胃と腸 12巻4号 (1977年4月)

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 食道癌切除後の食道再建には胃を使用することが多い.したがって食道癌病巣のみならず,胃も精査して,胃癌はもとより潰瘍,ポリープ等の病変の有無を調べ,胃が食道再建に適しているかどうかを確かめる必要がある.しかし術前に胃を精査したにもかかわらず,胸壁前および胸骨後経路で食道を再建してから,それぞれ1年半,4年半後に形成胃管の胃癌の存在に気づいた2症例を経験した.食道と他臓器,特に胃との重複癌は以前にも報告したように3)それほど稀なものではないが,食道癌手術後の再建胃管の胃癌の報告は稀である.そこで2症例を報告するとともに文献的考察を加えた.

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 胃の平滑筋肉腫は悪性リンパ腫を含む胃の非上皮性悪性腫瘍の約20%を占めるとされており1),今日それほど稀な疾患ではないが,術前診断率はまだ低い現状にある1)2).術前診断が困難なのは他の疾患と鑑別できる特徴的な所見が少ないためといわれている7).今回,われわれは特異な胃X線像,ならびに腹部血管造影像より術前に胃平滑筋肉腫と想定しえた1例を経験したので報告する.

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 X線,内視鏡検査,生検などの診断技術の進歩に伴い,微小胃癌も比較的容易に診断できるようになった.しかし,Ⅱb型早期胃癌については術前に診断できた症例はいまだに少ない.われわれは,内視鏡検査および生検により術前にⅡb型早期胃癌と診断しえた1症例を経験したので報告する.

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 一般に広い隆起型の早期胃癌は比較的少ない.たとえば,表層拡大型胃癌という型の早期胃癌は普通Ⅱc型であり,早期胃癌分類でⅡa型を呈し,6cmを越える症例はむしろ珍しいとさえいえる.

 われわれは術前に広いⅡaとⅡc+Ⅱbを合併し早期胃癌と診断し,手術の結果進行癌であった,きわめて多彩な所見を示した1例を経験したので報告する.

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 胃に重複癌の発生をみることはそれほど稀ではなく,われわれの施設でも藤原ら1)によると切除された胃癌の3.2%にみられている.しかしながら発生母地の異なった悪性腫瘍が,同一胃にそれぞれ独立して共存することはきわめて稀である.われわれは最近,比較的短期間に著明な形態の変化を来たし生検にて確診しえた浸潤がsmにとどまる胃細網肉腫と,それと離れた部位に独立して存在していたⅡb型早期癌の合併例を経験したので報告する.

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 韓国においても日本と同様に胃癌は非常に多く,全癌死亡の中で男子の癌では胃癌が第1位,女子では子宮頸癌についで第2位で,男女合わせてもやはり第1位となっている1).韓国の近代医学は第二次大戦後,欧米,特にアメリカの医学に負うところ少なからず,医学各分野にめざましい発達をとげてきた.しかしながら韓国人にこのように胃癌が多いにもかかわらず,胃癌の診断,特に早期胃癌の発見頻度は低く,切除胃癌中の早期癌の頻度は5%に過ぎない.胃癌診断技術の中で二重造影を含む胃X線検査法は早くから広く普及しているが,内視鏡検査は1968年頃からようやく始まり,徐々に普及しつつある.われわれは1973年9月から本格的に胃内視鏡検査を施行し,今日までに8例の早期胃癌を内視鏡的に診断しえた.今回はその8例中,特に興味ある典型Ⅱb型早期胃癌1例を報告し,あわせて韓国における胃癌の現状を紹介したい.

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 十二指腸乳頭部に良性腺腫がみられることは稀であり,現在まで11例が報告されているにすぎない4)~6).また,十二指腸腺腫は前癌病変でありうる可能性も諸家により示唆されている7)~10)

 われわれは最近,急性腎不全を合併した胆道感染症疑診例が,大量下血を併発したため,緊急胃切除術をやむなく行ない,軽快した後,精査により総胆管結石および十二指腸乳頭部腫瘤が明らかとなり,根治手術を行ない全治しえた症例を経験した.本例の乳頭部腫瘤は組織学的にも良悪性の判定が非常に困難な症例であったので若干の考察を加え報告する.

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 家族性大腸ポリポージス(F症)は稀な疾患であるが,きわめて悪性化しやすく,かつ遺伝的要因が濃厚な疾患としてよく知られている.われわれは本症の1家系について検討する機会を得たので報告する.

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 Peutz-Jeghers症候群は口唇指趾等の色素沈着と遺伝傾向を有する腸管ポリポージスで,本邦では200例以上の報告がある.Peutz-Jeghers症候群の揚合,ポリープの癌化は比較的稀であるが,ポリープの誘因となる腸重積の合併が多く,全消化管に発生したポリープの処置が問題となる.ポリペクトミーの手技としてはendoscopic surgeryの応用が侵襲も少なくすぐれているが,ポリープが全消化管に多数存在する場合,あるいは腸重積合併例等では観血的手術が必要となる.最近われわれは急性膵炎の経過中に発見されたPeutz-Jeghers症候群の1症例(腸重積合併例)に開腹のうえ内視鏡的ポリペクトミーを施行し,全消化管にわたって存在した計50コのポリープを切除し,きわめて良好な結果を得たので報告する.

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 Cronkhite-Canada症候群は,遺伝性が証明されず,脱毛,爪の萎縮,色素沈着を伴う比較的稀な消化管ポリポージスで,癌の合併は少ないが,しばしば悪液質に陥って死亡するといわれている.われわれは,直腸癌を合併し,手術後緩解を示した1例を経験したので報告する.

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 Cronkhite-Canada症候群1)は,胃,小腸,大腸にわたる広汎なポリポージス,皮膚の色素沈着,脱毛,爪甲の萎縮,低蛋白血症のみられる非遺伝性のきわめて稀な疾患である.最近,われわれは全身症状の改善と共に消化管ポリープの縮小ないし消失を認めた本症候群の1例を経験したので報告する.

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 近年colonofiberscopeを中心とする下部腸管内視鏡器械の進歩によって,大腸疾患診断への関心が高まり,稀有な大腸疾患の発見例が増加してきている.Cronkhite-Canada症候群1)の報告例も最近目立つようになり,polypの病理学的検討,外胚葉性器管の異常と消化管polyposisとの関係,消化管からの蛋白喪失機序についての研究などがなされているが,そのほとんどが解明されていない.最近われわれもCronkhite-Canada症候群を経験し,レントゲン検査,内視鏡検査,polyp生検,Isotopeを用いた消化吸収試験などの諸種検査を施行し,さらに腹腔動脈造影,上腸間膜動脈造影を行なって,特異な所見を得,消化管からの蛋白喪失についていささかの考察を加えてみたので,ここに報告する.

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 近年,直腸鏡や大腸ファイバースコープ検査においても,微小癌をはじめとして微細な大腸粘膜病変の観察に関心がもたれている.われわれは最近,直腸粘膜に注腸検査時に用いられた硫酸bariumの沈着によると思われる小白斑(barium fleck),およびbarium肉芽腫(barium granuloma)を25例に観察した.直腸のbarium granulomaは1954年にBeddoeら1)により初めて報告されてから諸外国には数十例の報告をみるが,本邦にはほとんどなく,特に小白斑としてみられるbarium fleckに関しての報告はみられない.そこで今回はこれらの病変の内視鏡的所見,および病理組織学的所見を中心に,若干の考察を加えて報告する.

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 胆道系疾患の診断は,近年DIC法,ERCPの普及に伴い,X線による診断成績向上の著しい進歩をみたが,造影法による診断のため,いまだ病変の見誤り,見落とし等の問題が残されている.一方,胆道系疾患の外科治療面においても,遺残結石および肝内結石症など初回手術で完治し得ない症例が実際に見られる.これらの症例に対する胆道ファイバースコープの導入は,近年ファイバースコープの性能向上に伴い,有用な方法であることが評価されるようになってきた.

 胆道鏡開発の歴史をみると,1923年Bakes1)が最初に胆道内視を試み,その後1937年Hollenberg2)らとBabcock3)が胆囊外瘻造設患者に硬性膀胱鏡を使って胆囊内観察,結石除去に成功した.ただし,これらは硬性鏡であったため,胆道の観察には,実際上不合理な面が多く,実用化には至らなかった.1958年Hirschowitz4)がgastroduodenal fiberscopeを考案したのがきっかけとなり,fiberscopyが内視鏡分野で確立された.1965年にはShore5)らが初めて胆道ファイバースコープを開発し,胆道疾患診断の分野に可撓性のあるファイバースコープが出現した.本邦でも1967年に田,西村6)らが,さらに山川7)らが国産のファイバースコープを開発し報告している.

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 ファーター乳頭部およびその近傍に生ずる総胆管十二指腸瘻──ここでは,乳頭部総胆管十二指腸瘻と呼ぶことにする──は,内胆汁瘻のうちでも最も稀なものと考えられ,従来欧米の報告例はほとんどみなかったが1)~3),最近本邦では十二指腸ファイバースコープによる発見例が相次いで報告4)~6)されるようになるとともに,乳頭閉鎖不全の原因や胆石の自然消失機転に関連の深い病態として注目を浴びてきている.

 われわれは最近東京都養育院付属病院および東京大学病理学教室における剖検例475例中,4例の乳頭部総胆管十二指腸瘻を認めた(Table 1).そこでこれらの症例を中心に本症について肉眼ならびに病理組織学的検索を行ない,その発生機序および臨床上の問題などに関して若干の知見を得たので報告する.

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 十二指腸粘膜にはgastrin,secretin,CCK-PZ以外にも,近年になって多くの消化管ホルモンの存在が確認され,消化管の分泌,運動,血流調節にも大きな影響をおよぼしていることがわかってきた.十二指腸が“abdominal hypophysis”と称せられるゆえんであろう.

 日常,十二指腸の内視鏡検査を行ない,十二指腸粘膜のビラン性変化,タコイボ様隆起をみいだすことは多い.また,ふるくから十二指腸潰瘍と十二指腸炎との関係,あるいは十二指腸粘膜における胃粘膜島の意義,成因論などの報告もみられるようになったが,本邦においてはなぜか本格的な十二指腸炎の研究は比較的少ない.慢性胃炎以上にアプローチがむずかしいと考えられているからであろう.

海外寄稿

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 術後狭窄性食道炎(P. S. E.)は稀ではあるが食道以外の手術に際してみられる重大な合併症である.世界の文献上2)39例を数える.われわれの経験では22症例で,内訳は胆摘4,遠位胃切除4,前立腺摘出2,結腸半切除3,経横隔膜迷切2,腸切除2,乳房切断1,子宮切除1,外反母趾手術1,穿孔性胃潰瘍手術1,急性膵炎手術1例であった.1例では迷走神経切断術が経横隔膜的に行なわれたが,他はいずれも胃食道接合部は直接手術侵襲を受けていない.

 Table 1はP. S. E.の診断を確定させる4)~7)X線検査および内視鏡検査の対象となる症状を示している.Table 2にはわれわれの22例でみられた考慮される原因をまとめてある.注意深く既往歴を調べると,多くの症例では長期間に術前からあったこく軽症の食道への逆流症状が認められた.われわれの22例中4例では以前に受けたX線検査写真がみつかり,食道裂ロヘルニアがあった.14例は鼻腔から胃内への術後吸引1)2)が認められた.

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欧文目次

書評「肝臓」 山村 雄一
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 肝臓の形態と機能,さらに病態に関する近年の進歩を集大成し,そのreference sourceとなる本は長い間わが国での出版が期待されていた.本書の第1版は1964年に世に出され,その期待に応えたと思うが,その後1971年の第2版の出版に際しては「肝臓」と「肝臓病」とが分けて出版されるようになり,今回の第3版では肝臓に関する基礎的な知識を中心として,この10年間ばかりの間に劇的な進歩を示した事項が加えられ,改訂・補筆が行なわれて装いを新たに登場してきたものである.

 本書は大きくわけると肝臓の形態と機能,それに病態生理という3つの部分から成っている.形態学的な部分では,肝臓の発生,その比較解剖,肝臓の血管構築,組織学的構造などが前半において述べられ,後半では組織化学,電子顕微鏡的構造についてかなりのページがさかれている.後者では形態と機能との関係が随所において論じられ,肝臓に関する今日的な形態学的アプローチの軌跡をみることができる.

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 消化性潰瘍や胃腫瘍の外科治療では,幽門括約筋を失い,その結果胃と小腸との異常な交通ができあがる.更に迷走神経切除により胃腸の運動障害がおきる.胃切除後症候群として次のものが主としてあげられる.

 ①アルカリ性胃炎:悪心,嘔吐,体重減少を伴う食後の上腹部痛をおこす.内視鏡的に診断が容易である.吻合部周辺の炎症が著明.外科的にはReux-en-Y吻合が最も効果をあげる.

編集後記 中村 恭一
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 本号は症例特集と研究が掲載されている.このような症例中心の企画は,本来ならば,1つの問題に対してあらゆる角度から解析する主題形式とは異なったもの,つまり各症例の間には関係がないものになる率が高い.しかしながら,胃症例についてはⅡbあるいはⅡbに関係のある論文が4編もあり,読後にはⅡb特集のような感を抱かせる.このことは,わが国における胃癌診断学の研究の1つの方向を意味するとともに,本誌7巻1号にもみられるように,胃癌診断学の極限のひとつであるⅡb診断の理論確立への道を着実に一歩一歩前進していることをも物語るものであろう.大腸症例は,ポリポージス例のみであり,なかでも稀なCronkhite-Canada syndromeを3例もまとめて間接的に経験できるのは本号の特徴の1つであろう.

 ひるがえって,症例報告というものは,ともすれば症例の記載・経験,ただそれだけに終始してしまうような錯覚におちいりやすいのであるが,同じ類の症例の積み重ね,それらを通覧することによってひとつの概念が確立されあるいは問題解決への新しい道が開かれる場合もある.1例1例がいかに大切であるかを再認識させられた.症例特集のひとつのあり方として,同類を1冊にまとめてみるのもあながち無意味でないようにも思える.

基本情報

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胃と腸
12巻4号 (1977年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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