胃と腸 38巻6号 (2003年5月)

今月の主題 消化管腫瘍診断におけるX線検査の有用性

序説

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消化管疾患の診断における X 線検査の位置づけの推移と問題点

 日本の消化管形態診断学の進歩は白壁・市川らの開発した二重造影を中心とした X 線検査の画像所見の解析とともに進んできたと言っても過言ではない1).内視鏡検査の普及に伴って消化管疾患の診断において内視鏡と X 線検査のどちらが優れているかの論議がなされていた時期があった2).その後の内視鏡機器の急速な進歩と内視鏡治療手技の開発により,内視鏡検査が X 線検査に比較してドラマチックに増加した事実を踏まえて,“X 線検査は胃癌や大腸癌の診断に必要か” との議論がなされた3)4).そしてここ数年の消化管疾患の臨床検査・診断は,ほぼ完全に内視鏡を主体として検査体系が組まれるようになっている.そのため X 線検査が軽視され,結果として X 線検査が施行できない,読影できない若い消化器医が増加していることが危惧される.X 線検査が軽視される主な原因として,造影検査を行っても病変の描出が良好にできないことが考えられる.

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 食道表在癌診断における X 線検査の有用性を内視鏡検査との比較で述べた.X 線検査は撮影技術次第で内視鏡検査に劣らない所見の描出能を発揮し,病型診断や深達度診断ではむしろ内視鏡に勝る診断能がある点を強調した.今後,食道表在癌に対する内視鏡治療はますます盛んになるものと予想されるが,適応症例と非適応症例の鑑別に際して X 線診断は有用な役割を果たしうるものと考える.

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 治療の立場からみた食道造影検査の有用性は,まず,深達度診断と,次に食道全体をイメージに入れ,病巣の占居部位を評価しての治療法の決定にある.食道癌では進行度や占居部位により選択すべき治療法は大きく異なる.また,進行癌症例では,がん性狭窄の程度や深い潰瘍を有する症例での瘻孔形成の診断に欠かせない検査である.ステント挿入の際にも造影所見を評価しステント長や挿入位置の決定がなされる.今日,術前治療や高度進行症例では化学療法や化学放射線療法が適応されることも多く治療効果判定にも重要な役割を果たしている.食道癌治療における食道造影の有用性が多岐にわたる実例につき症例を呈示して解説した.

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 間接 X 線検査成績からみると,透視下で癌に気づくのは sm 癌からであった.ところが,静止画像があると m2癌,m3癌の症例でも発見される例があった.同様に,直接 X 線検査成績をみると m1癌は全く発見ができなかったが,やはり m2癌と m3癌の症例の中には発見される例もあった.以上から,間接 X 線検査でも直接 X 線検査でも食道の X 線像を撮ることで,粘膜内癌の発見も可能になってくる.このときの X 線像は,充満像では病変の指摘は困難であり二重造影像を撮らなければ診断の役に立たなかった.精密 X 線検査では,病理標本と対比できる X 線像を撮ることが重要である.この両者がうまく対比できることは少ない.このことを解決するために,筆者らはこの両者の間に術後像を挟むことで X 線像を解析している.

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 image intensifier/TV 系を用いたデジタル・ラジオグラフィは,被曝線量軽減・画像処理・連続撮影・リアルタイム画像表示などいろいろな特徴を持っている.その中でもリアルタイム画像表示によって検査中に画像を確認できることは,微細病変の発見や描出に非常に有用である.また,連続撮影によって 1 回の嚥下で容易に,タイミングのあった画像が撮影できるうえ,心拍動の影響を受けない画像が撮れることや食道の伸展性や造影剤の付着が異なった画像が連続的に撮影できることも微細病変の診断に役立つ.しかし,デジタル装置には利点だけでなく欠点もあり,それらを補うような検査を行うことによって,X 線による食道の微細診断に新たな展開がもたらされるものと考えられる.

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 胃腫瘍性疾患の診断における X 線検査の有用性について症例を呈示して内視鏡と比較して述べた.スキルスや悪性リンパ腫などのびまん性腫瘍において病変の範囲や胃壁の伸展性などの概観撮影は診断に極めて有用であった.また,内視鏡の観察が不十分となりやすい噴門部や胃体部後壁では病変の描出により形態的な診断の助けとなった.粘膜下腫瘍における胃壁との位置関係や胃癌における浸潤範囲や深達度の正確な術前診断は外科手術治療時に欠かせないものであった.潰瘍,潰瘍瘢痕やびらん性病変において癌との鑑別診断に X 線像が役立つと考えられた.さらに,治療経過や経過観察における形態変化の客観的な認識に適していると考えられた.

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 胃腫瘍診断における X 線検査の有用性について,具体例を示しながら外科の立場で述べた.内視鏡と X 線検査はそれぞれ利点,欠点があり,両者の質の高い画像を得ることで確実な診断と治療を行いうる.X 線検査の有用性を分類すると,(1)広範囲に広がる病変の水平方向への浸潤範囲の把握ができる,(2)胃壁深部の質的変化から壁深達度の判断が可能,(3)胃全体の像からみた腫瘍の部位,性状の把握と切除方法,切除線の判断に有用,(4)内視鏡検査と相補的に併存病変の見逃しを補える,(5)術後胃の病変の把握,などが挙げられる.過去には胃癌の外科治療として,ほとんどの症例で幽門側切除術と全摘術のどちらかが行われてきたが,今日では EMR から縮小手術,標準手術,拡大手術と多くの選択肢があり,これら術式の決定に,胃全体が眺められ,客観性の高い X 線検査の必要性は増している.

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 胃の広義の GIST(gastrointestinal stromal tumor)の5例を提示し,GIST 診断における,X 線検査法の有用性について述べた.GIST は主として固有筋層に主座を置く非上皮性腫瘍であり,粘膜面は潰瘍形成部を除き正常粘膜で覆われている.したがって,粘膜面の所見は癌との鑑別上必要であるが,主眼は壁内・外への発育形式を推測することにある.GIST の X 線診断は,種々の体位の二重造影像,圧迫像を組み合わせ,病変を正面像,側面像として描出することにより,腫瘍の形態,表面性状,病変の固さ,管腔内・外への発育形式が推測でき,極めて有用と思われた.

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 精密検査の立場から胃 X 線検査法について述べた.高濃度・低粘度造影剤(200~220w/v %)の開発によって二重造影法の造影効果が改善され,精密検査手技も簡易化されつつある.しかし,病変部位や肉眼所見によっては,相変わらず従来の精密検査手技が求められる局面がある.本稿では,二重造影法の手技を中心に細径カテーテルを用いた簡易精密検査法と従来の胃ゾンデを用いた精密検査法について解説した.

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 早期大腸癌131例を対象とし,判定医2名における X 線所見と内視鏡所見の分析を比較した.①X 線所見上,陥凹の有無は91.6%で一致し,陥凹陽性病変では陥凹内部の性状の判定が有意に異なっていたが,陥凹陰性病変では判定が有意に乖離した所見はなかった.内視鏡による陥凹の有無は90.8%で一致したが,陥凹陽性病変では陥凹内の性状の判定が有意に乖離した.②一致所見のうち,m/sm1 と sm2 以深を比較すると,X 線所見では陥凹陽性病変(面状陥凹と側面変形)および陥凹陰性病変(平滑隆起と側面変形)で2項目の陽性率が有意に異なった.一方,内視鏡所見では陥凹陽性病変で2項目(面状陥凹と陥凹無構造)の陽性率に有意差を認めたが,陥凹陰性病変で差を認めたのは表面性状のみであった.以上より,X 線検査と内視鏡検査の解析の客観性はほぼ同様で,隆起型病変の深達度診断には X 線検査が有用と考えられた.

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 最近,大腸内視鏡の進歩と反比例するように,注腸 X 線検査の価値が軽んじられるようになってきた.本稿では,注腸 X 線検査が内視鏡検査より優れている実例を挙げながら,注腸 X 線検査の有用性について述べた.特に注腸 X 線検査が重要になる場合は,(1)直腸における存在部位診断(Rb,Ra,Rs),(2)多発癌,(3)吻合予定腸管における憩室の有無,(4)壁変形の著しい癌,(5)閉塞性大腸炎を併発している癌,(6)横行結腸における存在部位診断,である.注腸 X 線検査は,病変部の客観的部位同定と狭窄部の口側情報の獲得に欠かせない検査であり,現場で治療を行っているわれわれ外科医にとっては,必要不可欠なものである.

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 注腸X線検査に求められているのはルーチン検査の精度管理とその向上である.そのためには標準化は不可欠であるが,ようやくそれが明らかにされ“1cm以上の大腸癌を見逃さない検査を標準とする”と提唱された.良好な前処置法は必須の課題である.標準撮影体位や撮影枚数も明らかにされた.X線検査の有用性は何よりも偶発症が極めてまれであり,画像が客観的であること,部位の同定や腸管外の情報も得られ,画像評価が行える点であろう.今後はさらに1cm以下の大腸癌の描出に努める必要がある.

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 大腸癌の深達度診断の指標となる所見を,主要な文献からまとめると,大きさ,肉眼形態,表面構造の “腫瘍正面像の所見”,側面変形,画然とした硬化像の “腫瘍側面像の所見”,ひだ集中像と周囲の透亮像の “腫瘍周囲の所見”の3所見に大別された.最近は,sm massive 癌を治療前に適確に診断することが求められている.したがって,精密検査において sm massive 癌を診断するための3所見を確実に描出する検査(二重造影法,薄層法,圧迫法)のポイントを解説した.特に,二重造影法では,空気量に変化を加えた正面像と側面像を中心とした多方向からの撮影が必要であることを強調した.

学会印象記

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 第89回日本消化器病学会総会は2003年4月24日(木)から26日(土)の3日間,藤原研司会長(日本消化器病学会理事長,埼玉医科大学第3内科教授)の下で,さいたまスーパーアリーナ,大宮ソニックシティーなど5会場で開催された.藤原会長が掲げられた会の理念は「新しい医療の創造をめざして」であり,市民公開講座は「肝移植をみつめて」,特別企画として柳田邦男氏と藤原会長の司会により「直面する医療の課題を問うあるべき医療の姿を構築するために」が一般公開で行われ,さらに,「ICD 10 消化器疾患の立場から」,「新しい医療技術と生命倫理」の2 題が特別企画のテーマとして医療の各立場から論じられた.総会の主題はシンポジウム10題,パネルディスカッション11題,ワークショップ10題,一般演題の講演発表は470題,ポスター244題であり,1,100余りの演題が討議された.これらの中で,主題演題として発表された消化管に関する演題のうち,いくつかを取り上げて紹介する.

 第1日目の第1会場において菅野健太郎(自治医科大学消化器内科),浅香正博(北海道大学消化器内科)両教授の司会の下,パネルディスカッション「胃潰瘍の診療ガイドライン」が4,000 席収容のさいたまスーパーアリーナ「アリーナホール」で開催されたことは,本パネルに対する会長をはじめとした会員の期待が裏付けられている.このガイドラインは一定の客観的な基準に従って,科学的根拠となる文献情報の収集,分析,評価を行い,日常診療に役立つことを目的とし,Helicobacter pylor(i H. pylori)感染,NSAIDs など成因による治療選択と,治療法をフローチャートとして視覚化したことが特徴である.パネルでは出血性胃潰瘍に対する各種止血手技のエビデンスが論じられる所から始まり,胃潰瘍の初期治療ではプロトンポンプ阻害薬を中心とした胃酸分泌薬の選択,また,H. pylori 除菌療法が潰瘍再発を明らかに抑制すること,治療効果,医療経済的効果からみても有効であることが示された.NSAIDs 起因性潰瘍については原因薬剤の中止を行うこと,できない場合は最も治療効果の高いプロスタグランジン製剤かプロトンポンプ阻害薬を使用することが奨励された.問題点として根拠となる論文が欧米でのものが多いこと,保険診療との適合性,さらに日常診療におけるエビデンスとはなにかなどが挙げられ,熱心に討議された.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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はじめに

 消化管X線画像の良し悪しは,検査のテクニックだけではなく撮影装置や造影剤にも大きく依存している.そこで,フィルムや増感紙などを含めた撮影装置および造影剤について,私見を述べる.いずれの製品についても,メーカー間の優劣を比較することになってしまうが,あえてメーカー名は出さないことにする.また,X線装置については高価なのですぐに最新の装置に更新することは難しいが,最近の装置の動向や問題点について説明するので,新しい装置を導入される際には参考にされたい.

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欧文目次

編集後記 小山 恒男
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 X 線診断学の衰退が叫ばれて久しい.内視鏡はカラーで一見綺麗だ.バイオプシーを採取することもできる.大がかりな装置も不要で,被曝もない.つい,X 線検査がおろそかになる.しかし,本号の力作を見ていただきたい.達人が撮影した X 線写真ほど,雄弁にその有用性を語るものはない.“百聞は一見にしかず"である.

 いきなり,この域に達することは不可能である.しかし,目標は高いほうが挑戦しがいがある.若い読者達が X 線診断の有用性,奥深さを実感し,この域に到達したいと思っていただければ幸いである.

基本情報

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胃と腸
38巻6号 (2003年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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