胃と腸 18巻10号 (1983年10月)

今月の主題 胆囊病変をめぐる最近の知見

序説

胆囊病変診断の最近の動向 相馬 智
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 超音波診断の出現以来,胆囊,特に胆石に関する検査や知見が一見,大変進歩したように見える.殊に超音波診断法はnon-invasiveな検査であることから,従来行われていたDICなどのヨード剤を使用した方法に比べると過敏症の危険はなくなった.スクリーニング検査としてドックなどに採用される所以であろう.

 さて,胆囊病変の診断の主体は何かを考えてみると,なんといっても早期癌の発見につながることになる.これについては,既に本誌17巻6号で「早期胆道癌の診断を目指して」という特集があるので,今回は胆囊病変のみに限って考えることにする.

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 リニア電子スキャンと呼ばれるリアルタイム表示の超音波診断装置が開発・実用化されて,既に7年半の歳月が流れた.この間,従来の画像診断法では得られなかった多くの新知見が発掘され,この領域における画像診断に一大変革をもたらした.かつてこの領域のdecision treeでは,経口胆囊造影法が先陣に位置づけられていたが,この装置の出現により,その利用法は激減し,現在ではリニア電子スキャンが胆囊病変の画像診断の中心的役割をになっている.この理由は,経口胆囊造影法の際に用いられる造影剤の副作用やX線被曝だけでなく,提供される情報の量と質に格段の差があるからである.

 では現在,このリニア電子スキャンが胆囊病変の診断にどの程度役立っているか,筆者らの経験を中心に述べてみたい.

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 近年,各種画像診断の進歩は目覚ましく,胆囊疾患に関してもリニア電子スキャンの普及により隆起性病変が数多く診断されるようになった.しかし,超音波(US)をはじめとした各種画像診断を駆使しても質的診断が困難なことが多く,更に一歩進んだ精密診断が必要である.われわれはUS映像下に胆囊を穿刺・ドレナージして,そのドレナージ・チューブからのバリウムとCO2による胆囊二重造影法を,また,その瘻孔を拡張し瘻孔を通して胆囊内の内視鏡観察を行う経皮経肝胆囊鏡検査法(percutaneous transhepatic cholecystoscopy;PTCCS)を開発した1)

 本法の開発により従来X線的には充盈像や圧迫法でしか表現されることのなかった胆囊病変に関して,二重造影による粘膜像の変化の検討が可能となり,更に内視鏡による粘膜像の観察と,直視下生検などの病理学的診断がより確実に行えるようになった2).本稿では症例を呈示すると共に,これまでに得られた2,3の知見について述べる.

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 胆囊病変には,炎症,結石,良性腫瘍,悪性腫瘍など種々のものがある.この中でも,癌は特に最近注目されてきている.その理由として,臨床側での胆囊病変に対する診断学が最近飛躍的に進歩してきたこと,これにより予後の良好な早期胆囊癌や小さい胆囊癌が発見されていること,迅速診断や直視下生検診断の必要性が急増していること,早期癌の発見により癌の発生母地が研究課題となりつつあること,などが挙げられよう.

 したがって,本稿では胆囊癌に関する,最近の病理学的知見;(1)胆囊癌の肉眼的特徴,特に早期胆囊癌の特徴,(2)胆囊癌の組織学的診断と鑑別診断,(3)胆囊癌細胞と胆囊粘膜上皮細胞の産生粘液とCEA,および(4)胆囊癌の発生母地,について述べることにする.

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 胆囊蓄膿や胆囊周囲膿瘍を形成する急性化膿性胆囊炎の多くは,胆囊頸部に結石や腫瘍塊が嵌頓し,胆管の交通を遮断している.これらの症例では,緊急の胆囊ドレナージが劇的効果を発揮する.従来,この目的から重症の急性化膿性胆囊炎では開腹的に胆囊外瘻を造設し,二次的根治手術が推奨されてきた.しかし,対象となる症例の主体は高齢者か高熱を有する全身性合併症を持つ症例であり,開腹操作による侵襲から,急性腎不全や肝不全を併発し予後不良となる例を経験した.一方,急性閉塞性化膿性胆管炎の成績が著しく好転したのは,比較的侵襲の少ない経皮経肝的胆管ドレナージ(percutaneous transhepatic choledochography and drainage;PTCD)が安全かつ確実に行われるようになってからである.この頃より急性化膿性胆囊炎の治療と胆囊造影陰性例の精査目的に経皮的胆囊穿刺造影が本格的に試みられてきた.本来,胆囊の直接穿刺造影法の歴史は古いが1)~3),胆囊を確実に穿刺することが容易でないこと,更に穿刺部からの胆汁の漏れを危惧することから,一般的には至っていない.

 近年,超音波装置を用いる映像下穿刺法が開発されて以来,胆囊を穿刺することは胆管を穿刺することより容易で,直視下に穿刺針の先端を確認しうることから広く用いられるようになっている.事実,重症例では病室でも行いうることから,急性化膿性胆囊炎の治療が一変したと言っても過言ではない.胆囊穿刺にて吸収された胆汁細胞診は胆囊癌の早期診断につながり,特にドレナージ症例では,繰り返し胆汁を採取することができて,その診断率は大きく向上している.以下,自験例を中心に胆囊ドレナージ,特に経皮経肝的胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic cholecystography and drainage;PTCCD)の実際と問題点について述べる.

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 最近数年の間に,早期癌,進行癌を問わず,胆囊癌の術前診断は大変容易となってきている.この理由は,画像診断法の発展によるところが大であることは言うまでもなく,特に最近急速な勢いで普及してきた超音波の画像の解像力の向上と相まって,本法が最もアプローチしやすい腹腔臓器の1つが胆囊であるからにほかならない.

 したがって,これまで胆囊病変のルーチンの検査法としての排泄性胆道造影法はもちろんのこと,精密検査法として用いられてきたERCPやPTCでさえも,胆囊病変の診断に限って言えば,やや影が薄くなってきた感じがする.その大きな理由として,胆道造影法は造影できた画像の断端像からの診断であるのに対して,超音波検査やCTは病変そのものの直接的な描出法であることが大きな持ち味となっていることが挙げられる.

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 並木(司会) 胆囊病変と言いますと,胆石,炎症,癌と,大きく分けることができますが,まず胆石の問題から入りましょう.近年,超音波(以下US)診断が普及するにつれて胆石の発見率が非常に高まり,これが用いられる前に比べて発見数が2~3倍になったという報告もみられますが,この点について最近の傾向は税所先生,いかがでしょうか.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc
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 A 38 year-old man visited the Second Department of Internal Medicine, Fukushima Medical College for a detailed examination of the stomach. There was nothing in particular in his past history and family history. Physical examination was normal. Laboratory findings, including blood count, blood chemistry and urinalysis were within normal limits. Occult blood test of the stool was negative.

 The diagnosis of Ⅱc type early cancer at the posterior wall of the antrum was made by the first x-ray examination done on March 1, 1972. The second x-ray examination was done on March 15, 1972, and invasion of cancer was estimated to be limited to the mucosal membrane, based on the fact that there was no rigidity of the lesion, which altered its form by changing volume of air.

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 Zollinger-Ellison症候群(以下ZES)は難治性潰瘍を主徴の1つとする.本症は比較的まれと考えられているため,あるいは通常の消化性潰瘍とは異なる部位の潰瘍が多いと考えられているため日常診療に際して本症が念頭に置かれることは少ないと思われる.われわれは空腸に特徴的なびらん性変化の認められたZES例を報告した1).その後十二指腸あるいは空腸のびらん性変化に着目し,難治性潰瘍例にセクレチン負荷試験を行い,計6例のZESを診断しえた.本症の早期発見のため,この6例の上部消化管病変に検討を加え,その特徴像の分析を試みた.

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 サルコイドーシスは全身的系統疾患であり,現在原因不明である.胃サルコイドーシスは比較的まれで文献的にも三十数例の報告をみるにすぎない.われわれは前胸部痛を主訴とし,胃生検,前斜角筋リンパ節および肝生検によりサルコイドーシスの診断を得,ステロイド治療により良好な経過を得た症例を経験したのでここに報告する.更に1981年までに報告され,収集し得た本邦の34例(本症例を含む)につき文献的考察を加える.

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 “早期”胃悪性リンパ腫の報告例は相当数にのぼり,その臨床的ならびに形態学的特徴も明らかとなってきた.われわれも病変発見時より胃悪性リンパ腫を疑い,8カ月の経過観察で術前に確診しえた症例を経験したので報告する.

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 良性の炎症性腫瘤と考えられている消化管のinflammatory fibroid polypは,胃における報告例が多いが,小腸のものは少なく,本邦では今までに10例報告されているにすぎない.最近,われわれは回腸末端部に発生し,回盲部腸重積を呈した本疾患の1例を経験したので報告する.

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 最近われわれは,まれなS状結腸有茎性平滑筋腫の1例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:50歳,男性.

 主 訴:下血.

 既往歴,家族歴:特記事項なし.

 現病歴:1978年ごろより,腹部膨満感,下痢および下血を時折繰り返し近医にて痔核の診断のもとに治療を受けていた.1982年8月5日就寝中,約100mlの新鮮血の下血を来し精査加療のため本院へ入院した.

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 胃石症についての報告は少ないが,本邦においては柿の多食に起因する果実胃石が多く,大豆多食による線維胃石の報告は極めて少ない.最近われわれは,高血圧症の民間療法として大豆の酢漬けを多食し,胃石の発生をみたと考えられる症例を経験した.胃石は自然排出され,得られた胃石について構成成分の分析を行い,本例の胃石は大豆を素材として形成されたものであることをほぼ証明しえたので,臨床像と共にその成績を報告する.

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 従来,原発性十二指腸癌と言えば進行癌の報告例であった.近年,上部消化管造影法,更には内視鏡検査法の発達により,十二指腸にも早期癌症例が散見されるようになった1)~19)

 最近われわれは術前に原発性十二指腸球部癌と診断し,病理組織学的検索の結果,深達度smの早期癌であった症例を経験したので報告する.

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 腸間膜脂肪織炎(mesenteric panniculitis)は極めてまれな疾患である.われわれは空腸にskip lesionを呈した本疾患を経験したので文献的考察を加え報告する.

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欧文目次

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 このアトラスはイギリスのEdinburgh大学のR.C.Curran教授が編纂し,Oxford University pressから出版しているOxford Color Atlases of Pathologyの中の第1編目のものである.このアトラスはイギリスのGlasgow Royal lnfirmaryの病理部主任R.S.Patrick教授によって,手術時,および剖検時に採取した肝臓を用いて,正常肝から典型的な肝臓病の肝病変について肉眼写真,光学顕微鏡写真を432葉のカラーアトラスとして収め,その写真説明も極めて簡潔で,要領よく纒められている,著者の言葉を借りると,このアトラスは教科書としてではなく,臨床病理学者の肝臓病に関する肉眼的,光顕的な知識を助けるために書かれている.

 著者のPatrick教授はわが国ではあまり知られていないが,Curran教授の説明によると,Patrick教授のこのアトラスはイギリスの内外,特にアフリカにおける長年にわたる肝臓病に関する経験を基にしているようである.

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 A Blinded Prospective Study Comparing Four Current Noninvasive Approaches in the Differential Diagnosis of Medical Versus Surgical Jaundice: W O'Connor, PJ Snodgrass, et al (Gastroenterology 84: 1498~1504, 1983)

 黄疸の鑑別能について,病歴と理学的検査と一般血液検査に基づく臨床評価,超音波検査,CT検査,核医学胆道スキャンの4法をプロスペクティブに比較した.対象は診断が確定した50例で肝内胆汁うっ滞29例,肝外閉塞21例であった.肝外閉塞症例における各法の診断感度は,臨床評価95%,超音波検査55%,CT検査63%,胆道スキャン41%,診断特異性は,それぞれ76%,93%,93%,88%,全体の診断精度(真陽性率+真陰性率)は,それぞれ84%,78%,81%,68%であった.

編集後記 並木 正義
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 話題の中心はやはり早期胆囊癌をいかにして診断するかであった.これについて超音波診断をはじめとする画像診断法,胆囊二重造影法,更に経皮経肝胆囊鏡検査法,また超音波誘導下胆囊穿刺法により採取した胆汁の細胞診など,いろいろな方法が試みられている.まさに涙ぐましい努力である.一方,発生母地の特異性を含めて胆囊癌の病理学的研究もかなり進みつつある.しかし,なんといっても胆囊癌の早期発見は難しく,手ごわい.現在行われている,また試みられつつある診断法にしても自ずから限界と問題点がある.しかし,目的を達するにはそれをわきまえたうえで1例1例貴重な経験を積み重ね,工夫をこらし,考えを深めていくしかないであろう.

 現在のところ,早期胆囊癌の発見には,胆囊の隆起性病変をどのようにして見出すかにかかっているとして,画像診断法その他が用いられているが,しかし,隆起性変化を示さない早期胆囊癌もあるわけで,それらの診断をどうするかが,今後の課題となろう.その意味では中澤氏の積極的な診断法の将来に期待したい.それにしても編集を終えて感じたことは,早期胆囊癌の診断もここまできたかという思いと,なお道は遠いな,という印象であった.

基本情報

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胃と腸
18巻10号 (1983年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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