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索引を含めて781頁,かなりの厚みを持ったB5判の著書である.監修された城所仂教授はその序文に,昭和3年,すなわち今から55年,約半世紀前に,当時の九大1外科三宅速教授らにより著わされた書「胃癌」の内容を引用し,“それは今日,われわれが読んでも驚嘆に価するものである”とし,“これら先人の努力のうえにたって,その後,現在までの長い年数をかけ,多くの胃癌診療の経験が積み重ねられ,現在の世界に冠たる胃癌研究王国が築かれた”と誇らかに記している.この往年の名著「胃癌」は筆者の秘蔵本の1つである.早速取り出して,今回の本書と並べ,その目次や内容を見比べてみたが,この50年間に胃癌に関しての臨床的知識,診療技術と研究内容の進歩が如何に大きいものであったかを如実に感じることができた.
本書は端的に表現すると,胃癌の病理から臨床,疫学にかけての広汎な領域にわたり豊富な内容を各項目ごとに実にコンパクトに纒め上げている.その内容は疫学から病理,診断,転移,手術,特殊型,保存治療,切除後の諸問題,予後など全13章より成り,各章は更に幾つかの節に細分され,総計47節を数える.胃癌に関して動物実験を除き病理および臨床をめぐる諸項目について,まず余すところなく取り上げている.そしてその1節ごとに,本邦において,それぞれの第一人者と目される方々により執筆されている.通読してみたが,大変読みやすく理解しやすい本という印象を受けた.理由を考えてみると,各節ごとに内容を熟知した筆者によって書かれていることが最も大きいと思うが,本書の各頁は,ゆとりを持った印刷となっており,各頁の左側はかなりの空白スペースをとっている.これが1つは読みやすい感じを持たせるようである.読了後,序文を再び読み返してみると,“本書の目的は,日本における胃癌の現状を示すものであると同時に,胃癌診療の現状を知るために役立つ書となることができれば望外の喜びである”と書かれている.本書の面目を実によく表現している.また“胃癌の専門家にとっては新しい知識の整理に役立つものと思われ,卒業後日の浅い医師諸君にはup to dateな胃癌診療指針となりうるものと確信している”と記されている.正に同感であり,広く胃癌の診療・研究を行う方々の座右の書として熟読されることをお勧めする.
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