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は じ め に
年頭にあたり,変貌しつつある内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)の手法について取り上げた.EMRは早期胃癌に対する標準治療の1つとして確固たる位置を占めるに至っている.特に最近は,従来の牽引・吸引法とは異なった手技である,一括切除を目的とした粘膜切開・剥離法が登場し注目を集めており,急速に広まりつつある状況である.歴史を語るには筆者では力不足と自覚しているが,EMRが登場してからすでに20年あまり経過しており,これまでの業績を振り返りつつ,切開・剥離法について述べたい.
Table 1に挙げたように1),早期胃癌の内視鏡治療としては,まずポリペクトミーの手法が開発され,レーザー治療の開発が続いた.現在のEMRの原点となったのは多田らが発表したstrip biopsy法2)であり,わが国では他にEMRC法などの透明キャップを用いた方法を含め,いわゆる牽引・吸引法が広く行われてきた.
平尾らは1983年に針状ナイフを用いて粘膜を切開するERHSE法を発表し,粘膜を切開する方法としてはこの方法を嚆矢とする3).その後,EMRに際して一括切除の重要性が主張されるようになり,1990年代後半より,細川・小野らによりITナイフ(insulation-tipped electrosurgical knife)を用いて,粘膜を切開した後,さらに粘膜下層を剥離するEMR-切開・剥離法が提唱された4)5).大きな病変や,潰瘍瘢痕を有する病変に対しても一括切除が可能であり,その後も種々のデバイスの開発が続いている.
一方,早期胃癌に対するEMRの適応は,2001年に日本胃癌学会から発表された「胃癌治療ガイドライン」では,2cm以下の,潰瘍のない,分化型M癌となっており,①リンパ節転移がほとんどない癌であることと,②一括切除可能な大きさ,部位にあること,という2つの原則が記載されている.①のリンパ節転移については,EMRは局所治療であり,当然リンパ節転移のある胃癌は適応とならず,ガイドラインの条件を満たした場合,リンパ節転移の危険性は非常に少ない.一方,②の一括切除が原則である,という項目が明記されたことは,これまであいまいであった一括・分割切除に対する方向性を示した点で意義は大きい.分割切除では断端の判定が困難なものが多く,遺残・再発の頻度が高い.また,多分割切除の場合,再構築が難しく病理組織診断がしばしば困難になる.“適応”とは術前に判断されるものであり,最終的に切除標本にて病理組織学的な診断がなされた後に,術前の適応の正誤が判定されることになる.さまざまな診断機器を駆使してもその正診率は90%前後であり,適応病変と考えてEMRを施行しても結果的に適応外病変であるものが1割近く含まれることになる.術前診断が完全なものでない以上,正確な病理組織診断を施行可能な標本を得る必要があり,切開・剥離法が有用となる.しかし,従来法に比してこの方法が優位と考えられている対象は,実はガイドラインをはずれる,より大きな,もしくは潰瘍瘢痕を有した病変である.ガイドラインはあくまで標準の適応を示したものであり,EMRの利点を鑑みると,リンパ節転移のリスクの低い対象群に対して今後必然的にその適応は拡大していくと思われる.ただし,リンパ節転移のデータはあくまでretrospectiveな検討であり,拡大適応を用いて,intent to treatで行った場合に問題ないかどうかは不明である.したがって,ガイドラインでも臨床研究として行うと記載されているが,安易に“臨床研究”を拡大解釈すべきではない.
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