)もしくはCHOP(DLBCLならR-CHOP)療法6コース,進行期であればCHOP(DLBCLならR-CHOP)療法8コースが標準的な治療戦略である.DLBCLの生存予後は良好であるがT細胞性aggressive NHLの予後は不良であり今後の新たな治療戦略の開発が望まれている.腸管原発の濾胞性リンパ腫はまれであり十二指腸を中心とする小腸に多く発生し女性に多い.生命予後は良好であり,局所制御には放射線もしくはrituximabが使用される.進行期の治療戦略は,通常の節性,濾胞性リンパ腫と同じでrituximabとCHOPなどの化療との併用療法が準標準的治療法である.

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大腸原発MALTリンパ腫に対して抗生剤投与を行った自験例5例ならびに文献報告例10例を含めて,その治療効果について検討した.H. pylori除菌に準じた抗生剤投与により12例で病変が消失し,3例では縮小し抗生剤投与の有効性は明らかであった.病変が消失した10例の消失までの期間は平均116.5日であり,その後,再発は認めていない.浸潤深達度に関しては,未消失例が全例sm浸潤であったのに対し,消失例はmp以深の浸潤が5例あり,深達度は抗生剤投与の治療効果に影響しなかった.一方で,縮小にとどまった3例はいずれも病変が多発しておりまた平均年齢も消失例と比べ有意に高かった.今後,抗生剤投与後の長期経過や無効時の追加治療時期・治療法などの検討がさらに必要であるが,非侵襲的な治療として抗生剤投与は第一選択となりうるものと考えられた.

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腸管悪性リンパ腫の自験例(小腸8例,大腸5例)を呈示し,悪性リンパ腫の外科治療について概説した.悪性リンパ腫では,穿孔などの緊急例が多いため病態に応じた治療が必要である.予定手術例では,MALTリンパ腫で粘膜下層までに限局する病変には局所切除で良好な予後が得られる.それ以深のMALTリンパ腫やdiffuse large B-cell lymphomaでは,所属リンパ節の郭清を伴う腸切除が必要である.腸切除には,腹腔鏡下の手術が低侵襲で有用である.

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68歳,男性.検診での便潜血反応陽性に対する大腸内視鏡検査でS状結腸ポリープを認め,当科紹介受診.S状結腸のIp型早期癌を内視鏡的切除した際,上行結腸に径2cm大の粘膜下腫瘍を認めた.生検組織の病理診断および免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成の分子生物学的検査にてMALTリンパ腫と診断した.患者の全身状態が不良である点とH. pylori除菌療法で直腸MALTリンパ腫が消失した報告に基づいて,胃でのH. pylori感染を確認後に除菌療法を施行した.除菌療法1か月後に除菌の成功を確認し,大腸内視鏡検査にて腫瘍は径4mm大の結節が3個と縮小傾向を示した.除菌療法8か月後の大腸内視鏡検査で,腫瘍は消失していた.大腸MALTリンパ腫に対する除菌療法の有効例は本症例を含めて17例報告されている.

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56歳の女性.血便を主訴に受診した.大腸内視鏡検査では直腸上部に径25mm大の広基性隆起性病変と,直腸下部に径10mm大の隆起性病変を認めた.鉗子生検ではMALTリンパ腫と反応性リンパ腫の鑑別が困難であったため,診断目的でEMRを施行し,組織学的にMALTリンパ腫と確診した.各種画像診断にてstage Iと考えられた.まず抗菌剤治療を試みたが病変の縮小はみられなかった.直腸に対して30Gy放射線療法を行ったところ隆起性病変は平坦化し,生検組織所見では異型リンパ球の浸潤は消失した.完全寛解と考え経過観察しているが,その後8か月は再発を認めていない.限局性直腸MALTリンパ腫に対して放射線療法は有効な治療法と考えられた.

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患者は,60歳,男性.主訴は腹部膨満感,嘔吐.内視鏡およびX線所見で,十二指腸第2部に全周性狭窄を認めたが,確定診断は困難であった.術中所見では,悪性所見は乏しかったが,術中生検の病理学的検索で悪性リンパ腫(follicular type)と診断した.バイパス術後約1年後に再来院し,全身検索を行ったが,臨床病期は,stage Iだった.治療として,抗CD20モノクローナル抗体(以下,rituximab)とCHOP療法の併用を考えたが,患者の希望でrituximabの単独投与を施行.計8回の投与で,腫瘍は縮小し,臨床的にはPRと判断した.十二指腸の悪性リンパ腫(follicular type)は比較的まれで,明確な治療基準はない.今回の症例は,腫瘤形成し,十二指腸に狭窄を来した進展例にrituximabの単独療法を施行し,PRではあるが,効果を認めた.同疾患の治療に関して,示唆に富む症例と考え,報告する.

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症例は78歳,女性,貧血精査目的で近医から紹介入院となった.順行性小腸造影検査でTreitz靱帯より20cm肛側に8cm大の不整形バリウム貯留を認め内部は囊状に拡張していた.小腸内視鏡検査ではほぼ全周性の不整潰瘍であり辺縁部に上皮性腫瘍の所見を認めなかった.腹部CTで8cm大の空腸原発,非上皮性腫瘍を疑う所見を認めWood分類による動脈瘤型悪性リンパ腫と診断した.貧血が進行するために治療は小腸切除術を施行した.免疫学的検索を含めた組織学的結果では隣接回腸に直接浸潤を来したNK/T細胞性リンパ腫(CD3,CD56陽性,CD20陰性)であり術後化学療法が予定されたが全身状態が改善せず術後約4か月で死亡した.

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症例は60歳代前半の男性.約1年前より水様下痢が出現していたが,2か月前より腹部膨満感,食思不振,嘔吐が出現するようになったため当院に入院した.ダブルバルーン小腸内視鏡で全小腸を観察したところ,広範な浮腫状変化と散在する大小のびらんを認めた.びらんは回腸に多く,輪状に分布する傾向がみられた.また回腸に全周性潰瘍を伴う高度狭窄を認めた.小腸狭窄に対し小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査では粘膜下層中心にやや小型の異型リンパ球がびまん性に浸潤し,免疫染色にてCD3陽性でありT細胞リンパ腫の所見であった.吸収不良症候群を伴うことより,enteropathy-type T細胞性リンパ腫と診断した.

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患者は68歳,男性.腸炎症状で発症し蛋白漏出症候群および吸収不良症候群を伴った.画像所見では十二指腸より上部小腸を中心に,ほぼ全小腸にびまん性のKerckring皺襞の著明な肥厚と粘膜の微細顆粒状の変化を呈した.内視鏡下生検病理組織で粘膜固有層に著明な異型リンパ球の浸潤がみられ,免疫組織化学法の結果と合わせ細胞障害性T細胞性悪性リンパ腫と診断した.本症例は化学療法の効果が期待できないと判断し,中心静脈栄養などの対症療法のみ行い,診断約10か月後に絞厄性と思われる腸閉塞を来し急死した.

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患者は60歳台,女性.便潜血反応陽性にて検査施行され,下部直腸に多発の粘膜下腫瘍を認め,当科紹介精査となる.同部位に微小から6mmまでの半球状の表面平滑な多発する隆起性病変を認めた.EMR標本から,IgH遺伝子再構成を認めたが,組織学的検索にて良性リンパ濾胞性ポリポーシスと診断した.H. pyloriの感染は陰性であったが,除菌療法を施行したところ,病変の消退,消失を内視鏡上確認できた症例を報告した.

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欧文目次

編集後記 田中 信治
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 腸管原発悪性リンパ腫に関する最新の知見の整理を目的に本号は企画された.悪性リンパ腫の組織分類には多くのものがあり,非専門家には理解しづらい面もあるが,本号では組織分類の歴史的変遷を含めてわかりやすく解説されている.また,小腸・大腸における多数症例の集積の成果により,多くの美しい症例画像が呈示され,形態学的特徴と病理組織学的特徴,さらに治療や臨床経過との対比が詳細になされていることが素晴らしい.形態学的特徴のみならず,分子生物学的特徴の知見も詳しく解説されている.

 本号では,症例報告も含めて腸管悪性リンパ腫の治療と臨床経過に関する新知見が盛り沢山である.CHOP 療法,rituximab,放射線療法などの非外科的治療が外科的切除にとって代わる可能性があるほど有効であること,また,腸管 MALT リンパ腫に抗生剤の投与や Helicobacter pylori 除菌療法が有効であることなどが,美しい画像によって示されている.NK/T 細胞リンパ腫の症状が enteropathy(腸炎症状,蛋白漏出性胃腸症,吸収不良症候群)であることも特徴的な所見である.

基本情報

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胃と腸
41巻3号 (2006年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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