胃と腸 27巻1号 (1992年1月)

今月の主題 胃癌の自然史を追う―経過追跡症例から

序説

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 胃癌細胞は胃の粘膜で発生します.それは細胞分裂を繰り返して時間の経過と共に大きくなり,自然のままに癌を放置しておくならば,癌は全身に転移巣を形成して宿主を死に至らしめると共に,自らもその一生を終えます.その癌細胞誕生から死に至るまでの,つまり時間の流れに伴う胃癌の形態変化と宿主という場での振る舞いを“胃癌の自然史”とするならば,それは個々の“胃癌の一生”を眺めて,そこから胃癌の歩む幾つかの道を示すことにあるのでしょう.

 本号の主題は胃癌の自然史ということですが,それは胃癌が歩む全道程のうちの部分部分に派生する出来事を眺め,それらを連結することによって“胃癌の一生”を描写してみようという企画です.そうは言っても“胃癌の一生”の全道程を主題論文そして症例論文によって埋めつくすことはできませんから,早期の道程の描写に主眼を置くようにしました.そうすると“胃癌の自然史”の部分ということになってしまいます.

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要旨 固定集団の逐年検診より得られた陥凹性早期胃癌をretrospectiveおよびprospectiveにそのX線像を検討することにより,特にsm癌について次のような成績を得た.(1)大多数のm癌の存在期間はかなり長く,数年から10年以上に及び,かなりバラエティーに富んでいるが,一般にsm癌では比較的短く,数か月から1年内外と推定された.(2)早期胃癌の自然史の分析には,m癌およびsm癌の深達度m1,m2,m3,sm1,sm2,sm3に細分し,その診断基準とする必要がある.特にsm癌の場合にはm3,sm1,sm3の分析が必要で,m3またはsm1からsm3にかけてのX線像がかなり著明に変化していた.

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要旨 噴門部癌の発育進展形式について,①診断切除された症例から,どのような病変が,どのように形態を変えながら肉眼的に進行癌に変化するのかを推測し,②毎年X線検査を受けていた症例で,突然大きな進行癌に変化した症例のX線像を検討することで,このような症例の発育進展形式を推測し,次の結論を得た.噴門部癌の大半は2cm以内でsmに浸潤し,潰瘍を形成せず,smにmassiveに浸潤する.またこの期間は癌としての肉眼形態に乏しく,pm以深にmassiveに浸潤し粘膜面を押し上げて隆起を形成するか,癌性潰瘍を形成して初めてBorrmann2,3型に変化する.また,少数ではあるが,癌が広範囲に進展し,sm以深にmassiveに浸潤しても粘膜表面の変化に乏しく,癌性潰瘍を形成して,突然巨大なBorrmann2,3型に変化する症例がある.

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要旨 胃癌の自然史を知る目的で,過去10年間にprospective(一部retrospective)に経過観察可能であった胃癌32例(早期癌11例,進行癌21例)を対象に癌組織型と発育様式につき検討し,以下の結論を得た.(1)分化型腺癌の中で高分化,中分化型癌(tub1,tub2)14例のうち11例までが緩徐に発育進展を示す傾向にあり,早期癌から進行癌に進展する期間は平均5年2か月であった.しかし乳頭状腺癌(pap)3例の発育進展が速く,悪性度の高い癌と推測された.(2)未分化型腺癌15例(14例までが手術時進行癌)の発育経過をみると,①malignant cycleを繰り返しながら緩徐に進展するもの,②低分化腺癌でかつ充実胞巣型癌(solid type,medullary growth).発育進展が速く,高頻度に肝転移を伴う,③Borrmann4型胃癌,と3つのタイプに大別される.(3)原発巣が指摘され,かつ経過追跡可能であったBorrmann4型胃癌9例における観察期間は平均20か月で,うち2例は32か月前,40か月前に胃生検で癌を確認した症例であった.Borrmann4型胃癌の経過は意外に長いことが判明し,終局的には胃底腺領域を中心としたⅡc型早期胃癌の発見が鍵となると断言できよう.

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要旨 われわれは2年以上にわたり内視鏡観察がなされた隆起型癌7例,陥凹型癌24例について,その形の変化,組織像と進行度との関連,観察期間と進行度の相関などを中心に検討を行った.その結果は次のごとくであった.(1)隆起型も陥凹型も高分化型管状腺癌は中分化型管状腺癌に比べ著しい進行度の差がみられた.この傾向は陥凹型でより顕著であった.しかし,低分化型管状腺癌では症例が少ないため,はっきりとした差は認められなかった.(2)観察期間と進行度および大きさとは隆起型では関連性がみられたが,陥凹型では相関はなかった.これは陥凹型では比較的早期に癌の脱落が起こるためで,われわれの症例では21年7か月の経過で粘膜内癌に止まっていた症例があった.(3)早期胃癌の型の変化では隆起型の2例,陥凹型の3例がいずれもBorrmann2型に移行していた.またⅡc+Ⅲ進行型が2例であった.

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要旨 胃癌の組織診断は組織型分類ばかりでなく,細胞異型度判定も大切である.特に分化型胃癌は低異型度癌と高異型度癌とに亜分類されるべきである.後者は生長が早く,粘膜下浸潤能が高い.微小胃癌149個も,低異型度癌と高異型度癌とに分類された.その比率は腸型分化型癌で64:55,胃腺窩型癌で14:2,未分化型癌で10:4であった.微小胃癌でも,高異型度癌は高い粘膜下浸潤能,高い増殖細胞指数,増殖細胞のびまん性分布を示した.微小胃癌の時期で,既に胃癌はその自然史を異にするものがあることがわかった.

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要旨 患者は52歳の女性.1985年9月,47歳時に胃集団検診で異常を指摘され,当院を受診.精査の結果,体下部後壁のⅡc型早期胃癌と診断した.患者は癌の告知にもかかわらず手術を強く拒否した.その後,経時的に経過観察を施行.Ⅱc類似進行病変を経て,限局性の壁硬化が始まるまでに比較的緩徐に経過し,以後急速にlinitis plastica型胃癌へと進行した.上腹部痛および食欲不振を来し,患者は手術を希望.1990年5月11日,胃全摘および膵,脾合併切除術を施行した.本症例はretrospectiveな考察と異なり,初回検査時に胃癌の確診を得,linitis plastica型胃癌までの発育過程を経時的に捉えた点で興味あるものと考える.

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要旨 患者は66歳,男性.約6年前胃集検で異常を指摘され来院.胃角部前壁からの生検で癌が得られ,再生検でも癌陽性となった.しかし内視鏡像からは癌巣を確認できず,5か月後も同様の所見で,この時の生検では癌陰性であった.手術を勧めたが無症状のため拒否,結局癌の形態や範囲も明らかにされないまま放置された.初診から6年2か月後,貧血と下血のため入院.体下部から前庭部の前壁に大きなBorrmann2型病変を認め切除,深達度se,UI(-)の分化型癌であった.本例は,結果的には癌の自然史を観察しえたことになるが,初診時の内視鏡像の見直しでも癌の実態を捉えることができず,その初期像はUI(-),Ⅱb様の微小ないし小胃癌と推察された.

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要旨 患者は71歳,男性.当院において1978年5月(61歳時)から1983年11月までの5年間,胃体下部大彎の小隆起性病変を,腺腫として経過観察された.1983年時,内視鏡的切除が予定されたが,患者が未受診のまま5年間経過し,初回から10年経過した1988年4月再来院した.病変は形態学的に著明に変化,増大し,癌の診断で内視鏡的切除を試みたが完全切除しえず,開腹手術した.組織学的には粘膜固有層内にとどまるⅠ型早期癌であった.術後の再検討では,当初の内視鏡所見および生検組織像は腺腫と一致する所見であったが,3年後の1981年の時点では,生検組織像から癌が強く疑われた.臨床的には,極めてまれとされる腺腫の癌化と考えられたため,若干の文献的考察を加え報告した.

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要旨 患者は初回潰瘍の経過観察中,生検癌陽性のため手術を勧めたが拒否,全く消息を絶った.しかし10年6か月後手術を受けたことを偶然知り,術後遡及的に経過を探求した結果,その間2回上腹部検査を受けていたことが判明した.入手できた資料および手術材料の検討から,瘢痕を伴うⅡc型早期胃癌からBorrmann 3型胃癌に推移したと推測される1例であった.生検で癌陽性の瘢痕を伴うⅡc型早期癌から,抗癌剤などの治療をすることなくBorrmann 3型癌へ推移した症例で,10年以上にわたり画像的に経過を追及した例は極めてまれと思われるので報告した.

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要旨 64歳,男性,10年間にわたるⅡa型早期胃癌の発育過程の追跡例を報告した.最初は幽門前庭部に見えたごくわずかな小隆起性変化を手がかりに,逐年的にその変化を追及し,内視鏡所見と生検組織診断の両面からその経過を検討した.その結果,ひとつのⅡa型早期胃癌の発育変貌の過程をみることができた.経過の途中で,ときに内視鏡ならびに生検組織所見の不一致をみ,総合診断に迷いも生じたが,最後には生検で癌が確診され,胃切除が施行された.癌は深達度m,23×15mm,Ⅱa型分化型腺癌〔腺窩上皮(胃)型〕であった.切除後得られたⅡaの組織所見から逆行性に生検組織を見直すと,癌と本質的に同じ組織像が,既に初期の生検組織内にもみられた.このことから高度に分化した初期の腺窩上皮型の癌の生検診断は極めて困難である点を指摘した.Ⅱa型の経過の内視鏡像は,最初から極めて緩徐に増大したが7,8年を経て完成し,最後の1年以内で急激に大きさが増大した.以上の事実から,胃癌の中には,かなり長期間粘膜内に存在し,その発育は極めて緩慢であるが,ある時点で急激に大きさを変え,様相が変わるものもある,という意味での隆起性癌のひとつのnatural historyを示した.

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要旨 胃角部のⅡc(Ul-)(生検組織の見直しで癌陽性)から肝転移を有するBorrmann2型胃癌への発育が,4年8か月にわたり内視鏡およびX線検査で経過観察された症例を報告した.本症例は粘膜内にとどまるⅡcの段階ではほとんど形態変化を認めず,急速に形態の変化を示して進行癌に発育した.胃癌はある時点を過ぎると急速に進展すると考えられ,なかでも潰瘍を伴わない限局型胃癌は急速な発育を示すことが多い.本例は,胃癌が早期癌として肉眼的に認識されるようになってから潰瘍合併所見を認めないまま肝転移を伴った進行胃癌へ発育するまでのほぼ全過程が捉えられたまれな症例と考えられる.

今月の症例

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〔患者〕75歳,男性.

主訴:上腹部痛.

現病歴:6年前より,近医で胃潰瘍と診断され治療を受けていた.1983年7月,心窩部痛を覚え某医で胃X線検査および内視鏡検査を受け,手術を勧められた.1984年5月,本院外来を受診した.

Coffee Break

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 消化管腫瘍の性状や深達度診断に超音波内視鏡検査法(EUS)が有効であることは言うまでもない.特に粘膜下に拡がる病変の診断に対するEUSの威力には脱帽せざるをえないし,われわれが永年にわたって培ってきたX線や内視鏡診断基準を簡単に凌駕するものであり,その出現には脅威すら覚える.

 EUS器械も開発初期のものと比べると格段に向上しており,画質の向上も著しい.それでもまだ解像力には不満が残るし,器械も大きく重く,長時間検査するには大変な体力と根気が必要である.改良すべき点は少なくない.それでも若い消化器科医は新しい画像検査法を見事に修得しており,積極的に臨床検査に導入しようとする姿勢には共感を覚える.

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 癌研外科で切除した早期胃癌が1,000例以上に達した折に,どのように発表するか,早期胃癌1,000例という場合に,単発癌と多発癌を合わせて報告するか,単発癌だけで報告するかを検討した.単発・多発を含めると,種々の臨床データ(病変数,占拠部位,予後など)が複雑になるので,単発癌1,000例にすれば,症例数と各種因子の数値が一致して理解しやすいということから,単発癌1,000例について報告した.癌研の報告以後の他施設の報告がどのようになるか関心を持っていた.他の施設の報告は,単発と多発を含めたものであった.単発癌と多発癌との取り扱いは,国立がんセンターでは,995例について,多発癌の全病巣数を加えた1,084病巣について検討し,福井県立病院では,単発癌に多発癌の主病巣を加えた1,126例について,占拠部位,肉眼型,大きさなどを検討している.早期胃癌1,000例の報告といっても,単発癌と多発癌に関する取り扱いが,それぞれの施設によって異なっていることは,一応考慮する必要がある.なお癌研で単発,多発を含めて1,000例となった時期は1976年であった.

 早期胃癌1,000例に達した際に,各施設がどのように対応するかも関心事であった.癌研では,第16回日本消化器外科学会(1980)に発表後,すぐに論文として報告した(1981).横山胃腸科病院も,第42回日本臨床外科医学会(1981)に発表して,1984年創立77周年を迎えて「横山胃腸科病院の沿革と業績」を出版し,その中で,早期胃癌1,000例の詳細なデータを記載した.国立がんセンターは,1981年早期胃癌の肉眼形態の変貌を,病理が中心となって報告している.大阪成人病センターならびに愛知県がんセンターは早期胃癌の外科治療をそれぞれ1984年,1989年に論文として報告した.東京女子医科大学消化器病センターは,1983年11月22日早期胃癌1,000例達成の祝賀会を開催し,「早期胃癌1019例の報告」を作成し,参加者に配布した.札幌厚生病院は,早期胃癌1,000例の論文を作成中で,前田晃前院長よりの詳細なデータに基づいて表を作成した.福井県立病院では,山崎信院長が1987年福井県医学会での報告と共に「早期胃癌1,140例,臨床病理学的検討と遠隔成績,1963年1月―1986年12月」を1987年12月6日に作成し,詳細な分析をした.

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要旨 表面型早期大腸癌の特異性をみる目的で,K-ras遺伝子の異常を遺伝子産物の免疫染色とPCRを用いた点突然変異で検索し報告した.表面型大腸癌は腫瘍高を測定し,その高さでType ⅡAとⅡBに分け,それ以外の早期癌(Type Ⅰ)と分けて検討した.対象はいずれも分化型腺癌とした.結果は,免疫染色の反応陽性は腺腫で7/17(41%),typeⅠ 12/19(63%),TypeⅡA 4/10(40%),Type ⅡB 0/9,進行癌 5/11(45%)であり,K-ras codon 12における点突然変異率はそれぞれ,3/16(19%),7/16(44%),1/4(25%),0/8(0%),4/11(36%)であった.この結果から進行癌に至る経路にはras遺伝子の異常を伴わない発癌機序があることが類推された.また,Type ⅡB とした平坦陥凹型を呈する分化型腺癌例では全例,rasの異常を示した症例はなかった.

早期胃癌研究会

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 1991年11月度の早期胃癌研究会例会は,11月20日(水),吉田茂昭(国立療養所松戸病院内科)と牛尾恭輔(国立がんセンター放射線診断部)の司会で行われた.食道1例,胃2例,大腸2例,全消化管1例の計6例が提示され,活発な討議がなされた.

 〔第1例〕63歳,男性.食道の低分化腺癌(症例提示:名鉄病院消化器科 陳).

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 第42回日本消化器内視鏡学会総会(会長:東海大・三輪 剛教授)は,1991年11月25日から同27日まで横浜市みなとみらい21地区の国際会議場,ならびに展示ホールにおいて開催された.

 ハード面については会場の広大さと真新しさに圧倒された.JR線桜木町に近接する便利さもさることながら,動く歩道で進行中の近景,遠景の豊かなことからリフレッシュされながら会場に到着した.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の精密検査法

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1.一般的な注意点

 残胃癌は吻合部に頻度が高い.しかし,発見時既に進行癌であることが多く,通常の胃に比べ早期癌の発見頻度は低い.まず,早期癌のX線像を知ることが第一歩となろう.残胃の吻合部早期癌は,通常の胃におけるⅡaやⅡcの形態変化と基本的には同じである.しかし,その描出は実際にやってみれば実感できるが簡単にはいかない.隆起型では吻合口直上の変化や吻合部でよくみられる粘膜ひだの腫大との差を捉える必要がある.陥凹型では,アレア単位の描出が,①通常の胃でも難しいC領域に相当すること,②吻合部という狭く,曲面を形成する領域であること,③手術操作が加わっていることなどから極めて困難であり,Ⅱcを捉えにくい.

12.残胃癌 石川 勉
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1.残胃癌の精密検査時における特徴

 通常の胃X線検査と比較して,残胃における最も大きな特徴は解剖学的変化である.残胃のX線検査法については既に述べているので(胃と腸 26:112-113),今回は精密検査時に注意している点を述べる.

 残胃に癌が発見された場合には,通常,胃全摘出術が行われるので,部位・範囲診断に比べ,臨床的には深達度診断が最も重要である.一般的に,残胃癌精密検査時も通常胃のときと同じく,バリウムの付着を十分に行い,空気量を調節して撮影を行っており,通常の胃癌の場合と同じ診断基準を用いて,部位・範囲診断を行っている.

12.残胃癌 櫻井 俊弘
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 術後胃の検査は難しいと言われるが,それは術後胃という人為的な変化を受けた特殊な場に癌が出現したことがその一因であろう.術後胃の特徴を知ることが残胃癌の検査の向上に役立つと思われる.以下に残胃癌の検査

において困難となる条件とその対策について述べる.

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欧文目次

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Detection of an increased incidence of early gastric cancer in patients with metaplasia type Ⅲ who are closely followed up: Rokkas T, et al(Gut 32: 1110-1113, 1991)

 腸上皮化生は一般的に前癌状態と考えられているが良性,悪性両方の状態で認められる.しかし,最近の研究で悪性に分化する腸上皮化生が同定された.そこで今回,早期胃癌発見のマーカーとして腸上皮化生タイプⅢを同定することの有効性について検討した.

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Acute abdomen as the first presentation of pseudomembranous colitis: Triadafilopolous G, et al(Gastroenterology 101: 685-691, 1991)

 病床数400のカリフォルニアの某病院で,14か月間に88例のC. difficile(CD)感染例があったが,下痢(1日5回以上)がないか軽度で,腹部膨満,腹痛など急性腹症の症状を呈した偽膜性大腸炎6例を経験した.腹部単純X線像は巨大結腸2例,小腸大腸の拡張3例(うち1例は腸捻転様),イレウス類似の小腸拡張1例であった.コロノスコピーでは1例を除いてびまん性または分節性に偽膜を認めた.

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 よい本である.日本救急医学会が救急医学教育の標準化を目指して作った教科書というだけあって,まさに出色の出来栄えというべきであろう.

 本邦における救急医学は,学問的な体系づけがなされてまだ間もない新しい医学の分野である.救急医学を正式な講座としている大学もまだ十指に満たない.しかしその一方では,救急医学の重要性はよく認識されており,救急医学講座のない大学でも各科の中で断片的に救急医学の教育が行われている.ただしその効果は必ずしも十分とは言えない.

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 この本の著者ビリングス博士は,ボストンの下町で在宅を主とした進行癌患者の診療を行っており,またハーバード大学やマサチューセッツ総合病院専門家チームの一員でもある.その内科学の広い知識と患者の洞察から生み出され,実際的な具体策を丁寧に述べたこの本は,わが国で同じ志をもつ者にとって実に得難い,待望の指導書だと思う.また,著者に会いに行かれたという訳者の翻訳は,実に肌理細かく滑らかで,大変読みやすい.

 本書の構成は3部に分かれ,第1部「症状コントロール」では,進行癌患者によくみられる疼痛をはじめとした様々な症状の診断と治療について詳細に記している.しかし本書の重点は,第2部「心理的・社会的な援助」と第3部「在宅ホスピス」である.第2部は5章に分かれ,(1)「身体ケアの役割一在宅ホスピスに伴う問題点」では,ケアの主体が家族であることを明確にしている.(2)「安心感を得る」では,そのための臨床的アプローチに,①定期的に顔を合わせること,②常に一貫した接し方をし,信頼を得ること,などを挙げ,患者との交流は信頼と傾聴が基本であると述べている.

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 炎症性腸疾患(IBD)に関する書籍は多い.筆者が大腸疾患に取り組み始めた頃,Brooke and Stammers(1954),Bacon(1958)などのulcerative colitisを探し出して読んだのとは今昔の感がある.今や各出版社あるいは研究者は,IBDに関する成書の1つも出していないと沽券にかかわるとすら言えるほど花盛りである.

 類書が多い中で特徴を出すのは大変なことで,各著・編者が苦労されるだろう所である.本書は,1.病因と疫学(90頁),2.臨床(50頁),3.診断(50頁),4.予後(50頁),5.内科治療(180頁),6.外科治療(40頁),7.治療上の諸問題(70頁)から成り,治療,特に内科治療に力点が置かれているのはページ配分からも明らかである.

編集後記 磨伊 正義
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 本誌13巻1号で胃癌の発育経過が特集として取り上げられてから15年経過した.その間,各施設で胃癌の経時的変化を捉えた症例が多数集積され,胃癌の自然史が徐々に解明されつつある.

 一般的に,胃粘膜内に発生した1個の癌細胞が分裂増殖を繰り返し,生体を死に至らしめるまでには15年から20年という長い歳月を要することが癌生物学の研究から予測されており,臨床的に顕性癌としてわれわれが見ているのは後半の1/4の期間にすぎない.臨床的に発見可能な早期胃癌である期間もかなりの長さに及ぶことが諸家の研究で指摘されている.しかしながら,胃癌の増殖する過程は一様均一でなく,形態学的にも時間的にもその増殖態度には大きな個体差がみられる.また,早期癌から進行癌へ進展する時点,特に深部浸潤や転移が惹起される際に,癌細胞の増殖を加速する何らかの要因が関与していることが推測されているが,いまだ不明な点が多い.

基本情報

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胃と腸
27巻1号 (1992年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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