胃と腸 12巻5号 (1977年5月)

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 発育,成長,成熟につづく生理的現象の終末である老化は,身体諸臓器におけると同様,消化器系にも加齢とともに必然的に存在するものと考えられる.しかし,消化管は他臓器に比べて,食生活や生活環境に影響される面が大きく個人差も著しいので,消化管のいわば疲労によると思われる機能的,形態的変化を一概に老年者特有の変化としてきめつけるわけにはいかない.加齢に伴う変化は,神経系,心血管系,肝・胆・膵,呼吸器,造血器,代謝内分泌系等について,数々の報告があり論議されている.消化管各部位において個々の変化を論じた報告はあるが,ヒトの全腸管にわたり,加齢的変化を論じたものはまだない.そこで今回の加齢と消化管についての基礎的検討にあたって,病理組織学的検索を食道・胃・十二指腸・小腸・大腸の全腸管にわたって行なうために,剖検例および生検例を使用し光顕的検索を中心に,かつ電子顕微鏡学的所見を加え,さらに加齢ばかりでなく,これと比較される動脈硬化についても検討を加えることにした.

 なお,本文は昨年(1976年)秋の第18回日本消化器病学会秋季大会(目本消化器内視鏡学会,日本胃集団検診学会合同)における特別講演のうち,形態面からの病理組織学的検討に関するものであり,機能面からの検討は別に発表する予定である.

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 臨床医学はいわばcase studyの集積を中心にした,経験からの治療を主体とする学問であるのに対し,疫学は人間集団を対象として人間の健康および異常の原因を宿主,病因,環墳の各面から包括的に考究し,その増進と予防をはかる学問である1).ある意味では集団病理学あるいは社会病理学といわれることもある.

 したがって疫学は人間の集団のなかで疾病を含む健康事象がどのような頻度で分布し,それが時間的にどのように変動するかを測定し,そのような分布に対してどのような要因が働いているかを異なった条件下での事象の発現と比較することによって明らかにする.その意味では疫学は決して基礎医学のなかで扱われるべき内容ではなく臨床医を含めた社会医学のなかでこそ問題にされるべきものであろう.

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 何歳以上を高齢者とするかについては,いろいろな意見がある.日本老年医学会では,一般に60歳以上を老年者としているが,このうち70歳以上をとくに高齢者と称している人もいる.日本人の平均寿命が延びたこともあって,問題によっては60歳台と70歳以上を分けて吟味しなければならない場合もあるが,胃潰瘍についてはあまりその必要もなさそうである.したがって,老年者と高齢者とを分けて考えるというよりも,ここでは一応60歳以上の老人の胃潰瘍ということで,その特徴と問題点について述べ,そのなかで70歳以上のものにおいてとくに考慮すべき事項があれば,その都度指摘することにする.

 老人の胃潰瘍は,青壮年のそれに比べ,種々の点において特徴がある.その特徴を形づくる大きな因子は,つまるところ局所(胃)および全身の老化現象に伴う病態であろうが,いずれにしても日常の診療において,胃潰瘍についても老人は老人なりにとくに注意をはらわなければならないいくつかの点がある.以下これらについて具体的に述べてみたい.

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 加齢に伴い精神面のみならず,身体的な形態と機能に関しても退行性変化が生ずるとともに種々の病的状態が形成される.老人に多い消化器疾患として癌,潰瘍,ポリープ,憩室,胆石症などがあげられるが,胃においても特徴的な所見がみられる.今回,われわれは高齢者胃癌の特徴について述べるとともに年代別に比較検討した成績を報告する.

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 老年者の胃病変が,若年者と対比された場合の特徴については,過去多数の業績からその一般的傾向についてはすでに定説化しているものも少なくない.しかし老年者層の中で各疾患がどのような条件下で発生し分布するかについては,いまだ明確な数値が出されていないものが多い.その原因の1つには,いわゆる老年者層における「正常胃」の実態についての追求が不十分な面が多いことがあげられよう.

 われわれは1966年4月以来,60歳以上の老年者を中心に,入院死亡者の90%以上の剖検を実施しており,その際胃病変について肉眼的,組織学的に検索を行なってきた.今回は,主として胃粘膜病変について検討した.

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 常岡(司会) 今日のテーマは,「高齢者の胃を語る」ということになっていますけれども,要は,最近のわれわれの平均寿命の延びたことに関連いたしまして,高齢者の胃病変も改めて問題にしなければならなくなり,あえて特集として高齢者の胃の病変の特徴や問題点について諸先生方にいろいろご高見をおうかがいしたいということであります.

 司会は,私と高田先生と2人でということになっておりますけれども,主として高田先生にお願いをすることにいたしたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします.

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 胃の囊腫はまれな疾患であるが,中でも副胃あるいは重複胃と称される病変で生じた囊腫の報告例は数少ない.最近われわれは,胃のX線および内視鏡検査で術前に胃囊腫と診断され,術後の組織学的検索で副胃であることが分かった1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

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 消化管憩室に占める小腸憩室の頻度はMeckel憩室を除けばきわめて低く,剖検時および開腹時に偶然に発見される場合が多い.われわれは本邦第1例目と思われる大量出血をきたした単発性空腸憩室の稀な症例を経験したので報告する.

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 小腸の腸間膜に生ずる非特異性の炎症性疾患は非常に稀なもので,本邦における報告も極めて少ない.最近われわれは慢性に経過したと思われる小腸間膜の限局性の炎症性病変に伴う空腸狭窄の興味ある1症例を経験したので報告する.

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 胃以外における消化管に胃腺上皮を見ることは極めて稀であるが,メッケル憩室,食道異所性胃上皮1),十二指腸2)3),腸管二重症4)5)等に見られるという報告がある.しかしそれらの異所性胃上皮のほとんどは先天的に発生した上皮と考えられ,明らかに後天的に発生したと考えられる報告は今までのところ,われわれの知る限り1例のみである.

 われわれは小腸にBlind Loopを設置した20年後の患者の小腸切除標本の粘膜に散在性の幽門腺様腺管,そして壁細胞,主細胞,副細胞より成る胃底腺上皮を認めたのでその報告を行ない若干の文献的考察を行なった.

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 食道造影法,食道内視鏡および食道動脈撮影法の進歩,また生検技術の普及により食道癌に対する診断法は飛躍的に発展してきた.

 しかし食道壁内腫瘍は癌腫に比べると比較的稀な疾患であり,粘膜面に直接変化を認めないためしばしば食道壁外からの圧排性病変すなわち縦隔腫瘍,大動脈瘤および大動脈硬化症との鑑別が困難なことがある.

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 胃粘膜上皮化生は,胃・十二指腸病変,特に胃癌との関連において重要視1)~9)40)41)されてきた.腸上皮化生の胃粘膜面における分布状態やその程度を肉眼的に観察する方法として,臨床的には胃内視鏡検査と色素撒布等の併用による方法10)~15)があり,実験的には切除胃標本を対象とする方法16)~23)がある.特に後者には,近年,酵素組織化学的アプローチが導入され,胃癌発生の機序を解明するための1つの重要なアプローチとして,欧米や本邦でも2,3の研究が報告されてきた.このようなアプローチとして今日まで知られている主なものは,Alkaline phosphatase(ALP)を指標とする方法16)17)20)21),Disaccharidasesを指標とする“Tes-Tape”法18)19)24),杯細胞産生mucinとAlcian blueとの親和性を利用する方法等21)がある.従来,ALPは腸上皮化生に強い特異性があり,安定した酵素と考えられてきたが,著者26)は,先にALPを指標として,腸上皮化生の分布状態を観察し,その結果が病理組織学的腸上皮化生の分布との間に必ずしも一致しない場合が存在することを知った.このため,腸上皮化生の代表的指標酵素の1つであるLeucine aminopeptidase(LAP)の酵素反応を利用して,腸上皮化生に特異的な呈色反応をおこさせ,腸上皮化生の胃粘膜面における分布状態やその程度を肉眼的に観察する方法を考案した.この反応陽性粘膜は,橙赤色を呈し病理組織学的に検索された腸上皮化生の分布とよく一致し,さらにALP染色法を重ねて行なえるので,酵素パターンの異なる腸上皮化生の存在やその分布状態を観察することができた.著者はこの方法を便宜上LAP染色法と呼んでいるが,反応は鋭敏で操作が簡便であり,標本をいためることがないので便利な研究方法である.以下LAPを指標とする腸上皮化生(以下化生と省略)の観察法を述べこの方法によって観察された化生について若干の検討を加えてみたい.

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欧文目次

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 この度,H.A.Lee編集による「Parenteral Nutrition in Acute Metabolic Illness」が翻訳されて“急性代謝障害時の経静脈栄養法”という日本語版の本が上梓された.翻訳者はその道の権威である山本関西医大教授,藤田愛知医大教授,ミドリ十字の森末,谷川,須山医博である.この本は,Wretlind,Wilkinson,Johnston,Peastone等の13人のdoctorで主にEnglandのその道の大家とSweden,Norwayの人たちが加わり,分担執筆になるものである.

 元来,栄養は経口的に与えるものであるが,われわれ手術患者等を扱う場合において食事がとれない,あるいは食事をとることが好ましくないという状態の場合にあっても経口的あるいは経鼻的に栄養を与えるということが理想的ではあるが,それが不可能の場合や出来ない場合に経静脈的にいわゆる輸液を行なうことによって水分電解質などのバランスをとるわけで,これらについては古くから行なってきている.しかし,さらに積極的に経静脈的に栄養を与えるということが必要になり,近年はことに高カロリー輸液が行なわれるようになってますますその重要性が高まったといえる.したがって,これらの特性やその代謝等について広く知識を要求されるのである.現在,数多くの研究によりこれらの点が解明されつつあり,parenteral nutritionの有効性が高く評価されている.

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 編集責任者常岡健二教授も序文で述べられているように,進行胃癌の内視鏡診断学は現在トピックスからやや脱落しているように思われます.しかし,このことは日常診断にたずさわっているわれわれにとってはまことに困った傾向といわざるを得ません.

 胃癌の内視鏡診断面に関してアトラクティブなのは,その早期発見,初期像の解析にあるのはいうまでもないことですが,それだからといって進行胃癌のそれを軽視して良いというわけにはいきません.

編集後記 高田 洋
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 予防・治療医学の進歩は高齢化社会を招来し,人口の老齢化傾向は今後も確実に強まるものと考えられる,全身性変化と共に消化管においても加齢による変化は当然惹起されるわけであり,その上に病的な状態が加味されるため病像はさらに複雑となる.そこで高齢者の胃にみられる形態学的変化・生理的変化を理解し,そこに発生する胃病変の特徴を正確に把握してこそ初めて正確な診断・適切な治療が可能となるわけである.臨床医学の分野に於ても高齢者の治療・健康管理は対象の増加と共にますます重要な課題となると考えられる.こうしたバックグラウンドの上に本号では高齢者の胃病変が特集された.

 まず基礎的な事項として形態面から加齢と消化管の変化を論じ,ついで広い視野にたって疫学の立場から検討を加え,さらに形態学的特徴を明らかにするために90%以上に及ぶ高率の剖検例を資料としてこの問題を論じてもらった.一方臨床の面から日常の診療に直結した胃潰瘍・ポリープ・癌をとりあげ高齢者胃病変の特徴について論じてもらった.もちろん高齢者の胃病変を青壮年者のそれと比較した場合,その特徴に関しては過去にも数多くのすぐれた業績があり既に定説になっている部分も少なくはない.しかしここに敢えてこのテーマを取りあげた意図は今一度多角的にこの問題を論じ高齢者の胃病変の特徴をうきぼりにして診断・治療の実際面に役立てたいと考えたためである.

基本情報

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胃と腸
12巻5号 (1977年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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