胃と腸 38巻13号 (2003年12月)

今月の主題 消化管への転移性腫瘍

序説

消化管への転移性腫瘍 田中 信治
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 近年,悪性腫瘍の罹患率は増加しており,原発腫瘍あるいは転移性腫瘍に対する正確な診断学の必要性がますます高まっている.悪性腫瘍罹患患者に対しては,常に転移病巣の有無を検索する必要があるが,その際,臨床医は転移性腫瘍の形態学的特徴を十分理解しておかねばならない.一方で,原発巣が不明なもの,転移病巣が先に診断されるもの,原発巣が転移病巣に類似した変化を認め診断に苦慮する場合もある.本号では,消化管への転移性腫瘍の形態学的特徴を整理し,臨床診断に役立てようという目的で,“消化管への転移性腫瘍” を主題に取り上げた.消化管への転移性腫瘍は剖検例ではまれではないが,生前にきちんとした画像で形態学的に診断されることは比較的少なく,臨床的には散発的に文献報告されているのが現状である.実際,消化管への転移性腫瘍の形態診断学的特徴に関するまとまった成書は少なく,本特集号の持つ役割とその期待は大きい.

 悪性腫瘍の消化管への転移経路としては,血行性あるいはリンパ行性転移と直接あるいは播種性浸潤が挙げられるが,いずれにしても,粘膜よりも下層に病変の主座があるため粘膜下腫瘍の性格を持つ.古典的には,牛眼像(bull's eye appearance)1)が有名で,脈管行性に消化管壁に転移した腫瘍が粘膜下腫瘍様に隆起を形成し,その中央に陥凹を伴ったものである.進行し大きくなれば,決潰して潰瘍形成を伴い,原発性の上皮性腫瘍との鑑別に苦慮することもある.

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要旨 消化管の転移性腫瘍の特徴を把握するため,過去13年間に日本病理剖検輯報に登録された剖検例と自験外科切除例50例を用い,臨床病理学的立場から検討した.剖検における消化管転移性腫瘍 73,134例のうち部位別には小腸が23,740例と最も多く,順に結腸・直腸・虫垂18,252例,胃16,315例,食道10,848例,肛門・肛門管187例であった.転移率が高い悪性腫瘍の原発部位は近隣臓器や腹腔内臓器が多く,剖検例の消化管転移性腫瘍は腹腔内諸臓器悪性腫瘍の末期像として近隣臓器からの直接浸潤や播種性転移によるものが多くを占めると考えられた.一方,自験例50症例(54病変)の検討では,転移部位は食道2例,胃4例,小腸19例,虫垂4例,結腸21例,直腸4例であった.原発臓器は胃 14例,結腸14例で最も多く,腹部臓器以外では肺7例,乳腺1例であった.転移浸潤形式により分類すると,播種性転移22例,直接浸潤17例,壁内転移8例,遠隔転移7例であった.近隣臓器からの直接浸潤や播種性転移によるものは固有筋層以深に病巣の主座を置き,漿膜下組織層や粘膜下層において線維性間質の増生(desmoplastic reaction)を伴う症例が多くみられた.一方,粘膜や粘膜下層を中心に癌細胞が髄様密に増殖し線維性間質の増生が乏しい症例は,血行性・リンパ行性による壁内転移や遠隔転移例に多くみられ,なかでも,主に粘膜固有層において浸潤増殖する発育形態は遠隔転移例においてのみ認めた.消化管転移性腫瘍の臨床病理学的な特徴の把握は,消化管転移巣あるいはその原発巣の早期発見や的確な治療法の選択に必要であろうと考えられた.

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要旨 胃転移性腫瘍の形態的特徴についてX線像を呈示して述べた.胃の転移性腫瘍の多くは脈管を経由する血行性転移で,原発巣としては肺癌,食道癌,乳癌などあり,隣接臓器からの直接胃壁への浸潤はまれである.血行性転移の形態は基本的に粘膜下腫瘍の形態であり,頂部が潰瘍化して中心陥凹を形成しやすい.腫瘍径に比較して大きくて深いのが特徴で bull's eye sign(牛眼像),target sign と称される.また,腫瘍がまだ小さい例でもすでに明らかな潰瘍形成を来すたこいぼびらん様の小隆起として観察され,病変が多発すれば診断が容易である.乳癌の転移では胃壁が硬化し,粘膜ひだが肥厚する linitis plastica 様所見を呈することもある.転移性胃腫瘍は比較的小さい時期には無症状なため,臨床で胃転移が診断されることは少なく,ほとんどは剖検で発見されてきたが,今後は検査においてこれらの所見を十分認識する必要があると考えられた.

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要旨 内視鏡検査を施行するうえで転移性胃腫瘍の内視鏡像を熟知していなければ時に治療方針を誤り患者に不利益を被らせてしまうおそれがある.今回,当センターで1968~2002年の34年間に経験した転移性胃腫瘍 88症例の内視鏡像を中心にその特徴について検討した.転移性胃腫瘍の原発巣としては,悪性黒色腫,肺癌,乳癌,食道癌が多かった.また転移性胃腫瘍の内視鏡像は粘膜下腫瘍様の形態を呈することが多いが,原発巣別に検討してみると悪性黒色腫では多発する小黒色斑,乳癌では多発するびらん様所見あるいは 4 型進行胃癌様所見にも注意をはらう必要がある.

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要旨 十二指腸転移性腫瘍63例の画像所見を検討した.原発部位は,近接臓器である膵,結腸,胆道,胃を多く認めた.遠隔臓器は,子宮,卵巣,肺など,8例と少数であった.膵頭部癌からの転移は,十二指腸下行部内側からの圧排所見が特徴的であり,膵尾部癌からの転移では,狭窄や潰瘍を認めた.結腸癌の直接浸潤では下行部狭窄が主体であり,再発例では,リンパ行性転移による水平部や上行部の変化も認めた.胃からの転移では,転移経路が種々なため多彩な所見を認めた.胆道からの転移では,球部・下行部に外側からの圧排,狭窄を認めた.腹部外からの転移では,bull's eye 病変を認めた.

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要旨 転移性小腸腫瘍27例について検討した.男性23例,女性4例と男性に多く,年齢は26~72歳,平均年齢は57.2歳であった.原発臓器では,肺癌,悪性黒色腫が多くみられ,原発巣の発見から転移巣発見までの期間は1~74か月(平均13.9か月)であった.転移に伴う症状では下血が最も多く,閉塞(イレウスと腸重積を含む),穿孔と続いた.腫瘍の最大径と症状の間に相関がみられ,小さいうちから閉塞症状を呈して見つかる群と,大きくなっても閉塞を来さず,下血によって初めて見つかる群がみられた.両者の間には病理組織学的にも相違が認められ,閉塞群では強い間質反応または重積の痕跡が認められ,出血群では両者ともに弱い傾向がみられた.形態は,隆起型が約25.9%,潰瘍型が74.1% で,潰瘍型の中では,非狭窄型が全体の約40%と多くみられた.小腸転移が発見された時点で52%に他臓器にも転移を認めており,予後は50%生存期間が3か月と不良であったが,2年以上生存した症例も25%あり,治療法の進歩に伴い小腸転移があっても長期の予後が期待できるようになると考えられた.

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要旨 転移性大腸癌178例を対象として,そのX線形態を中心に転移性大腸癌の形態学的特徴について検討した.原発巣は胃癌が126例と全体の2/3を占めていた.X線形態は従来の報告同様に収束型を呈するものが圧倒的に多数(74.4%)を占めたが,特殊例としてIIc様(胃原発1例),牛眼様(肺原発1例),巨大腫瘤様(腎原発1例)所見を呈する例もみられた.X線像のみからは原発巣を推定するのは困難なものが多かったが,病変数や転移部位などを加味すればある程度可能であり,他の疾患も含めた鑑別点について概説した.また,X線経過例からみると,浸潤が進行するに従い狭窄も高度となり,粘膜面には敷石状所見が出現してきていた.一方,内視鏡では表面に発赤,びらん,潰瘍を伴うものは生検にて転移の診断もある程度可能であった.ただし,X線にて軽度の収束像のみを呈する病変は内視鏡では病変の存在を指摘することも困難な場合が少なからず認められ,転移性大腸癌の診断のための大腸検査法としてはX 線検査を第一に選択すべきと考えられた.

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要旨 患者は55歳.男性.他院人間ドックの胃X線検査で穹窿部大彎に40mm大の粘膜下腫瘍様病変が発見された.前年の検診では指摘されておらず,急速に増大した GIST が疑われ,精査目的で当センターを紹介された.精査の結果,穹窿部の粘膜下腫瘍様病変とは別に食道胃接合部の胃側に約3/5周に拡がる 0-IIa+IIc 型病変が認められ,生検では乳頭腺癌を認めた.胃全摘標本の病理組織学的検査では,食道胃接合部の病変は高分化型管状腺癌主体のSM2の早期癌で,粘膜内深部に3mm大の内分泌細胞癌が共存し,脈管侵襲を認めた.粘膜下腫瘍様病変は左噴門リンパ節が塊状に癒合した内分泌細胞癌から構成され,術前診断では2病変の関連性は確定できなかったが,食道胃接合部の胃癌からの転移と考えられた.本症例は原発巣の中の微小な内分泌細胞癌成分が,その強い転移傾向により転移巣が急速に発育した結果,原発巣より先に発見されることになった興味深い症例である.

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要旨 患者は69歳,男性.1993年,腎細胞癌で右腎摘出術を施行した.術後インターフェロン療法を受けたが,1998年,1999年,2000年の三度にわたり肺転移のため部分切除を施行した.2001年5月胸焼けが出現し,胃 X 線検査,胃内視鏡検査にて15mm大の粘膜下腫瘍様病変を認めた.内視鏡的切除術を施行したところ,回収標本の病理所見と腎癌の原発巣,肺転移巣の病理所見より,腎細胞癌の胃転移と診断した.

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要旨 前立腺原発移行上皮癌の十二指腸および肺への転移症例を経験した.本症例で認められた転移性十二指腸腫瘍は,潰瘍を伴う隆起性病変として描出され,一部には粘膜下腫瘍様の所見も認められたが,隆起の表面は結節状で,大部分が発赤調を呈しており,上皮性腫瘍様の所見であった.文献的には転移性消化管腫瘍は,基本的には粘膜下腫瘍として描出されると報告されている.しかしながら,癌細胞の発育形態によっては,本症例のごとく,原発性癌との鑑別が困難な転移性腫瘍も存在するものと考えられた.

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要旨 症例は73歳,男性.他疾患で前医入院時に総胆管腫瘍を疑われ入院となった.諸検査にて胆管癌と診断,リンパ節転移,他臓器遠隔転移も認めた.上部消化管内視鏡検査では十二指腸球部および下行脚に,立ち上がりなだらかで表面に散布性白点と発赤を伴う扁平隆起性病変を多数認めた.同部位の生検で,粘膜固有層および粘膜表層のリンパ管に低分化型腺癌細胞が充満し著明に拡張していたことから,内視鏡で認めた散布性白点を伴う隆起は癌のリンパ管侵襲によるものと考えられた.悪性腫瘍の転移形態として,このようなリンパ管拡張症様所見を呈しうることが示唆され,積極的に生検することが必要であると考えられた.

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要旨 11年前に胃癌に対して胃全摘術を行った75歳の男性が,大腸内視鏡検査で横行結腸の全周性狭窄を指摘された.生検では低分化腺癌と診断した.注腸造影検査にて横行結腸の脾彎曲部寄りに境界不明瞭な全周性狭窄と収束像を認めた.手術時,横行結腸癌は,腹壁および肝の一部へ浸潤していたため,合併切除を行った.また,小腸間膜に白色調の小結節を認め,術中迅速病理診断で胃癌の腹膜播種と診断した.横行結腸切除標本の組織学的所見は,低分化腺癌が粘膜表面から漿膜まで diffuse に浸潤し,linitis plastica 型(硬癌)と診断した.粘液染色では粘膜固有層を中心に PAS 陽性の印環細胞癌が混在しており,胃癌と同様の所見であった.

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要旨 胃癌切除後約8年を経過して大腸に多発性転移を来した68歳女性の症例を経験した.注腸 X 線および大腸内視鏡検査で全大腸および回腸終末部に径5~20mmで IIa 型ないし IIc 型の表面型病変が約40個観察された.10個の病変を内視鏡的に摘除したところ,すべての病変が印環細胞癌であり,粘膜下に微少浸潤を認めた1病変を除き粘膜固有層に限局していた.以前の胃癌は胃体部のIIc様印環細胞癌で深達度はmpであり胃全摘術と脾臓摘出術が行われており,1個のリンパ節転移がみられていた.胃癌と大腸病変での粘液形質を免疫染色で検討したところいずれも胃型の形質を示したため,大腸病変は胃癌の転移と考えられた.胸腹部のCTで転移巣やリンパ節腫大は描出されなかったが,骨髄生検で印環細胞癌が証明されたことから,転移経路は血行性であると考えられた.

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 〔患者〕 45歳,女性.2002年6月の胃集団検診(職域 : 車間接)にて胃前庭部前壁の粘膜異常を指摘され,同年8月久留米大学消化器病センター受診.上部消化管内視鏡検査にて同部位に異常が認められ,内視鏡的胃粘膜切除(EMR)目的に入院となる.

 〔間接胃X線所見〕 近年,日本消化器集団検診学会で推奨されている新・撮影法1)2)によって撮影された間接胃X線写真である.腹臥位前壁二重造影像(Fig.1a)で,胃前庭部前壁に小さな陰影斑が描出されている.陰影斑は不整形で一部棘状変化が認められ,中央に小顆粒および小規模な辺縁隆起を伴っている(Fig.1b).撮影技師がこの前壁撮影時にわずかな辺縁隆起に気付き,病変の存在を強調するバリウムを薄めに流した追加撮影を行っている(Fig.1c).

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 〔患者〕 49歳,女性.1987年(35歳時)より鉄欠乏性貧血の治療中であった.2001年3月30日,突然の下血を認め,当院救命センター受診した.眼瞼結膜に貧血を認めたが,腹部の理学的所見は異常なし.検査成績ではHb9.0g/dlの他,異常は認めなかった.上部および下部内視鏡検査では異常なかったが,経口小腸 X 線検査で上部空腸に隆起性病変が疑われ,精査目的にて当科へ転科した.

 〔ゾンデ法小腸X線所見〕 Traitz靱帯より約25cmの空腸に,立ち上がりが比較的急峻な隆起性病変を認めた(Fig.1a).2×1.8cmの粘膜下腫瘍で表面は平滑,ふたこぶ状であった(Fig.1b).

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欧文目次

編集後記 浜田 勉
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 従来,転移性消化管腫瘍については症例報告として散発的にみられていたが,本号では膨大な病理集計に引き続き,胃,十二指腸,小腸,大腸の順で画像中心にまとめ,消化管臨床医にとって日常診療に役立つ企画となった.特に,小腸の X 線像は力作でその熱意に拍手を送りたい.

 原発巣が進行した状態で消化管への転移巣が増大した場合,その形態は典型的となり,それぞれの主題論文中に呈示してあるとおり診断は容易である.しかし,同時性でも異時性でも転移巣が軽度の場合,松永ら(大腸)や𠮷村ら(十二指腸)の主題症例のようにとても特徴的とは言えず,形態診断が困難である.“転移ですか,これが"と早期胃癌研究会でもしばしば振り回される.検査の技術が進む昨今,このような形態がみられることを十分認識すれば今後同様の症例が集積されよう.そして,非上皮性腫瘍の変化だけでは足りず上皮性要素を加えた新しい形態的な特徴がまとめられるものと予想される.

基本情報

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胃と腸
38巻13号 (2003年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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