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食道の内視鏡的粘膜切除に関して,今までの本誌における歴史的展開を振り返ることから本特集の序説に入っていきたい.28巻2号(1993年2月号)で「内視鏡的食道粘膜切除術」が取り上げられ,この中で種々の治療法1)~3)が紹介された.この特集を組む以前に25巻9号(1990年9月号)の「早期食道癌を問う」では,細井ら4)が既に粘膜癌を3段階に分けて報告している.26巻2号(1991年2月号)では「食道“dysplasia”の存在を問う」,更に27巻2号(1992年2月号)では「食道表在癌の深達度を読む」が特集され,全国的に今日の専門家の読影力が披露され,内視鏡的粘膜切除術の特集の下準備ができ上がっていた.その後,29巻4号(1994年3月号)の「食道粘膜癌―新しい病型分類とその診断」では“粘膜癌=早期癌”の概念が強く再認識され,29巻9号(1994年8月号)の「食道のヨード不染帯」ではヨード染色による病巣の組織診断に迫り,30巻8号(1995年7月号)の「表層拡大型食道表在癌」ではこの型の癌の特徴像が浮き彫りにされた.30巻11号(1995年10月号)の「食道表在癌の発育進展―症例から学ぶ」では,本邦でしか検討できない事項が鮮明な画像から論ぜられ,食道癌の発育進展を教えられた.そして本号の「内視鏡的粘膜切除後の経過」の特集が組まれた経緯がある.
そこで今回,全国的に普及してきた食道の内視鏡的粘膜切除術を安全な治癒治療法として明確に位置付けるため,短期的,長期的な経過から,更には切除法の問題点から特集を組むことになった.読者の方々は既に食道癌症例で食道を温存することの長所,利点を十分に熟知しているはずである.どの臓器癌でも現在では可能な限り最小侵襲治療を目指す時代に入ってきた.このような治療法の変遷は高齢化社会への傾斜を示すだけでなく,患者自身が治療法を選択する時代になったと言っても過言ではない.それだけ治療法の進歩が普及したということであろう.しかし癌を治療する立場からすると,一度選択した手技はなるべく変更したくない.同時に患者の不安につながるからである.この癌巣を一度内視鏡的治療で根治まで持っていこうと決断するからには,精度の高い読影能力と技術が要求される.しかし,もし粘膜切除をした標本の検索で追加治療が必要と判断されたら,どのような治療法がその施設で可能か否かということも治療前に十分検討しておくべき事項である.
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