胃と腸 26巻5号 (1991年5月)

今月の主題 潰瘍性大腸炎の長期経過

序説

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 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis,以下UC)は,主として粘膜をおかし,しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のびまん性の非特異性炎症と定義されている.またUCは,活動期には大部分の症例で直腸から結腸に連続性,びまん性に粘膜および粘膜下層に,無数のびらんや潰瘍を生じる疾患である.粘血便が必発であり,直腸型以外では種々の程度の全身症状を示す.また,再発・再燃しやすい慢性の炎症性疾患で,30歳以下の成人に多いが,小児を含めあらゆる年齢層に起こりうる,とみなされる.

 私が最初にUCの患者に接したのは,20年前だった.全大腸炎型で1日8~10回の粘血便を訴える23歳の男性で,易出血性で数mmから1cm大の潰瘍が,無数にびまん性に認められ,恐怖心を持ったのを覚えている.だが,症例を多く経験し,それぞれの経過をみてゆくうちに,UCは内科的に十分にコントロールできること,症状と所見に波があり,季節の変わり目や,風邪などによって体調を崩した際に増悪するが,サラゾピリンとステロイドホルモンの増量によって十分に対処しうるという自信が,次第にできてきたように思える.

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要旨 潰瘍性大腸炎で10年以上の臨床経過をみた24例のX線所見の変化を調べた.発症年齢は30歳以上が18例75%を占めた.臨床経過から初回発作型9例,再燃緩解型13例,慢性持続型2例であった.10年以上の経過で再燃したのは3例のみであった.初回所見で罹患範囲・炎症性病変の程度から初回発作型と再燃緩解型の区別は困難であった.X線所見から罹患範囲の拡大は17%にみられた.初回所見から潰瘍の程度が高いほど,全大腸炎型であった.経過中に直腸に活動性所見を認めない区域性所見を33%に認めた.したがって,炎症の経過観察でも全大腸を検査する必要がある.

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要旨 潰瘍性大腸炎の長期経過中に生じる様々な変化のうち,特に腸管の形態的変化を中心に,短期群72例,中期群66例,そして長期群36例の病態を対比した.発症時の病変範囲が直腸炎型および左側大腸炎型のうち,炎症範囲が口側へ進展したのは短期群8.6%,中期群12.1%,長期群16.7%であり,ほとんどの症例では発症時に病変範囲が決定された.再発時には直腸よりもS状結腸以遠の深部腸管に著しい場合が41.7%にみられた.本症の活動領域は複雑であり,定期検査として直腸の内視鏡検査だけでは対応できない症例も少なくなかった.長期経過観察の過程で生じる腸管の変化として,腸管の短縮と狭小について検討した.短縮,狭小ともに高度な場合はなく,中等度ないし軽度の変形にとどまった.大腸の部位別にみると,これらの変形はS状結腸,横行結腸において著しく,直腸では軽微であった.経時的にみると,短縮は時間が経過するにつれて程度が進行するが,狭小は変化が少なかった.内視鏡的にみた緩解期の粘膜面の変化を検討したが,発症時の病変範囲,炎症の強さと持続期間に比例して,粘膜面に変化が残ることが確認された.

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要旨 日本人の潰瘍性大腸炎の長期予後を厚生省の研究班の集計でみると,薬物治療中の患者が41%,緩解中と受診していないものを合わせて54%,手術例0.6%,死亡例0.7%と全般的には良好である.内科治療上の問題点は厚生省研究班で規定した“難治例”をどのように治療していくかであり,これらの症例を緩解に導入し,また,導入するのが困難な症例は副腎皮質ホルモン投与量なども考慮して外科療法を考えていく.外科治療では病変をすべて切除して,肛門機能を温存する手術が主流となっている.これらの手術成績を向上させ,術後の肛門機能や,術後の合併症に対処して,長期予後を更に良くする必要がある.

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要旨 長期経過した潰瘍性大腸炎(UC)患者に対しdysplasiaの発見を目的とした内視鏡検査(surveillance colonofiberscopy:SCF)を行い大腸癌のリスクの評価を行った.1979年より1990年までに90例のUC患者に対し261回のSCFを行った.そのうち全大腸炎型63例(残存直腸型19例)から癌3,dysplasia:high-grade 2,low-grade 4,indefinite 9,左側型27例からlowgrade 1,indefinite 1例を認めた.indefiniteを含めたdysplasiaの合併頻度は22%であり欧米からの報告に匹敵した.癌3例はすべてDukes Aであり,術後の平均追跡は3年で生存中である.核DNA量の解析によりdysplasiaの診断精度は上昇した.UCに合併する癌,dysplasiaの早期発見にはSCFは有効と考えられた.

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要旨 1986年3月より1990年12月までの期間に,当科で経過を観察しえた小児発症の潰瘍性大腸炎10症例(発症時年齢11歳から14歳までの男子7名,女子3名,平均12.7歳)について臨床的検討を行った.発症の背景や病型,臨床経過などは成人型と大きな差はなく,予後に関しての違いは認めていない.しかしながら,治療効果は成人例のそれと比較して良好であり,特にステロイドホルモンに対する反応性は,慢性持続型症例を除いて比較的良好であった.また,再燃の契機としては,薬剤の中断などが多かった.以上より,ステロイド投与方法の工夫や患者指導などにより,予後因子を改善しうる余地があることが示唆された.

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 〔患者〕73歳,男性,1988年4月20日,21日に下血あり,近医入院,上部消化管X線検査で胃潰瘍を疑われ,当科に内視鏡検査を依頼され受診.近医でのX線フィルムを見直したところ,食道ⅠmからEiの境界部に粘膜不整像(矢印)を認めた(Fig.1).このため斜視型(GIF-XK10)を使用し内視鏡検査を施行した.

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要旨 患者は69歳,男性.盲腸に長径45mmの大型で卵形の有茎性のvillous tumorと考えられる腫瘍を認めた症例である.術後の組織学的診断では,villopapillary adenomaと診断され,細胞の偽重層が強いが,多形性,極性の乱れが少ないことから良悪性境界病変と考えられた.術前検査として,注腸X線検査と2回の内視鏡検査が行われたが,その検査所見にはかなりの差が認められた.3種類の検査にはそれぞれ異なった前処置が行われたが,この検査所見の差は,前処置の違いによることが想定された.回盲部の腫瘍は厚い粘液に覆われ,粘膜の洗浄が不十分な場合には,腫瘍の表面性状が正しく表現できないことがあると考えた.

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要旨 患者は59歳,男性.無症状だが胃潰瘍歴があり検査目的で来院.一般血液検査,CEAに異常なく,UGIで潰瘍の再発なし.便潜血反応(Latex法)が陽性のため大腸X線検査を実施した.S状結腸に中央に淡いバリウム斑を伴う,輪郭が不整な平盤状病変を認め,側面像では腸管辺縁の変形は軽微であった.内視鏡検査で隆起の起始部粘膜が正常なⅡa+Ⅱc型大腸癌と診断し手術した.病理所見は15×11mmの癌の粘膜下浸潤により形成されたⅡa+Ⅱc型sm癌で,隆起の起始部粘膜は正常だった.腺腫部分は認めず,高分化型腺癌で,1つのリンパ節に転移を認めた.小さいながらもリンパ節転移を伴った興味ある大腸早期癌と考え報告した.

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要旨 患者は63歳,女性.便潜血反応陽性で大腸精検希望にて受診.注腸および内視鏡で,S状結腸に表面に潰瘍を伴う粘膜下腫瘍を認め,S状結腸切除術を施行.摘出標本で1.6×1.4×1.4cm大の腫瘤を認め,割面では黄白色を示していた.病理学的に,S-100蛋白陽性であり,組織像も合わせ神経鞘腫と診断した.大腸神経鞘腫はまれであり,本邦報告例も,本例を含め22例であり,殊に直腸以外の結腸に発生するものは極めてまれであると思われたので報告した.

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要旨 幽門前庭部に梅毒に特徴的と言われている不整な潰瘍性病変を伴う第2期の胃梅毒の2例を経験した.この病変に加えて2例とも胃体部に大型びらん様の特異な胃粘膜斑が多数認められた.同病変の生検組織内に酵素抗体ABC法により梅毒スピロヘータが証明され,駆梅療法によりすみやかに消失したことより,胃体部の病変も梅毒の胃病変と確診された.この胃粘膜斑は,第2期梅毒の皮膚病変に類似しており,形態学的にも梅毒性皮疹の発生と同様の機序が胃粘膜にも生じていると考えられた.

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要旨 9か所の病巣を有する早期胃悪性リンパ腫を経験したので報告する.組織型はdiffuse small cleaved cell typeで深達度はsm,リンパ節への転移はなかった.この症例は臨床的にはⅡc型早期胃癌との,組織診断ではRLHおよび慢性胃炎との鑑別が問題となった.

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要旨 X線学的に5年間のさかのぼ及的検討ができた原発性空腸悪性リンパ腫の1例を経験し,その初期像,また発育進展に関して若干の知見を得たので報告した.腫瘍は腸管壁内に限局し,内腔に潰瘍や腫瘤を形成することもなく,全周性にびまん性の浸潤を呈し,腸管は著明な壁の肥厚と紡錘状拡張を来していた.組織学的には,non-Hodgkin lymphoma,diffuse,small cell type,well differentiated,B cell typeであった.さかのぼ及的検討から,本症例においては,腫瘍は腸管の長軸方向にびまん性に発育・進展し,腸管の紡錘状拡張を生じたものと考えられた.また小腸悪性リンパ腫のX線の初期像の1つとして,①病巣辺縁部の2~3mm大の顆粒の集簇,②区域性に認められるKerckringひだのわずかな腫大が重要な所見と考えられた.

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要旨 下部直腸の顆粒細胞腫(granular cell tumor)の1例を報告した.患者は43歳,男性で主訴は血便と下腹痛.X線,内視鏡検査で直腸下部後壁の粘膜下腫瘍と診断され,外科的に経肛門的局所切除が施行された.腫瘍は最大径15mmで割面は白色であった.病理組織学的にはH・E染色で胞体内に顆粒を認め,免疫組織染色でS-100蛋白陽性,desmin陰性であった.

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要旨 患者は52歳,男性.1か月半前に突然,上腹部痛・嘔吐を来し近医を受診したところ,腹部腫瘤を指摘された.膵ホルモンを含む血液検査には著変を認めなかった.上部消化管X線およびERCPで十二指腸脚の開大,総胆管・主膵管の圧排を認めた.US,CT,MRIおよび血管造影ではhypovascularな多房性囊胞性腫瘍として描出された.膵solid and cystic tumorの術前診断で,膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘍は14×12×8cm大で,割面では腫瘍内に著明な出血・壊死を認めた.組織学的にはS-100蛋白に陽性の紡錘形細胞よりなる神経鞘腫であった.膵神経鞘腫は,膵囊胞性疾患の鑑別診断の1つとして念頭に置く必要がある.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の精密検査法

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 はじめに

 X線的な微細病変の描出にはいろいろな因子が関与している.基本的な因子には,①被写体,②X線装置の性能(感材系も含めて),③造影剤や空気の質,④撮影手技がある.それぞれの因子が複雑に絡み合う.ここでは,それらの中で,①被写体と④撮影手技の関係から生じる問題点を取り上げてみることにする.①の被写体因子は更に(a)胃内容液の質や量,(b)体型や胃の形,(c)病変の部位,大きさ,形,(d)年齢や既往疾患などの因子に分けられる.まず,(a)胃内容液の質や量は,造影剤の粘膜面への付着状態の良し悪しを左右し,微細病変描出に大きく影響を与える因子の1つである.これは,被写体因子の中でも撮影手技以前の共通した前処置の問題でもある.したがって,撮影手技の難易に影響を与える被写体因子は通常,(b)の体型や胃の形と,(c)の病変の部位,形,大きさということになる.特に,(b)の体型や胃の形の中では,肥満体の胃や瀑状胃あるいは下垂胃がよく問題になる.これらは,(c)の病変の部位よっては病変描出が手技的に難しくなるからである.一般に,肥満体の胃や瀑状胃では前壁二重造影(腹臥位),下垂胃では小腸陰影と重なりやすい体部小彎から後壁を中心とした二重造影や圧迫検査が問題となろう.

 以上のようなことから,ここでは精密検査の立場から①前処置,②肥満体の胃や瀑状胃の前壁二重造影,③下垂胃の後壁二重造影と圧迫検査について,経験的な事柄を述べることにする.

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 患者の体型が肥満型になると,胃は牛角形を呈し,やせ型になると胃は下垂してくることが多く,下垂胃に比べると,牛角形胃のほうが検査しづらい.

 また,胃の形状で問題になるものとして,まず瀑状胃が挙げられるが,むしろ幽門部が屈曲した胃のほうが検査に苦労することが多い.なお,腹部手術後の癒着や,他臓器の腫大や腫瘤による圧排のための変形は,個々の症例で変形の仕方が異なるので,ここでは省略する.

早期胃癌研究会

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 1991年3月度の早期胃癌研究会は,3月20日,西澤(東京都がん検診センター),小平(慶応義塾大学外科)の司会で開催された.

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欧文目次

書評「食道癌の外科」 秋山 洋
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 本書は食道外科の権威として知られる久留米大学第1外科・掛川暉夫教授が,教室の優れた食道班の方々とともに上梓されたものである.

 掛川教授は慶応義塾大学外科学教室在任以来,今日に至るまで,終始一貫して食道癌の臨床的,基礎的研究に取り組んでこられたが,本書は特に久留米大学における卓越した業績を結実させたものである.

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 本書は,癌患者のホスピスケアに先進的に取り組んできた2つの施設の医師とナースによって書かれた,癌患者のケアについてのマニュアルである.書名になっている,癌患者の症状のコントロールのしかた(第2章)には全ページ数の約3/4が割かれていて,わかりやすく,具体的な症状緩和の方法が示されているが,その他の章(第1章癌患者のみかた,第3章癌患者の在宅ケア,第4章家族のケア)の内容も大変素晴らしい.

 第1章では,全人的ケアの真髄を簡潔に述べると共に,ここ数年間話題になっている医療従事者の側の精神衛生について原因と予防対策を示している.第2章では,癌患者の種々の症状について,コントロールするうえでの基本原則は「患者の自覚症状の軽減を第1に考えること」であることが繰り返し述べられている.第3章の在宅ケアについては,その現状と展望が,第4章の家族のケアについても,医師やナース,MSWの取るべき態度が示されている.

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 だいぶ以前のこと,手術術式と手術体位について調査したことがあった.同一疾患に対する術式も手術書によって異なり,また体位も微妙に相違がみられていた.その結果,手術患者の管理にあずかる術者,麻酔医,看護婦のいずれが手術患者の体位を決定すべきかと真剣に悩み,あるいは手術患者の安全性のために術者は術式を変更すべきであるとさえ考えたことがあった.しかし,患者に与える手術体位の影響を総合的に記載した適切な書物を見ることができなかった.このような意味から本書が,今日,単行書として紹介されたことは意義が深い.

 本書の特徴を挙げることは極めて容易であり,その一部を披露する.

編集後記 飯田 三雄
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 本号と次号の2号にわたって潰瘍性大腸炎とCrohn病の長期経過が主題として取り上げられる.当初の企画では両疾患を一括して"炎症性腸疾患の長期経過"として取り扱う意見もあったが,病因はともかく全く別個の疾患であるので2号に分けて編集することになった.

 潰瘍性大腸炎は直腸から始まって漸次口側に進展していくと成書には記載されているが,実際の臨床では病変の口側への進展はそれほど高率に観察されるものではなく,直腸よりもむしろ口側結腸のほうが強い活動性を示す症例も散見される.また発症から10年以上の長期経過例では,再発・再燃に対する管理よりも大腸癌合併の監視が重要な課題となる.本号はこれらの問題を中心に,本症の長期経過が論じられている.

基本情報

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胃と腸
26巻5号 (1991年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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