胃と腸 28巻5号 (1993年4月)

今月の主題 腸管アフタ様病変

序説

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 アフタ様潰瘍は消化器病学,特に診断学でよく使われる術語であるが,必ずしも定義がはっきりしていない.多発する微小潰瘍とほほ伺義語的に用いられている.しかし,微小であるので潰瘍よりびらんとすべきである,ほぼ同じ病理的変化で発赤のみのものもある,などといった理由から,アフタ様病変という,より拘束力の少ない言葉を選び,そのような病変を整理して,できればすっきりした使いやすいものにしよう,あわよくば診断に有効なdiagnosticな所見であることが明らかにできるかもしれない,というのが本特集のねらいである.

 アフタ様と言う以上は,アフタというものが確固としたものでなければならない.文末に示すようにDorlandのMedical Dictionaryにははっきりulcerと記してある.すなわちアフタ自体が潰瘍を意味する.そうするとアフタ様潰瘍とは奇妙な用語である.回盲部の単純性潰瘍を消化性潰瘍に似た潰瘍ということがあるが,これは特殊なものをポピュラーなもので説明するわけだからおかしくない.しかし英語にもaphthoid ulcerがあるし,深く考えないことにする.アフタ様大腸炎という言葉もあるが,これもアフタ(様病変あるいは潰瘍)のある大腸炎とすべきであろう.“アフタ様大腸炎”がアフタにまつわる日本における混乱の出発点であったような気がする.新しい術語に対しては学会なり学会誌なりがよく検討してほしかったと今から振り返ると残念な気がする.

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要旨 各種大腸アフタ様病変の135症例の生検材料について,病理組織学的立場から検討した.内視鏡上のアフタ様病変は,病理組織学的にはA群:びらん・潰瘍を認めるアフタ様潰瘍と,B群=それを認めない狭義のアフタ様病変,に分類された.A群には慢性活動性炎症を示す腸疾患(アメーバ腸炎,腸管Behget病,潰瘍性大腸炎,一部Crohn病),比較的重い感染性腸炎(サルモネラ腸炎)が含まれ,B群には比較的軽い感染性腸炎(キャンピロバクター腸炎,エルシニア大腸炎),薬剤性出血性大腸炎,いわゆるアフタ様大腸炎などが含まれている可能性が高く,両者を内視鏡上区別することは,各種疾患の類推に加えて,Crohn病では生検部位決定に役立つと考えた.

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要旨 内視鏡検査で診断された大腸アフタ様病変68例(アフタ様病変のみから成るCrohn病18例,腸型Behget病3例,悪性リンパ腫/ATL4例,薬剤性大腸炎6例,アメーバ赤痢4例,エルシニア腸炎11例,キャンピロバクター・サルモネラ腸炎4例,アフタ様大腸炎18例)の注腸X線所見を分析し,そのX線学的鑑別について検討した.そのX線所見は,Ⅰ型:直径1~2mmの透亮像が多発(4例),Ⅱ型:直径1~2mmのバリウム斑が多発(8例),Ⅲ型=中心に微小バリウム斑を有する直径1~2mmの透亮像が多発(20例),Ⅳ型:中心に直径1~2mmのバリウム斑を有する1~3mmの透亮像が多発(15例),Ⅴ型:中心に直径1~2mmのバリウム斑を有する2~5mmの透亮像が多発(21例),の5型に分類できた.アフタ様病変のみから成るCrohn病では,13例(72%)がⅣないしⅤ型のX線パターンを示し,14例(78%)に直径3mm以上のびらんないし小潰瘍が認められ,うち6例(33%)は縦走傾向の配列を示した.腸型Behcet病,悪性リンパ腫/ATL,薬剤性大腸炎,アメーバ赤痢でも同様なX線パターン(Ⅳ型,Ⅴ型)を高率に示したが,病変の分布,直径3mm以上のバリウム斑の有無,縦走配列の有無などに着目すれば,Crohn病と他疾患とのX線像のみからの鑑別もある程度可能と考えられた.また病変の密度が最も高い部分の3cm四方(9cm2)の病変数を計測することによって,客観的に病変密度を評価でき,鑑別診断に役立つことが示唆された.したがって,大腸アフタ様病変の鑑別診断上,注腸二重造影は極めて有用な検査法であると考えた.

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要旨 各種炎症性腸疾患の腸管粘膜にみられるアフタ様病変の形態を大別すると,Ⅰ群からⅣ群までに内視鏡分類された.このような病変は潰瘍性大腸炎では2.6%,Crohn病77.4%,単純性潰瘍80%,キャンピロバクター腸炎20%,出血性腸炎9.5%,偽膜性腸炎40%にみられ,腸管Behoet病と腸結核,アメーバ赤痢,エルシニア腸炎では全例にみられた.病変の出現した病期をみると,急性期ないし初期,活動期にみられたが,無症状となった時期や炎症の回復期でも確認されることがあった.Crohn病と単純性潰瘍の病変は難治性であり,長期間の経過観察においても形態の変化は少なかったが,他疾患ではすべて消失した.発生部位も疾患別に特徴的であった.したがって,その形態や発生部位,時間的推移などに注目すれば,アフタ様病変からみた各種炎症性腸疾患の鑑別診断は難しくないことが強調された.

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要旨 急性炎症における大腸のアフタ様病変の特徴を薬剤性大腸炎38例,感染性腸炎13例,原因不明な腸炎22例を対象として検討した.女性に多く,30歳代で好発したが薬剤性では高年齢層にもかなりみられた.X線検査では約半数に小透亮像を認めるにすぎず,診断には内視鏡検査が有用であった.内視鏡的には,病変は薬剤性および原因不明例では円ないし類円形,細菌性では不整形のことが多く,薬剤性では細菌性および原因不明例に比し密在し,紅量の発赤が高度という傾向がみられたが,確定診断には薬剤投与歴や細菌学的所見が重要であった.原因不明例ではCrohn病などの炎症性腸疾患と鑑別するために,治癒するか確診がつくまで経過を追う必要がある.

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要旨 アフタ様びらんが治癒過程にみられた偽膜性大腸炎の1例を経験した.患者は67歳,男性.下腹部痛,血便,発熱を主訴に来院し,コロノスコピーにて定型的像が得られ,偽膜性大腸炎と診断された.バンコマイシン投与後5日目の検査で,偽膜の減少がみられ,7日目には偽膜は消失しアフタ様びらんが残っていた.偽膜性大腸炎の治癒過程が観察可能であった症例である.

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要旨 患者は32歳,男性.発作性夜間血色素尿症で当院血液内科に通院中.今回,右下腹部痛を主訴として入院した.注腸X線検査にて回腸終末部に狭窄性病変を,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸に大きな潰瘍性病変を認め,いずれも虚血性変化と考えられた.経過中施行したコロノスコピーでは,S状結腸に発赤の強いアフタ様びらんが観察された.便中よりClostrdium Difficile toxinが検出され,これとの関連が類推された.

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要旨 患者は25歳,女性.咽頭痛,下痢,発熱を主訴として来院口腔内にアフタの多発を認め,針反応も陽性であった.回盲部・上行結腸に深い不整形潰瘍の多発,横行結腸~直腸にかけて連続性にアフタ様潰瘍,また食道にもアフタ様潰瘍を認めた.病変部の生検組織所見ではいずれも非特異的な炎症所見を認めるのみであった.腸型Behget病が疑われ,サラゾスルファピリジン(4.Og)投与により症状が軽快し,大腸および食道病変も著明な改善をみた1例を報告する.

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要旨 患者は左下腹部痛,水様性下痢便,下血を主訴に来院した21歳の男性.大腸内視鏡検査で直腸から脾彎曲部にかけて,広範囲に発赤したアフタ様のびらんがあり,回盲弁上に浅い潰瘍を認めた.注腸X線検査では,直腸から脾彎曲部にかけて小バリウム斑と淡い小円形陰影の多発があり,アフタ様びらんの多発した所見だった.全結腸にかけて網目像を認め,粘膜の粗槌化や偽ポリポーシスの所見はなく,潰瘍性大腸炎は否定的で,感染性腸炎,特にキャンピロバクター腸炎が疑われた,便培養の結果,Campylobacter jejuniiが陽性で,オフロキサシン600mg/日の服用で症状は軽快した.感染性腸炎の診断でも,大腸内視鏡検査,注腸X線検査を行うことにより,便培養の結果が判明する前に十分に疑診を得られる症例もあると考えられる.

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要旨 患者は39歳の女性で,主訴は下痢.1990年12月発熱,咳噺が出現し,解熱鎮痛剤などの投与を受けたが症状が改善せず,4日間抗生剤の投与を受けた.症状は改善したが,2週間後より下痢が出現したため,紹介入院となった.入院時の内視鏡像で下行結腸に多発散在性にアフタ様びらんを認め,一部縦走方向に並んでいた.注腸X線像では下行結腸に多発散在性にbariu fleck,transverse ridging,管状狭小がみられ,横行結腸脾彎曲側のhaustraの消失を,下行結腸下部には縦走潰瘍瘢痕を認めた.以上,アフタ様びらん以外にも病変の既往が示唆され,びらんは,薬剤による腸管の虚血性変化の後の生体反応である可能性が考えられた.

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要旨 患者は41歳,男性,検診の便潜血陽性の精査にて来院.大腸内視鏡検査で,上行結腸に多発する大きな潰瘍と潰瘍瘢痕を認め,腸結核を疑われた.約1年半後の大腸内視鏡検査で,上行結腸に深掘れの打ち抜き様潰瘍があり,回盲部にも小さい円形打ち抜き様潰瘍がみられた.全大腸にはアフタ様病変が散在していた.多発性の単純性潰瘍と診断して栄養療法を開始し,1か月後にはアフタ様病変は消失し,右側結腸の潰瘍は著明に縮小したが,2か月後には小腸にアフタ様病変が出現した.本症例はアフタ性口内炎がみられたものの,Behcet病の診断基準にみられる症状は出現せず,現時点では多発性の単純性潰瘍として経過観察中である.

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要旨 患者は18歳,女性.血便を主訴として来院.全大腸内視鏡検査で盲腸および下行結腸にアフタ様潰瘍をはじめとする微細病変のみを認めた.Crohn病を疑い経過観察していたが,初回検査時より1年3か月後に典型的な直腸炎型潰瘍性大腸炎の像を呈するようになった.このような例の報告はなく,発症早期の微細病変とその経過を2年間にわたって観察しえたので報告した.

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 〔患者〕63歳,女性.既往歴=20年前より胃潰瘍にて治療.現病歴:右季肋部痛を主訴に受診した.

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〔患者〕49歳,男性.主訴:右下腹部痛.現病歴:1991年7月ごろから右下腹部の自発痛,圧痛出現.近医の消化管検査にて終末回腸部に病変を指摘され,当科紹介入院.入院時現症では表在リンパ節は触知せず,血液検査上貧血を認めるが末梢血液像は正常であった.〔X線所見〕(ゾンデ法小腸造影および注腸造影)下部回腸,回盲弁より3cmの部位から口側に約10cmの範囲にわたって,全周性に管腔の狭小化を認めるが,その程度は軽く,口側腸管の拡張は認めない.病変部は隆起と潰瘍の混在から成り立っており,口側と肛門側の病変部境界は比較的明瞭であるが,明らかな周堤形成は認めない(Fig.1a~c).なお,盲腸の多発憩室以外,大腸には異常を認めなかった.

用語の使い方・使われ方

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 粘膜ひだの集中像において,隣接する粘膜ひだの先端部が癒合して1つのひだのように見える所見を言う.癒合しているか否かは,本来であれば存在するはずのひだの境界,すなわち溝状の構造が読み取れるか否かで判定される.

 潰瘍あるいは潰瘍瘢痕を伴う病変では,潰瘍部分に一致して線維化組織を伴っている.このため,多くの場合は潰瘍部分に収縮機転が働き,粘膜ひだの集中像を伴う.このとき,ひだの粘膜下に浮腫などの強い炎症反応や癌の深部浸潤などの組織変化が加わると,粘膜ひだは膨隆し,先端部に癒合と呼ばれる所見が出現する.

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 滲出性炎症において線維素を多量に含んだ滲出物が粘稠な膜様物となって粘膜面に付着したものを正常粘膜に対して偽膜と言う.組織では偽膜は好酸性滲出物・フィブリン・核片炎症性細胞等からなる.偽膜性大腸炎では,内視鏡的に直径数mm前後の円形ないし類円形のやや隆起した乳白色ないし黄白色のビロード状の偽膜が広い範囲に多発している.介在粘膜は浮腫状で血管透見は消失している.重症例では偽膜は地図状に癒合し,厚く苔状となって粘膜面を覆い,粘膜はほとんど消失してしまう.偽膜性大腸炎は形態学的な診断名であり,病因論的な診断名である抗生物質関連大腸炎,Clostridum difficile大腸炎とはオーバーラップした概念だが同一ではない.

 偽膜性大腸炎の多くは抗生物質投与後にみられるが,抗生物質投与歴のないものにもある.同様に,偽膜性大腸炎の多くでα4伽冒々(CD)もしくはそのtoxinが検出されるが,CD陰性の偽膜性大腸炎もあり,逆にCD陽性だが偽膜を形成しない大腸炎もある.偽膜が限局性に分布する場合,直腸~S状結腸にみられ,全大腸に分布する場合,肛門側ほど病勢が強い.生検鉗子で掴むと偽膜は軟らかいが,粘膜面からは剥離し難い.

胃と腸ノート

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 筆者らは,大腸癌のsm massive浸潤の有無を判断する内視鏡的指標の1つとして,“non-liftingsign”を提唱した1).これは,粘膜下組織に液体を注入してもsm massive浸潤の病変は盛り上がらず,病変の周囲だけが盛り上がるという現象を色素液を用いて明瞭化したものである.その後,学会,研究会等で,この用語がいわば“共通言語”として用いられている.しかし,その一方で,筆者らと異なった手技を行い,全くあてにならぬものと公言した演者もあり,多少の混乱を招いている.混乱の原因は,注入手技が異なること(手技的バイアス)であることが明らかであるため,その必要条件をここに明記したい.

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要旨 患者は66歳,男性で,胃潰瘍の経過観察中に食事のつかえ感が出現.X線・内視鏡検査で中下部食道に多数のpolypoid lesionが認められ,病変口側では地図状びらんを伴っていた.ヨード染色では隆起性病変は不染,口側のびらん部分にけばだった濃染像を認めた.生検組織は炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織で,逆流性食道炎に伴った著明な炎症性変化と診断し,プロトンポンプインヒビター(PPI)を投与したところ,granuiomaは消失しSC junction直上に1.5cm大のポリープを認めるのみとなった.病理組織像は重層扁平

上皮に覆われた線維化を伴うinflammatory polypであった.本症例は逆流性食道炎のうち隆起肥厚型に含まれる病変と考えられるが,検索した限りでは類似した症例の報告はなく極めてまれな症例と思われた.

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要旨 X線所見上,23日間に急速な変化を来した横行結腸のびまん浸潤型大腸癌の1例を経験した.患者は34歳,男性.主訴は右下腹部痛.初回注腸X線検査は,潰瘍浸潤型大腸癌とみなすべき所見であったが,23日後には,病変口側の軽度の壁硬化所見が高度の伸展不良となり,明らかなびまん浸潤型に変化した.生検の組織学的所見は中分化腺癌で,右半結腸切除術が施行された.病理組織学的所見はリンパ管侵襲の強い中分化腺癌であった.術後112日でリンパ節への転移再発を来した.びまん浸潤型大腸癌の発育・進展様式を考えるうえで示唆に富む症例と考えられた.

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欧文目次

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 Clinical features and endoscopic management of Dieulafoy's disease: Stark ME, et al(Gastrointest Endosc38: 545-550,1992)

 Dieulafoy潰瘍はまれな疾患で,上部消化管出血の原因の2%以下とされている.その病態は粘膜筋板近傍の粘膜下組織に分布する比較的太径の迂曲する動脈の破綻と考えられているが,異常血管の病因に関しては,先天説,加齢説など様々で,更に,血管とその上部を覆う粘膜の損傷のメカニズムについても十分に解明されていない.また,病変が微小(通常粘膜の変化は径3mm未満)なため,内視鏡診断やそれに続く治療が困難な例が多く,過去には外科的な治療の対象とみなされてきた.今回著者らは内視鏡特殊治療チームを編成し,Dieulafoy潰瘍出血の内視鏡的止血を試み,その成績を検討した.

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編集後記 松川 正明
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 本特集のアフタ様病変は,いわゆる口腔内のアフタに類似した病変で,比較的よく遭遇する病変である.“腸管アフタ様病変”は,アフタに類似した病変をやや幅広くとった病変であり,びらんから小潰瘍まで含んでいる.ほとんどの炎症性腸疾患(感染性を含む)にみられる.本特集ではそれ自体小さな病変であるアフタ様病変から疾患の鑑別診断を形態学的な立場(病理学的所見,X線所見,内視鏡所見)で述べているが,これらの所見には検査方法によって微妙なニュアンスの違いがあることは仕方がない.しかし,これまでアフタ様病変として一括していた所見が,本特集によりアフタにも形態学的にみて種々の特徴があって,病変に対する注意深い観察が必要であることが理解されれば,本特集を組んだ甲斐があることになる.アフタ様病変は組織学的所見と共に免疫学的な関連性が注目される所見である.今後,このアフタ様病変の重要性は,臨床例の増加により明らかになると思われる.

基本情報

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胃と腸
28巻5号 (1993年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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