胃と腸 39巻1号 (2004年1月)

今月の主題 最新の早期胃癌EMR―切開・剥離法

序説

早期胃癌EMR 小野 裕之
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は じ め に

 年頭にあたり,変貌しつつある内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)の手法について取り上げた.EMRは早期胃癌に対する標準治療の1つとして確固たる位置を占めるに至っている.特に最近は,従来の牽引・吸引法とは異なった手技である,一括切除を目的とした粘膜切開・剥離法が登場し注目を集めており,急速に広まりつつある状況である.歴史を語るには筆者では力不足と自覚しているが,EMRが登場してからすでに20年あまり経過しており,これまでの業績を振り返りつつ,切開・剥離法について述べたい.

 Table 1に挙げたように1),早期胃癌の内視鏡治療としては,まずポリペクトミーの手法が開発され,レーザー治療の開発が続いた.現在のEMRの原点となったのは多田らが発表したstrip biopsy法2)であり,わが国では他にEMRC法などの透明キャップを用いた方法を含め,いわゆる牽引・吸引法が広く行われてきた.

 平尾らは1983年に針状ナイフを用いて粘膜を切開するERHSE法を発表し,粘膜を切開する方法としてはこの方法を嚆矢とする3).その後,EMRに際して一括切除の重要性が主張されるようになり,1990年代後半より,細川・小野らによりITナイフ(insulation-tipped electrosurgical knife)を用いて,粘膜を切開した後,さらに粘膜下層を剥離するEMR-切開・剥離法が提唱された4)5).大きな病変や,潰瘍瘢痕を有する病変に対しても一括切除が可能であり,その後も種々のデバイスの開発が続いている.

 一方,早期胃癌に対するEMRの適応は,2001年に日本胃癌学会から発表された「胃癌治療ガイドライン」では,2cm以下の,潰瘍のない,分化型M癌となっており,①リンパ節転移がほとんどない癌であることと,②一括切除可能な大きさ,部位にあること,という2つの原則が記載されている.①のリンパ節転移については,EMRは局所治療であり,当然リンパ節転移のある胃癌は適応とならず,ガイドラインの条件を満たした場合,リンパ節転移の危険性は非常に少ない.一方,②の一括切除が原則である,という項目が明記されたことは,これまであいまいであった一括・分割切除に対する方向性を示した点で意義は大きい.分割切除では断端の判定が困難なものが多く,遺残・再発の頻度が高い.また,多分割切除の場合,再構築が難しく病理組織診断がしばしば困難になる.“適応”とは術前に判断されるものであり,最終的に切除標本にて病理組織学的な診断がなされた後に,術前の適応の正誤が判定されることになる.さまざまな診断機器を駆使してもその正診率は90%前後であり,適応病変と考えてEMRを施行しても結果的に適応外病変であるものが1割近く含まれることになる.術前診断が完全なものでない以上,正確な病理組織診断を施行可能な標本を得る必要があり,切開・剥離法が有用となる.しかし,従来法に比してこの方法が優位と考えられている対象は,実はガイドラインをはずれる,より大きな,もしくは潰瘍瘢痕を有した病変である.ガイドラインはあくまで標準の適応を示したものであり,EMRの利点を鑑みると,リンパ節転移のリスクの低い対象群に対して今後必然的にその適応は拡大していくと思われる.ただし,リンパ節転移のデータはあくまでretrospectiveな検討であり,拡大適応を用いて,intent to treatで行った場合に問題ないかどうかは不明である.したがって,ガイドラインでも臨床研究として行うと記載されているが,安易に“臨床研究”を拡大解釈すべきではない.

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要旨 EDSP,ERHSE,strip biopsyなどのEMR手技が世に出た当初は外科手術に替わる根治的なEMRは一括切除が原則とされ,リンパ節転移のない条件,および手技的な限界から,適応は分化型cM癌で隆起型は2cm以下,陥凹型はUL(-),1cm以下とされた.その後,治療困難部位の克服を目指し,EMRC,EAMなどのcap吸引切除法が登場,器具の開発・改良が進む.また,EMR後のQOLが良好であることから,計画的分割切除の概念が提唱されてからは,分割切除許容による適応拡大に向かう.一方,EMR後の完全切除の判定が分割切除では極めて困難であること,また,一括切除例に比べて多分割切除後の局所遺残再発率が高いことから,大きく一括切除切除できる手技が待望される.このような背景の下,ITナイフ,フックナイフ,細径スネア・フレックスナイフなどの切開・剥離法が登場し現在に至る.切開・剥離法は病変を大きく一括切除できる良い方法であるが,手技が難しく,偶発症の発症が多い,時間がかかるなど問題も多い.これらを克服し,確実,安全,迅速な治療法とするべく,さらなる発展が望まれる.

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要旨 平均余命が約7年となる,80歳以上の患者の治療は根治性,安全性,QOL維持の3つの観点からの治療が必要となる.80歳以上の患者の胃切除は,一般には安全に行えるが,併存症のある患者においてはhigh riskであった.また,QOLの悪化は必須である.当院ではリンパ節転移率の低い,早期胃癌患者にEMRの相対的適応を拡大して治療を行い,胃切除と同等の生存成績が得られた.また,EMRで局所コントロール不良例の予後は不良であり,胃切除の積極的追加が必要とされた.

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要旨 EMRは,早期胃癌に対し有益な治療法であるがその適応を誤ったり,不完全に切除された場合には,生命予後を大きく左右する危険性を含んでいる.それ故,切除後の正確な組織学的検索は必須であり病変の一括切除が望ましい.1987年から2002年までに国立がんセンター中央病院にてEMRが施行された1,441病変において,77%が一括切除され 23% が分割切除であった.判定不能症例は一括切除例において4%に,分割切除例では30%に認めた.ここ 3年間の切開・剥離 EMR法の一括切除率は97% で,そのうち治癒切除が96% であった.施行時間は,2時間を超える症例が14%あり手技の改良・開発の必要がある.偶発症は,穿孔が4%,止血目的の内視鏡再挿入を必要とした症例が2%であった.

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要旨 2000年1月から 2003年8月までに切開・剥離術を試行した胃上皮性腫瘍312例を対象とした.一括切除率は腫瘍長径20mm 以下群で98%(202/207),21mm以上群で95%(103/109),全体で97%(301/312)であった.切除断端陽性は11例で,いずれも術前診断の誤りが原因であり一括完全切除率は93%(290/312)であった.穿孔を0.96%(3/312)に認めたがいずれも pin holeでありclip 1個で閉鎖しえた.輸血を要した症例は高度の肝硬変1例(0.3%)のみであった.手技が安定した2001年以降は大部分の症例をトレーニング中の術者が施行してきたが,上述のような成績を得た.したがって基本を守ればフックナイフを用いた切開・剥離術は安全な手技と思われた.

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要旨 細径スネアを改良したフレックスナイフは,柔軟で操作性が良く,直視下で縦・横・斜めあらゆる方向に切開を進めることが可能であり,切開・剥離法を初めて行う者でも比較的扱いやすい処置具と考えられる.しかも先端がループ状になっており,長さも調整可能であるため穿孔のリスクも比較的少ないものと思われる.細径スネアやフレックスナイフを用いた切開・剥離法にて198病変の治療を行い,一括切除率は92%であった.一方,穿孔が8例(4%),後出血が3例(1.5%)認められたが,すべて保存的に治療可能であった.切開・剥離法は,技術的難易度が高く,治療時間も長くかかるが,確実な一括切除が可能であり,根治性の評価と遺残再発の防止の点からメリットの多い治療法と考えられる.

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は じ め に

 当院では1982年より早期胃癌に対してERHSE(endoscopic resection with HSE injection)法を開発し施行してきた1).ERHSE法はいわゆるcutting EMRのoriginatorである.さらに筆者らは1997年10月より通常のERHSE法では一括切除困難と推測される病変に対して粘膜下層直接切離(剥離)によるERHSE(S-ERHSE;submucosal endoscopic resection with HSE injection)法を考案し施行してきた2).S-ERHSE法は本主題である切開・剥離法の中でITナイフ法3)とともにpioneerである.本稿では筆者らが施行しているS-ERHSE法の手技の工夫について症例を呈示して概説する4)5)

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は じ め に

 近年切開・剥離法の登場により早期胃癌の内視鏡治療に大きな変革がもたらされた.もともとEMR(endoscopic mucosal resection)は病変粘膜を回収し,病理学的評価ができる手技として早期胃癌の根治術として認められていたが,この正確な病理学的評価のためには一括摘除が望ましいと考えられていた.切開・剥離法ではあらかじめ周囲粘膜の切開を行い,スネアに頼らず各種ナイフで粘膜剥離を行うためほぼ確実に一括摘除できる利点がある(Fig.1).しかし偶発症・切除時間・標本の熱変性など問題点も残されており,最近の研究会等での発表においても不満足な結果が多々認められる.時間をかけ苦労して一括摘除しても標本の熱変性が強く垂直断端の正確な病理評価ができないというようなことがあっては意味がない.

 切開・剥離法においても安全・迅速でかつ変性の少ない標本の得られる手技が望まれるという考えから,われわれは様々な工夫を重ねてきた.局注液にヒアルロン酸ナトリウムを使用する粘膜切開法を1998年6月から開始し1),1999年10月からスネアに頼らない切開・剥離法を行っている2).本稿ではこれまでの約450例(大腸も含む)の経験から得たわれわれの工夫点を紹介する.

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は じ め に

 早期胃癌に対するEMR(endoscopic mucosal resection)は腫瘍径10mm程度までの病変であれば,strip biopsy法,吸引法などいずれのEMR手技によっても,実施成績,完全切除率ともに良好な結果が得られている.しかし,日本胃癌学会の胃癌治療ガイドラインでEMR適合基準とされている腫瘍径20mmの病変の場合,周囲5mmの安全域をとると径30mmの除範囲が必要となり,一括完全切除率は著しく低下する1)

 EMR後の遺残・再発は,一括完全切除例にはほとんど認められないのに対し,分割切除のため切除断端癌遺残の組織学的判定不能例には多いことから,一括完全切除率の向上が求められている1).この課題を解決することと,さらにEMRの適応拡大に向けて切開・剥離法(endoscopic submucosal dissection ; ESD)が開発された2)

 切開・剥離法はITナイフなど処置具を中心に多方面で改良・工夫が行われているが,筆者らは,内視鏡下の良好な術野の展開,安全,確実な切開・剥離手技を求めて,処置用スコープ改良によるアプローチを行っているので紹介する.

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背 景

 早期癌に対する治療としての内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)はわが国において確立された1)~3)

 その後,チューブや透明キャップなどの道具を用いたいわゆる吸引法4)5)が開発された.1つは食道におけるEEMRチューブ法4)であり,その後,透明キャップを用いる方法5)が開発された.これらの方法の登場で,EMRは非常に簡便かつ容易な方法となった.

 しかし,以上の方法は,基本的にスネアを用いて行うポリペクトミーの延長線上にあった.唯一,平尾ら2)のERHSEでは,スネアを使用せず,針状メスを用いて現在の切開・剥離法と同様の概念を提唱したが,手技的な難易度が高いことから,当時なかなか一般に普及するには至らなかった.1990年後半になって,切開・剥離法の新しい手法として細川・小野らによって,ITナイフ法が発表された6).小野らの功績によって,技術的にも極めて広範囲の粘膜切除術が可能となった.一方,Gotodaら7)によって,EMRの適応拡大の可能性が臨床病理学的に検討された.その後,フックナイフ8),フレックスナイフ9)などが提案された.一方,山本ら10)はヒアルロン酸ナトリウムを使用することで,粘膜下層の膨隆を長時間保つことができるようになり,さらに安全な切開・剥離法が可能となってきた.

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要旨 早期胃癌に対して,内視鏡的粘膜切除術(EMR), 縮小手術,定型手術を選択する上でリンパ節転移の有無は最も重要な因子である.近年の分子生物学的,遺伝子学的解析でリンパ節微小転移の存在が明らかとなってきた.粘膜癌では2cm以上から微小転移がみられ,粘膜下層癌ではその頻度はさらに高くなる.微小転移の観点からみると,現時点でEMRの適応拡大に関しては注意が必要である.今後,基礎的にはリンパ節微小転移の着床,増殖機序の解明,主病巣の転移能の評価の確立が必要である.臨床的にはsentinel node navigation surgeryの確立と微小転移の術中診断に関する各方法の評価が必要である.早期癌では根治は絶対条件であり,微小転移診断に基づくsentinel node生検を併用したEMRの適応拡大は機能温存と根治性を兼備した治療になりえると考えられる.

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要旨 切開・剥離法の導入をはじめとするEMR手技上の進歩により,リンパ節転移診断の精度がEMR適応決定に重要な鍵となってきている.sentinel node(SN)navigationは腫瘍から最初のリンパ流を受けるリンパ節に微小転移が初発するという仮説に基づいて,これを生検することによりリンパ節転移診断を行うという画期的な手法である.現時点で胃癌におけるSN理論の適否は検証途上であり,標準手技の確立も研究段階であるが,将来,腹腔鏡下のSN生検技術の完成によるSN転移陰性例に対するEMRの適応拡大は胃癌に対する低侵襲治療をさらに推進するものと期待される.

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 幕内(司会) 皆様大変ご多忙のところ,お集まりいただきましてありがとうございます.本日は「切開・剥離法の位置づけと問題点」というテーマで,田尻教授と私が司会を務めさせていただきます.内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)が早期胃癌の治療の確たる位置を占めておりますが,切開・剥離法は最近大変トピックスになり,内科と外科の境目がなくなった感じがいたします.臨床の場に導入されて大変注目を集めているのはご存知のとおりです.今日はその方面のベテランの先生たちにお集まりいただき,外科の立場からは大谷先生,病理の立場からは下田先生にご意見を賜りたいと思います.最初に田尻先生からEMRの開発から切開・剥離法に至るところをお話しいただきたいと思います.

切開・剥離法への経緯

 田尻(司会) EMRは1980年代の初頭に早期胃癌に対する内視鏡的切除の方法としてendoscopic double snare polypectomy(EDSP),ERHSE(endoscopic resection utilizing local injection of hypertonic saline-epinephrine solution),strip biopsyなどの方法が相次いで開発され普及してきました.このころ適応病変,完全切除判定の基準も盛んに議論されて,今日の胃癌治療ガイドラインの作成のもとになっています.1990年代に入って,特に1993年前後,時期を一にしてフードあるいはキャップによる吸引切除法が報告され,普及してきました.EMRの普及,手技の安定,各種の処置具の開発・改良とともに,適応拡大をめぐる問題と分割切除と一括切除の議論が行われてきています.このころから一括切除が望ましいと言われながらも,手技上の限界からやむを得ず分割切除を行い,分割切除では遺残再発率が高くなるという内視鏡医のジレンマがずっと続いている中で切開・剥離法が登場しました.1998年の細川浩一先生(諏訪中央病院),小野先生らのITナイフ,その後 2001年,2002年に発表された小山先生のフックナイフ,矢作先生のフレックスナイフです.ITナイフ,フックナイフ,フレックスナイフが,現在市販されて使える代表的なナイフですので,その特徴と手技について簡単にお話しください.

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 〔患 者〕 47歳,女性.自覚症状,特になし.2002年6月4日検診で異常を指摘され,2002年6月29日しもたたら内科消化器科を受診.同日の上部消化管内視鏡検査で異常所見を認めたため,2002年7月22日当院を紹介され,同日入院となった.

 〔胃内視鏡所見〕 通常観察では,胃体上部大彎から後壁にかけて褪色調の境界明瞭な陥凹病変を認める(Fig.1).陥凹内は粗で小結節がみられる.陥凹周囲はひだ集中がみられ陥凹の周囲で中断がみられる.その病変の肛門側は明らかな伸展不良はみられず,ひだの腫大もはっきりしない(Fig.2,3).しかし,ひだの走行はスムースさを失い,ひだの表面は微細顆粒状のパターンを示している.また,長軸方向のひだとひだを橋渡しするような直交するひだがみられる.色素内視鏡では陥凹内の小結節がはっきりし,また,陥凹の周囲の粘膜の微細顆粒状のパターンが明瞭となった(Fig.4,5).

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 〔患 者〕 56歳,女性.50歳時より近医にて年に1回胃内視鏡検査を受けていたが,異常は指摘されなかった.1998年2月ごろ,軽度の心窩部痛を自覚.同年3月に当院人間ドックを受診したところ,内視鏡検査にて胃体中部大彎側に小さな不整形の陥凹性病変を認め,生検にてGroup V(signet-ring cell carcinoma)であったため,3月27日入院となった.

 〔胃X線所見〕 胃体中部大彎側に,ひだの途絶像が認められ,同部に不整な径7mm大のバリウム斑を認めた.潰瘍の存在を示唆するひだの集中像はみられなかった(Fig.1a, b).圧迫像では陥凹周囲の透亮像が目立ち,粘膜下層への癌の浸潤が推察された(Fig.1c).

 〔胃内視鏡所見〕 胃内の空気をやや抜いた状態での病変部の遠景像では,病変部は胃体部のひだ上の小さな陥凹性病変としてようやく認識できる程度であった(Fig.2aの矢印).胃内の空気量を増すと病変はIIa+IIc様になり,辺縁隆起の立ち上がりはなだらかであった.陥凹面は,やや発赤調で潰瘍や顆粒状の変化はなく平坦であった.周辺の皺襞の伸展性に変化はみられなかった(Fig.2b~d).以上より,局所に限局した深達度sm2またはsm3の未分化型癌と考え,遠位側胃切除術を施行した.

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要旨 患者は67歳,女性.主訴は嚥下時不快感.上部消化管内視鏡検査で,上切歯列より25cmの中部食道右壁に病変を指摘された.X線検査では,周囲に立ち上がりの明らかな辺縁隆起を伴う不整形の陥凹性病変が描出された.その肛門側には扁平な隆起形態の副病変を伴っていた.内視鏡的には粘膜下腫瘍様の立ち上がりを呈し,頂部に潰瘍を有する病変であり,隆起部分は潰瘍辺縁までヨード染色された.この病変は約10日間のうちに,内腔に突出した隆起の丈が低く形態変化したことが確認された.主病巣は,切除標本で,0-III型,3.0×2.8cm大で,粘膜下腫瘍様発育形態を示した.組織学的にはsm3腫瘍で,大型細胞の充実胞巣が主体を占め,一部で小細胞型の充実胞巣が混在し,腫瘍細胞は特殊染色で内分泌細胞の性質が陽性を示すことから,内分泌細胞癌と診断された.副病変は深達度epの,高分化型扁平上皮癌であった.術後多発肝転移,肋骨転移が出現,手術から14か月後に死亡した.

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要旨 患者は59歳,女性.自覚症状はなく,便潜血反応陽性を主訴に近医を受診し,カルチノイド腫瘍の疑いで紹介となった.上行結腸に約4cm大で2型の病変を認めた.前医で行われた2か月前の内視鏡検査では,表面にびらんを伴う隆起性病変であり,短期間のうちに著明な形態変化を認めた.生検では,核異型が高度で一部にロゼット様構造を認めたため,内分泌細胞癌が示唆された.組織学的には内分泌細胞癌,se,n3,P0,H0,StageIIIb,ly2,v2,壁内転移陽性,根治度Aであったが,術後4か月で癌死した.本症は極めて予後不良かつまれな疾患であるが,自験例はその自然史を解明する上で貴重な症例と考えられた.

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要旨 患者は57歳,女性.腹痛・嘔吐を主訴に当院に搬送された.上部消化管内視鏡検査では,胃体部大彎に広範囲のIIcを認め印環細胞癌であった.大腸内視鏡検査では,S状結腸に約25mmの隆起性病変を認め中心に陥凹様所見を有していたが,十分な空気量を注入すると,弧の硬化像などの伸展不良所見は認めなかった.同時に行った生検ではGroup 4と診断された.大腸X線検査は側面像の撮影はできなかったが,空気量の増加により腫瘍は容易に伸展した.しかし,拡大内視鏡で中心部は不整なV 型pitであり,超音波内視鏡では筋層へ浸潤しているように思えた.手術の結果管状絨毛腺腫であった.本症例は組み合わせ診断を誤って判断したため,深達度を深く読影しすぎた誤診例である.

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要旨 患者は64歳,女性.既往に痔瘻手術歴があり,肛門痛を主訴に来院.精査の結果Rb後壁に巨大な粘膜下腫瘍様充実性病変を認めたが,組織学的には針生検で中分化腺癌が疑われた.切除標本の組織像よりchromogranin A染色が陽性で,筋層以深の壁外性発育を主体とするカルチノイド腫瘍と診断された.腫瘍近傍に重複腸管と思われる構造が存在し,そこから連続する瘻管が腫瘍の中央を貫通しており,カルチノイド腫瘍発生への関与が示唆された.

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要旨 患者は65歳の女性.Behet 病によるぶどう膜炎の治療で当院眼科に入院中,スクリーニングで施行した大腸内視鏡検査で回盲弁上に径約20mm大の白苔で覆われた亜有茎性腫瘤を認め,終末回腸には小びらんと潰瘍瘢痕を認めた.注腸X線検査でも同様の所見を認め,生検で低分化腺癌が疑われたため回盲部切除術を施行した.病理組織学的には紡錘形細胞の密な増殖およびリンパ球,形質細胞の浸潤を認め,inflammatory myofibroblastic tumor(IMT)と診断された.Behet 病に合併した回腸IMTの報告は過去になく,まれな症例と考えられた.

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欧文目次

編集後記 大谷 吉秀
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 EMR は常に進化する,そんな期待を実感していただける特集をお届けします.“原発巣の完全切除"“切除標本の確実な組織診断"という命題は,EMR に課せられた最重要課題ですが,今回の主題“切開・剝離法"の登場で,一括切除かそれとも分割切除で十分か,という 2,3 年前まで熱く議論されたテーマはどこかに吹き飛んでしまった印象を受けます.今回の特集では,まず“切開・剝離法"をリードされている先生方にその手技を中心に解説していただきました.もう 1 つの命題“リンパ節転移がない"も EMR の大切な条件ですが,主題研究では,微小転移やセンチネルリンパ節について最新情報を解説していただきました(夏越,北川論文).また,手術例の検討から高齢者の早期胃癌では症例により EMR の適応拡大が容認できる可能性が述べられています(片井論文).後半の座談会では“切開・剝離法"のコツが熱く語られており,本法が抱えるいくつかの問題点も浮き彫りにされています.

 本当に良いものは皆に愛され後世に伝承されるという歴史的法則を考えると,“切開・剝離法"が名人芸でとどまっていては,時の話題提供で終わる可能性があります.これを世の中にどのように普及し人々の福祉に貢献するか,さらなる進化を期待したいと思います.EMR に興味を持たれている方々や,これから“切開・剝離法"を始めてみようという読者の皆様に本特集がお役に立てれば幸いです.

基本情報

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胃と腸
39巻1号 (2004年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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