胃と腸 12巻3号 (1977年3月)

今月の主題 直腸肛門部病変

主題

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 下部腸管における直腸・肛門の解剖学的特異性は結腸を対照として比べると簡便である.個条書きにそれを挙げてみよう.なお関係する機能的な事項は編輯者の指示外だからなるべくふれない.

直腸肛門部病変の診断 増田 強三
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 直腸肛門部の疾患は,心理的に差恥心の強い患者にとっては,医師の診断をできるだけうけないですまそうとする疾患の1つである.したがって直腸肛門専門の医院は,あまり人通りの多いところには入口を作らないという心遣いをしているところもある.事実,患者自身から聞いたことであるが,診療所の前を2度や3度は通りすごしてみて,最後に決心をかためて門を入ったというのである.

 もう1つは,肛門部は自分では見えない部分であり,糞便の出るところでもあるので不潔なところであるという観念が固定して,少々不潔にしていても,あまり気にしないという傾向がある.

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 胃腸病変とこれに伴う直腸肛門部病変の関連性をよく理解しておくことは,胃腸病変の治療,診断に重要である.またその場合の直腸肛門部病変の治療をどうするかもゆるがせにできない問題である.

 ここではとくに最近問題になっているクローン病,潰瘍性大腸炎を中心とした胃腸病変と,さまざまな直腸肛門部病変すなわち肛門部の炎症,感染,狭窄,痔核などとの関連を自験例によって検討した.

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 大腸癌取扱い規約によると,肛門管というのは,恥骨直腸筋付着部上縁より肛門縁までの管状部と規定されている(Fig.1).肛門癌はこの肛門管およびその周辺に発生した癌ということになる.

 肛門癌を述べるにあたっては,肛門管の発生と解剖を知ることが重要である.肛門は種々の上皮が入りまじっている.とくに歯状線の上方の部分はcloacaから分かれた肛門膜がその発生源で,胎生9週頃に外胚葉性の皮膚部分が挙上して生ずる重層扁平上皮層と連絡する.その長さは個人差があって一定しない.肉眼的には光沢のある微細な膜様に見える部分1)2)で,ややうす紫色を呈し,組織学的には尿道上皮に似た移行上皮で,重層立方上皮であるが,実際にはこの部分は円柱上皮,扁平上皮なども入り組んでいる.

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 われわれの教室でcryosurgeryの実験と臨床応用に取り組んで今日まで,7年の経過に至っている.この間にあって,凍結療法のもつ特性と利点および欠点につき,おおよその理解と把握をなし得た段階であろうと思っている.この間にあって,1つの解決は新たな問題を提起することにもなり,現在,数多くの解明すべきものを残している.

 手技的には凍結装置の改良開発は凍結領域の拡張,深達度の進展を伴い,これは本療法の適応選択の拡大に連り,治療手段としての新たな道を拓くことにもなると思われる.

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 司会(城所) 今日はお忙しいところ,お集まりいただきありがとうございます.

 今日は「直腸肛門部病変」という主題で座談会をいたすことになりました.このテーマは,外科ではたいへん身近な問題でありますが,「胃と腸」においてこの問題を取り上げたのは,最近,大腸,直腸の疾患がふえて,日本でも潰瘍性大腸炎,Crohn病がだんだんふえる傾向にありますので,そういった問題と関連づけて肛門部の病変もこれから見直していかなければいけないことがあるだろうと思います.

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 早期胃癌肉眼分類が提唱されて既に14年とは今更ながら驚きである.ひたすらその発見に夢中になり,5生率の追求に明け暮れたといっても過言ではあるまい.この間分類に困るような複合型に悩みながらも,自分なりに整理したり,再構築から振り返って肉眼型を修正したりの繰返しであったこともまた事実である.

 Hermanekの批判以来,われわれもまた初心にかえって,その分類を整理する必要があろう.以下私見を述べてみる.

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 早期胃癌の肉眼分類に関してもっとも注意しなければならないことは,1つの早期胃癌を見たときに,観察者によって異なる肉眼分類を行ない,またこれが最終分類となるために混乱を起こすことである.現にⅡb,Ⅱa+Ⅱc,Ⅱc+Ⅱa,Ⅲ,Ⅱc内の潰瘍(瘢痕)の有無などについて混乱が起こっている.これはある意味では避けられないことであるが,できうる限り同一の病変は同一の分類にいれるように努力するべきである.

 私は,肉眼分類のみによってはこの統一はなしえないと考える.したがって肉眼分類は観察者によって異なることはやむをえないこととして,これを組織学的レベルで補正するとよいと思う.すなわち,組織標本上にて,癌が周囲正常粘膜より少しでも盛上っていればⅡa,全く平坦であればⅡb,少しでも凹んでいればⅡcとし,周囲正常粘膜の厚さの2倍をこえる隆起はⅠ型とする.

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 食道静脈瘤のX線診断にはいろいろな方法が用いられているが,そのなかでもっとも有効な検査法の1つは左胃動脈造影である1)2).門脈高圧症の患者で食道静脈瘤が疑われる場合に腹腔動脈と上腸間膜動脈のarterial portographyを行なっても門脈血流の方向によって食道静脈瘤が造影されない例が多く,経脾門脈造影でも門脈血流が脾に向かっているときには食道静脈瘤を十分に造影することは困難である.

 左胃動脈造影を行なって血管拡張剤と大量の造影剤を注入すれば造影剤は高濃度に短胃静脈と左胃静脈に移行する.これらの静脈は食道静脈瘤に直接流入するので門脈血流の方向に影響されずに食道静脈瘤が造影される.Fig.1は肝硬変の症例の腹腔動脈造影の静脈相で脾腫があり,脾静脈と門脈は明瞭に造影されているが食道静脈瘤の存在は診断できない.Fig.2は同一症例の左胃動脈造影の静脈相で,腹腔動脈造影の静脈相ではまったく認められなかった高度の静脈瘤が明瞭に造影され,静脈瘤の太さや範囲まで診断できる.

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 若年者胃癌にみられる肉眼型は,そのほとんどが陥凹型を示し,隆起型胃癌はきわめて少ない.われわれは最近27歳,女性で,臨床上Ⅱa集簇型を思わせた若年者胃癌の1例を経験した.本例はきわめて奇異な肉眼像を呈し,臨床上悪性リンパ腫,潰瘍性びらん性胃炎との鑑別に難渋したので,その鑑別診断を中心に若干の検討を加え報告する.

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 胃良性腫瘍は比較的稀な疾患であり,特に胃囊腫の報告はきわめて少ないためにその診断もむずかしいことが多い.われわれは最近多発性胃粘膜下囊腫の1治験例を経験したので,ここに若干の文献的考察を加えて報告する.

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 性器外に原発する悪性絨毛上皮腫(以後絨腫と省略)は癌,肉腫等の他の悪性疾患に比べればはなはだ稀なものといえよう.これらのうち胃原発の絨腫となるとさらに少なく,ほとんど経験する機会にめぐまれない.一方,絨腫は極めて転移をきたし易く,特に女子では分娩1),流産,胞状奇胎等2)3)に,男子では睾丸腫瘍4)5)に続発したものがあり,これらとの鑑別が実際にはなかなかむずかしいことが多い.しかし転移性絨腫を例にとっても胃に転移するのは非常に少ないといわれている6)7).最近われわれは45歳,男子胃に絨腫と腺癌を合併した1例を経験した.そこで分娩,流産,胞状奇胎などの機会の多い女子例を除外し,胃およびそれに近接した大網に発生した男子絨腫例について少しく文献的考察を加えて報告する.

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 十二指腸腫瘍は良悪性にかかわらず比較的稀な疾患とされている.われわれは最近,十二指腸Vater乳頭近傍にみられたリンパ管腫(以下本症)を経験したので,症例の概要を述べ若干の文献的考察を加えて報告する.

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 抗結核剤の登場以来,わが国でも,欧米諸国に次いで腸結核症は減少し,これに遭遇する機会は少ない.しかし診断過程において,その症例に直接結核菌や乾酪性肉芽の証明が得られない場合,鑑別診断上,特にCrohn病との比較で問題となることが多い.最近われわれはちょうどこのような症例を経験したので例証する.

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 消化管のInflammatory fibroid polyp(Helwig,炎症性線維腫様ポリープ)は胃にみいだされることのほうが多く1)~5),本邦では今までに二十数例報告されているが,回腸の症例はきわめて稀で,本邦では1例の報告をみるに過ぎない15)

 われわれは回腸末端に発生し回盲部慢性腸重積症をきたした1例を経験したので報告する.

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 非特異性多発性小腸潰瘍症は,その特異的な臨床像および病理像より,岡部,崎村が提唱した名称である.すなわち,臨床像は長期にわたる腸管からの出血と,これに基づく貧血,低蛋白血症を主徴とし,病理学的には回腸中部から下部の輪走または斜走するUl-Ⅰ~Ⅱの多発性潰瘍である.われわれは最近,典型的な本症を経験し,新たに術中内視鏡検査,局所線維素溶解現象(局所線溶)の測定を行なったので,若干の文献的考察を加え報告する.

一冊の本

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 消化器内視鏡学を勉強している人ならBristol大学のSalmonの名前は知っているだろう.この「1冊の本」にもSalmonの「Fiber Optics」を紹介したことがある.Schillerという名前はCottonとSalmonと共著で1972年のGutに「The hazards of digestive fibreendoscopy」という論文を書いていることを思いだしたが,肩書をみるとChertseyのSt.Peter's HospitalのConsultant Physician and Gastroenterologistとある.そしてこの本でも第11章のhazardsなどを分担している.B5変型判342頁のこの本はカラー写真を1枚もつかっていないが£11.50の定価である.私はこれを9,430円で入手した.序文をAvery Jonesも書いているが,これを読むとなかなか面白い.英国にWolf-Schindlerの軟性胃鏡が入ったのは40年前で,Hermon Taylor型胃鏡で知られたHermon Taylor,Harold EdwardsそしてHarold Rodgersとあるが,まあ日本とそう大差がない事情である.Basil HirschowitzがAvery Jonesで有名なCentral Middlesex Hospitalに働いていたこともちゃんと書いてある.

 この本の全体は6部にわかれていて,第1部はbackgroundで,Gibbsが消化管内視鏡の歴史を,Reading大学物理学教授のHopkinsがファイバースコープの物理を書いている.HopkinsとかKapanyなどはファイバー光学にとっては忘れえない業績を残した人である.

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欧文目次

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Bile-Induced Acute Erosive Gastritis. Its Prevention by Antacid, Cholestyramine, and Prostaglandin E2: N.S.Mann (Am J Digest Dis 21: 89~92, 1976)

 急性びらん性胃炎は,大量の胃出血を起こしうる.そのメカニズムは明らかでないが,胃のmucosal barrierの破壊とHイオンの逆拡散の亢進が要因であろう.胆汁酸塩や表面活性剤が,mucosal barrierを破壊しうることは知られている.しかし胃に傷害を加えるには,酸の存在が必要と思われる.胆汁が十二指腸から胃へ逆流することはよく知られていることで,これが急性胃炎の病理発生に関連がある.

 著者らは,ラットの実験で,胆汁を胃内投与して急性びらん性胃炎をつくり,そして制酸剤,cholestyramine(胆汁酸塩と結合する),Prostaglandin E2(胃酸分泌を抑制する)の同時胃内投与により急性びらん性胃炎発生を防止できるかどうかにつき研究した.

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 この書物は,肝臓病学に関する図譜付き教科書といえる性格の本である.Hannover医科大学消化器科主任のF.W.Schmidt教授が主となり,E.Schmidt教授,W.Wallnöfer博士の3人で編集されている.とくにF.W.Schmidt教授は私が十数年前に暫くいたKassel市の有名な故Kalk教授のもとで,血清酵素学的診断法を多年にわたって研究していた肝臓病学の専門家である.

 この書物の特徴は,著者らの序文にもあるように,肝疾患についてもっとも多くの情報を提供してくれる腹腔鏡所見や肝生検組織の光顕,電顕所見を主とし,臨床生化学的,免疫学的,生理学的方法でえられた肝機能検成績とその経過,肝シンチグラム,ソノグラム,血管造影像などを従として,相互の横のつながりをもって書かれていることである.いいかえると,各種肝疾患の病像が「マクロからミクロまで」1つの流れの中で,丁寧に書かれていることである.そのために,著者らは種々の検査方法によってえられた特徴的な所見を1つの総覧にまとめ,個々の病像については定型的で,そして平均的な所見を提示するように努力を払っている.たとえば,わが国の肝臓学会で問題になっている慢性肝炎の分類と持続性肝炎との関連を例にとっても,西ドイツの肝臓病学者で,あまり学問的主義,主張を表面に出さない平均的な考え方が欲しいわけであり,それとの比較によってわが国の分類の妥当性が正しく論じられるわけである.その際の西ドイツにおけるその領域における生の情報をこの書物が提供してくれている.そのほか,米,英においては用いられず,西ドイツにおいて長い間用いられてきているヘパトーゼ(Hepatose)の概念,脂肪肝肝炎(Fettleberhepatitis)の概念,あるいは各種肝疾患の成因論について理解するのにもまた,恰好の書物であると考えられる.その意味で,西ドイツにおける肝臓病学者の平均的な考え方が,研修医にも,一般臨床家にも,また肝臓病学の研究者にも十分理解していただける良書であり,わが国における肝臓病学との比較においても多くの情報を提供してくれる書物である.

書評「病理学図譜」 飯島 宗一
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 この図譜は,ハイデルベルグ大学病理学教授W. Doerrが中心となって編集した「Atlas der pathologischen Anatomie(Georg Thieme社刊,スツツガルト,1975)」の日本版で,邦訳は影山圭三教授他の慶応大学病理学教室の諸君によって行なわれた.322ページ,874のカラー図版を収める総アート紙の大冊で,この種の図譜としては内容体裁とも,もっとも充実したもののひとつである.

 病理学図譜の目的と効用をどのように考えるかは意外にむずかしい問題であるが,原著者は,「図譜というものはその利用者に助言を与えようとするものである.利用者が本質的なものと非本質的なものを区別することを助けようとするものである.図譜は利用者に観察することを経て熟視にまで達せしめるために“見ること”を教えようとしている」とのべている.これは形態学の根本にかかわるひとつの見識であるといえよう.この見識を図の選択と配列を通して現実の図譜に結晶せしめることは至難の業であるが,この図譜について敬服すべき点はとにもかくにもこの見識を全巻につらぬく努力を惜しんでいないことである.そしてその努力は,たんに編集の過程のみにかかわる事柄ではなくて,日常の病理解剖,病理組織学の不断の実践の蓄積にまでさかのぼるものでなくてはならない.われわれはそこにDoerr教授らの苦心を見るばかりでなく,長いヨーロッパの人体病理学の伝統の力をも見るのである.そして読者は,1枚のさりげない図に即しても,その背景にふかく秘められているものをまさに熟視することを要するのであろう.

書評「標準外科学」 渡辺 弘
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 従来の外科学の教科書は形式にとらわれたむしろ学術書的色彩の強いものが大部分であった.したがってこれから初めて外科学を学ぼうという学生諸君のために書かれたという感じに乏しかった.

 本書を通覧して,著者らが常に,「学生が学習の際,どんな所が理解しにくいか.その所はどう説明すべきか」という点に払われた苦心の程が滲み出ているのが十分に受取れる.写真を敢て省いて,解りやすいスケッチと説明文,図表による説明などはその現れである.

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 放射線診断法はX線診断法とRI診断法に2大別され,X線診断法は臓器または障害部位のX線の透過度の相違によるstructureの描写にすぐれており,RI診断法は臓器親和性RI標識化合物をtracerとして臓器に摂取させて,シンチグラフィにより臓器のstructureとfunctionの描写にすぐれている.

 従来,これらの両診断法はしばしば,別個に行なわれてきたが,非侵襲的検査法として,それぞれの長所短所を考慮して,両者をくみあわせた診断法として実施すべきと考えられる.

編集後記 武藤 徹一郎
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 本号はがらっと対象を変えて消化管の出口に焦点をあててみた.従来,直腸・肛門という臓器は“pile doctor”の扱う領域で消化管の中でも低い位置しか与えられていなかった.おそらく,学生の講義でもあまり詳しく話されてはいないであろう,しかし,大腸疾患が最近のように増加してくると,ここは無視できない場所になってきた.無視できないどころか,大腸疾患の診断の手がかりになる病変が直腸・肛門部に現れることが少なくないので,この部位の諸病変に関する知識が要求されるようになってきたのではないだろうか.

 そのような実情に鑑みて,本号では,直腸・肛門の解剖学的特異性に始まり,消化管の出口から中へという順序で必要な知識が網羅されている.いずれも執筆者自らの経験をもとに書かれているので,教えられる所が多い.増田氏も指摘されているように,直腸肛門部は患者も診せたがらず医者も診たがらない場所ではあるが,大腸疾患を扱うときには避けて通るわけにはいかない.主題の諸論文と座談会の議論から,直腸・肛門疾患に対するアプローチの方法手順がよく理解されると思う.

基本情報

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胃と腸
12巻3号 (1977年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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