胃と腸 23巻7号 (1988年7月)

今月の主題 微小胃癌診断―10年の進歩

序説

微小胃癌診断―10年の進歩 白壁 彦夫
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Ⅰ.10年間という期間

 10年を一区切りとしてみると,というテーマである.1か月,1年間の成績を,まとめる仕事とは,わけが違う.機械の進歩にだけ依存し,その経験の発表を研究だとする人には無縁なテーマである.雑誌編集にだけ専念し,本読みで顔役的演技を続ける人には通用しないことでもある.長年にわたり,探し出そうという執念の人こそが,また,そんな診断の集積を持つところこそが,物することができる話題である.

 あとでも述べるが,早期胃癌診断の進歩の歴史を振り返ると,1cmの壁を破るのに約10年かかっている.10年とは,そんな受けとめ方をしなくてはならない期間なのである.

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要旨 陥凹型の早期胃癌141例,163病変について,同一症例にルーチンX線診断と精密X線診断を行い比較検討した.病変の大きいものほどルーチン診断は容易であり,20mm以下になると20%以上の診断不能例がみられた.19例22病変の微小癌では50%が診断不能であった.微小癌のX線像と切除標本との対比は術後X線像でないと難しく,X線上対象になるのは切除標本で肉眼的に陥凹として認識される範囲にとどまると思われた.

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要旨 癌巣の大きさが5mm以下の微小胃癌277病変を対象として,臨床的発見の難易さおよびX線的発見の指標を検討した.①臨床的発見頻度は9.4%(26病変)で,微小胃癌のほとんどは詳細な組織学的検索(全割標本)による発見である.②肉眼ならびに臨床的発見の難易さは,組織割面形態と癌巣の大きさに左右されるが,癌巣の大きさが3mm以下(特に1~2mm)では組織割面形態とは無関係に発見は困難である.③X線的に発見するためには,透視下の観察と撮影を併用し,小さなニッシェや透亮像および局所的な胃小区の粗大化の所見を見落とさないようにし,大小彎側に存在する病変では側面像で胃辺縁の異常を丹念に探す必要がある.

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要旨 術前に診断されたか,または切除標本で肉眼的に識別可能な微小胃癌51病変を対象として病理学的特徴像と診断の実状を分析し,それに基づき微小胃癌発見のための指標を考察した.①微小胃癌で悪性を疑わせる像は,小区1個単位における段差と細りであり,この所見が隣接する小区間で融合し明瞭な悪性像となる.②ルーチンX線検査による拾い上げ診断能は術前で32%,見直しで約60%であった.③精密X線検査では全病変がほぼ肉眼像に近い形で描出できたが,肉眼像よりむしろX線像のほうが悪性像を読みやすい病変があった.この最大の原因は再生上皮の影響と考えられた.④X線検査で微小癌を見つけるには小区像の読める二重造影像を撮ることが基本であり,小区1個単位の綿密な読影が必要である.

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要旨 微小胃癌の内視鏡診断について,内視鏡所見と切除胃標本の肉眼所見および組織所見を対比し,小胃癌の所見とも合わせて検討した.微小胃癌64病変中27病変(42.2%),小胃癌73病変中55病変(75.3%)を内視鏡および生検で術前に診断しえた.術前に診断しえた微小胃癌の40.7%は,切除標本で肉眼的に確認できず,微小胃癌全体では59.4%が確認できなかった.径3mm以下の微小胃癌の術前診断率は41%,3超~5mmでは44%であったが,3超~5mmになるとⅡb型を除き注意深い観察で診断は可能と思われた.術前に診断した小胃癌では切除標本上,ほとんど肉眼的に観察できたが,小胃癌全体では8.2%が肉眼的に確認できなかった.Ⅱa型微小胃癌の内視鏡所見は軽度の広基性隆起で,表面平滑で白色調のものが多く,小胃癌になると平盤状や半球状となり,表面に不規則な顆粒状凹凸やびらんを伴うことが多くなる.Ⅱc型では不整な陥凹の辺縁に,粗大顆粒状の凹凸を有する隆起を伴う所見が分化型癌の特徴と言えた。皺襞集中はないかあっても軽度で,小胃癌になると辺縁不整や辺縁隆起がより明瞭となり,陥凹面にも凹凸が認められることが多くなる.微小胃癌の内視鏡像と切除標本の肉眼所見は,おおむね対応するものであった.

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要旨 5mm以下の微小胃癌の診断は癌の周りの反応性変化による盛り上がり(周堤)の有無によってかなり異なる.特に4mm以下のものでは周堤のないものは発見しにくい.分化型癌のほうが未分化癌より周堤(+)のものが多く発見しやすい.未分化癌の中でも胃底腺領域の微小m癌は診断が難しい.内視鏡によるpickupの限界は3mm,その極限は2mmと考えられる.

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要旨 この10年間における微小胃癌の内視鏡診断の実態について考察し,自験例の解析から内視鏡所見,診断のための対策などについて検討した.この期間に,微小癌の内視鏡診断に進歩をもたらしたものとして色素法(特にコントラスト法)を挙げることができる.本法はX線,通常内視鏡に比べて,存在診断,質的診断ともに優れる.切除早期癌に占める微小癌の頻度は,通常内視鏡で診断している施設では2%以下が多いが,色素法を繁用している施設では4%以上である.微小癌は良性びらんやポリープとは異なった形態的特徴を持っている.また,その診断に際して,胃粘膜の萎縮パターン,病変周囲の粘膜性状など,病変以外の所見も考慮する.微小癌発見のためのコツは,色素法などで発見しやすい条件を作って,入念に観察する以外にはなさそうである.

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要旨 超微小胃癌の観察から胃癌の組織発生の問題を再考した.腺管を形成する胃癌の発生母地について考察するために,顕微鏡的検索で偶然発見された0.3~3.0mm,平均1.5mm径の超微小管状腺癌(supermicrocarcinoma;SMC)47病巣と,癌を疑うが確診できない0.2~2.0mm,平均0.8mm径の超微小異型腺管巣(仮称Tub-X)38病巣について,その周囲粘膜の性状を検討した.両者の周囲粘膜の性状は酷似しており,SMC,Tub-Xの周囲粘膜の性状から,最も頻度の高い管状腺癌の発生母地は,胃固有腺が残存している粘膜で,細胞増殖帯が完成度の低い非定型腸上皮化生を産生している状態か,いまだに腸上皮化生が生じていない萎縮した粘膜と考えられた.腸上皮化生は腺管腺癌の発生に絶対的な必要条件ではないと結論された.腺管を形成しない癌の組織発生を検討し印環細胞癌の多くは萎縮のない,あるいは軽い胃粘膜の腺頸部増殖帯に発生すると考えられた.また,高分化管状腺癌と印環細胞癌が共存する微小癌を完全連続切片標本で観察し,印環細胞癌の発生モデルを提示し,同時に胃癌の形態的多様性について具体的に示した.観察結果を総合して次のように結論した.①胃癌は,どのような状況の胃粘膜からも発生する.②胃癌は細胞増殖帯の癌化によって,多くの場合,芽出発生(budding)する.腺管を形成する癌は多数の癌細胞が連結して芽出し,腺管を形成しない癌は単数あるいは少数の細胞で芽出する.③萎縮のない粘膜に発生する胃癌は腺管を形成しにくく,萎縮した粘膜に発生する癌は腺管を形成しやすい.④胃癌の組織形態は周囲の胃粘膜と連関して,多分に可変的である.

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要旨 ほとんどすべて臨床的に見出された直径2cm以下の早期胃癌112例について,胃粘膜領域別に,組織型と周辺粘膜の腸上皮化生との関連を中心に検索し,癌の組織発生について考察した.胃底腺領域では,未分化型癌は腸上皮化生のない胃底腺を発生母地としていた.また,分化型癌の大部分では,軽度の腸上皮化生を伴う胃底腺から発生していた.未分化型癌と分化型癌の頻度はほぼ同じであった.中間帯では,未分化型癌は腸上皮化生を有しないか化生が軽度の粘膜を発生母地としていた.また,分化型癌の背景粘膜は腸上皮化生を中等度以上示すことが多かった.幽門腺領域では大部分の背景粘膜に中等度以上の腸上皮化生がみられたが,未分化型癌では一定の傾向はなかった.幽門輪から2cm以内の癌の大部分は,腸上皮化生の有無に関係なく,分化型癌であった.これらの検索から,未分化型癌は固有胃腺から,分化型癌は化生腸上皮から発生するという胃癌の組織発生の鳥瞰的概念は修正を必要とすべきことがわかった.

今月の症例

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 噴門部病変の診断には,存在診断,質的診断,食道側への浸潤の有無,その程度の診断が必要である.噴門部病変のX線診断には,病変の存在部位によって最もよく描写される撮影体位がある.本症例で撮影体位と病変の描写能を,また内視鏡検査で観察方向について述べてみる.

 〔患者〕71歳,男性で1987年1月腹痛を訴え来院,同年3月9日手術.

Coffee Break

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 M. C.エッシャー的視角でみれば,潰瘍の研究史は大小多様な神話が創られては潰えた歴史でもある.この数年のこととしてみても,数ある中で殊に重要な神話の2つが崩壊した,と思う.

 その1は“no acid, no ulcer”である.潰瘍の発生に塩酸が主要な,あるいは重要な役割を演じているという考えは広く支持されてきた.塩酸説,酸・ペプシン説はもとより,他の発生説においても塩酸は重要な役割を担っている.いわゆる天秤説における攻撃諸因子中の主役も塩酸である.消化性潰瘍という病名が百年以上にもわたって用いられてきたのも同じ理由からである.しかし一方では,低酸,無酸の潰瘍が少なくないことを根拠として,塩酸を潰瘍発生の主役とすることへの疑問もまた根強く存在したが,最近,H2 blocker剤の出現によって,胃液中塩酸のコントロールがほぼ完全に可能となったにもかかわらず,それを以てしても,再発を含む潰瘍の自然史を変えることができないという事態が明らかとなるに及んで,上記の神話はほとんど崩壊したと言ってよいのである.

早期胃癌研究会

1988年5月の例会から 牛尾 恭輔
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 5月の早期胃癌研究会(司会,並木正義)は,18日に開催され,胃3例,大腸3例が呈示された.

 〔第1例〕65歳,女性,残胃の若年性ポリポーシス(症例提供:九州大学第2内科 松井).

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 編集室から学会印象記を執筆するよう依頼され,勤務医である私ははたと困ってしまった.大学に籍を置く身であれば3日も4日間も病院を留守にすることはできても,第一線の市中病院に勤務する者にとって,3日間の学会会期すべてに参加することはまずできないからである.それだけに多忙な勤務医にとって,年2回の学会は新しい知識を吸収するための場であり,疎かにはできない貴重な卒後教育の期間である,今回の学会(1988.5.26~28,東京)には筆者の1人である多田は第1日目のみに参加し,2日目と3日目は清水が参加したのであるが,2人で印象記を合作する羽目になってしまったわけである.おそらくこのようなリレー印象記は過去にも例がないものであろう.かくして卒後20年目の中堅の内視鏡医の目と,卒後6年目の新鋭の目で見た真剣な印象記であることを最初にお断りしておきたい.

 私たちなりに感じた今回の学会の印象を一口で言うなら,回顧と創造の学会であったと思う.過去の内視鏡学の歴史に対する回顧と反省の中から,新しい創造への道を模索するためのスタートラインであったと感じている.それは会長講演の中にもよく伺えたし,教育講演の演題の選択にも顕われていた.確かに便利なパンエンドスコープの開発によって上部消化管内視鏡検査は随分と進歩し,パンエンドスコピーの分野が確立された.そして生検を内視鏡検査の中に組み込むことによって,名人芸的な診断技術がなくても微小胃癌や食道癌が容易に見つかるようになった.内視鏡検査の大きな進歩である.とにかく便利な時代になったものである.

初心者講座 食道検査法・7

X線所見の読み方(3) 八巻 悟郎
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1.はじめに

 X線検査において,上皮内癌(ep癌)はその拾い上げはもとより,存在がわかっているときでも,病巣を明確に写し出すことはなかなか容易でない.しかし,粘膜筋板までの癌(mm癌)の約60%,粘膜下層まで浸潤した癌(sm癌)の約80%はルーチンX線検査で見つかっている.さて,ep癌はもとよりmm癌,sm癌について,術後の病理学的な所見と対比すると,①病変の輪郭-病変の大きさ,隆起の形・表面の陥凹の有無,陥凹面の性状などがX線のイメージと異なることがしばしばである.②上皮内進展については,頻度の多さと大きさ,そして方向性の多様が,また,③多発病変については,その存在についてである.

 そこで,これらの点について,どのくらいX線は病変を写し出せるか,そして読影に際しては,どのような注意が必要かをみた.

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欧文目次

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Screening for colorectal neoplasms: A comparison of the fecal blood test and endoscopic examination: Letsou G, Ballantyne GH, Zdon MJ, et al (Dis Colon Rectum 30: 839-843, 1987)

 便潜血テストはしばしば大腸癌のスクリーニング検査として使われており,今回著者らは大腸癌発見に対する内視鏡検査と便潜血テストの感度を比較したことを報告している.

 下部大腸内視鏡検査を受けた585名のうち便潜血テストも施行されていた506名86.5%が対象で平均年齢は63歳,男499名,女7名であった.

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 Normal venous circulation of the gastroesophageal junction; A route to understanding varices: Vianna A, Hayes PC, et al (Gastroenterology 93: 876-889, 1987)

 胃食道接合部の門脈と全身循環(奇静脈)の結合は極めて複雑であり,食道,胃,膵臓,脾臓など各臓器からの静脈血流に影響を与える.門亢症におけるこの静脈系の調節とそれに伴って増加する頭側への門脈側副血流についてはあまり解明されていない.

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 診断学の教科書あるいは鑑別診断のための成書として,欧米からも本邦からも多くの名著が世に出されてきた.しかし,実際には内科診断学の入門書を例外として,これらが十分に利用されてきたとは思えない.診断のためのアプローチがレントゲン写真,CT,エコー,更にはMRIなどのイメージ診断の分野で発展し,また中央検査室業務を中心とした検査室検査による診断の分野で発展するなど,細分化されるにつれ,それぞれの分野の成書は読むことはあっても,診断のための一般書を手にする機会はほとんどなくなってしまった.

 一方で,近年では内科教科書の多くがproblem solvingということを意識して編纂され,必然的に鑑別診断に必要とする情報が一般内科書から得られるようになり,この傾向にいっそうの拍車がかけられた.

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 Value of sonographically guided fine needle aspiration biopsy in evaluating the liver with sonographic abnormalities: Sautereau D, Vire O, Cazes PY, et al (Gastroenterology 93: 715-718, 1987)

 肝悪性腫瘍は,確実で特異的な超音波所見に乏しいこと,良悪性の判定が予後および治療に重大な影響を及ぼすことから組織的確診が要求される.超音波下穿刺吸引生検は,従来の肝生検より安全で,肝深部の局所性病変の採取もしやすく,正診率も高い(77~94%)と報告されている.著者らは自験例を用いこの診断法の有用性を再検討した.

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 本書が最初に出版されて6年にも満たないというのに,今回,第3版が出版された.最近の放射線医学の進歩からすれば当然のことかもしれないが,編者,執筆者および出版社の対応の早さによるものであろう.

 さて,本書は第1版以来,放射線医学のリーダーシップをとっている教科書の1つである.その理由は内容と共に漸新な編集方針にあると思う.従来のほとんどの教科書では,診断,治療,核医学を3本柱に編集されているが,本書の企画では画像診断(診断と核医学をまとめた)と治療の2本柱にした点が卓越している.

編集後記 中村 恭一
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臨床と病理の大いなる乖離

 微小胃癌をめぐっての本号は,臨床と病理とが乖離しているおもしろい特集であったと感じるのは,当事者のみであろうか....

 微小胃癌の術前診断は,ほぼ完成に近い胃癌診断学の中で残されている数少ない1つの命題であり,それは診断限界の追求でもある.私的な追憶となるが,顕微鏡下で微小癌の発見は容易であるが,X線・内視視鏡的に発見可能であろうか?との命題のもとに熊倉賢二先生と一緒に徹夜で検討したのは約二十数年前のことである.当時の結論としては,発見能率は悪く,それを追求することはむだなことかもしれない,しかし存在診断は可能であるかもしれないが質的診断は不可能であろう,ということであったように記憶している.それから二十余年の現在,着実に微小胃癌の術前診断症例は増加していて,更には未分化型・分化型微小癌の所見まで明らかにされていることは,本特集にみられるごとくである.

基本情報

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胃と腸
23巻7号 (1988年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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