胃と腸 38巻7号 (2003年6月)

今月の主題 消化管の炎症性疾患診断におけるX線検査の有用性

序説

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はじめに

 通常の炎症性病変のほとんどは,粘膜上皮から生じるため,炎症の場も粘膜を主体としている.ゆえに粘膜面を描き出す造影X線検査と内視鏡検査は,診断するうえで必須である.両者は車の両輪のごとく,互いに補完的な関係にある.また炎症性疾患には腫瘍性疾患に比し,組織学的に pathognomonic な所見は乏しい傾向があるため,画像診断の役割は大きい.良好なX線画像が得られ,詳細な所見の拾い上げや読影がなされれば,X線検査のみで疾患の診断は可能である場合も多い.そこで本号は,消化管の炎症性疾患におけるX線検査の必要性,有用性,役割について比較診断学の立場から明らかにし,その重要性を再認識していただくために企画された.以下,これまで本誌で明らかにされた歴史をふまえ,消化管の炎症性病変の造影X線診断に対する考え方を述べる.

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 上部消化管の炎症性疾患の診断においてもX線検査は内視鏡検査に比較して簡便で,侵襲が低く,小腸や大腸における炎症性腸疾患の診断と同様有用である.逆流性食道炎,食道潰瘍,食道裂孔ヘルニア,胃サルコイドーシス,アミロイドーシスなどでは概観撮影として臓器における病変の形態,配列の他,狭窄の程度等の診断が可能であり,X線検査の併用が有用な疾患は多く存在する.また,X線検査では粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜下層,漿膜と層ごとの診断が可能なことから,急性胃粘膜病変などでも病態診断に有用である.さらに,粘膜面に異常を認めず,機能的異常を有するアカラシアやびまん性食道痙攣においては内視鏡検査に比較してその診断に有用であると考えられる.

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 胃食道接合部にみられる非腫瘍性病変に対するX線造影検査の診断能を検討することを目的として,8症例について精密X線検査を行った.結果,逆流性食道炎のびらん性変化(粘膜障害)は粘膜ひだの肥厚を伴う陥凹として描出された.色調変化型食道炎(LA分類 grade M)では不鮮明な粘膜模様がみられた.SCJ(squamo-columnar junction)は特徴のない扁平上皮粘膜と微細顆粒状の円柱上皮粘膜との境界線として描出された.SCJ の描出には粘液除去と十分な壁伸展が不可欠であった.Barrett上皮はSCJの遠位側にみられる微細な砂を敷き詰めたような模様を呈する食道粘膜として描出された.食道噴門腺のX線診断は困難であるが,上皮下に小腫瘤を形成する場合は描出可能であった.

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 胃・十二指腸の炎症性疾患診断におけるX線検査の有用性について,代表的な胃のびまん性疾患と十二指腸の狭窄性疾患を呈示し,X線と内視鏡検査を比較しながら鑑別診断の要点を述べた.胃のびまん性疾患の鑑別診断では病変の伸展性と粘膜面の性状が重要である.X線検査は全体像を立体的なイメージとして容易に捉えることができ有用であったが,びまん性病変の局所に限局した異常所見の拾い上げは内視鏡がより有用であった.このため,鑑別診断困難な胃のびまん性疾患では,両検査を適宜組み合わせることが重要と思われた.一方,十二指腸の狭窄性疾患では,狭窄の部位・長さ,局所的な変形の程度・型,および腸管外所見などが鑑別診断上重要で,X線が内視鏡より有用なことが多かった.ただし,同一疾患でもそのX線像は炎症の時期や程度により多彩なため,内視鏡も含めた他の画像所見や臨床像も加味して診断を行うことが必要である.

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 小腸の諸X線検査に共通した基本手技は,① 小腸索を分離して描出すること,② 小腸索を低緊張状態にして圧迫,または二重造影法を行うことにある.したがって,体位変換と呼吸運動を利用して圧迫分離すること,遮断剤を適切に用いることが重要な手技となる.本稿では経口法,経管法など諸小腸X線検査法の手技を詳述し,炎症性腸疾患のX線検査では,① 各検査法の利点,弱点を熟知した上で目的に応じた検査法を選択する必要があること,② 瘻孔の存在が予想される場合は,抗生物質を混入した造影剤を投与する必要があることなどを述べた.さらに病態の解明には微細病変の診断を正確に行う必要があり,そのためには Peyer 板の診断の確立が不可欠であることを症例を提示して説明した.

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 X線検査は小腸非腫瘍性疾患の鑑別診断に重要な検査法である.小腸非腫瘍性疾患のX線診断では変形・管腔狭窄,多発結節・顆粒状陰影,皺襞肥厚に着目することが重要で,腫瘍性疾患とは異なり陰影欠損・重積や限局性管腔拡張を認めることは少ない.狭窄は管状狭窄(虚血性小腸炎,放射線腸炎),輪状狭窄(腸結核,NSAIDs 起因性腸炎),片側性変形を伴う狭窄(Crohn 病,子宮内膜症)に大別される.慢性感染性腸炎,アミロイドーシス,腸リンパ管拡張症,腸管嚢胞状気腫症では多発結節・顆粒状陰影がみられ,皺襞腫大はアミロイドーシスと急性炎症性疾患で認められる.一方,小腸悪性リンパ腫は管状狭窄,多発結節・顆粒状陰影,皺襞肥厚のいずれも呈するので,小腸非腫瘍性疾患の鑑別において常に考慮すべき疾患である.以上のX線所見に臨床像を加味すれば小腸非腫瘍性疾患の鑑別は困難ではないと考えられる.

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 潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn病(CD)の大腸病変診断における,注腸X線検査の有用性について検討した.UCの画像診断は,大腸内視鏡検査で行う場合が多い.しかし活動期症例に対して,無処置で充盈法を主体に行う注腸X線検査は,比較的低侵襲で簡便に腸病変の重症度を評価できる.CDに対しては,確定診断に重要な病変の分布や配列,腸病変に伴う変形所見などを客観的に評価できる.またCD の約半数の症例にみられる腸管合併症の診断,特に高度の狭窄や瘻孔の診断には注腸X線検査が不可欠である.なお瘻孔のうち大部分は狭窄部に認められることより,狭窄例では瘻孔への進展を注腸X 線検査で監視する必要がある.また初回検査で腸管合併症を認めなくても,腸管全周に及ぶ高度の敷石像を有する症例では,狭窄や瘻孔に進展する危険性が高いことから,注腸X線検査により経過観察を行う必要がある.

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 炎症性腸疾患は,その病型や病期により病変の肉眼的形態は著しく変化する.そのため,正確な診断には,臨床症状や臨床検査データを詳細に検討把握した上でX線,内視鏡検査に当たらなければならない.今回,大腸の炎症性腸疾患におけるX線検査の有用性,役割,重要性を内視鏡検査と比較し検討した.潰瘍性大腸炎の診断および病勢評価においては,内視鏡検査が極めて有用であったが,X線検査も補助的な検査法として必要であると考えられた.一方,Crohn 病においては,病変の分布,偏側性の変化や狭窄より口側の所見などを捉えるのにX線検査の有用性・重要性は言うまでもない.炎症性腸疾患の診断および重症度決定に際しては,両検査の長所と短所をよく熟知した上で腸管病変への侵襲を最小限に止め,より多くの有用な情報が得られるように両検査の使い分けが望まれる.

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 大腸の炎症性疾患に対してX線検査は罹患部位と病変の経過を客観的に描出できる利点がある.X線検査による炎症性疾患の鑑別診断を典型的な所見でみる割合からみた.炎症性疾患で典型的な所見は約85%にみられる.炎症性疾患では残りの15%が非典型的な所見として描出され,鑑別診断で問題となる.今回,潰瘍性大腸炎の非典型的所見として区域性の病変で腸管の変形と粘膜病変(潰瘍またはポリープ)が目立った.Crohn病では粘膜病変の程度が軽度で腸壁の伸展不良が前面にでた病変では Crohn病の診断が困難であった.炎症性疾患で確定診断できない場合には病変の経過を追うことが診断の手助けとなる.

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 患者は,46歳,女性.左卵巣腫瘍の診断で,当院婦人科で腹式子宮全摘術ならびに両側付属器摘出術を施行,その際,手術中に左側結腸に腫瘤を触知したため,術後,精査目的に当院消化器科を受診した.注腸 X 線で,S状結腸に全周性の伸展不良と腸管長軸方向に直交した多数の線状陰影を認めたが,粘膜面に明らかな陥凹は指摘できなかった.内視鏡は,その狭窄のため,poor study であった.内腔からの盲目的生検では,Group1であった.性,年齢,画像所見からは,腸管子宮内膜症も考えられたが,癌を否定できず,S状結腸切除術を施行,結果,深達度 ss のびまん浸潤型大腸癌であり,卵巣病変は,その転移と診断された.

学会印象記

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 第65回日本消化器内視鏡学会総会は,2003年5月29日(木)から31日(土)の3日間,福岡大学医学部第1外科教授・池田靖洋会長のもと,“原点” と “飛翔” をメインテーマとし,九州は福岡シーホークホテル&リゾート・福岡ドームにおいて開催されました.本総会が単独の学術集会として福岡で開催されるのは35年振りとのことです.

 総会初日の理事長講演には丹羽寛文先生,指定講演に渡辺英伸先生(新潟大学大学院分子・診断病理学),第2日目には寛仁親王殿下の特別講演や池田靖洋先生の会長講演,指定講演に八尾恒良先生(福岡大学筑紫病院消化器科),招待講演として海外からの先生方の貴重なご講演がありました.また,検査法と治療手技の “原点” として,内視鏡治療の偶発症防止といった安全管理の主題(パネルディスカッション)や,1例1例を大切に症例から学ぶという基本的な教育セッションとしてビデオワークショップが設けられ,“飛翔” として,臨床において関心が高く急速に進歩しつつある消化管系癌や肝胆道系疾患の診断・治療に関わる主題(ワークショップ)が選択され,一般演題を併せて1,000題を超える多数の発表がありました.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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はじめに

 ここでは,精密検査としての上部消化管造影における胃液の抜き方,体位変換について当院でのやりかたを簡単にご紹介します.精密検査では,いかに正確に病変を描出するかということでスクリーニング検査にはない苦痛を伴い,やや時間もかかります.しかし,十分な基本的前処置で,良い写真つまり内視鏡や切除標本と対比のできる写真は,その違いがはっきり現れます.

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はじめに

 大腸sm癌の多くはリンパ節転移がなく内視鏡的な局所治療で完治することから内視鏡治療の適応拡大が試みられている.しかし大腸 sm 癌の約10% にリンパ節転移を認めることから,いかなる症例にリンパ節郭清を伴う根治的切除術が必要であるかを判断するかは極めて重要である.しかし,内視鏡治療後追加治療の適応条件が明確にされていないのが現状である.

 大腸癌研究会の大腸sm癌プロジェクト委員会では,リンパ節転移陽性大腸sm癌の特徴を明らかにするために絶対分類を用いたsm浸潤度の判定方法を統一化した上で,sm浸潤度をはじめ,臨床病理学的因子について多施設を対象にアンケート調査を実施中である.このアンケート調査結果は第1報で,677症例の腸管切除大腸sm癌の臨床病理学的因子の特徴とリンパ節転移の関連について本誌で報告した(第37巻第12号,1636-1638,2002).

 しかし手術症例のみの検討では浸潤度が浅い症例が少ないというバイアスがかかっているという恐れもあるため,リンパ節転移陽性大腸sm癌の特徴をさらに明確にする目的でこのたび内視鏡切除後に追加腸切除が行われた大腸 sm 癌の内視鏡切除時の臨床病理学的因子について再度アンケート調査が施行された.ここでは第2報として,今回行われたアンケート調査の集計結果を報告する.

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 消化管の炎症性疾患診断における X 線検査の役割が低くみられつつある中,その有用性について企画した.小腸,大腸の炎症性疾患における X 線検査の有用性については十分呈示・証明されるものと期待はしていたが,食道や胃の炎症性疾患においても X 線検査の併用が有用・必要なことが再認識できたことは筆者にとってもうれしい限りである.特に小林広幸論文では胃びまん性疾患の鑑別診断に X 線検査が不可欠であることが具体的症例の呈示と共に見事に展開されている.また,大腸・小腸の炎症性疾患診断においては予想どおりの有用性が豊富な症例と共に示され,さらに八尾論文では小腸造影における具体的手技について詳細な解説がなされており,本号は消化管炎症性疾患の X 線アトラスとも呼ぶべき内容に仕上がっている.本号で呈示されている写真を目標にして,X 線検査の低侵襲性,簡便性,外観撮影としての有用性を生かして若い先生方にもぜひ,造影検査にトライして頂きたいものである.はじめはうまく撮影できないこともあるとは思うが,くじけずに X 線検査を続けて頂きたい.慣れてくると X 線検査の情報量の多さに気づくとともに,診断能力も格段に向上するであろう.情報量の多い美しい写真が撮影できたときの内視鏡検査を遙かにしのぐ感動を若手医師にもぜひ味わって頂きたい.

基本情報

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胃と腸
38巻7号 (2003年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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