Coffee Break
異説潰瘍学(6) 潰瘍神話の崩壊
五ノ井 哲朗
pp.724
発行日 1988年7月25日
Published Date 1988/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403108252
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M. C. エッシャー的視角でみれば,潰瘍の研究史は大小多様な神話が創られては潰えた歴史でもある.この数年のこととしてみても,数ある中で殊に重要な神話の2つが崩壊した,と思う.
その1は“no acid, no ulcer”である.潰瘍の発生に塩酸が主要な,あるいは重要な役割を演じているという考えは広く支持されてきた.塩酸説,酸・ペプシン説はもとより,他の発生説においても塩酸は重要な役割を担っている.いわゆる天秤説における攻撃諸因子中の主役も塩酸である.消化性潰瘍という病名が百年以上にもわたって用いられてきたのも同じ理由からである.しかし一方では,低酸,無酸の潰瘍が少なくないことを根拠として,塩酸を潰瘍発生の主役とすることへの疑問もまた根強く存在したが,最近,H2 blocker剤の出現によって,胃液中塩酸のコントロールがほぼ完全に可能となったにもかかわらず,それを以てしても,再発を含む潰瘍の自然史を変えることができないという事態が明らかとなるに及んで,上記の神話はほとんど崩壊したと言ってよいのである.
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