胃と腸 31巻10号 (1996年9月)

今月の主題 内視鏡的食道粘膜切除後の経過

序説

  • 文献概要を表示

 食道の内視鏡的粘膜切除に関して,今までの本誌における歴史的展開を振り返ることから本特集の序説に入っていきたい.28巻2号(1993年2月号)で「内視鏡的食道粘膜切除術」が取り上げられ,この中で種々の治療法1)~3)が紹介された.この特集を組む以前に25巻9号(1990年9月号)の「早期食道癌を問う」では,細井ら4)が既に粘膜癌を3段階に分けて報告している.26巻2号(1991年2月号)では「食道“dysplasia”の存在を問う」,更に27巻2号(1992年2月号)では「食道表在癌の深達度を読む」が特集され,全国的に今日の専門家の読影力が披露され,内視鏡的粘膜切除術の特集の下準備ができ上がっていた.その後,29巻4号(1994年3月号)の「食道粘膜癌―新しい病型分類とその診断」では“粘膜癌=早期癌”の概念が強く再認識され,29巻9号(1994年8月号)の「食道のヨード不染帯」ではヨード染色による病巣の組織診断に迫り,30巻8号(1995年7月号)の「表層拡大型食道表在癌」ではこの型の癌の特徴像が浮き彫りにされた.30巻11号(1995年10月号)の「食道表在癌の発育進展―症例から学ぶ」では,本邦でしか検討できない事項が鮮明な画像から論ぜられ,食道癌の発育進展を教えられた.そして本号の「内視鏡的粘膜切除後の経過」の特集が組まれた経緯がある.

 そこで今回,全国的に普及してきた食道の内視鏡的粘膜切除術を安全な治癒治療法として明確に位置付けるため,短期的,長期的な経過から,更には切除法の問題点から特集を組むことになった.読者の方々は既に食道癌症例で食道を温存することの長所,利点を十分に熟知しているはずである.どの臓器癌でも現在では可能な限り最小侵襲治療を目指す時代に入ってきた.このような治療法の変遷は高齢化社会への傾斜を示すだけでなく,患者自身が治療法を選択する時代になったと言っても過言ではない.それだけ治療法の進歩が普及したということであろう.しかし癌を治療する立場からすると,一度選択した手技はなるべく変更したくない.同時に患者の不安につながるからである.この癌巣を一度内視鏡的治療で根治まで持っていこうと決断するからには,精度の高い読影能力と技術が要求される.しかし,もし粘膜切除をした標本の検索で追加治療が必要と判断されたら,どのような治療法がその施設で可能か否かということも治療前に十分検討しておくべき事項である.

  • 文献概要を表示

要旨 内視鏡的食道粘膜切除術後潰瘍の治癒経過を観察する際の問題点について,自験例32例50病巣で検討した.切除後潰瘍は約1か月で再生上皮に覆われた瘢痕となる.再生上皮は時期を追うごとに成熟し,健常上皮に似た白点が規則正しく配列する乳頭パターンが認められるようになる.瘢痕内や周囲に生じるヨード不染帯と局所再燃との鑑別には,通常およびヨード染色時の内部模様の近接,拡大観察が役だつ.局所再燃した3例は半年後に発赤したびらんとして発見された.このうち2例は他臓器の外圧迫で観察が不十分となった病変肛門側に再燃した.同時性,異時性多発例はヨード不染帯がびまん性に拡がる背景粘膜を持つ症例に多い.多発する不染帯から病変を拾い上げる際にも拡大観察が有用である.

  • 文献概要を表示

要旨 内視鏡的食道粘膜切除(EMR)において特に考慮すべき重要な合併症は食道穿孔,出血,そして人工潰瘍治癒に伴う狭窄の発生である.穿孔に対しては,重篤な縦隔炎として外科的処置が選択されることもあったが,現在ではほとんどの場合,保存的に治癒すると考えられるようになっている.しかし,出血や狭窄を含め,これら合併症は予防することこそが,最小侵襲治療の見地からも重要であり,それぞれのEMR術式に応じた予防対策をとらなければならない.更なる手技の改良は本法に適応の拡大をもたらすであろうが,合併症の少なさがその基盤であることに変わりはない.今後とも臨床においてEMRの利点を最大限生かしていくための研究が必要である.

  • 文献概要を表示

要旨 食道表在癌のうち,深達度m3・sm1症例は,リンパ節転移が10~15%に認められる.なかでも,病巣内のごく一部で粘膜筋板に接したり,sm浸潤範囲が狭い症例では,病巣の大部分を占める深達度の浅い病巣として診断され,粘膜切除の適応となりやすい.m3・sm1癌についてのアンケート調査の結果をみると,病変の大きさが大きいもの,m3またはsm浸潤範囲が広いもの,低分化型扁平上皮癌,infγの浸潤を示すものは,脈管侵襲陽性率が高い.また,脈管侵襲の程度が高くなるに従い,リンパ節転移の陽性率が上昇することがわかった.内視鏡的粘膜切除治療後にm3あるいはsm1と判明した場合は,①m3あるいはsm1浸潤部の大きさ,②脈管侵襲の有無③浸潤様式,④先進部での組織型について検討する必要がある.①脈管侵襲陽性例,②infγ症例,③低分化型扁平上皮癌の症例では,リンパ節転移の可能性を考慮して,可能な症例に対しては追加治療を行うべきである.

  • 文献概要を表示

要旨 内視鏡的食道粘膜切除手技はほぼ確立されたが,予後,局所再発などいまだ解決されずに残された問題も多い.自検例を再検討したところ36例65病変中,局所再発は2病変で,局所再発率は3.1%であった.いずれも深達度m2の0-Ⅱc+Ⅱb型癌で,ヨード不染境界は一部不明瞭であった.1例は3か月後のヨード内視鏡検査で再発が確認され,他の1例は2か月後のヨード内視鏡検査では不染帯は認められず,7か月後のヨード内視鏡検査で初めて局所再発が認められた.局所再発の早期発見のため,3か月後のみならず,6か月後のヨード内視鏡再検が重要と思われた。1例は再粘膜切除で根治したが,他の1例は2年後の現在も局所再発を繰り返し,治療を継続している.いずれも粘膜切除終了時にヨード不染帯の取り残しはなかったが,局所再発を来した.ヨード染色後約1か月間は癌の一部が基底層型になり,ヨードに染色されるため,ヨード不染帯を完全に切除しても基底層型発育部を取り残す可能性が考えられた.したがって,最後のヨード染色から1か月以上の期間を置いてから粘膜切除を施行することが局所再発予防に重要と思われた.

  • 文献概要を表示

要旨 食道癌に対する内視鏡的粘膜切除術を1988年10月から開始したが,東海大学で施行した126例154病巣について検討した.術後早期の合併症は穿孔2例,皮下気腫1例,動脈性出血7例,狭窄4例,静脈瘤出血1例であった.全例保存的に治癒され外科的切除術を受けたものはない.術後局所再発は3例(全病巣数の1.9%)に,平均9.3か月で出現したが全例治療された.異時性多発癌の発生は6例(全症例の4.8%)に平均26か月で認められたが,多発病巣7病巣すべてがm癌であった.全例EEMRで治療されていた.食道癌による再発死亡は5年6か月後にリンパ節再発死亡が1例あるのみで,他癌死・他病死12例を除くと5年生存率は100%であった.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は63歳,男性.検診で食道病変を指摘され,治療目的に来院した.検診での内視鏡検査で指摘された食道粘膜癌に加えて,その近傍に不整なヨード不染帯を認め,これらの病変に対して,内視鏡的粘膜切除を施行した,病理組織診断は,前者は深達度m1の扁平上皮癌,後者は生検では癌が疑われたが,切除粘膜には悪性所見はみられなかった.術後1年を経過したが,再発は認めず,狭窄などの合併症も認めていない.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は55歳の男性.人間ドックで食道病変を指摘され,当科に紹介され入院した.入院後の内視鏡検査では右壁中心の約半周性の発赤した浅い陥凹性病変を認め,ヨード染色で不染帯の長径は約6cmに及んでいた.食道X線検査ではEi右壁に壁陥凹像を認め,口側にかけて連続した壁硬化像を認めた.深達度m3と診断したが,患者の希望で内視鏡的粘膜切除術(EMR)が施行された.切除標本では大きさ5.2×2.4cmの0-Ⅱc+Ⅱb,表層拡大型,組織診断は高分化型扁平上皮癌,ly0,v0,深達度m3であった.術後1年1か月,再発なく健在である.表層拡大型食道癌症例に対するEMRの適応の問題点としては,多分割切除による断端判定の困難性,および多中心発生の可能性が考えられ,局所再発,異時性多発に対する,より慎重な経過観察が必要であると思われた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は60歳,男性.6か月前から嚥下時の痛みと熱い食物摂取時に,しみる感じがあった.内視鏡検査を受け,中部食道に0-Ⅱc型病変(扁平上皮癌)を発見され,精査治療目的で当院に入院した.入院時,理学所見に異常なく,AFPとSCC値の軽度上昇を認めた.病変は0-Ⅱc型,長径2.5cm,深達度m2の扁平上皮癌と診断,リンパ節転移,遠隔臓器転移ともに認めず,内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行った.病巣は3分割して切除し,臨床的に完全切除と判定し治療を終了した.19か月後に潰瘍瘢痕部に小さい0-Ⅱb型病変を発見し生検で扁平上皮癌(m1)と診断した.再びEMRを施行し,病変を摘出した.第2回EMR後4年経過するが,再発所見はなく健在である.深達度m2までの食道粘膜癌に対するEMR後の局所再発は水平方向の断端陽性によるものであり,切除時の完全切除の判定を正確にすることで回避できることを述べた.

  • 文献概要を表示

 〔患者〕 61歳,女性.職業:清掃業.1995年10月ごろから,右上腹部痛,および下痢が出現し,大腸内視鏡・注腸X線検査を受け異常所見を指摘され,入院を勧められていた.その後,一時的に自覚症状は軽快していたが,1996年4月初旬ごろから以前と同様の症状が再燃し注腸X線検査を受け,異常所見が認められたため当院を受診し,治療のため入院した.入院時の身体所見,一般検査所見では特に異常所見は認められなかった.また,胸部X線写真上も異常陰影は認められなかった.

リフレッシュ講座 膵管像の読み方・1

正常膵管像 小越 和栄
  • 文献概要を表示

 ERCPと膵疾患

 内視鏡的逆行性膵胆道造影(ERCP)は膵管系に異常を及ぼす膵疾患を反映するもので,全く膵管に異常を示さないか,または微細な異常しか示さない疾患は診断できない.しかし,良い写真の撮影ができれば微細な変化しか示さない病変でも診断可能な場合が多く,膵疾患の情報を得る手段としては非常に優れた方法である.

 形態診断学の常として“あれども見えず”は消化管内視鏡診断やX線診断に通じるものでもあり,消化管疾患と同様な詳細な読影の習慣が必要であろう.また,近年の画像診断,すなわちCT,US,MRなどの進歩の陰に隠れがちなERCPは,非常に豊富な膵情報を与えてくれる手段であることを再認識していただきたい.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 1995年12月の早期胃癌研究会は,工藤進英(秋田赤十字病院胃腸センター)と細井董三(多摩がん検診センター消化器科)の司会で,12月20日(水)に開催された.

  • 文献概要を表示

 1996年6月の早期胃癌研究会は6月19日(水),松川正明(昭和大学附属豊洲病院消化器科)と馬場保昌(癌研究会附属病院内科)の司会で行われた.胃X線検査のミニレクチャーは馬場によって行われた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は64歳の男性.1992年12月の胃内視鏡検査で,胃角部の後壁に辺縁が鋭利な不整形陥凹と粗大胃小区から成る軽度隆起を認め,ⅡC型早期胃癌を疑った.生検は低分化腺癌とされた.9日後の胃X線像では陥凹部がやや縮小したが,悪性サイクルに伴う変化と考えて初回検査の約1か月後に外科切除となった.全割標本の詳細な病理学的検索を行ったが腫瘍細胞はなく,Ul-ⅡSの消化性潰瘍瘢痕のみでリンパ節転移もなかった.生検標本を再検討したところLCA(+),L26(+),keratin(-),UCHL(-)でdiffuse medium sized cell typeの悪性リンパ腫であった.早期と考える胃原発性リンパ腫が約1か月の経過中に病巣内の潰瘍化により脱落消失したものと考えた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は44歳,女性.1990年6月,大腸内視鏡検査で直腸ポリープを指摘され内視鏡的摘除を受けた.病理診断は腺腫であった.その後,毎年全大腸内視鏡検査を受けていたが,1994年4月,下行結腸にひだ集中を伴う平坦な病変を認め,生検でGroup5と診断されたため精査加療目的で当科入院となった.注腸検査では周囲から数本のひだ集中を伴う平坦な隆起性病変を認め,側面像で腫瘍の中心部にひきつれがみられた.内視鏡検査では,軽度発赤調で,血管透視像の消失を示す境界不明瞭な病変として認められたが,色素撒布後には境界明瞭となった.空気量の増減で周囲からのひだが集中する部位に軽度の伸展不良が認められた.以上の所見からsmへの癌浸潤を疑い外科的切除を行った.病理学的検索では,大きさ27×25mmの扁平病変で,組織学的には高分化型腺癌であった.腫瘍の大部分は粘膜内癌であったが,一部sm2への浸潤を認め,粘膜下層に比較的広い範囲にわたって線維化がみられた.本例は腫瘍の丈が低く,腸管壁に沿って水平方向を主体に腫瘍が発育しており,いわゆる結節集簇様形態をとらない非結節型の側方進展型腫瘍と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 まれな腫瘍である虫垂粘液球症を経験し,術前の腹部超音波と腹部CTでその特徴的所見を捉えた.患者は65歳,女性.検診目的で注腸X線を施行した.盲腸に輪状のはち巻きひだを有する直径4cmの半球状で表面平滑な腫瘤を認めた.盲腸壁の伸展性は良好で,虫垂は造影されなかった.腹部超音波では,腫瘤は盲腸下部から虫垂にまで連続しており,実質様エコーを呈し,内部に無数の点状高エコーを混じていた.腹部CTでも,腫瘤内部に無数の粒状の石灰化を認めた.回盲部切除術を施行した.腫瘤内腔には直径1mm前後の乳白色の粘液球が充満しており,PAS染色により年輪状の層構造が明らかとなった.組織学的には虫垂粘液囊胞腺腫であった.

  • 文献概要を表示

要旨 48歳,男性.検診目的に当センターを受診し,内視鏡検査で食道に異常所見を発見された.そのときの生検で扁平上皮癌との診断がなされた.精密検査を目的とした内視鏡検査では,発赤調の不整形陥凹を主体とする病変であり,空気量を減じた状態では顆粒状変化が目立つものの,送気により伸展性は良好であり,病変全体が陥凹面と捉えられることから0-Ⅱc型の食道表在癌と診断した.また,食道X線検査では中部胸部食道領域に透亮像と不整なバリウム斑を認めた.切除標本では大きさ1.9×1.8cm,0-Ⅱc型,深達度m2であった.肉眼型の診断において陥凹面の中の顆粒状隆起を0-Ⅱa型とするかどうかが問題とされたが,十分に伸展させると隆起部分が目立たなくなること,組織学的には陥凹面が主体であり,隆起は癌上皮のわずかな肥厚であることから,0-Ⅱc型と診断した.また,組織学的には分化の良い扁平上皮癌であったが,その一部に大きさ2mmの微小な粘表皮癌が認められ,組織発生を推定するうえで興味深い症例であった.

  • 文献概要を表示

 上記の質問に対する解答にはいささか問題があると思われるので,あえて意見を申し述べたい.

 質問者はcancer in adenomaとcancer with adenomaとの違いについての解答を要求している.cancer with adenomaという名称は大腸癌取扱い規約(第4版)におけるadenoma in carcinomaに相当すると考えられるが,後者は癌の一部に腺腫性成分が混在している状態を指している.大腸癌取扱い規約(第5版)においては,この状態はcarcinoma with adenoma componetと命名されており(p29),“腺腫と共存するが,癌成分が腺腫成分より少ないもの”と説明されている.質問者に対してはまず第一にこの間の実態を説明するべきであるにもかかわらず,解答者は,carcinoma with adenoma-like componentという全く一部の病理医のみが用いると思われる新しい名称にすりかえ,自分たちの考え方のみに基づいた説明をしているのは,その考え方の善し悪しは別として,解答としては妥当でないと思われる.質問者はますます混乱したのではあるまいか.大腸癌取扱い規約に基づいた公平かつ全体的な説明をした後に,自分たちの意見を述べるのは結構であるが,読者の質問に対し公共の誌面を利用して自分たちの意見のみを述べるのはいささか問題ではあるまいか.主題論文において自分の主張を発展するのはよいとしても,質問箱の質問に対する解答には公平さが必要であり,私見を述べるにしても最小限にとどめるべきであろう.多くの愛読者を有する「胃と腸」が一方的な意見陳述の場として利用されないためにもあえて苦言を呈した次第である.(一愛読者より)

  • 文献概要を表示

要旨 患者は73歳,女性.主訴は悪心,嘔吐,腹痛.1994年3月下旬ごろから主訴が出現.同年4月中旬症状が悪化し入院した.腹部単純X線写真で右側腹部に線状の石灰化像を認めた.注腸造影で上行結腸から横行結腸脾彎曲部近傍の腸管の著明な狭小化,壁の不整を認めた.内視鏡検査では浮腫状変化がみられ,粘膜色調が暗黒色を呈していた.切除標本の病理所見では粘膜はうっ血と慢性炎症所見がみられ,粘膜下層は著明な線維化による肥厚,細動脈の内腔狭窄ないし閉塞が認められた.動脈は粘膜下において内膜の浮腫や線維化による肥厚と内腔の狭窄あるいは閉塞が認められた.漿膜下層には広範な出血層と静脈内腔の肥厚,石灰化や骨化による閉塞が認められた.病変部のカルシウム含有量は結腸壁や血管で異常高値を示した.

  • 文献概要を表示

要旨 胃に原発したT細胞性リンパ腫の1例を経験し,免疫抗体法およびフローサイトメトリー(FCM)による検索を行ったので報告する.患者は72歳の女性で,食欲不振,嘔気,体重減少を主症状として来院し,胃生検でT細胞性リンパ腫と診断され,胃全摘術を受けた.抗human T-cell leukemia virus typeⅠ(HTLV-Ⅰ)抗体は陰性であった.肉眼的には大彎側に形成された周堤の低い浅い巨大潰瘍を中心とし,その周囲の皺襞の肥厚から成るリンパ腫で,組織学的および免疫組織化学的にはT細胞性びまん性大細胞型リンパ腫と診断した.FCMによる検索でも腫瘍細胞はCD2,CD3,CD4,CD5,CD38などのT細胞抗原が陽性であった.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 放射線医学には各種の画像診断,interventional radiology,核医学,放射線治療の4部門が含まれる.これらの部門のどれをとってもそれぞれ技術の進歩は目覚しく,また,どの部門においてもすべての診療科の医療に直接関連している.このように近代医療の最先端をゆく放射線医学の広範な分野を網羅して,必要かつ十分な内容に整理しまとめた教科書として,この標準放射線医学第5版は他に類をみない.ぜひこの1冊を医学生には放射線医学の自習用に持ってもらいたい.

 本書では医師国家試験のガイドラインに沿った形で放射線診断の内容が構成されている.画像診断の各論においては,まず各臓器の疾患で用いられる通常の画像検査法について,使用頻度の順に解説され,更に異常所見別に病気診断の過程における画像診断を念頭に置いて編集されている.しかも各項目ごとに各疾患の画像所見の特徴を“疾患別異常所見のまとめ”として,一覧表にしてある.重要な画像所見は写真の説明に加えてシェーマで解説され,医学生に必須の基本的事項と臨床的事項の両者が同時に理解しやすく配慮されている.またinterventional radiologyに関する最新情報が各治療法ごとに加えられている.

  • 文献概要を表示

 京都大学第2外科で生体部分肝移植の準備を始めたとき,以前から漠然と知っていたつもりのCouinaudの肝臓の解剖を確実にする目的で,このオリジナルを発注したのが本書との最初の出会いであった.コピーを教室の仲間に配り,共通の知識にしようとしたのである.そのとき初めてこの本が自費出版であり,発注先がCouinaud先生のご自宅であることを知った.

 本書の原書に接して,その内容の豊富さに驚嘆するとともに,フランス人の思考をそのまま英語に置き換えたことによると考えられる読みにくさもいやというほど知らされた.英語のほうに慣れているわれわれにとって,仏語と英語は微妙に異なった使い方がされることも,読みにくさの原因の1つであったろう.この難解な本を,われわれ日本人のために翻訳するというとんでもないことを企画され,持ち前の粘り腰で完訳された二村雄次教授に改めて深い敬意を表する.二村一門の“胆管の読み”の確かさには以前からわれわれも啓蒙されてきたが,これもCouinaudをいかに熟読してこられてきたかということで納得できる.

  • 文献概要を表示

 このたび,「食道・胃静脈瘤の病態と治療」と題する待望の書が上梓の運びとなった.編集者は,現在わが国でこの分野の臨床と研究の両面において第一人者と言われる青木春夫,小林迪夫の両先生であり,執筆者を含め,この分野のエキスパートを網羅し60名に及んでいる.そして執筆者が編集者の“新しい概念に基づき,最新の現場について記述してもらう”という方針に沿いながら,限られた紙面の中で精一杯記述しているのが特徴と言えよう.

 周知のごとく門脈圧亢進症の概念は,Whippleの考え方に局所門脈系のhyperdynamic stateの知見が加わって,現在では理解しやすいものとなった.本書では,この概念を基礎に,大きく2つに分けて記述されている.前半は“門脈圧亢進症,食道・胃静脈瘤の病態生理”である.第1章の循環異常の病態生理では門脈領域の循環異常が中心に記述されているが,全身,肝,脾,消化管壁などの循環異常についても述べられている.第2,第3章ではそれぞれ胃病変および基礎的疾患の特徴について述べられている.後半では,前半での病態生理からみての“食道・胃静脈瘤に対する治療”が記述されている.ここでは食道・胃静脈瘤の内視鏡所見(第1章)の記述があった後,主として食道および噴門部の静脈瘤に対する各種の外科的治療と非観血的治療の実際(第2章)について詳しく述べられ,この後の各章で胃穹窿部の孤立性静脈瘤,各種治療の予後と再発,胃病変の治療法の選択基準などが記載されている.

  • 文献概要を表示

 10年前に現代日本の肝臓病学研究の珠玉と評される「肝細胞癌―病理アトラス」を世に出された久留米大学の中島敏郎名誉教授が,このたび「門脈圧亢進症の病理―肝内血管系の変化を中心に」を刊行された.大学を定年退職された10年後の快挙であり,不断の真摯な学問的情熱にまず深い敬意を捧げたい.そして,立派な後継者を育てられ,すばらしい成果をお収めになったことに心からお慶びを申し上げたい.

 ここ30~40年の間に肝硬変をはじめとする門脈圧亢進症を来す疾患の臨床と病理に関する知見が長足の進歩を示した.本書はその進歩に大きく貢献された中島名誉教授の日本住血吸虫症,肝硬変症,特発性門脈圧亢進症を中心とした40年にわたる優れた先導的研究の集大成である.

  • 文献概要を表示

 質問 幽門部の萎縮性胃炎の中にできるⅡc型の辺縁の過形成や腸上皮化生粘膜が隆起している場合,Ⅱa+Ⅱc型に分類すべきでしょうか,あるいはⅡC型に分類すべきでしょうか?また,ⅡC型に

分類するとして,その辺縁隆起(非癌)を“反応性の隆起”や“圧迫性の隆起”などと表現することがありますが,用語の使い方としてどれが適切なのか教えて下さい.

  • 文献概要を表示

 今般,久留米大学病理学教授・神代正道著「早期肝癌と類似病変の病理」が医学書院から出版された.著者は,病理学の道一筋に歩んでこられ,特に肝癌の病理においては第一人者と目される存在である.なかでも“早期肝癌と類似病変の病理”は著者が最も力を注いでこられた研究テーマであり,本書は長年にわたる研究の節目としてまとめられた集大成であろう.われわれ肝臓病の臨床に携わる者は,各種講演会において著者の講演を聴き,また学術誌などで教わる機会は多いが,それらは,その時々に応じて的を絞った部分的な内容であり,著者の膨大な知見を断片的に理解するにとどまる向きもあった.しかし今回,肝癌の病理に関して系統的に,そしてすべてを網羅して論述された本書が発刊されたことは,肝臓学を学ぶ者にとって正に福音と言っても過言ではない.

 今日,既にウイルス肝炎の予防がほぼ確立されたため,新規感染者は極めて少ないが,既感染による肝炎ウイルス保有者はB型200万人,C型230万人と言われている.自然治癒あるいはインターフェロン治療によって治癒する者もいるが,肝癌による死亡数は直線的に増加しており,現在の肝炎罹患者が早晩,肝硬変,肝癌へ進むことを予想して対策を講じる必要がある.それには肝癌の早期診断,早期治療が,対策の1つとして重要な意味を持つ.

編集後記 下田 忠和
  • 文献概要を表示

 患者のQOLを考慮した早期癌に対する内視鏡的粘膜切除が,一般的に行われるようになって随分と時間が経過した.その間適応も少しずつ拡大され,特に食道癌では大きな病巣に対する内視鏡的粘膜切除も分割切除でなされている.しかしその後の局所再発,多発癌に対する治療,そして術後の障害についての対応に関しての議論は十分になされてこなかった.それらの点について本号では多数の治療経験を有した施設から報告がなされている.要点は当然のことではあるが術前の正確な癌の深達度診断と拡がりの診断に尽きるが,基底層部分に拡がる癌と上皮下の浸潤範囲の診断の因難性が改めて指摘されている.また,多発癌の治療に関しては本号でもまだ十分に議論されたとは言えないが,今後積極的に治療した症例の経過が集積されるにつれ,その臨床的問題点も明らかにする必要性が出てくる.本号を見て各読者が食道早期癌に対する内視鏡的粘膜切除の問題点を理解し,日常の診療に役だてることを期待する.

基本情報

05362180.31.10.jpg
胃と腸
31巻10号 (1996年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)