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坂本賢一氏は,その著書「先端技術のゆくえ」(岩波新書)の中で技術と社会の関係についての歴史的変遷を,技術が宗教に仕える宗教の時代,そして国家(政治)の時代,経済の時代を経ていまや技術の時代に入っているとしている.ここで技術の時代の技術は,科学と技術が一体となった情報中心の,技術の技術で武装された高度先端技術であり,経済も政治もこの高度技術に奉仕する時代であるという特質を持つという.そして,次に到来すべき時代は“人間(民衆)の時代”であることを一抹の不安を抱きながら予想している.私の読んだこの書(第6版)の発刊が,1990年であるから,もしかすると時は既に氏の予想された“人間の時代”に入っているかもしれない.少なくとも,医療の現場においては,“人間の時代”に到達しつつあると言えるかもしれない.例えば,カルテ開示の推進や患者に対するインフォームド・コンセントの重要性は広く認識されているところであり,またより質の高い治療が常に求められる現状にある.いまだ続いているかもしれない今世紀の“技術の時代”において医療技術も飛躍的進歩を遂げたことに異論を唱える人はいないであろう.現在,この集積された情報技術を現場の医療に反映させ,患者に対し“人間の時代”に即した質の高い医療をいかに達成するかが問われているのである.
消化器疾患においても種々の,まさに驚愕すべき医療情報技術の進歩が展開されている.この急速に進歩変容する情報技術を的確に身につける最良の方法は,優れた専門医による成書を熟読することであろう.この度,大学における教育者であると同時に極めて優れた臨床医である小西文雄博士によって「大腸癌診療マニュアル」が上梓された.一読するにまさに時代に即応したすばらしい内容が,わずかA5判153頁の小著に集約されていることに驚嘆の念を禁じえない.一言で表現するのは難しいが,言わば“All in oneの超高性能小型ノートパソコン”を手にしたような充実感があった.
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