胃と腸 22巻11号 (1987年11月)

今月の主題 消化管のアミロイドーシス(1)

序説

消化管のアミロイドーシス 白壁 彦夫
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 教室の碓井と討論したが,病理でもっと調べてもらうと,それだけ本症が増えるのではないか,との印象を持つ.消化管では,本症は,既に独立したX線診断項目の単位を持ってしかるべきなのに,それも遅れている.内科学会と消化器病学会との間を,同一内容を使ってカメレオン的に使い分けられてきている.それが終わりを告げることになるのか.本号で活気づくのか.

 本症に諸相があるにせよ,ここでは,消化管に限った各論の話で進める.まず,今までの臨床の取り扱いを再考し,取り扱ってきた経緯を振り返ってみたい.

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要旨 全身性アミロイドーシスの消化管病変について,自験例44例の分析を中心に臨床症状,他覚所見,徴候および臨床検査成績を検討した.消化管へのアミロイド沈着は極めて高率にみられるが,直ちに消化器症状,合併症を惹き起こすとは限らない.悪心・嘔吐,腹部膨満,腹痛,下痢などは必ずしも消化管アミロイドーシスに特異的なものではない.しかし,心不全,肝腫,慢性腎不全,蛋白尿,貧血,赤沈促進などの多彩な臨床像に上記症状,あるいは麻痺性腸閉塞,消化管出血が合併する場合には消化管アミロイドーシスの可能性が強く示唆される.最終診断は胃,直腸生検によるが,麻痺性腸閉塞の発現,または腸管の異常ガス集積像は非特異的臨床像の中で,特に全身性アミロイドーシスの消化管浸潤を示峻する一診断指標と考えられる.

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要旨 全身性アミロイドーシスにおいて消化管は腎や脾と同様あるいはそれ以上にアミロイドの沈着頻度が高い.消化管におけるアミロイド沈着は主に中小の血管壁,特に粘膜下層の血管壁にみられ,粘膜固有層,粘膜筋板や固有筋層間にも沈着する.血管壁はアミロイド沈着によって脆弱化し,消化管出血を起こす.粘膜固有層,粘膜筋板や固有筋層に多量に沈着したり,あるいはアミロイド沈着によって自律神経が障害されると消化管の運動機能の低下が起こり,胃腸障害,特に頑固な下痢が出現する.本症の診断は主として胃や直腸などの生検によって確定する以外に方法はない.本症は症状が多彩であるため念頭にないことが多いが,臨床医は本症の可能性を思いつき病理組織診断の依頼をし,病理医も本症を念頭に置いて生検標本を検鏡する必要がある.

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要旨 これまでに,われわれの経験した全身性アミロイドーシスのうち,胃・十二指腸にアミロイドの沈着がみられた8症例を対象として,X線・内視鏡検査における胃・十二指腸の特徴的所見を調べた.また,生検および剖検組織標本におけるアミロイドの沈着程度から,X線・内視鏡像に反映される所見についても検索を行った.更に,わが国の文献から胃・十二指腸アミロイドーシスの30症例を収集し,自験例8症例を加えた38例より,日本人の胃・十二指腸アミロイドーシスのX線・内視鏡検査所見を検討した.その結果,本疾患にのみ出現する特徴的所見というものは存在しなかったが,アミロイドの沈着の程度に応じて消化管の壁や粘膜に何らかの変化が認められた.これらの所見はX線所見よりも,内視鏡所見のほうに多く認められた.

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要旨 皮膚アミロイドーシスと診断された患者45例に上部消化管内視鏡検査を行い,22例(48.9%)に上部消化管にもアミロイドの沈着を認め,胃アミロイドーシスのいわゆる初期像と考えられる内視鏡像を観察した.アミロイドは胃の前庭部からの生検でやや多く得られ,その部には発赤,隆起,凹凸が認められた.アミロイド沈着の認められた22例の内視鏡像を見直すと,明らかな異常所見のない例のほか,発赤,びらん,小顆粒状隆起,点状出血,浮腫状粘膜などの微細な変化が認められた.最後に胃アミロイドーシスの終末像として幽門前庭部の狭窄,巨大皺襞,胃蠕動停止の例を呈示した.

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要旨 (1)アミロイドーシスのX線像を二重造影像を中心に検討した.(2)アミロイドーシス23例を対象にX線像を粘膜模様像と変形に分けて考察した.(3)固定標本レントゲノグラムの粘膜模様を,便宜上3つのパターンに分類した.A.微細顆粒状陰影.B.ひだの変化を主とするもの(ひだの直線化,肥厚,硬化,乱れ,消失).C.びらん,潰瘍がみられるもの(多発・散在性のバリウム斑を主とするもの,大小不同の顆粒状陰影を主とするもの).(4)アミロイド沈着の分布および程度,潰瘍の形態に分け,シェーマで示した.(5)二重造影には3つのパターンに対応する像がみられた.(6)変形では小腸には狭小,拡張,ハウストラ様変形がみられ,大腸にはハウストラの硬化像,狭小,segmental signがみられた.(7)そのほかに浮腫およびspasmの像,腸管辺縁の硬化・粗糙,バリウムの付着異常,多彩性,通過時間の遅延などがみられた.(8)粘膜模様は上部小腸では糞線虫症に,下部小腸では腸結核に,大腸では潰瘍性大腸炎に類似していた.(9)粘膜模様は類似していても,変形,罹患範囲,多彩性の点で差がみられた.(10)アミロイドーシスの各所見の組織学的背景は,①粘膜固有層へのアミロイド沈着,②粘膜筋板へのアミロイド沈着,③浮腫,特に粘膜下浮腫,④血管壁へのアミロイド沈着による内腔狭窄→血流障害,⑤神経線維へのアミロイド沈着,これらが重なり合って,種々のX線像が現れると思われる.

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要旨 十二指腸~上部空腸にアミロイド沈着が確認された22例を対象とし,小腸X線所見と内視鏡,生検所見とを比較検討した.経口法では皺襞山の腫大,皺襞谷の縮小を認めたが,腸管幅は正常であった.二重造影法ではいずれの計測値も正常例と有意差を認めなかった.二重造影法における粘膜パターンは,①0群:粘膜下腫瘤様陰影が多発するもの(2例),②Ⅰ群:結節状陰影が多発し,びまん性に粘膜粗糙像(大小不同の小顆粒状陰影の多発から成る)を認め,小バリウム斑の散在を伴うもの(4例),③Ⅱ群:粘膜粗糙像とKerckring皺襞の凹凸像を認め,小バリウム斑の散在を伴うもの(4例),④Ⅲ群:粘膜粗糙像とKerckring皺襞の凹凸像を認めるが,小バリウム斑を伴わないもの(7例),⑤Ⅳ群:Kerckring皺襞の凹凸像のみを認めるもの(3例),⑥Ⅴ群:異常を認めないもの(2例),の6段階に分類できた.粘膜パターンとX線像計測値あるいは腹部症状とを比較した結果,Ⅰ群~Ⅴ群が通常みられる本症の粘膜パターンであり,0群はその特殊型と考えられた.X線像は内視鏡所見とよく一致したが,生検所見とは明らかな相関関係を認めなかった.以上の成績よりアミロイドーシスのX線診断は,経口充満像と二重造影像を対比することによって得られる腸管の伸展性の程度と二重造影像における粘膜パターンを組み合わせることにより可能であると考えられた.

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要旨 全身性アミロイドーシス生検42症例と剖検22例の消化管病変について,病理組織学的立場から検討した.生検全例に消化管へのアミロイド沈着があり,部位別沈着頻度は十二指腸に100%と最高で,空腸94.4%,胃前庭部93.3%,直腸88.6%,胃体部88.4%,食道80%,結腸77.8%,回腸50%の順であった.沈着程度の高度のものは前二者に多い.各部位別生検標本数に対するアミロイド陽性率は空腸,十二指腸,胃前庭部に高く,見逃し率は十二指腸,空腸で低かった.剖検全例にも消化管へのアミロイド沈着を認め,上記全部位で沈着頻度は100%であった.沈着程度の高度のものは十二指腸,空腸,胃前庭部に多く,沈着は粘膜下層上部と粘膜深層に強かった.以上の結果から本症の生検部位は十二指腸,胃前庭部,空腸が最適であることを指摘し,本症の早期診断の必要性についても簡単に触れた.

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 〔患者〕 64歳,女性.1982年1月心窩部不快感が出現したため,国立がんセンター内科外来を受診し,CEAの高値を指摘され精査の目的で入院した.なお,喫煙歴はなく,虫垂切除歴もなかった.

 〔注腸X線所見〕 充盈像〔Fig.1)において盲腸下極に陰影欠損を認め,虫垂は造影されなかった.腹臥位二重造影像(Fig.2)でも虫垂は造影されず,虫垂付着部と思われる部位を中心に頭外側に向かって内腔に突出する隆起性病変が認められた.隆起性病変は半球状を呈し,大きさは基底側で58mmであった.表面の性状は平滑であり,陥凹や分葉傾向は認められなかった.しかし,病変の表面を詳細に読影すると,Fig.3a~dで示すように病変の中ほどに全周性に,1本の溝が取り巻くように認められ,あたかも病変がはち巻きを締めているような形態を示していた.周囲の盲腸粘膜は正常であり,伸展不良や変形像は認められなかった.また,回盲弁の下唇は盲腸側から圧排されていたが,粘膜の不整は認められなかった.なお,体位変換や圧迫を加えても虫垂は造影されなかった.

早期胃癌研究会

1987年9月の例会から 長廻 紘
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 9月の例会は自治医大消化器内科・木村健教授の司会で9月16日エーザイ本社5階ホールで行われた.おりから接近が伝えられていた台風13号の影響が心配されたが,いつもと変わらない盛会であった.

 〔第1例〕 50歳,男性.早期髄外性胃形質細胞腫(症例呈供:東京都がん検診センター消化器科 渕上).

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要旨 全身性アミロイドーシスの診断に有用な胃生検の部位,数およびその深さを決定するために,全身性アミロイドーシス4例(原発性アミロイドーシス1例,骨髄腫に合併したアミロイドーシス1例,家族性アミロイドーシス2例)を検索した.各症例の胃をすべてパラフィンブロックにして,切片を作製し,コンゴーレッド染色とその偏光による観察によってアミロイドの沈着を確認した.4例ともアミロイドの沈着は粘膜下組織に最も顕著で,次いで固有筋層,粘膜筋板,粘膜固有層,漿膜の順であった.粘膜筋板では,いずれの部位にも沈着があり,実際の生検診断に当たっては,胃粘膜筋板まで採取すれば一応その目的を達成することができる.粘膜固有層および粘膜筋板へのアミロイド沈着は胃体部と幽門部に多く,その程度も強い傾向にあり生検時に胃体部から幽門部にかけて,全周の粘膜を数か所採取すればほぼ適当であると考えられた.

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要旨 術前に診断しえた虫垂粘液囊腫の1例を報告した.注腸X線検査では盲腸内側下極寄りに外側から半径1.5cmの半円状の陰影欠損がみられ1~2本のひだが同定された.虫垂は造影されなかった.大腸内視鏡検査では同部に半径1.5cmの半球状の黄色調隆起がみられ,隆起表面に全周性にわたり一条のひだがみられた.粘膜面は正常であった.CT検査では回盲部に一致して壁の石灰化を伴った囊胞がみられた.以上の所見より虫垂粘液囊腫と診断,手術を施行した.CT検査で回盲部に壁の石灰化を伴ったcystic massがみられた場合,注腸X線検査および大腸内視鏡検査で盲腸の隆起粘膜表面に円形のひだを同定することが,虫垂粘液囊腫の術前診断には重要である.

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要旨 胃梅毒は比較的珍しい疾患であるが,近年,本邦では増加傾向にあると思われる.しかし,問題点としては悪性疾患との鑑別が困難であるということが挙げられる.患者は32歳,男性.嘔気,上腹部痛を主訴として,1985年10月中旬当院を受診した.X線検査,内視鏡所見より,スキルス型胃癌が疑われ,生検時の捺印細胞診にてもclass4であった.しかし,病理組織学的には悪性所見は認められず,また,梅毒血清反応が強陽性と判明したため,胃梅毒の可能性も考え駆梅療法を施行することとした.治療開始後1か月後には症状,内視鏡所見の改善を認めたため,われわれは本症例を胃梅毒と診断した.

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要旨 40歳男性.上部消化管X線および内視鏡検査にて十二指腸球部前壁に約3cm大の隆起性病変を認めた.同所からの生検所見は胃体部腺組織であったが,粘膜下腫瘍の存在も疑われ,潰瘍化の可能性を考慮し,手術を施行した.切除標本の肉眼的所見では,2.8×2.6×1.2cm大の黄白色の腫瘤が粘膜下に認められ,それを乳頭状に隆起した粘膜が覆っていた.組織学的に粘膜は主細胞,壁細胞を有する胃体部腺組織であり,粘膜下から漿膜下にかけての腫瘤には外分泌腺,導管およびランゲルハンス島から成る完全な膵組織を認め,発生原因として先天説が裏づけられる極めてまれな1例であった.

初心者講座 大腸検査法・11

色素内視鏡検査法 多田 正大
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 早期胃癌に対する診断技術・理論の導入によって,大腸診断学においても,より微細な所見の解析,微小病変の早期診断のための工夫がなされている.すなわち注腸X線検査では二重造影法による大腸のarea単位の診断学が展開されてきており,内視鏡検査では色素内視鏡検査や拡大内視鏡検査による微細診断学が試みられている.特に色素内視鏡検査は大腸内視鏡検査の中にあってルーチン検査法に位置づけられてきており,大腸粘膜の病態生理の解明にも応用されてきている.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(11)

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 胃病変の再構築を行うためには,適切な切り出しが前提条件であることは言うまでもない.病変の切り出しと再構築は表裏一体を成すものである.したがって,この病理学講座の“切除標本の切り出し方”(22巻6号)で筆者が既に記したことの繰り返しの部分も少なくないと思われるが,繰り返しを恐れずに筆を進めていきたい.

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欧文目次

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 Carcinoid tumour of stomach and primary hyperparathyroidism : a new association : Rode J, et al (J Clin Pathol 40: 546-551, 1987)

 多発性内分泌症候群が1959年Wernerにより家族性疾患として提唱されて以来,大いに関心を持たれている.これらの状態は内分泌腺を侵す腺腫,癌,あるいは腺過形成によって特徴づけられる.副甲状腺,膵島,松果腺が最もしばしば,次いで副腎と甲状腺が侵される.

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 Changes in distal esophageal function in response to cooling: Kaye MD, Kilby AE, Harper PC (Dig Dis Sci 32: 22-27,1987)

 冷たい液体は食道の収縮波形を変化させ,食道の機能的疾患を有する患者では疼痛を惹起すると言われている.しかし,最近,健常者にアイスクリームを急いで食べさせ惹起した胸痛時の食道は無収縮で拡張状態にあることがわかり,この痛みは痙攣以外のメカニズムによることが示唆されている.

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 Patient management after endoscopic removal of the cancerous colon adenoma: Richard WO, et al: (Ann Surg 205: 665-672,1987)

 悪性腺腫の内視鏡的切除後の患者の管理については議論のあるところである.

編集後記 喜納 勇
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 アミロイドーシスと聞くと,多くの内科医・病理医(ないし病理学者)は興味を持ったことがあるはずだ.病理を始めて数年の間は,アミロイドーシスの解剖というと大いに張り切って調べたものだ.しかし,重点は心・肝・腎などの実質臓器であり,消化管のほうは二の次であったように記憶している.ましてや,生検診断やX線診断の立場から剖検例を調べるということはなかった.

 今回の特集で,全身性アミロイドーシスにおける消化管のX線・内視鏡・病理像の特徴が浮き彫りにされたようである.病理の立場からは,何よりも臨床診断にアミロイドーシス(の疑い)と記入していただきたい(ただし濫発は禁物).筆者は臨床診断にアミロイドーシスと記入のない胃や腸の生検にアミロイド沈着を見つけることを趣味として(度が過ぎるとoverdiagnosisをするから要注意),年に千件以上あらゆる科の症例を1人で検鏡している.病理医には,臨床診断への記入が注意を換起する最も良い方法である.また,岩下らの論文にあるように,この疾患を疑ったら,直腸のみならず胃・十二指腸も生検していただきたいものである.それでもなお見逃すのであったなら,病理認定医の資格を剥奪されても仕方あるまい.しかし実際には,誰でもわかるようなアミロイド沈着を見逃した場合,臨床側は静かに親切に(怒らずに)指摘してあげたほうが効果的である.普通の病理医であれば,恥じて二度とそのような見逃しはしないであろうし,かえって消化管アミロイドーシスに興味を持ち始めるきっかけにさえなるからである.

基本情報

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胃と腸
22巻11号 (1987年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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