胃と腸 23巻8号 (1988年8月)

今月の主題 小さな膵癌―小病変の鑑別診断をめぐって

序説

小さな膵癌 中澤 三郎
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 膵悪性腫瘍訂正死亡率(人口10万対)を年次的にみると,本邦における男性では1950年が0.8であったのが1985年には5.2と,35年間に6.5倍と増加し,女性でも0.5から3.5と7倍に増加している.これは,気管(支)および肺癌死亡率と同様の増加率を示しており,胃癌が次第に減少しているのと全く対照的である.

 この急激な上昇の原因に,飲酒,喫煙,食生活の変化が取り上げられ,いろいろ予防対策が工夫されている.癌撲滅を目指すものとしてはまず,何よりも癌発生の予防に努めることが大切である.

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要旨 膵炎症状を初発とした小膵癌の1例を経験した.患者は59歳,女性.主訴は心窩部痛.血清・尿アミラーゼの軽度上昇と,USでは膵管の軽度拡張を認めた.ERCPでは膵頭部主膵管に長さ約5mmの狭窄像があり,その尾側膵管は軽度拡張していた.狭窄部の所見より膵頭部癌と診断,膵頭十二指腸切除術を施行.病理学的には膵頭部の7×6×5mmの中等度分化型管状腺癌であった.膵癌の早期診断,小膵癌の発見のためには,随伴性膵炎症状やそれに伴うアミラーゼの上昇を捉え,積極的にUS,ERCPを施行することが重要であると考えられた.

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要旨 膵頭部膵管一次分枝に発生した膵管内乳頭腺腫の一部に乳頭腺癌を含む症例を経験した.患者は52歳,女性.1986年5月当院人間ドック受診し,腹部超音波断層法(US)で膵頭部の腫瘤と主膵管の拡張を指摘され,当科に入院した.内視鏡的超音波断層法(EUS)および内視鏡的逆行性胆膵管造影法(ERCP)で嚢胞状に拡張した膵頭部膵管一次分枝内に充実性の腫瘤を認めた.親子方式経口的膵管内視鏡検査(PPS)で膵管一次分枝内に乳頭状に発育した有茎性の腫瘍が観察され,直視下生検で乳頭腺癌と診断された.膵頭十二指腸切除術による病理組織学的検索では,腫瘍の大部分は膵管内乳頭腺腫であったが,一部にはsevere dysplasiaが認められ,更に一部は高分化型乳頭腺癌の組織像を呈した.本例は膵管内乳頭腺腫の癌化を示唆する極めて興味ある症例である.

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要旨 一過性の左季肋部痛と血清アミラーゼの上昇を契機にERCPを施行し,内視鏡的膵管生検により術前診断された,主膵管内に限局する径5mmの微小な膵頭部癌の1切除例を経験した.患者は63歳,女性で,CEA,CA19-9は正常,超音波検査,CTで体部主膵管の軽度の拡張を認めた.ERCPでは主膵管内に類円形の透亮像が描出され,内視鏡的膵管生検で組織学的に癌と診断された.血管造影では癌の所見を認めなかった.癌は主膵管内で乳頭状に発育し,組織学的には低分化型腺癌と考えられた.また,主病巣と離れた膵管にも異型上皮がみられ,多中心性の癌発生を否定できなかった.本症例の概要と共に,膵癌早期診断の手法について若干の文献的考察を加え報告した.

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要旨 3年以上の長期生存の得られた腫瘍径1cm以下の小膵癌の1例を報告した.腫瘍の拾い上げには腹部超音波検査が有効であった.腫瘍の存在診断,鑑別診断にはERCPと超音波内視鏡が極めて有用で,小膵癌の診断はこの3つの診断法を中心に展開すべきものと考えられた.また,自験の小膵癌例の分析から,膵癌,特に小膵癌は3つの型,充実型,囊胞型,管内型に分類されることが判明した.早期診断には,これら各々の型に合った診断法を適宜選択すべきであると考えられた.

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要旨 患者は52歳,女性.急性膵炎で入院.症状回復の後に施行したERCPで,頭部主膵管内に長径3mmの半球状の隆起性病変を発見.その部の内視鏡的膵生検(endoscopic pancreatic biopsy;以下EPBと略す)により乳頭腺腫と診断した.ERCPを主体に経過観察を行ったところ,15か月後のERCP所見で,前病変は長径が5.5mmと明らかな増大を示し,この時点で再度行った同部のEPBで乳頭腺癌の診断を得たので,外科的切除術を行った.このような小膵癌の発見はまれであり,その診断におけるEPBの有用性を指摘すると共に,乳頭腺癌の成り立ちにつき考察を加え報告した.

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要旨 膵管内に限局した10mmの膵体部癌を経験したので報告した.患者は49歳の男性で,下痢,体重減少を主訴として入院した.入院時の血液検査成績でGOT,GPT,LAPの軽度上昇がみられたが,膵酵素,腫瘍マーカーは正常範囲であった.US,CTでも膵に異常は認めず,上部,下部消化管の検査でも明らかな病変は認められなかった.症状が持続するためERCPを施行し,体部主膵管に不整な狭窄を認め,その尾側膵管も数珠状に拡張していた.血管造影では明らかなencasementはみられなかったが,膵管像から膵癌が強く疑われたため,膵体尾部切除術を行った.組織学的検索で,主膵管およびその分枝に限局した高分化型腺癌が認められた.

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 〔患者〕55歳,男性.高血圧で近医入院中,自覚症状は特になかったが,便潜血反応陽性のため大腸内視鏡検査を施行.S状結腸に小発赤と出血を認め,精査治療目的にて当科入院.

 〔大腸内視鏡所見〕通常のS状結腸内視鏡(CF-10L,Olympus)では,肛門縁より50cmの部位に発赤を認めたが,正面視しえず全貌を明らかにできなかった(Fig.1a).そこで現在用いていない胃用側視鏡(GF-B4,Olympus)を用いて観察した.病変は辺縁がやや盛り上がり,その内側はわずかに陥凹し,まだらな発赤調を示し,胃癌で言うⅡa+Ⅱc様の所見を呈した(Fig.1b).インジゴカルミン散布像では病変と周辺健常部との粘膜性状の相違が明らかになった(Fig.1c).送気を減ずることにより病変とHaustraとの高さの差が減少し,病変辺縁の隆起が目立たなくなった(Fig.1d).同時に実施した生検組織の病理診断は高分化腺癌であった.

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要旨 下血を繰り返した27歳男性例である.小腸X線,内視鏡検査で,Treitz靱帯から35cmの部に3.5×3×3.5cmの腫瘤を発見し手術を行った.切除標本の肉眼所見で,腫瘤は基部を正常粘膜で覆われた粘膜下腫瘍様であるが,頂部は粗大結節状で上皮性腫瘍を思わせた.組織像では,表層部は小腸粘膜,胃腺窩,Brunner腺上皮などから成る腺成分の増生と,その間に入り込んだ平滑筋成分の増生が目立ち,基部では平滑筋細胞のmonotonousな増生が主体で,これらが一体となって1つの腫瘤を形成していた.従来の報告例で本例を明確に説明しうるものはみられず診断に窮したが,病理組織学的特徴からWoodの報告したadenoleiomyomatous hamartomaの一型と考えられた.

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要旨 特異な形態のⅡc型早期胃癌を報告した.31歳,女性.人間ドックを受診し,胃X線検査で異常を指摘された.胃X線精密検査および内視鏡検査により前庭部前壁に大彎側に開いたU字形の線状陥凹を認め,開いたそれぞれの先端に小陥凹をみた.U字形陥凹内の粘膜は近傍の粘膜と粘膜模様,高さに差を認めなかった.病理学的に病変は13×11mm,深達度m,低分化腺癌であり,U字形陥凹内の粘膜は再生上皮ではなく,幽門腺粘膜より成り,癌は認められなかった.

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要旨 患者は胃幽門前庭部の結節性病変を指摘され入院した33歳の男性である.入院時胃透視にて結節性病変を認め,小彎側胃角から幽門輪を中心に“けば立ち”様所見がみられた.内視鏡検査では,病変は幽門部に限局しており,病変の表面は平滑で,びらん,潰瘍は認めなかった.大きさは不同で,径約1~2cmであった.生検組織診では腺窩上皮の過形成を認めるのみであり,非上皮性腫瘍が強く疑われた.1986年7月8日手術を施行した.新鮮切除標本では,病変の表面は粘液分泌を示しており,幽門前庭部に密に存在していた.割面では粘膜は肥厚していたが,固有胃腺は正常であった.以上により本症例は,1973年Mingが提唱したhyperplastic gastropathyと考えられた.

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要旨 特発性内胆汁棲のうち,胆囊胃瘻はまれである.われわれは,陳旧性の胆囊胃瘻に比較的早い時期の胆囊癌が併存していた興味ある1例を経験した.患者は72歳,男性.健康診断の胃X線検査で異常を指摘され,精査の結果,胆囊胃瘻と診断された.胆囊底部と胃前庭部前壁が強固に癒着しており瘻孔を形成していた.胆囊摘出および胆囊胃瘻部の胃部分切除が施行された.病理組織学的検索で胃粘膜に接して胆囊胃瘻胆囊側に肉眼診断が困難な平坦な胆囊癌が認められた.胆囊癌は1か所で筋層をわずかに越えていた.既往歴より胆囊胃瘻は約30年前に発生したと考えられ,組織学的にも陳旧性のものであった.胆囊癌の発生を考えるうえで貴重な症例である.

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要旨 患者は58歳,男性.28年前(31歳時)十二指腸潰瘍で胃切除術,Billroth Ⅱ法再建術(結腸前,Brown吻合なし)を受けている.健診の目的で受診し,胃透視と胃内視鏡検査にて残胃吻合部に吻合部ポリープ状肥厚性胃炎(GCP)とⅠ型早期胃癌を見出し,残胃亜全摘術を施行した.病理組織学的には胃空腸吻合部前壁にⅠ型早期の高分化管状腺癌を認め,吻合部の肥厚性病変の部位は胃腺窩上皮の延長と過形成,偽幽門腺の増生,腺の囊胞状拡張,腺の粘膜下侵入といったGCPの特徴を有している.

早期胃癌研究会

1988年6月の例会から 丸山 雅一
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 6月の早期胃癌研究会は,6月15日(水)に開催された.当番司会は八尾(福岡大学筑紫病院内科)が担当し,胃3例,大腸3例が検討された.

 〔第1例〕48歳,男性,線状潰瘍の末端に発見されたⅡc型早期胃癌(症例提供:福井県立病院内科 細川).

胃と腸カンファレンス

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症例の概要 患者:71歳,女性.現病歴:1982年秋より上腹部不快感あり.体重減少2kg.1983年3月4日,他院の胃X線検査にて胃癌と診断され,3月30日癌研病院外来受診,4月19日入院となる.入院中の胃X線検査および内視鏡検査の所見による術前診断は,胃悪性リンパ腫であった.生検診断では悪性リンパ腫も疑われたが,確診が得られず外科的治療に踏み切った.5月2日,胃切除術が施行された.術後病理報告:gastric ulcers;1) gastric ulcer,Ul-Ⅲ,M-Post.with marked lymphoid hyperplasia,2) gastric ulcer,Ul-Ⅲs,C-Post.

 以下の点につき御検討ください.①術前のX線,内視鏡所見からは,どう診断すべきでしょうか.②病理組織学的に,悪性リンパ腫でないとすれば,RLH様の病変であるのか,あるいは特殊な潰瘍と考えるべきでしょうか.

初心者講座 食道検査法・8

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はじめに

 食道では早期癌はmmまでのものにし,sm癌は除外したほうがよいとする意見がいまや大勢を占めつつある.X線診断の側としてもsm癌の診断にばかりこだわっていると,そうした趨勢に立ち遅れてしまうことになる.そこで,本稿ではep癌だけを取り上げることにして,X線でどこまで表せるか,その現状と限界について述べる.

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欧文目次

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 X線撮影だけが生体の形態学的,機能的情報を描写する検査法であった時代から核医学,超音波,CT,MRIなど方法が多様化し,診断の精度が向上し,放射線診断学から発展的に画像診断学と総称され,臨床医学の中で大きな位置を占めるようになったことは今さら言うまでもないことである.放射線治療も同様に高エネルギー放射線が普遍的に用いられ,成績が向上し悪性腫瘍治療の重要な方法の1つとなった.更に,手術,化学療法,温熱療法などの組み合わせにより,一層よい生存率が得られているのが現状である.単に放射線の生体内線量分布を的確にするばかりでなく,腫瘍の組織学的特徴,発生部位,大きさ,進展度などについての十分な知識を持ったうえで,各種の治療法を適正に組み合わさなければよい成果が挙げられないので放射線腫瘍学と名を変えた.そのうえ,診断も治療も非常な早さで技術が進歩し続ける.このような時代に良い教科書を作ることは大変難しいことと言わざるを得ない.

 その観点から教科書のあるべき姿を考えてみると,診断なり,治療なりの技術のそれぞれについて正しく,わかりやすい説明と,人体の構造と機能および病態を画像学的に鮮明に,しかも,できれば三次元的に捉え,それを基本に病的パターンの解析から正ししい診断を下す方法が示されるべきである.

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 最近突然長逝された砂原先生,結核・リハビリテーション・臨床薬理学・医学医療論と3~4人分もの優れたお仕事をなさってこられた砂原先生の臨床医学研究論の新著,それも240ページの内容の充実した本である.

 実は砂原先生が研究に関する本の執筆を思い立たれ,医学書院に声をかけられたということを洩れうけたまわったのは昨年の半ば頃であった.私などの常識では本の企画から刊行までは2~3年かかるのが普通なので,今年の1月半ばに届けられたこの本を手にしたときには本当にもうできたのかと目を疑うような感じであった.このような短日月で書き上げられたというのも,後進に正しい臨床医学研究の道を指し示そうという先生の情熱の強さを物語っていよう.

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 Specialist investigation of obscure gastrointestinal bleeding; Thompson JN, et al (Gut 28: 47-51, 1987)

 消化管出血例のうち,およそ5%は通常の検査では出血源を確定しえず,しばしば広範な検索が行われたり,更には診断不明のまま開腹されることさえある.著者らは,6年間に経験した出血源不明例131例の臨床像,施行された検査,手術および病理所見について再調査した.106例は反復する出血の原因検索のために検査され,25例は急性出血に対する緊急検査例であった.主な症状は,下血55例,貧血35例,直腸出血34例,吐血6例,人工肛門出血1例だった.当院に入院する以前の消化管出血での平均入院回数は2回で,26例は既に消化管出血に対して手術がなされていた.当院では78例に手術がなされた.手術例の手術回数(中央値)は6回であった。出血源であった病変は,大腸angiodys-plasia52例(40%),小腸血管奇形16例(12%),メッケル憩室9例(7%),小腸筋原性腫瘍7例(5.5%),胃血管奇形4例(3%),慢性膵炎3例(2%),大腸憩室症3例(2%),その他16例(12.5%)であった.残る21例(16%)の出血源は依然不明のままであった.

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 Which peptic ulcer patients bleed?: Matthewson K, et al (Gut 29: 70-74,1988)

 出血は消化性潰瘍の致命的合併症の1つであるが,どのような患者が疼痛よりも出血で発症するのかはわかっていない.著者らは出血で発症した消化性潰瘍患者の背景因子を探る目的で,1984年9月から1986年10月の間に2つの施設で,緊急内視鏡が行われ,出血で発症した139名の患者群(以下B群)と,疼痛を主訴に来院し,通常の内視鏡検査で潰瘍が発見された74名の患者群(以下P群)との臨床像を,prospectiveな調査で比較した.

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編集後記 小越 和栄
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 ERCPが臨床診断に使用され始めたころは,これで小膵癌が多く見つかるだろうとの期待が大きかった.しかし,実際はなかなか早期の癌は発見されず,他の消化管の癌の早期診断や病態の解明の進歩とは大きく掛け離れてしまった.

 しかし,数は少ないが1cm以下の小さな,しかも早期と思われる膵癌症例もポツポツと見つかっているのも事実である,今回はこの数の少ない膵癌を集め,1例ずつディスカッションすることにより膵癌の初期像,その進展形式,診断能およびその可能性などに迫りたいと考えた.

基本情報

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胃と腸
23巻8号 (1988年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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