胃と腸 14巻9号 (1979年9月)

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 一般的に内視鏡で認められる食道静脈瘤は門脈圧亢進症に基づく側副血行路の一端として出現し,左胃静脈あるいは短胃静脈を経て流入した食道の粘膜内および粘膜下の血管が,食道胃接合部より上行する静脈の拡張,蛇行,念珠状変化として観察される.すなわち食道下部より上行し,口側では奇静脈あるいは頸静脈に流入して消失し,内視鏡所見では主として食道内腔に4方向に走行し交通枝を出している.またそれと異なった食道静脈瘤として確認されているものとしては,いわゆる“downhill varices”と称されるもので,上大静脈圧の上昇から主として上部食道に血管怒張をきたすものである1)3).前者は一般的だが,後者はかなり稀である.ところが最近われわれは,1975年より約1,500例のスクリーニング・ルーチンpanendoscopyを施行し,常に食道を観察しているうちに,それら2者とも異なると思われ,しかも通常観察される食道静脈瘤の血管走行としてではなく,局所的に孤立性に存在する静脈瘤に6例遭遇したので,その内視鏡的所見を臨床経過とともに報告する.

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 Granular cell myoblastomaは全身のいかなる部位にも発生しうる良性腫瘍で,これまで1,000例近くの報告があり,その好発部位は舌,乳房および全身各所の皮下組織である.消化管における本症の発生は比較的少なく,現在までに食道,胃,十二指腸,大腸,虫垂,直腸,総胆管での発生が報告されている1)~3).しかしこれらは剖検により偶然発見されたか,あるいは術前諸検査により病変の存在のみが指摘され,術後の組織検査ではじめて確定診断の得られたものがほとんどである.

 今回われわれは極めて特徴的な内視鏡所見を呈した食道の隆起性病変より生検を施行し,granular cell myoblastomaと診断しえた症例を経験したので,その内視鏡像および本症に関する文献的考察を加えて報告する.

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 特異な臨床像と病理学的特徴をもつ消化管のVillous adenomaは本邦では比較的稀なものとされ,その好発部位は直腸と言われている.最近,われわれは胃幽門前庭部に,大腸にみられるVillous adenomaに類似したⅡa集簇型胃癌とBorrmann2型胃癌が衝突した1例を経験したので報告する.

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 生検によりGroupⅢと診断し,いわゆる異型上皮巣として経過をみた胃の隆起性病変が,3年5カ月後の生検でGroupⅤと診断され,Ⅱa型早期胃癌として手術をうけた症例を報告する.

 この症例は,初回の内視鏡検査でⅡa型早期癌が疑われたが,採取した4コの生検組織がいずれもGroupⅢと診断されたため経過観察がなされたもので,約3年後に大きさが増大し,形態も変化したため,生検が繰り返し行われ,最終的に癌と診断されたものである.切除標本の病理学的な検討でも,同一病巣内に癌と異型上皮が混在しており,異型上皮巣の癌化がつよく疑われる症例といえる.なお,副病巣として,主病巣から離れた位置に小さな隆起性病変が存在し,これも異型上皮と癌とが混在した病巣であった.

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 胃X線,内視鏡検査などの診断技術の進歩により,早期胃癌診断の進歩は著しいものがある.しかし胃前壁病変の診断はいまだ困難な面も多く,病変の描写にも細心の注意を必要とする.今回われわれは胃前庭部前壁に堀状のⅡc型癌で,それに囲まれた内面は正常幽門腺粘膜から成る粘膜内癌の1例を経験したので報告する.

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 胃の隆起性異型上皮巣は,隆起型早期胃癌と鑑別を要する病変として注目され,長与1)2),菅野,中村,高木ら3)-5),望月,福地ら6)を中心として切除胃および生検材料の病理組織学的検索,並びに臨床的研究が行われて最近そのおおよその概念が確立されてきた.しかし,異型上皮巣はdisease entityなのか否かに関してはいまだに病理学者の間に見解の相違があり,またその本態についてもneoplasiaとする見解とdysplasiaとする見解があり7),必ずしも統一されているとはいい難い.さらに異型上皮からの癌化の可能性については,明確な結論をだすまでには至っていない.本例では,切除胃の病理組織学的検索により,広い異型上皮巣の表層に微小な癌巣が発見された.異型上皮からの癌化を思わせる興味ある症例と考え報告する.

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 胃重積は,腸重積よりはるかに少なく,そのほとんどは,胃腫瘍の存在が原因となる,最近われわれは,胃穹窿部前壁に発生した神経鞘腫が,周辺胃粘膜を伴って十二指腸内に逸脱した1例を経験したので報告する.

症例

 患者:富○し○ゑ 68歳 主婦

 主訴:突然の心窩部痛と食後の嘔吐

 既往歴:63歳脳硬塞軽快

 家族歴:父糖尿病,母脳卒中

 現病歴:1977年2月中旬に突然心窩部痛が出現し,その後,食後の嘔吐,腹部膨満感など4日間続いたが,絶食によりこれらの症状は消失した.次いで6月18日から22日までと,7月6日から12日まで同様症状出現したため近医を受診し,治療を受けたが軽快せず,絶食により症状は消失した.しかし8月3日から上記症状が出現し,幽門狭窄の疑いのため8月8日当院に入院した.

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 Cronkhite-Canada症候群は,脱毛,皮膚の色素沈着,爪の萎縮,低蛋白血症を伴った非遺伝性の稀な消化管ポリポージスである.最近われわれは,主として胃に恐るべき増殖を示したポリポージスを有する本症の1例を経験した.

 ポリープの組織像は非常に多彩であり,癌にまで進行したものが発見された.Cronkhite-Canada症候群におけるポリープの癌化に関しては,まだ結論づけられていないが,われわれは,特に本例の組織像を中心として,この問題に対する考察を加えることとする.

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 近年,家族性大腸腺腫症における大腸以外の消化管病変が注目されてきている.本邦においては,既に,胃病変の合併頻度は60%以上1)~6),十二指腸病変のそれは100%7)8)と報告され,更に最近では小腸病変の検索も重要視されてきている.飯田らは術中小腸内視鏡検査により半数以上に腺腫が認められたと報告している8)9).われわれも,十二指腸・上部空腸に多数の腺腫と考えられる病変が認められ,他合併病変として,下顎骨潜在性骨腫・歯牙異常,皮下血管腫がみられた1例を経験したので報告する.

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 従来比較的稀と考えられていた大腸脂肪腫も近年その報告例が増加し,わが国では本症例を含め51例が報告されている.今回,われわれは,上行結腸に発生し,本邦第1例目と思われる自然脱落をきたした脂肪腫を経験したので,本邦報告例と併せ検討し,報告する.

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 大腸の腫瘍のうち非上皮性良性腫瘍は比較的稀な疾患であり,リンパ管腫についてMorson1)の著書ではvery uncommon caseと記載されている.今回われわれは注腸X線,内視鏡的に観察された上行結腸のcystic lymphangiomaの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

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 大腸脂肪腫は良性疾患ではあるが本邦においては比較的稀な疾患で,大腸癌・大腸腺腫などとの鑑別診断の点で臨床的に問題となることが多い.著者らは大腸脂肪腫3例を経験し,うち1例にwater enema法を施行したので,water enema法についての考察を加えて報告する.

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 肉眼所見が早期胃癌病型に類似しておりながら,癌が固有筋層(pm)以下に深達しているものは,種々の名称で呼ばれているが1)2),筆者ら3)は以前より早期類似進行癌(以下「類進癌」と略す)と称してきた.これら類進癌の臨床的所見,予後などについては幾つかの報告1)4)があるが,その病理組織学的な検討はほとんどなされていないので,この点の考察を行った.

対象

 Table 1のように1974年末までの13年半の間に大阪成人病センターにおいて胃切除された胃癌1,446例中,その病巣が肉眼的に早期癌病型でしか表現できないような深達癌114例を類進癌として検討した.対照としては,早期癌548例と,Borrmann型の進行癌(以下「Borrmann癌」と略す)674例について,比較検討した.また,類進癌とBorrmann癌との中間の病型(以下「類進・Borrmann中間型」と略す)110例も比較検討に加えた.

なお癌病巣を2つ以上もった症例は,そのうちの主癌病巣についてのみ検討した.

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 上部消化管出血は熱傷後に発症する最も重篤な合併症の1つであり,まだ本合併症の病因や発生頻度について解明されていないのが現状である.臨床研究および死後の検討では潰瘍,出血および穿孔などが熱傷の経過中で最も重篤な時点で認められる場合が多く,逆に吐下血などの症状もなく治癒する場合もある.一方では熱傷前に存在した慢性消化性潰瘍が増悪しCurling's ulcerあるいはストレス潰瘍として誤診される場合もある.

 従来より熱傷後に発症する急性胃病変の病態生理を究明するために種々の研究1)2)が行われ,敗血症3),副腎皮質機能亢進4)5)などが病因として述べられてきたが,近年に至りHイオン(以下H+)逆透過性亢進による胃粘膜関門の破壊が胃病変の原因6)7)として注目されてきた.そこでH+逆透過性亢進と胃粘膜虚血に着目し,これらの相互反応が熱傷後に発症する急性胃病変の病因であろうという仮説を設け,以下の実験を行った.同時に自験例の熱傷患者の胃病変についても検討を加えた.

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 原発性十二指腸癌は比較的頻度が少ないこと,更に周辺諸臓器との解剖学的位置関係が複雑であり,浸潤が広範囲に及んだ時には原発巣を特定しにくい要素がある.その点,本論文の症例は極めて貴重と考える.本論文は乳頭上部に発生した十二指腸原発の癌と診断されているが,原発巣に関して質問したい.

 本症例の原発巣として十二指腸粘膜ではなくして,十二指腸の副乳頭(papilla minor)は考えられないかという点である.私なりに根拠を挙げてみたい.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・9

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 市川 本号から各論篇です.質問も具体的ですので,それに沿ってご意見をいただきたいと思います.

●初心者にはどういう機械がいいか

 <質問1>月に20例とか,40例のX線検査を行う外来診療所では,どういう機種がいいと思いますか.

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欧文目次

第4回「胃と腸賞」贈呈式開催さる
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 第4回「胃と腸」賞贈呈式は7月18日(水)の早期胃癌研究会例会会場(エーザイ新館5階ホール)で開催されました.

 今回は,鹿児島大学第2内科の政信太郎氏ほか15氏の次の論文に贈られました.

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 わが国の消化器内視鏡学の学問的水準は質,量共に世界をリードしている現状であり,日本消化器内視鏡学会は既に創設以来満22年を迎え,会員数は4,600名に及ぶ大きな学会に成長した.近年,器種の改良,術式の多様化など逐年的に驚異的な進歩をとげ,往時の胃カメラの時代とは異なり,ますます専門的に細分化されてきている.従って現在用いられている全ての器種,術式に精通し,かつこれらをすべて駆使できる内視鏡医は最早や極めて少数であろう.

 林博士は昭和36年,日本大学第3内科に入局され,以来18年間,消化器内視鏡学一筋に精進してこられた.国内はもちろん国際的にも数々の業績を挙げてこられたのであるが,消化管全域に限らず腹腔鏡に至るまですべての消化器内視鏡学に精通しておられ,上述したような極めて数少い専門家のおひとりである.

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 The Prognosis of Carcinoma of the Colon and Rectum Complicating Ulcerative Colitis: R.G.Hughes, T.J.Hall, G.E.Block, et al. (Surg. Gynec. Obstet. 146: 46~48, 1978)

 潰瘍性大腸炎(以下UC)に合併する大腸癌の予後が不良といわれる.それは腫瘍の性格によるか,早期発見または治療における失敗によるものか明らかでない.進展の早さについては疑わしい.そこで予後と進展の早さについて通常の癌と比較を試みた.

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 Double-blind placebo-controlled study of loperamide (lmodium) in chronic diarrhoea caused by ileocolic disease of resection: P.Mainguet, R.Fiasse (Gut 18: 575~579, 1977)

 Loperamideは,新しい下痢止めで,少量で,腸管内の移送時間を延長させ,ひまし油による下痢をもコントロールする.その逆蠕動活性は,腸壁の筋に対する直接作用による.便秘を起こす力はコデインの50倍といわれる.そして習慣性もない.この研究では,自然寛解しそうもない重症な慢性下痢患者を対象とし,二重盲検法によりloperamideの効果を検討した.

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 西洋医学を根幹として発達してきたわが国における近代医学の歩みは華々しい成果を挙げ,とくに伝染病のコントロールと乳幼児の対策が示した実績はまことに燦然たるものがあったといわざるを得ない.ためにわが国民の平均寿命は男女ともに75歳前後に達するに至った.しかしながら科学は万能かと描いた夢には思わざる陥し穴が待っていたことに近年気づきはじめてきた.今や生命の延長に伴う成人病の対策に手を焼くことになったのであるからまことに皮肉な現象ともいえよう.

 およそ,疾病との闘いは治療および予防のいずれかが可能となればそれでよいのである.成人病の多くが慢性病であり,その治療が容易でない段階にある現在,一方では予防不能のものを可能とすべく努力が重ねられてゆくのは当然のことであり,そうした病気にならないように健康状態を保持増進することが要求されるに至り,それだけに医療の内容と規模は大きく膨れあがり,かつ著しく複雑化してきた.

編集後記 武内 俊彦
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 本号は年1回ないし2回企画されている「症例・研究特集」であるが,今回も食道2編,胃6編,腸4編と貴重な症例が広く掲載されている.このうち4編は昨年秋,岐阜市で開催された第21回「胃と腸」購読の諸先生全国大会で発表され,熱心な討議と適切なるコメントが加えられた興味ある症例である.実に本号12編中8編はすべてその地方の第一線病院で診断,治療されたもので,多忙な地域医療の中で消化器病の診療に日夜専心しておられる諸先生方に心から敬意を表したい.臨床上,おそらく一生の間に経験することがないかもしれない症例からは,今後の診療に役立つ知識が得られるし,今まで遭遇したことのある類似症例からは,検査あるいは病理所見の相違に教えられ,反省させられるところが少なくない.こうした症例のつみ重ねが消化器疾患の診断の進歩,病態の解明につながって行くに違いない.

基本情報

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胃と腸
14巻9号 (1979年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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