胃と腸 22巻10号 (1987年10月)

今月の主題 胃のDieulafoy潰瘍

序説

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 上部消化管出血に対する緊急内視鏡検査が普及するにつれて,最近,わが国においてもDieulafoy潰瘍についての関心と注意が高まってきた.その報告例数も地方会の抄録を含めると200例を越えている.しかし,それが本来のDieulafoy潰瘍に当てはまるものであるかどうかは,何とも言えない.それはDieulafoy潰瘍の概念そのものが今なお明確でなく,Dieulafoy潰瘍類似の症例が,かなり含まれている可能性が考えられるからである.

 ある疾患の概念を知るには,まず,その原典に目をとおす必要がある.Dieulafoy潰瘍の原典1)は1898年のBulletin de l'Acadèmie Mèdicineの39巻49~84頁に“Exulceratio simplex”と題し,副題も付いて掲載されている.これは原著論文というよりも,講演内容の記録を載せたものである.この35頁に及ぶいささか長たらしい論文のコピーを入手することができた.ところが幸いなことに島津久明2)教授(現鹿児島大学医学部第1外科)が東大第1外科に在ったとき,雑誌「臨床外科」の“原典を繙く”という欄で,Dieulafoy潰瘍について6回にわたりその翻訳を連載し,7回目には翻訳者の見解をも付け加えている.これは大助かりであった.この虎の巻と原典を見比べながら,学生時代の浅いフランス語の力を振りしぼって,ともかく全文に目をとおした.これは序説を書くものの,せめてもの責任と思ったからである.それに原典を読むということは,時間はかかるが,その間にいろいろ思いめぐらすことができ,それがまた思索を深めるのに役立つ.

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要旨 粘膜下層までにとどまる出血性胃潰瘍86例の潰瘍の発生部位と破綻動脈の特徴を検討した.組織学的に,潰瘍内の破綻動脈は81例に指摘され,その外径は100~2,000μmであった.外径350μm以上の破綻動脈が指摘されたのは73例(Dieulafoy様小型潰瘍42例,中型潰瘍31例)であった.これらの多くは胃中部の前後壁で,F境界線とO境界線との間の幽門腺ないし中間帯粘膜領域で内斜筋層領域に位置していた.破綻動脈は左胃動脈の分枝が多かった.動脈破綻部はO境界線の近傍で,動脈が粘膜下層に貫入した直後が多かった.潰瘍発生の場,潰瘍の大きさ,破綻動脈の太さに関して,Dieulafoy潰瘍の特異性は見出せなかった.

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要旨 Dieulafoy潰瘍症例は,本邦において過去に128例が報告されたが,記載内容が正確で信頼に値しうるのは93例で,吐下血,吐血,下血などで発症し,半数以上が出血性ショックに至る重篤な疾患である.40~60歳台に好発し,性比は3.2: 1で男性優位,発生頻度は出血性胃病変の概ね1.1~9.4%,病変は胃上部1/3の小彎,前後壁に好発する.切除胃61病変の実測値の平均では,粘膜欠損は7.8×7.8mm大(Ul-Ⅱ以下),破綻動脈径は1.4mmである.内視鏡による術前正診率は74%,術中胃切開の正診率は75%である.手術施行60症例中,救命例は75%,内視鏡的止血37症例中78%は止血に成功している.診断および治療成績を向上させることが今後の課題と言えよう.

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要旨 Dieulafoy潰瘍は,上部消化管出血の原因として頻度は少ないものの,その急激な変化のため,的確な診断を早急につける必要がある.また,最近内視鏡的止血法の発達により保存的な止血の可能性もあり,その診断における内視鏡の意義は大きい.Dieulafoy潰瘍は胃体上部の小彎近くの前後壁を好発部位とし,Ul-Ⅱの小さな浅い潰瘍の中に太い血管による小隆起を有し,潰瘍周囲にconverging foldや,周堤や,明らかな再生の反応を伴わないことが内視鏡的特徴である.Dieulafoy潰瘍の本態は,粘膜下層を異常走行する太い動脈と思われるが,その異常動脈の太さ,およびその血管の上の浅い粘膜欠損の大きさなどについて,未だ一定した基準はない.Dieulafoy潰瘍が自然止血を繰り返して長い経過をとったり,また今後内視鏡的止血法などにより,潰瘍および血管に急性期と異なる変化が加わってくる可能性があると思われる.

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要旨 出血性胃潰瘍により緊急手術で胃切除され病理組織学的検討が可能であった34例のうちDieulafoy潰瘍は5例14.7%であり,全例軽快治癒した.また出血性胃潰瘍に対して,5施設において内視鏡的HSE局注療法が施行された370例のうち,内視鏡所見よりDieulafoy潰瘍と診断されたのは40例10.8%であり,その永久止血効果は38例95%である.以上よりDieulafoy潰瘍は外科的緊急手術をせずに,内視鏡的治療法により十分に止血治癒できる疾患である.

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要旨 5年前に胃潰瘍からの出血で入院したことのある51歳の男性が,仮性眩暈と黒色便で入院した.翌朝大量出血し,緊急内視鏡検査を実施したところ,胃角小彎より噴水状の出血があり,そこにHS-Eを局注し,止血に成功した.出血血管の周囲に潰瘍は認められずDieulafoy潰瘍と診断した.これまで,手術がDieulafoy潰瘍からの出血に対する唯一の治療手段と考えられてきたが,内視鏡的HS-E局注をDieulafoy潰瘍に対して試みる価値があると考えられる.

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要旨 内視鏡的局注止血後,胃切除を施行したDieulafoy潰瘍の1例を経験した.患者は65歳,男性で,突然の吐血で発症し,めまいや頭痛をも訴えた.高血圧症および胃潰瘍の既往歴がある.最初の内視鏡検査で胃体下部後壁小彎寄りに出血血管を確認した.直ちにHS-Eの予防的局注を施行した.第5病日に再び大量の出血を来し,局注療法で止血に成功した.しかし,第20病日の内視鏡で病変部に新鮮血が滲んでいたので再出血を危惧し第22病日に胃切除術を施行した.術後に血管造影を施行した.組織学的には軽度の動脈硬化を来した太い血管が粘膜下層,粘膜直下を走行し,一部で粘膜に破綻していた.破綻部は血栓を伴い,既に再生粘膜で被覆されていた.

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要旨 1975年から1986年の間に,われわれの病院でDieulafoy潰瘍の臨床診断で取り扱った症例は18例である.このうち,3例は内視鏡止血法により治癒したので,外科的治療を行った15例について血管構築を含む組織学的検索を試みた.その結果,Dieulafoy潰瘍の典型的なカテゴリーに属する症例は6例で33.3%であった.Dieulafoy潰瘍の確定診断のためには粘膜下層における異常血管を明らかにする必要がある.しかし,今後は内視鏡的止血法により治癒する症例も増加すると思われるので,臨床診断に当たっては十分に注意する必要があろう.

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要旨 特に前もって症状を認めず,突然の大量吐血で発症したDieulafoy潰瘍が,入院後,一時は保存的治療で治癒させることができるかと考えられたが,結局初回出血から6日目に再吐血を認めた.このときの出血は大量で血色素の低下も急激に進行し,輸血に対する反応も弱かったので緊急手術(胃全摘術)を行った.病理学的検索によれば,5.0×4.0mmの小さな浅いUl-Ⅱの潰瘍で,底部にはmedia厚70~120μmの太い動脈がsubmucosal layerに斜走し,先端は粘膜欠損部にて破綻を来していた.連続切片による血管構築を行ってDieulafoy潰瘍と判断した.なお,局所にはmicroaneurysmの所見はみられなかった.

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要旨 患者は75歳,男性.突然の吐血を来し緊急内視鏡検査にて出血性の露出血管を認めたため内視鏡的に局注療法を行い,いったん止血しえた.内科的に治療を行う予定であったが,5日目に再出血し再び局注療法を行うも,再出血したため手術を行い,病理学的にExulceratio simplex(Dieulafoy)の診断を得た.本症例の病理学的所見から本疾患の病態,治療について述べる.

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要旨 患者は63歳,男性.主訴は吐下血.7年前に原因不明の下血あり.1984年4月突然心窩部痛が出現し,その翌日吐下血があり入院した.入院時のHb値は12.7mg/dlで翌日の内視鏡検査にて体中部前壁に皺襞集中の明らかでない露出血管が目立つ浅い小潰瘍を認めた.cimetidineの経静脈的投与にて出血の兆候なく,第4病日の内視鏡検査では潰瘍は指摘できなかった.しかし第5病日に再び下血し,Hb7.4g/dlまで低下した.第6病日の内視鏡検査では初回と同じ部位に露出血管のある浅い小潰瘍を再び認めた.HS-E局注法を試みたが完全には止血せず第8病日に胃亜全摘出術を実施した.切除標本で胃体部前壁に径6mmの浅い小潰瘍を認め,その底部に径3mmの露出血管:を認めた.組織学的には浅いUl-Ⅱの潰瘍で胃底腺粘膜内にあり,粘膜下層に筋性中膜の発達した径約1.5mmの太い動脈を認めDieulafoy潰瘍と診断した.術後約3年を経過したが再吐下血はない.

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要旨 残胃のDieulafoy潰瘍の典型例を報告する.23年前,Billroth Ⅱ法にて胃切除を受けている44歳の男性がタール便を主訴に入院した.内視鏡検査で出血部位は確認できなかった.人院4日目タール便と貧血の増悪がみられたため血管造影を行い左胃静脈分枝にextravasationを認め,塞栓術を施行し止血した.8日後,再び下血があり,内視鏡検査で縫合部小彎の粘膜ひだの部位から新鮮血の出血を認めたため残胃全摘術を行った.切徐標本では,縫合部の粘膜ひだ上に血管露出を伴うUl-Ⅱの粘膜欠損を認め,組織学的には口径1.2mmの破綻した動脈を認めた.しかし,その動脈の周囲には潰瘍性変化はなかった.

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要旨 内視鏡的にDieulafoy潰瘍と診断し,胃切除または内視鏡的止血法により治療した7症例を提示した.大量出血のため緊急胃切除を要した初期の2症例の内視鏡所見は,胃体部の噴出性出血と浸出性出血であったが,切除胃にそれぞれ1.0mmと1.9mm径の破綻動脈を伴う小びらんを認めた.1980年以後の5例では内視鏡的バイポラー電気凝固法により止血した.なお初回止血時に12歳の女性では,6年後同様の誘因により大量出血を来し再止血を要した.Dieuiafoy潰瘍の臨床像,発生部位,内視鏡所見は孤在性出血性の急性胃粘膜病変に類似し,有効な内視鏡的止血法が発達した今日,出血血管の組織学的検索は行い難く,その独自性の立証は困難となっている.

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要旨 1898年,Dieulafoyは,胃体上部の微小な孤立性粘膜欠損底部において動脈が破綻し,大量の出血を来す疾患をExulceratio simplexと命名した.今回,筆者らもその1例を経験したので報告した.患者は60歳,男性.1982年2月突然嘔気と共に大量の吐下血を来し,緊急人院した.上部消化管の緊急内視鏡を施行し,出血源の検索をしたところ,胃体上部の前壁に露出血管が認められ,同部からの出血であることが確認された.露出血管周囲の潰瘍は小さく,いわゆるDieulafoy潰瘍を疑った.エタノール局注による内視鏡的止血を試み一時止血が得られたが,再出血によりショック状態となり緊急手術を施行した.胃切除標本の病理組織所見は,Dieulafoy潰瘍であった.

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 喜納(司会) 今日は胃のDieulafoy潰瘍について皆様からお話をお伺いするのですが,このDieulafoy潰瘍に関しては,ご存じのとおり「臨床外科」の39巻(1984年)に連載の形で,当時東大の第1外科におられた島津久明先生(現鹿児島大学教授)が非常によく訳されています.この原著によりますと,Dieulafoyは7例-7例といっても自験例は3例で,あとの4例は他の人の症例ですが,自験例3例を,しかも非常によく調べています.現在の水準でも十分と思われるぐらい,血管の走行まで調べてあるわけです.ですから大変いい文献だと思いますが,このDieulafoyの論文に則ってわれわれはDieulafoy潰瘍という言葉を使っているわけです.

今月の症例

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 〔症例〕 43歳,女性.主訴:特になし(検診発見).家族歴,既往歴:特記事項なし.現病歴:1986年10月,胃集検で異常を指摘され,近医にて胃内視鏡検査および生検の結果,手術を勧められる.同年12月11日,本院受診.諸検査の結果1987年1月5日手術施行.

 〔ルーチン胃X線所見〕 (手術前25日)強い第1斜位の二重造影写真(Fig.1)である.体中部大彎に不整形バリウム斑と顆粒状陰影が認められ,軽い粘膜ひだの集中を伴っている.粘膜ひだはこの陥凹辺縁で中断している.しかし,糸を引くような粘稠な胃液のために微細な所見は描出されていない.むしろ,圧迫写真(Fig.2)のほうが陥凹内の顆粒状陰影やひだ先端部の所見がよく描出されており,陥凹部の噴門大彎側に濃いバリウム斑があることもわかる.陥凹周辺の隆起所見は特に認められない.

初心者講座 大腸検査法・10

生検の採り方 上谷 潤二郎
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Ⅰ.腫瘍性病変の生検の採り方

 1.進行癌や肉腫など大きな病変

 生検採取のコツは腫瘍の周堤部から組織を採ることである.腫瘍の中心部は潰瘍を形成していることが多く,壊死組織や分泌物が採取されると診断の確定は不能である(Fig.1).狭窄型の癌の場合は内視鏡で病変を直接観察することができないことがある.このような症例では狭小化した管腔に盲目的に鉗子を挿入し組織を採取しなければならない.鉗子の頭部を開いた状態で狭窄部に1cmほど挿入し,スコープのアングルレバーを操作して鉗子の先端を狭窄部の腸壁に押しつけるようにしながら頭部を閉じ,鉗子を引き抜いてみる.組織が採取されるときはわずかに抵抗がある.全く抵抗がないときは組織が採れていないので繰り返す(Fig.2).

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(10)

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はじめに

 食道疾患の中で臨床病理学的に最も重要でありかつ問題となることは早期食道癌の診断,特に上皮内癌と粘膜内癌の診断についてであろう.その早期癌の病理組織学的診断では,異形成(dysplasia)と上皮内癌(intraepithelial carcinoma or in situ carcinoma)との鑑別が重要である.ここでは,その組織学的鑑別診断について触れてみたい.

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欧文目次

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 古江尚,田口鐵男の両教授の共著による「抗癌剤の選び方・使い方」第2版が刊行された.今から6年半前,この本の初版が刊行されたとき,乞われて書評を書いた覚えがあるが,その後,2刷,3刷と増刷が行われ,本書に対する需要の大なることを知ってはいたが,この度,一部改訂のうえ,第2版が出版されたとき,今更ながら,本書の評価が世に高いことを認識した.

 もともと抗癌剤の数が,かなりあって,その投与法もいろいろ開発されておる現時点において,診療の第一線において活躍される臨床家たちが,それらについての知識と選択に戸惑われることは少ないことではないであろう.大変おこがましいことではあるが,この道の研究を専門とする筆者自身がしばしばそのような場合に遭遇して,急いで手許の成書をあれこれ紐解かねばならないことも度々である.

編集後記 木村 健
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 琉球海邦国体での閉会式の最中,神秘の金環日蝕が到来,一瞬感動的な静寂に包まれた.両国秋場所では放駒部屋大乃国の横綱への昇進,秋爽やかである.

 1898年フランス内科医Dieulafoyにより“Exulceratio simplex”として記載されたいわゆるDieulafoy潰瘍は緊急内視鏡の普及した現在,とみに関心を集めている.原典に忠実になれば,当然切除胃による病理形態学的検索により,粘膜下層の異常に太い動脈の破綻を証明しなければならない.しかし近年,内視鏡的止血法の進歩により,Dieulafoy潰瘍を含め出血性潰瘍の多くは内視鏡的に止血され,切除されるには至っていない.ここ数年,Dieulafoy潰瘍と診断される症例の数は著しく増加しているが,これは非手術例の増加によるところが大きい.今後,この傾向は更に強まるものと予想できるが,この背景において,Dieulafoy潰瘍を改めて見つめ直すことも意義あることであろう.

基本情報

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胃と腸
22巻10号 (1987年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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