胃と腸 17巻6号 (1982年6月)

今月の主題 胆道系疾患の臨床(3)―早期胆道癌の診断を目指して

序説

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 本誌の特集“胆道系疾患の臨床”の第3号として,早期胆道癌の診断を取り上げることとなった.胆囊,胆管の癌は,その初期には特有な症状がなく,もしあっても多くはこの領域の各種の良性疾患によって惹起される臨床症状,すなわち上腹部痛,軽度発熱,全身倦怠感などと同一程度で,特に胆管癌の場合は黄疸症状により初発することが多く,たいていはかなり進行した時点で発症する場合が多い.したがってこれまで,この領域の癌の手術成績は悲惨と言ってもよいぐらいであった.

 血液生化学検査によるスクリーニングもあまり有用でなく,以前はせいぜい経口的または経静脈的胆道造影法により,胆囊造影の有無,造影胆囊の形態の異常および総胆管拡張の有無を検討するのが精一杯であった.十数年前よりERCP検査法が開発され,それにより更に詳細な所見を検討し,また,閉塞性黄疸発来時は直ちにPTCDを行って減黄を図ると共に,造影所見および細胞診を行って閉塞原因を確定するのが現在の一般の検査手順であろう.

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 今日まで,“早期胆道癌”は明確に定義づけられていない.本来なら胆道癌患者のうち予後の良好な症例が多数集積され,その癌の特徴が描出されて,初めて早期胆道癌の定義が確定されるべきであろう.

 しかし,少数例ではあるが,各施設から長期生存した胆道癌症例が散発的に報告されてきた.近年になって,このような症例が胆道疾患検査法の進歩と共に,次第に増加しつつある.このような状況から,今日“早期胆道癌”の定義づけを試みることは必ずしも時期尚早とは言えまい.

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 文章というものは,何度書いても,いつも“序破急”の序に苦労する.ペンを握ることは,いつもながら,大変苦しい作業を強いられることになるのであるが,袋小路から抜け出すための,ささやかな模索を試みることは,大変生き甲斐があると考えている.そのため,暇がない,忙し過ぎると愚痴をこぼしながらも,書くことを否めないのである.

 ごく最近読んだ伊東俊太郎著「科学と現実」(中央公論社)には,“同一の長さの時間も年をとるに従って短く感ぜられる”というウィリアム・ジェイムスが指摘した事実は,ジャネーの法則“或る人の生涯の,或る時期における一定時間の心理的長さは,その人のその時までの生涯の長さの逆数に比例する”として表現されているそうである.

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 人間ドックによる健康診断で,たまたま無症状で発見され,根治手術可能であった多中心性に発生したと思われる粘膜内胆管癌の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

 患 者:K.T.,60歳,女.

 主 訴:特別訴えるような自覚症状はない.

 既往歴:45歳のとき,卵巣嚢腫摘出術および虫垂切除術を受ける.

 現病歴:1979年8月16日,旭川厚生病院人間ドック受診.その際,経口胆嚢造影法を施行したところ胆嚢は造影されず,エコーグラムで多数の胆嚢内結石の所見を認めた.更にDICで中部胆管に類円形の小指頭大の透亮像がみられたため,胆嚢内結石および胆管腫瘍の疑いで入院した.

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 胆管癌では閉塞性黄疸を手掛かりに診断されるものが大部分である.黄疸を発症するまでの比較的早期の段階には,特徴的な臨床症状がないために胆管癌の早期診断は極めて難しい.現状では切除例の大部分は組織学的に胆管外膜,または外膜を越えて他臓器,脈管への腫瘍の浸潤を伴う進行癌である.しかし,切除例のうち肉眼的に乳頭型,または結節型を示す例では,ときに癌の浸潤が胆管外膜に達するまでに胆管閉塞を来し,黄疸を発症するために早期に診断されることがある.われわれは肉眼的に乳頭型の所見を示し,組織学的に癌の浸潤が胆管上皮に限局した下部胆管癌切除例の検査所見および病理組織所見について報告し,更に早期胆管癌の報告例に関する文献的考察についても述べる.

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 胆管系悪性腫瘍の治療成績はPTC,ERCP,腹部血管造影,超音波,CTなどの検査法が進歩し,PTCドレナージによる術前の減黄処置がルーチンに行われるようになった今日でも,いまだ満足できるものではない.治療成績の向上には,当然のことながら早期発見,早期治療が最も重要であるが,早期の癌と言える症例は極めて少ない.最近7年間の当教室における胆管癌40例を胆道癌取扱い規約の胆管癌肉眼的進行度(Stage)分類で分けてみても,34例がStage Ⅲ以上で,Stage Ⅰは3例(7.5%)にすぎない.今回,比較的早期と思われる上部胆管癌の症例について報告する.

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 早期胆管癌の定義はいまだ確立されたものはないが,第15回胆道疾患研究会において集計された37例につき検討し,角田ら4)は現在のところ癌が胆管壁内に限局し,リンパ節転移のないことを挙げている.胆道系の癌は一般に,症状発現の時期には既に進行した症例が多いため,早期癌は極めてまれであり,永光の報告1)でも1970年までの全国集計では5例にすぎなかった.しかしながら最近ではERCPおよびPTCに加え,X線CT,更に腹部超音波検査による映像診断の進歩により切除可能で,かつ根治性も期待しうる症例が増加しつつある.今回私どもは黄疸を主訴として来院したが,切除標本では0.5×0.8×0.6cm大の総胆管末端の早期癌であった1例を経験したので報告する.

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 胆管癌は各種診断法の進歩した今日でも,診断しえた時点で多くが進行性であり,切除不能あるいは姑息切除に止る場合が少なくなく,その治療成績は不良である.したがって,早期の胆管癌症例に遭遇することはまれであり,また術前にそのような早期例を診断することも困難な現状である.最近,胆道癌取扱い規約1)が定められ,肉眼的stage分類が試みられているが,早期胆道癌の定義は明らかにされていない.このような現状においてわれわれは,本規約に準じ,癌巣が組織学的にも胆管壁内に限局し,漿膜や外膜に浸潤を認めないものを早期胆管癌として扱ってよいのではないかと考えている.

 症例は黄疸を主徴とした上部胆管で,術前の胆汁細胞診で確定診断が得られ,根治的切除が行われた.本症例は術後の組織検討で病巣は胆管壁内にとどまり,リンパ節転移も認められなかった.

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 胆囊癌は最近の胆道X線検査法,超音波検査法の進歩により術前に診断される症例が増加しつつある.しかしながら,その多くは切除不能症例で予後も極めて悪い.胆囊癌の早期診断と適切な治療法の確立が急がれるところである.われわれは胆囊のほぼ全域に浸潤が認められ,早期癌に関し,示唆に富んだ症例を経験したので報告する.

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 近年のComputed Tomography(CT)やUltra-sonography(US)を中心とした検査法の進歩は,胆道疾患に対する診断能を飛躍的に向上させ,なかでも胆囊疾患に対する診断に著しい進歩をもたらした.しかしながら胆嚢癌,殊に早期胆囊癌の診断と予後に関しては,臨床的および病理組織学的に究明されねばならない幾つかの問題点も残されている.

 今回われわれは早期胆囊癌と考えられる症例を経験したので報告する.

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 胆道系悪性腫瘍における早期癌の定義は,いまだ明確ではない.今回,われわれは心窩部痛と食思不振を訴え来院し,ERCPにより非可動性の小隆起を認め手術により粘膜内癌と診断された症例を経験したので報告する.

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 早期胆囊癌に関するまとまった報告はまだ少なく,その定義も確定していない.これは,胆囊癌それ自体のみでは早期であればあるほど著明な自他覚症状を発症し難く,また胆囊壁に粘膜筋板を欠くために比較的早い時期に血行性,リンパ管性転移を来しやすく,早期発見の機会が少ないことが最大の理由と考えられる.したがって,胆囊癌は早期診断・早期治療の困難な臓器とされておりこれまでの報告にても胆石や胆囊炎との術前診断で胆摘術が施行され,組織学的検索により早期胆囊癌と診断された例がほとんどである.今回,われわれは胆囊超音波断層撮影法およびERCPにて術前に胆囊Ⅱa様癌および胆囊ポリープを疑い手術により胆囊粘膜内癌および乳頭状腺腫内の癌化を確認した症例を経験したので報告する.

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 最近,胆道疾患診断法の進歩と共に,少数ながら,早期の胆道癌が術前に診断されるようになった.著者らもERCPによって術前診断できた早期胆囊癌を経験したので報告し,若干の考察を加える.

症例

 患 者:78歳,女,無職.

 主 訴:心窩部痛,発熱,黄疸.

 家族歴:実母が胃癌で死亡.

 既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:20年来,本態性高血圧症にて内科的治療を受けていたが,1977年12月5日夜,心窩部痛を来し,翌朝近医を受診,鎮静剤の注射で疼痛は軽減した.12月9日,心窩部痛が再発し,嘔吐も併発したので前医の往診を受け,発熱と黄疸を指摘され,胆嚢炎の診断のもとに当科に紹介され,入院した.

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 これまで数多くの早期胆囊癌症例が報告されてきたが,術前診断のできた症例はまれであった.しかし,超音波検査法をはじめとする胆道疾患の診断が急速に進んだ結果,ようやく早期胆囊癌の明確な定義づけや術前の診断が論議を呼ぶようになった1)~3)

 われわれは上腹部痛で発症し,ERCPで可動性のない不整形の隆起性病変が描出され,術前に癌が強く疑われた深達度mの早期胆囊癌症例を経験した.その診断過程を報告すると共に,早期胆囊癌の自験6症例をもとにして術前診断の可能性を考察した.

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 春日井(司会) 今日は“早期胆道癌の診断を目指して”という主題で,先生方にお話をうかがうわけです.しかし,早期胆道癌の定義がまだ決まっていません.まず皆さんからいろいろ御意見をいただいて,この座談会における定義を決めてから,具体的な話し合いに入りたいと思います.最初に,渡辺先生,お願いいたします.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc
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 A 42-year-old man was admitted to the National Cancer Center Hospital for the detailed examination of the stomach because of abnormal findings detected in the gastric mass survery. Nothing notable was found in his personal and family history. Physical examination revealed no abnormal findings. Blood count, blood chemistry and urinalysis were within normal limits.

 Radiography and endoscopy revealed an irregular, shallow depressed lesion with the converging folds on the anterior wall of the gastric antrum. Distinct tapering and the moth-eaten appearance was seen at the tips of the converging folds. But there was no such findings as clubbing and fusion of the folds, plateau-like elevation and irregularity of fine granular appearance within the depression, which are suggestive of submucosal involvement of cancer (sm).

Coffee Break

迷切後の胃癌発生
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 ネズミの迷切を行ってメチルコラントレンを投与すると,迷切を行わないで同じものを投与した場合より胃癌の発生率が高い.MorgensternやVilchezはこういう報告を随分昔出していた.

 ヒトの十二指腸潰瘍治療に迷切が行われるようになって久しいが,臨床的にはどう考えられているのであろうか.もしかするともう解決済みの問題なのかもしれないが,なにがしか気にしている人もいるかもしれない.

NANB
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 急性non-A,non-B(NANB)肝炎は,輸血後肝炎や散発性のオトナの肝炎の多くを占めていると考えられている.最近では,NANB肝炎では長期にわたってアミノトランスフェラーゼが高値を示し,慢性化の傾向が強いと言われている.

 HAやHBの血清学的診断ができるようになって,AもBもない慢性肝炎をNANBと考える傾向がみられるが,HB抗原や抗核抗体やLEが陰性だからといって即NANBと考えるのは誤りであろう.

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 近年,内視鏡的逆行性膵・胆管造影法(ERCP)の普及と共に,従来まれとされていた傍乳頭総胆管十二指腸瘻が比較的多く発見されるようになってきた1)~3).本症における瘻孔は,その大部分が胆管結石の自然脱落に関係して形成されると考えられているが,筆者らは十二指腸乳頭部癌に関連した本症の4例を経験し,若干の興味ある知見を得たので報告する.

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 胃底腺粘膜領域から発生した未分化型癌のうちlinitis plastica型になる癌の多くは,その発育過程の初期に粘膜下組織へ浸潤し,原発巣の潰瘍化はその後で起こることをわれわれは報告している1)~3).したがって,linitis plastica型癌の初期像の形態は,腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域に存在する,粘膜ひだ集中のないⅡc型癌であると結論することができる1)~3)

 一方,胃底腺粘膜領域は癌の好発部位ではなくまた,linitis plastica型癌もほかの型の癌に比べて決して多くはない2)17)20).しかし,この領域の未分化型癌は幽門腺粘膜領域のそれに比べて,癌が小さくても粘膜下組織へ浸潤する傾向が強いこと10),linitis plastica型癌は予後が極めて悪いこと12)13),および比較的若年成人に発生する傾向があり17)18),その早期の発見と治療は極めて重要である.

入門講座 大腸疾患診断の考え方・進め方・6

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 <質問>潜血反応はスクリーニングとして本当に役立つのでしょうか.

 市川 総論的に話していただきたいんですが.

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欧文目次

編集後記 武内 俊彦
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 近年,直接胆道造影に加えて,US,CTなどの画像が機器の改良,進歩によって著しく向上した.本誌でもこれまで胆道系疾患の臨床として総胆管結石症,胆管異常を取り上げてきたが,今回は早期胆道癌に一度取り組んでみようということで本号が企画された.

 早期胆道癌に関しては,いまだ定義も確立されておらず,わが国においても報告者によって見解が異なっているが,この問題をいつまでも避けているわけにはいかない.数は少ないが癌浸潤がmまたはpmにとどまって,切除後の予後も良い症例が術前に診断されつつあることは事実である.本号では早期胆道癌の定義を含めて,臨床,病理の立場から考え方が述べられ,座談会でもその点について論議された.また,主としてmにとどまる興味ある症例が11例呈示されている.しかし,まだ各施設とも深達度mまたはpmの胆道癌症例は非常に少ない.早期胆道癌の実態を明確に浮き彫りにするには更に粘り強い症例の積み重ねと予後調査が必要であろう.消化管の早期癌でも行われてきたように,臨床と病理の密接な連携はどうしても欠かせない.診断面でも胆道鏡,生検を含めた現在ある手法を駆使して,retrospectiveな検討に十分耐えうる画像,データを整えなければならない.一方,深達度に関しても各症例ごとに術中,術後の徹底した病理組織学的な検索が大切となる.いずれにしても早期胆道癌の定義,診断の確立に本号が果たす意義は大きいと考えている.

基本情報

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胃と腸
17巻6号 (1982年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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