胃と腸 38巻8号 (2003年7月)

今月の主題 経過観察からみた大腸癌の発育・進展sm癌を中心に

序説

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大腸腫瘍の謎

 大腸腫瘍の発育進展の“謎”を解明せずして大腸の真の診断と治療はありえない.ただ見つかるものを診断するだけではなく何を見つけなければならないか,さらに見つかった病変のどこを見なければならないのか,形態で注目すべきポイントを認識しているかどうか.

 1997年に狩谷ら1)が大腸IIc型早期癌を発見して以来,IIc型早期癌を含め多くの表面型癌2)3)が発見されてきた.大腸癌はポリープ,腺腫から発生するという polyp-cancer sequence,adenoma-carcinoma sequence は世界の common sense である.それに対し本邦においては表面型早期癌,特にIIc 型に代表される陥凹型早期癌(IIc,IIc+IIa,IIa+IIc)や NPG(non-polypoid growth)癌が注目され de novo 発生4)も同等に支持されてきた.そして本誌「胃と腸」では「表面型大腸癌の発育と経過」(30巻第2号,1995年),「大腸腫瘍の自然史」(31巻第13号,1996年)と経過例を取り上げている.

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 大腸癌の発育を画像で追跡した報告例を収集し,X線画像と内視鏡画像の遡及的報告例に分けて解析した.X線画像報告例は多数例を取り扱った5報告187例,内視鏡画像報告例は35症例(自験8例を含む)を取り上げた.X 線画像報告例によるとその初期病変は,隆起型(Ip,Isp,Is)が多く,全体の 56.9 %(103/181)を占め表面陥凹型は11.6%に過ぎなかった.また,特定の速い発育を示す群を指摘できなかった.ただし,癌が早期癌にとどまる間はその発育は遅く,進行癌に至ると発育は加速された.免疫組織学的指標(p53染色指標とKi-67染色指標)は発育速度とは相関しないとされている.一方,内視鏡画像報告例は,初期病変に生検結果が加わることが特徴で,より詳細な分析が可能となる.いまだ症例数が少ない点が問題である.集計例の解析からその初期病変を推定すると,隆起型が多く(60.0%)表面陥凹型は少なく(14.3%),X線画像報告例と全く同様な傾向が得られた.以上から,大腸癌の初期像は隆起型が多く,表面陥凹型は20% 以下と推定された.極めて速い発育例は特定されなかった.臨床的には,平坦な隆起型を含め進行の速い粘膜下浸潤例を見逃さないことが重要と考えられた.

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 これまでの病理形態面からみた大腸癌発育進展経路の考え方には,① 粘膜内癌のすべてが進行癌の前段階とは限らない,② 肉眼型の判定基準が研究者によって異なる,③ sm癌の肉眼型変化様式の推定に組織学的裏付けが乏しい,という問題点がある.こうした問題点を補完し,これまでに提唱された発育進展経路の妥当性を検証するには,粘膜内部が残存する sm 以深浸潤癌の組織学的検索が必要である.自験例粘膜内部残存 sm 癌 245 例の検討では,大腸癌発育進展経路は,① 主に20mm 以上の I 型粘膜内癌を起点とするものが 45 %,② 主に10mm台のIIa型粘膜内癌を起点とするものが26%,③ 主に10mm台のIIc型・IIc+IIa型粘膜内癌を起点とするものが13%,④ 20~30mm 以上の結節集簇様病変を起点とするものが16%であり,② IIa型,③ IIc型・IIc+IIa型粘膜内癌を起点とする癌の一部は,sm浸潤量の増加に伴いその肉眼形態をそれぞれ Is 型やIIa 型・IIa+IIc 型・Is 型に変化させると推定される.

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 大腸癌の発育・進展に伴う形態変化の検討は,進展した病変の病理組織所見から初期像を推測する方法や注腸X線像を遡及的に見直す方法で行われてきた.しかし,内視鏡的に経過を追えた症例を対象として,その形態変化を検討したものは症例報告を散見する程度で,多数例を検討した報告はほとんどない.そこで,今回は内視鏡検査による遡及的検討をできるだけ多くの症例で行う目的で28施設(Table 1)に症例の提供をお願いした.

 集まった症例は46症例46病変で,うち,初回に内視鏡検査の施行してあるものは41病変であり,さらに,初回検査時に生検を施行してある病変が25存在した.臨床および病理の診断に客観性を持たせるために,臨床のコメンテーター6人に経過観察中各々の肉眼形態,推定発育形式(PG or NPG),推定深達度の診断を行ってもらい,病理のコメンテーター5人に切除標本のマクロ写真,プレパラートを見てもらい肉眼形態,発育形式,質,深達度診断を,生検施行病変については質診断のみならず生検組織から得られる他の情報も付記していただいた.

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対象

 1. 対象病変の選択

 集められた「経過観察された大腸癌症例」は46病変であったが,今回の検討では初回検査に内視鏡を施行した41病変を対象とした.

 2. 対象病変の発生部位(Fig.1)

 41病変の分布は直腸12病変(29.3%),S状結腸11病変(26.8%),下行結腸5病変(12.2%),横行結腸7病変(17.1%),上行結腸2病変(4.9%),盲腸4病変(9.8%)であった.

 3. 対象病変の経過観察期間

 41病変の観察期間は最短 0.8か月,最長102.0か月,平均29.4か月であった.

 また,41病変中初回内視鏡検査時に生検が施行されていた病変は 25 病変で,その経過観察期間は最短 2.0か月,最長 102.0か月,平均 32.9か月であった.

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 八尾(恒) それでは座談会を始めたいと思います.大腸癌の発育・進展過程はまだよくわかっていない.牛尾先生や私のところの松井助教授が,X線画像の推移に基づいた立派な論文を書いていますが,内視鏡的な経過観察例にはX線のそれと異なった変化をとらえているものがあります.本号では,いろいろな先生方の既発表例を含めてとにかくなるべくたくさんの症例を見せていただいて,大腸癌の発育進展をもう一度考え直そうという意図で企画されました.結果的には46例が集まり「胃と腸」の編集委員の先生方,特に病理の先生方にはすごい時間を費やしていただいて検討していただきました.また,鶴田先生にはすごいエネルギーで集計していただきました.この座談会では集計成績にこだわらず,大腸癌の発育進展にどんな要因が働いているのか,また,集められた症例から,臨床の先生はどういうことに注意して診療すればよいのか,症例を中心に議論していただきたいと思います.最も苦労された鶴田先生からお願いします.

 鶴田 八尾先生が言われたように46病変集まったのですが,今回は初回に内視鏡検査を施行された41病変に限って検討させていただきました.対象病変の初回検査時肉眼型ですけれども,41病変中27病変(66%)がI型で,IIa型が12病変(29%),IIc型が2病変(5%)で,初回に M-SM1と診断した30病変に限りますと,I型が18病変(60%),IIa型が10病変(33%),IIc 型が2病変(7%)でした.PG(polypoid growth),NPG(non-polypoid growth)の臨床的定義を診断していただいた先生に一任した場合の初回検査時発育形式は全体41病変中 PG が35病変(85%),NPG が6病変(15%)でした.初回に M-SM1と診断した30病変に限りますと,PG は28病変(93%),NPG が2病変(7%)でした.以上のように,今回検討した“経過を追えた症例” の多くは初回検査時I型またはIIa型のPG病変であり,M-SM1と考えられる30病変に限ると IIc型,NPGと考えられるのは2病変のみしか存在しませんでした.

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 表面型大腸腫瘍の発育進展を遺伝子レベルで明らかにするため,腫瘍病変部からマイクロディセクションを行い,loss of heterozygosity(LOH)を検索した.de novo で多数の LOH が均一に発生する症例が存在する可能性が示された.また,粘膜内で腫瘍クローンが拡がる過程で LOH が順次あるいは枝分かれしつつ蓄積進展し,浸潤癌に至る経路も明らかにした.17p LOH は早期に起きる症例が多く,また p53免疫染色と多くは一致していた.隆起型腫瘍とは異なり,腫瘍発生早期から p53異常が関与することを示唆している.3p LOH は homogeneous LOH が32%と,ある症例では腫瘍発生早期から関与する傾向があった.genome wide の LOH 検索,特定の癌抑制遺伝子異常,およびその獲得時期を発育進展経路や組織異型度と対比して解析することにより,従来の隆起型腫瘍での adenoma-carcinoma sequence とは異なる genetic pathway が次第に明らかにされよう.

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 〔患者〕52歳,男性.2000年7月に検診を受け,便潜血反応陽性を指摘されたために当院を受診した.自覚症状は認めず,現症,血液検査所見に特記すべき事項はなかった.

 〔注腸X線所見〕S状結腸の頂部から口側に約8cmにわたり,ほぼ全周に及ぶ伸展不良と片側性に強く辺縁の不整を認める(Fig.1a).病巣の中心には,比較的立ち上がりの明瞭な2,3 cmの半球状の隆起が認められ(Fig.1b),この部位は圧迫像においても,硬く形態の変化が乏しかった.この隆起の表面には軽度の凹凸が認められるが,明らかな陥凹性変化は指摘できなかった.また,中心の半球状の隆起に続いて,長軸方向に粘膜表面は平滑な,いも虫様隆起を認めた(Fig.1c).主病巣の口側には,腺腫と思われる約5mm大の透亮像を認めた.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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はじめに

 上部消化管X線検査におけるルーチン検査は単に異常を指摘するだけではなく,質的診断までも可能な検査であることが望ましい.しかし,主とした目的がスクリーニングとして行われるルーチン検査ではフィルム枚数や検査時間などの制約があるため,病変の全貌をとらえることができない場合もあるが,少なくとも病変を見逃さないことが求められる.上部消化管X線検査は二重造影法,圧迫法,充盈法,前壁薄層法あるいは前壁レリーフ法が用いられるが,これらの利点・欠点を熟知した上で行う必要がある.

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 患者は71歳,男性.肛門部痛,肛門出血の精査目的に下部消化管 X 線検査および内視鏡検査が施行され,Ra~Rb に径5~10mmの立ち上がりはなだらかで表面平滑,半球状,辺縁整で類円形のIIa型隆起性病変の多発を認めた.表面は正常粘膜で覆われ,黄色調で頂部に微細な血管像を認めた.生検により多発直腸カルチノイドと診断し腹会陰式直腸切断術を施行.病理組織学的所見では31病巣を認め,いずれも粘膜下に存在した.深達度は最深のものでsm2であり傍直腸リンパ節に転移を認めた.直腸カルチノイドの多発例は極めてまれであり,本邦での報告例は27例のみである.多発例ではリンパ節転移率が高く,治療においては注意が必要である.

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 患者は64歳,男性.近医の上部消化管内視鏡検査にて,胃癌とともに十二指腸主乳頭のやや肛門側に,径約2cmの粘膜下腫瘍(SMT)様病変が発見された.表面陥凹部には腫瘍が露出し,同部からの生検は管状腺腫であった.手術は胃切除術に加えて,十二指腸切開下に粘膜部分切除術を施行した.十二指腸腫瘍の組織診断は,一部に高度の異型を示す管状腺腫で,腫瘍深部に胃上皮様部分がみられた.また,粘液染色にて胃型粘液の45M1・MUC-1が陽性であった.胃型上皮由来の腺腫/癌の報告は,過去に7例あり,本例を含めて8例中5例が山田 III 型(うち2例がSMT様)で,3例に中心陥凹がみられた.中心陥凹を有し,同部に腫瘍が露出する SMT 様の形態は,十二指腸の胃型腫瘍に特徴的である可能性がある.

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 症例は69歳,男性.下血を主訴に入院.大腸検査にて右半結腸に多発潰瘍を認め,経腸栄養療法を施行するも改善乏しく,当科転院となる.大腸検査所見では,病変は主として盲腸と上行結腸にみられた.すなわち Bauhin 弁の開大,萎縮瘢痕帯,3条の縦走傾向の潰瘍と fissuring ulcer を認めた.横行結腸にも skip して縦走潰瘍がみられた.栄養療法を施行するも病変の改善を認めなかったため,右半結腸切除術を施行した.摘出標本の病理組織学像では,回盲部から上行結腸にかけての潰瘍,全層性炎症,裂孔,比較的大型の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫がみられ,動静脈に血管炎を伴っていた.術後再発は9年間認めていない.本症例は,縦走潰瘍を認め,結核の確診はできなかったものの,臨床上,また病理組織学的に,腸結核が強く疑われる症例と考えられる.

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欧文目次

編集後記 下田 忠和
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 本号では,多くの大腸癌経過観察例の初期病変から浸潤癌にいたる経路が臨床ならびに病理面からかなり解析されている.今まで早期から進行癌までの大腸癌の発育・進展経路はほとんど解明されておらず,数少ない報告では隆起型早期癌から進行癌へ,さらに最近では表面型大腸癌(特に陥凹型)から進行癌への経路が,種々の解析から推測されてきた.今回の経過観察例の解析では隆起型,表面隆起型の m ないしは sm1 癌から sm 浸潤が深くなるにつれ大きくその肉眼形態を変化させた症例が多く,表面平坦あるいは陥凹型から sm 浸潤癌あるいは進行癌に発育した症例は極めて少なかった.また病理学的には腺腫由来の大腸浸潤癌も認められたが,これら症例の大きな特徴は粘膜内に高異型度癌を有していることである.すなわち粘膜内病変の大きさに関係なく高異型度癌は早くに浸潤すると予測される.そのことは遺伝子解析の面からも指摘され(藤井論文),粘膜内の高異型度高分化腺癌をより早くに発見することが大事である.pit pattern も含めて粘膜内ならびにsmに初期浸潤した高異型度高分化腺癌の内視鏡的特徴像の解析が望まれる.症例呈示と座談会を合わせることで,現時点での大腸癌の発育進展の一面が示されたことは今後の糧として大変貴重なことである.

基本情報

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胃と腸
38巻8号 (2003年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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