胃と腸 33巻13号 (1998年12月)

今月の主題 胃癌EMR後の遺残再発―診断と治療

序説

胃癌EMR後の遺残再発 西元寺 克禮
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EMR後の長期経過

 早期胃癌の内視鏡的治療の歴史を振り返ってみると,高周波の導入によるポリペクトミーに始まる.この高周波を用いる治療法は過形成性ポリープの切除に頻用されたが,有茎性あるいは亜有茎性の病変の一部を除いて,早期胃癌の治療の主流とはならなかった.その後,薬物局注法やレーザーを中心とする組織破壊法が行われてきたが,組織学的検討ができず,治療の成否が十分に評価できない欠点があった.今日の内視鏡治療の隆盛を招いたのは,多田らのstrip biopsyの開発であり,広基性隆起性病変のみでなく,平坦型,陥凹型早期胃癌も内視鏡切除の適応となった.その後,手技ならびに機器の進歩とともに,高張Na-epinephrine液局注併用法(endoscopic resection with local injection of hypertonic saline-epinephrine solution;ERHSE),ダブルスネア法(endoscopic double snare polypectomy;EDSP),フード法,ligating diviceを利用する方法(endoscopic mucosal resection with ligating device;EMR-L法),4点固定法,内視鏡的吸引粘膜切除法(endoscopic aspiration mucosectomy;EAM法)など多くの方法が考案され,EMRは爆発的に広まっていった.

 EMRの適応については種々議論されてきたが,大体のコンセンサスが得られている.未分化型腺癌をどう扱うか,分割切除の意義などEMRを行ううえでの問題点は学会や医学雑誌でしばしば取り上げられてきたが,これらの適応や手技上の問題を除くと今日,本療法の評価で重要なのは長期経過である.多田らがstrip biopsyを発表して約15年が過ぎ,EMR後の長期経過を検討できる施設も増加している.日本消化器内視鏡学会においても,再発を見据えた治療法について議論されるようになっており,「消化管癌に対する内視鏡治療の長期予後」(第52回),「早期胃癌EMR後の遺残再発をめぐって」(第53回),「内視鏡的治療における根治とはなにか」(第54回)と相次いでパネルディスカッションが組まれてきた.この時期に「胃癌EMR後の遺残再発」の主題を組むことは意義あることで,本誌特有の詳細な論文が集まることを祈念する.

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要旨 EMR後1年以上経過観察がなされた早期胃癌症例165病変(絶対適応136病変,相対適応29病変)を対象に,遺残再発の実態について検討し,サーベイランスのあり方について考察した,①遺残再発率は絶対適応5.1%(7/136),相対適応13.8%(4/29)であった.②絶対適応病変の一括完全切除例,相対非完全切除例には遺残再発はみられなかった.絶対非完全切除例に遺残再発がみられたが,切除法,非切除法を追加することによりすべて局所治癒した.③遺残再発の診断は治療終了後1年以内になされた.その内視鏡所見は通常内視鏡像では易出血性,色調の変化などであり,コントラスト像では異常発赤顆粒,びらん様小陥凹,色素の“のり”の悪さ,小区の消失などであり,すべて深達度mの所見と推定された.④治療後のサーベイランスは絶対適応の一括完全切除例は3,12か月,以後は年1回,その他の例は日本消化器内視鏡学会内視鏡治療効果判定委員会が定めた規約に準じて1,2,3,6,(9),12か月後,以後は年1回,異時性癌の発生も念頭に置き,可能な限り長期間継続する.

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要旨 1983年以降内視鏡的治療を施行した早期胃癌354症例(399病変)のうち,遺残再発を来した病変は89病変(22.3%)であり,内視鏡的治療適応病変での遺残再発は54病変(54/296:18.2%)に対し,非適応病変での遺残再発は35病変(35/103:34.0%)であった.EMR後に局所生検陰性が3か月以上持続し,その後陽性となる症例を25例(6.3%)に認めたが,その生検陰性期間の平均は約9か月で75%が1年以内に陽性化し,陰性期間が2年を超える症例はなかった.これをもとに患者のコンプライアンスを考慮したEMR後のサーベイランスをシステム化した。また,EMR後の遺残再発の早期発見には色素拡大内視鏡検査が有用であり,これによる的確な遺残再発部位の診断が内視鏡的追加治療による根治を容易にすると考えられる.

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要旨 EMR後1年以上内視鏡的に経過観察がなされた早期胃癌178例193病巣において遺残再発病変の肉眼所見および深達度診断について検討した.①遺残再発病変は21病変(11%)にみられた.②遺残再発は非完全切除病変,非適応病変,多分割切除病変,11mm以上の病変に多かった.③遺残再発病変はEMR後,1年以上経てから起こるものが1/3を占め,これらはtub1または,sigであった.④遺残再発病変の21%は肉眼的に診断困難であり,生検の併用が必要であった.⑤粘膜断端陽性m癌の基本遺残再発形式は粘膜内再発であった.⑥遺残再発病変がsm層に及ぶ場合,診断にEUSが有用である可能性が示唆された.

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要旨 EMR施行245病変について一括切除,分割切除別の成績,遺残に対する治療法とその成績について検討した.EMRの成績は一括切除で68.1%,分割切除では43.0%で,可能な限り一括切除での治療法が好ましいと言える.このためには一括切除を行う手技的な改良が必要である.肉眼的効果判定の正診率は一括切除で77.7%,分割切除で51.7%であり,現状では組織学的判定を加味することが必須であると思われる.遺残に対する追加治療法としてレーザー照射が72.7%を占め,その成績は初回治療で82.1%であった.追加レーザー治療の再発は肉眼型ではⅠ型,Ⅱc型,病変の大きさでは16mm以上のもの,組織型ではsig,深達度別ではsm例に高かった.

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要旨 早期胃癌に対するEMRおよびEMR後の遺残再発癌に対する内視鏡的追加治療の有効性について検討した.対象は1988年から1997年12月までにEMRが施行された早期胃癌170病巣(152例)である.追加治療としては再EMR,レーザー照射,ヒータープローブ,エタノール局所注入を施行し,各症例の切除材料,術後経過を詳細に検討した.その結果,①初回EMRの完全切除率は62.4%(106/170)で,これらには再発を認めなかった.②遺残再発癌52病巣に施行した内視鏡的追加治療の有効率は98.1%(51/52)であった.③内視鏡的治療法のうちでもレーザー照射が局所根治率87.9%,遺残再発率12.1%と追加治療としての有用性が高かった.このようにEMR後の遺残再発癌に対しては内視鏡的追加治療法の有効性が示されたが,原則的には一括完全切除を目標として慎重に適応決定を行い,更に術後の経過観察を確実に,長期間継続することが重要と思われる.

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要旨 外科手術可能な症例ではEMR後の経過観察中に癌遺残が確認された場合,外科治療との接点をどこに置くのかは常に見据えておく必要があり,この観点から,EMR後の遺残再発例に対する外科的治療の適応や成績について検討した.対象は1986年1月から1998年3月までの260例285病変で平均観察期間は38.2か月であった.経過観察中,遺残再発を確認した例は35例35病変(12.3%,35/285)で,再EMRが可能だったものは23例あり,再EMRが不能な12例に対しては外科手術を行った.EMR後1年以内の再発累計が35例中27例(77.1%)に認められ,経過観察を1年間は厳重に行うことが重要と考えられた.外科治療となった要因として,遺残再発部は潰瘍瘢痕上にあるため,部位的にEMRが困難なもの7例,局注しても病変部の挙上が悪く技術的に不能なもの2例,癌遺残を告げると患者自身が手術を希望したもの1例,不十分なinformed consentの面が存在したと考えられるもの2例などがあった.外科手術標本の病理結果は,速やかに手術したものは全例深達度mでありly(-),v(-)かつリンパ節転移も認めなかった.しかし,医師側の外科手術への対応の遅れが原因でsm癌や進行癌に進行したものがあり,informed consentのあり方に問題が残った.

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要旨 患者は64歳,男性.人間ドックの受診を契機にして体下部大彎に隆起性病変が認められ内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行った.病変は術前に生検で腺腫とされたが,切除後には高分化型管状腺癌,深達度mと病理診断された.分割切除のため遺残の判定は困難であった.1.5か月後には切除瘢痕の辺縁に白色の隆起性病変を認め,25か月後,4.5か月後と内視鏡観察するにつれてその病変は増大した.再度手術を勧めたが,拒否されたためEMRを行った.切除5.5か月後のEMR時には初回の病変にほぼ類似する大きさになった.EMRで病変は十分挙上せず遺残したため,レーザー焼灼を追加した.組織像は腺腫であった.その後,3年半経過観察しているが再発は認めない.

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要旨 患者は82歳,男性.便潜血反応陽性と本人の希望もあったため,当院で上部,下部消化管内視鏡検査を施行.胃体下部後壁に約1.5cmのO-Ⅰ型胃癌を指摘された.1995年6月EMR(endoscopic mucosal resection)を施行.深達度はm,断端陽性であった.このため上部消化管内視鏡検査による経過観察を1か月後,2か月後,6か月後,1年後に行った.1年後にはEMR前とほぼ同じ大きさで同じ形態を呈した.再度EMRを施行し深達度m,断端陰性であった.その後再発は認めていない.遺残再発した早期胃癌の形態が興味深く,更に断端陽性であったが,1年後に治癒切除された症例を経験したので報告する.

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要旨 われわれは,体上部小彎のⅡb病変に対し,短期間にEMRを繰り返し,癌の遺残に対する治療を行った症例を経験した.患者は59歳,男性.他医の胃内視鏡検診で体上部小彎の粘膜不整部(小発赤斑)を指摘され,生検で腺癌を認められ当院へ紹介されたが,当院での内視鏡下生検で癌の同定ができず,経過観察とした.その後,体上部小彎の小発赤のⅡb病変に対してEMR-L法で粘膜切除を行った.m癌であったが切除標本の口側断端(+)となり,5日後,追加EMR(EMRC)を施行した.m癌が認められ,再構築上,後壁側の癌遺残の可能性が考えられたため,4日後に再追加EMRを施行,更に,前回までのEMR潰瘍との間のbridgeにエタノール局注し,ヒータープローブで焼灼した.治療後3年5か月経過したが再発はみられていない.本症例から学びえた問題点は,①分化型Ⅱb病変の病巣範囲同定の困難性,②生検診断の困難性と限界,③胃上部など癌存在部位によるEMRの困難性で,これらにつき考察を加えた.

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要旨 患者は67歳,男性.胃角小彎の径2cmのⅡaに内視鏡的切除(EMR)が行われた.切除標本の組織所見はtub2,m,断端(+)で,EMR後の遺残癌に,2年間にわたり追加EMRを4回施行したが,切除が不十分で,EMRによる胃角部狭窄のため,遺残癌のEMRが不能になり,胃切除を施行した.切除標本の組織所見は胃角小彎にEMRのUl-Ⅲの瘢痕があって,その幽門側後壁に10×10mmのtub2が粘膜内にあって,一部smに浸潤していたが,リンパ節転移陰性であった.EMR後の遺残癌に対する治療をEMR深達度,占拠部位から検討した.EMR深達度がm,sm1では,幽門前庭部の遺残癌には追加EMRで根治可能であるが,胃角および胃体部では追加EMRが不的確な場合には,局所切除を考慮すべきであろう.本例もEMR後の遺残癌に早期に局所切除が行われるべきであったと考えられた.

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要旨 患者は59歳,男性.心窩部不快感,嘔気のため胃内視鏡検査を受け,胃角部大彎にⅡc病変を指摘された.分化型Ⅱc,深達度mと診断しstrip biopsyを施行,32×29mmの粘膜が切除された.19×9mmのⅡc+Ⅱa型癌,tub1,m,ly0,v0,切除断端陰性であり,一括完全切除と判定した.切除後3年5か月目に再発し,マイクロ波凝固治療を施行した.再治療後1年9か月まで局所治癒している.切除標本の見直しでは,主病変と離れて存在する微小癌により切除断端陽性となっていた.不完全切除例の5年非再発率は,追加治療なしでは57%,凝固治療追加例で96%であった.遺残再発の原因としてはまれな症例を報告し,合わせて,遺残再発時,および追加治療としての,マイクロ波凝固の有用性について述べた.

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 〔患者〕60歳,男性.1997年10月30日,健診で上部消化管内視鏡検査を施行,十二指腸乳頭部の病変を見い出し,精査および加療目的に入院した.

 〔低緊張性十二指腸造影所見〕腹臥位第1斜位で,乳頭部より下降脚下端に伸展する約4.0×2.5cmの隆起性病変を認めた(Fig.1).辺縁の立ち上がりは急俊であり,口側の表面に粗大な結節状,肛門側に大小不同で微細な顆粒状のバリウム斑が存在していた。空気量を多くし斜位を強くかけると,腫瘍辺縁の鋸歯状の形態が明瞭となった(Fig.2).十二指腸下降脚の壁変形は認められず,また体位変換しても腫瘍陰影の移動はないことから有茎性発育でないことが確認できた.

学会印象記

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 1998年10月28日から3日間にわたり,東京フォーラムで東京慈恵会医科大学外科教授・青木照明会長のもと,第40回日本消化器病学会大会が開催された.

 初日は,皇太子殿下,皇太子妃殿下の御出席を賜り,文部大臣,厚生大臣代理,日本医師会会長,日本医学会会長などに御出席いただいた日本消化器病学会創立100周年記念祝典で始まった.祝典は,皇太子殿下の御言葉を頂くなど,厳粛な雰囲気の中で終了した.その後は,93歳になられた大井実・東京慈恵会医科大学名誉教授の「大井の二重規制説」に関した講演,人と自然との関係のありかたを医学と哲学の両面から話された辻井正理事長の講演と,筆者には大変感銘深い一日であった.

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 第56回日本消化器内視鏡学会総会は岡山大学医学部臨床検査医学の原田英雄教授を会長として,1998年11月19日から21日の3日間,岡山市の岡山シンフォニーホール,岡山市民会館,ホテルグランヴィア岡山,岡山東急ホテルの4会場で開催された.気温が低く寒い毎日であったが,晴天に恵まれ,また,4つの会場に分散していたが14台のシャトルバスが運行し会員の会場移動は比較的スムーズであった.

 本学会総会は教育講演1題,特別講演1題,招待講演4題,指定講演1題シンポジウム4題,VTRシンポジウム2題,パネルディスカッション5題,ワークショップ4題,そして,プレナリーセッション,VTRセッション,一般演題(すべて口演)が行なわれ,更に8つの付置研究会が組み込まれるという,大変盛りだくさんな学会であった.その中で,自分が主に参加した大腸に関する発表に関して,その印象を述べたいと思う.

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〔患 者〕62歳,男性.主訴:貧血,黒色便.

早期胃癌研究会

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 1998年9月の早期胃癌研究会は9月16日(水),東商ホールで,樋渡信夫(東北大学第3内科),今村哲理(札幌厚生病院消化器科)の司会で行われた.ミニレクチャーは石黒(大阪府立成人病センター病理)が「生検から何がわかるか」と題して行った.

 〔第1例〕72歳,女性.直腸MALTリンパ腫(症例提供:福井県済生会病院外科 宗本義則).

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要旨 患者は64歳,女性.主訴は高度貧血,精査により胃体部に粘膜下腫瘍(SMT)を認め,中央部に粘膜欠損を起こした舌状隆起があり,大きさは4×4.5×7.5cmで,組織診断はmalignant fibrous histiocytoma(MFH)〔深達度ssβ,n(-)〕であった.胃原発のMFHは文献上6例にみられ,SMT,隆起性病変,潰瘍性病変を示したが,本例ではinflammatory fibroid polypに特徴的なSMTに舌状隆起を伴う陰茎亀頭様所見が認められた.MFHには腫瘍性出血による貧血例が多く,腫瘍性出血の病理学的形態を本例で検討した.MFHの報告例は予後不良であったが,本例は胃内に限局し良好な予後が期待される.

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要旨 患者は68歳,女性.主訴は発熱.注腸X線検査で盲腸,回盲弁の圧排像がみられたが回腸は造影されなかった.大腸内視鏡検査で回盲弁から口側回腸15cmまで連続した白色の不整な凹凸を有す腫瘍が全周性にみられた.スコープの通過は可能で内視鏡検査に引き続き逆行性回腸造影を施行した.拡張した管腔の中央に隆起を有し,全体として15cmの巨大な腫瘍で,形態から悪性リンパ腫が疑われた.内視鏡下の生検で悪性リンパ腫と診断され回盲部切除が行われた.切除された病変の大きさ,肉眼型は術前の逆行性回腸造影と一致しており本法の有用性が示唆された.病理組織学的にびまん性大細胞型(B細胞由来)の悪性リンパ腫で大きさを考慮し化学療法が行われた.

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要旨 患者は69歳,男性.心窩部痛を主訴に松永内科胃腸科を受診した.胃内視鏡検査で多発性の潰瘍病変を指摘され,発熱および体重減少を認めたため当科へ入院.精査で胃,小腸および大腸の広範囲にわたり潰瘍性病変を認めた.生検組織でT細胞悪性リンパ腫と診断され,Dawsonらの診断基準を満たすことから消化管原発の悪性リンパ腫と診断した.消化管全体に,広範に潰瘍性病変を認めた消化管原発のT細胞悪性リンパ腫の報告はまれであり,今回報告した.

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欧文目次

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 坂本賢一氏は,その著書「先端技術のゆくえ」(岩波新書)の中で技術と社会の関係についての歴史的変遷を,技術が宗教に仕える宗教の時代,そして国家(政治)の時代,経済の時代を経ていまや技術の時代に入っているとしている.ここで技術の時代の技術は,科学と技術が一体となった情報中心の,技術の技術で武装された高度先端技術であり,経済も政治もこの高度技術に奉仕する時代であるという特質を持つという.そして,次に到来すべき時代は“人間(民衆)の時代”であることを一抹の不安を抱きながら予想している.私の読んだこの書(第6版)の発刊が,1990年であるから,もしかすると時は既に氏の予想された“人間の時代”に入っているかもしれない.少なくとも,医療の現場においては,“人間の時代”に到達しつつあると言えるかもしれない.例えば,カルテ開示の推進や患者に対するインフォームド・コンセントの重要性は広く認識されているところであり,またより質の高い治療が常に求められる現状にある.いまだ続いているかもしれない今世紀の“技術の時代”において医療技術も飛躍的進歩を遂げたことに異論を唱える人はいないであろう.現在,この集積された情報技術を現場の医療に反映させ,患者に対し“人間の時代”に即した質の高い医療をいかに達成するかが問われているのである.

 消化器疾患においても種々の,まさに驚愕すべき医療情報技術の進歩が展開されている.この急速に進歩変容する情報技術を的確に身につける最良の方法は,優れた専門医による成書を熟読することであろう.この度,大学における教育者であると同時に極めて優れた臨床医である小西文雄博士によって「大腸癌診療マニュアル」が上梓された.一読するにまさに時代に即応したすばらしい内容が,わずかA5判153頁の小著に集約されていることに驚嘆の念を禁じえない.一言で表現するのは難しいが,言わば“All in oneの超高性能小型ノートパソコン”を手にしたような充実感があった.

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 昭和40年代,胃集団検診の普及と白壁彦夫先生開発による胃X線二重造影法の活用により,全国各地で早期胃癌が発見されはじめていたころ著者の湯浅肇先生は,藤枝市立志太病院内科で消化器疾患の診断と治療に励んでおられた.

 白壁先生の指名で,私が志太病院で早期胃癌のX線診断について話題提供させていただいたとき,胃癌の早期発見のコツは圧迫法の活用にあると述べた.また,圧迫不能の部位の病変の描出には,二重造影法に工夫を加えた体位変換が必要とも述べた.

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 11月18日(水),ホテルグランヴィア岡山で行われた第38回「胃と腸」大会の席上,第4回白壁賞と第23回村上記念「胃と腸」賞の受賞式が行われた.第4回白壁賞は渡二郎・他「Early Nonpolypoid Colorectal Cancer:Radiographic Diagnosis of Depth of Invasion」(Radiology 205:67-74,1997)に,第23回村上記念「胃と腸」賞は飯田三雄・他「家族性大腸腺腫症における胃・十二指腸病変の長期経過」(胃と腸32:563-576,1997)に贈られた.

 司会の渕上忠彦氏(松山赤十字病院消化器科)から,まず白壁賞受賞者の発表があり,渡氏が登壇した.白壁賞は故・白壁彦夫先生のご業績を讃えて,消化管の形態診断学に寄与した論文に贈られるもので,「胃と腸」32巻に掲載された全論文に加えて,応募論文(1997年に発表されたもの)が選考対象となる.今回は,応募論文の中から初めての受賞であった.

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 昭和44年に大腸スコープが初めて市場に登場した時には,視野角60°,前方斜視10°,先端屈曲能up110°,down90°の2方向であり,続いて登場した4方向屈曲のスコープでさえ,左右に90°が可能になっただけの仕様であった.今から思えば天地の差と言うべきであり,これを使用して深部大腸に導くには,できるだけ送気して管腔を拡げて,管腔の中心を確認しながら,大きなループを形成して挿入する必要があり,更にはこれを補助するためのX線透視台や介助者を必要とした.田島の逆“の”字型挿入法も,こうした歴史的背景の中では必然であった.しかし今やスコープをはじめ周辺機器は進化し,技術のみが問われる時代になった.大腸癌に対する啓蒙と老人保健法による大腸癌検診の一時的助成とが受診人口を増やし続けている現在,“盲腸まで5分”は当然であり,そのためにはもたつきは罪悪でさえある.

 本書はこのような状況で効率の良い,負担の少ない内視鏡のために,必須手技を技能別という新しい提案の下に助言する試みを展開している.冒頭で技量をレベル1から4まで分類し,その上にレベル5を設けて,レベル1・2を初心者,3・4を中級者,5を上級者とし,軸の軟らかいスコープを嫌って硬いスコープでの挿入を推奨している.

編集後記 浜田 勉
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 EMR後の一定期間おいた経過観察により遺残病変が診断されることが少なくない実態が各論文で記述されている.この遺残病変に対する早期の診断の方法とその治療方針をどうするかが本号のねらいであった.診断面では潰瘍瘢痕との所見の差は困難で,やはり定期的な頻回の観察と生検が必要のようである,芳野は短期間に増大した例を呈示し経過観察の重要性を提起し,その期間を井田は切除後1年間が重要と指摘し,光永は胃体部の小彎から後壁部が要注意としている.長南は瘢痕部でのsm癌もEUSを用いて診断を試みているが,遺残病変はおおむねm癌としてよいという成績が示された.これが引き続き行われる治療の根底になるだろう.

 遺残再発時の治療において再度EMRをするのが理想的だが,多くの場合,粘膜下の線維化のためEMRは困難であり,レーザー法やマイクロ波凝固法を行う施設が多い.嶋尾や三坂の成績は極めて良好であるが,外科的切除可能例に限ればどうであるのか,その立場でもっと鮮明に治療方針を示していただきたかった。その点で,何度も内視鏡治療を繰り返した後に外科切除しsm浸潤を来していた高木の症例は,遺残病変に対して内視鏡治療をどこまでやるのか,外科手術へのタイミングをいつにするかを考えさせられるよい教訓例ではないだろうか.

基本情報

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胃と腸
33巻13号 (1998年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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