胃と腸 11巻12号 (1976年12月)

今月の主題 放射線診断の最近の進歩

主題

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 電子計算機を用いた断層撮影法は,1973年のHounsfieldの装置による頭蓋内疾患診断の成功以来,臨床の各分野で大きな関心を呼んでいる.その主な理由は,今までのX線写真では判別のつかなかった脳脊髄液,脳実質,出血,硬塞,浮腫,腫瘍などX線吸収差のあまり大きくないもの同士も識別できるようになったことにある.この事実は,特に腹部臓器のように,各臓器組織のX線吸収の差が少なく,単純X線写真の限界が鋭く意識されていた領域では,この方法に特に大きな期待を集めさせることとなった.

 その結果,腹部に関してはほとんど実績がないうちから,学問に無縁の要因に動かされて人気だけが先行したし,他方では,現状だけから判断して早くも失望の声を洩らす人も出はじめている.しかしながら,この技術は生まれてまだ間もない.たとえば胸部X線検査のように一見単純な技術でも,臨床家が一応使いこなすまでには25年の年月を要したし,胃X線検査にいたっては50年の年月を要した先例もあることである.この技術も,もし将来真に消化器診断に貢献するとしたら,無数の臨床家の数十年にわたる努力を,栄養源として要求することであろう.

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 Computerised Tomography(CT)はX線を診断の目的で使用する極めて有効な検査法である.従来のX線検査では認められなかった組織間の細かいX線吸収差が表現され,まず脳疾患X線診断に応用されて驚異的な成功を収めた(Ambrose,1973,Paxton&Ambrose,1974).この装置の発明者G.N.Hounsfieldの業績の偉大さは医療に従事するものがいかにCTを高く評価しているかによって明らかである.脳疾患は侵襲を加えることなしに描出され,病変の早期診断が可能で,重篤な患者でも状態を悪化させることなく検査が可能である.CTが利用できる脳神経放射線科では気脳検査と血管造影の件数が著明に減少した(Ambrose et al,1976).

 脳疾患に対するCTの疑いない診断価値は他の身体部分を検査できる装置の開発を促した.全身CTの経験は現在急速に集積されているが重要なことは全身CTで脳疾患も診断できることである.全身CTで得られる脳疾患の画像は最新の頭部専用CTの画像と比肩できるもので,両機種とも被検者を水でかこむ(water bagの使用)必要はなくなった.

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 肝などの実質臓器の診断に選択的血管撮影(selective angiography)が有用なことはいまさらいうまでもないが,肝癌を疑うすべての症例に対して,この検査を施行することは,技術的問題もさることながら,患者の負担や放射線被曝の点からも決して安易に行ないうるものではない.したがって最近のように,血管撮影はかなり普及もし,ルーチン化した検査法になったとはいえ,ある程度最終的な診断法の1つであることは否定できない.

 これに対し,99mTc-Sn-colloidなどで代表される肝のscintigraphyは患者に与える苦痛のない点からいっても,screening testの1つとして,かなり有効な検査法であるが,その局在診断は現在使用されているgamma cameraの機構およびdetectorでは直径2cm以下の病巣を診断することはかなり困難であるといわねばならない.しかも,その病巣が的確に認められたとしても,それが実質性腫瘍か,囊腫性腫瘍かの鑑別はもちろん,その組織診断を推定することはほとんど不可能ともいえる.

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 膵癌の症例に血管造影を行なうと,そのほとんどはhypovascularで,腫瘍濃染像や造影剤のpoolingを示すことは稀で,血管造影所見としては動脈のencasement,閉塞としてみられることが多い.したがって腹腔動脈と上腸間膜動脈を造影するだけでは小さな膵癌の診断は困難な場合が多く,superselective angiographyが必要である.また門脈系をarterial portographyによって描出するか否かも血管造影の膵癌診断能に関係がある.

 膵癌の血管造影の診断能についてはすでに多数の報告がある1)~18).これらの報告のうち膵癌の大きさと血管造影の診断的中率について記載されているものは少数にすぎない.その上,血管造影の手技が一定しないのでどのような方法でどの程度までこまかい動脈を造影した結果の診断能であるかもはっきりしない.本邦では多数の施設で血管造影が行なわれているが,その施行方法が一定していないのが現状である.

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 司会(市川) この座談会にご出席の方たちは,肝・胆・膵の領域では第一人者の方たちでございますから,わが国,また世界における放射線診断の現状をお話しいただけたらありがたいと思います.CT(computed tomography)については,新しい進歩がたくさん見られますので,舘野さんあたりには,今後の展望もあると思います.それらをわかりやすく説明していただけたらと思います.

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 私どもが早期胃癌の肉眼分類を行なう際に,かねてより,これでよいのかという疑問をもつことが少なからずあった.それは人によって,分類の基準が多少異なることが,ときにみられたからである.混乱の原因がどこにあるかを全般的な見方でさぐるとともに,各論について,さらにその基準のとり方の差を分析する必要があると考えていたところ,胃と腸11巻1号に再検討の座談会がもたれ興味をもって読ませてもらった.

 それより先,1973年,P. Hermaneckが発表した日本の早期胃癌分類に対する評価に関する論文は,出典,引用データの解釈のあいまいな点があり,それに対する反論を目くじらを立てて論ずるほどのものではないにせよ,正しい考え方の説明を伝える必要はあると考える.しかしながらわれわれが日常行なっている分類についての誤差の一面を,ある面では指摘していないとはいえないと思う.

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 本邦の植物性胃石は,藤井33)(1969年)の検索によれば359例に達し,その後も多数の報告がある.最近胃切除後の残胃に発生した報告2)~4)8)9)も漸次増加しており,また胃石による腸閉塞症も多い7)8).われわれは十二指腸潰瘍と胃石で胃切除をうけ,15年後再び胃石を生じ,小腸内へ移動し回腸閉塞症となった例を経験した.15年間に2度胃石の手術をうけた稀な例であるので文献的考察を加え,われわれが収録しえた胃切除後発生した50例(手術にて胃石摘出20例を含む)につき検討したので報告する.

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 回腸末端炎あるいは腸蜂窩織炎などと呼ばれてきた疾患のなかには,蛔虫などの線虫の腸管壁への穿入が関与しているもののあることが指摘されてきたが,1960年van Thielがニシンに寄生していた線虫をアニサキス幼虫と同定し,本幼虫による急性局所性腸炎を報告して以来,本邦においても大鶴,吉村,石倉らにより広範な研究が行なわれてきている.本症はアニサキス幼虫を包蔵した海産魚類の生食により感染することから日常の食生活との関係が深く,さらに急性虫垂炎,腸閉塞症によく似た症状を呈するなど臨床上重要な疾患と考えられる.さきに石倉らにより全国調査が行なわれ,そのなかで本症が地域的に種々な特色を有していることが報告されているが,われわれは数年来手術所見から急性局所性腸炎と診断した例について,発症前に食べた海産魚類の種類,症状や局所所見などについて調査を続けてきたので,現在までに得られた結果につき報告する.

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 経鼻的胃ゾンデによる胃内への造影剤の注入,空気量の調節,残留胃液の排出などの操作は,暗室透視などにおける精検用手技としてしばしば活用されている.しかし胃内に注入された大量の造影剤を遠隔操作のX線テレビを利用して,検者の被曝を全く考慮することなく,残留胃液とともに短時間に排出して,その後の検査を有利に展開しようということは,容易に誰にも考えられることであるが,現実にはまだ実用化されていない1)~4)

 筆者は,胃二重造影法5)の原理とこの造影剤迅速排出操作を組み合わせて,1枚のフィルムに,穹窿部から球部に至る胃全域の後壁あるいは前壁の二重造影像を,腸陰影に妨げられずに描出できないものかと多年にわたって考えつづけ,ようやく1昨年その成果を「図説・胃全壁造影法」6)(以下本法と略す)として発表した.

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第1回「胃と腸」賞贈呈さる
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 第1回「胃と腸」賞の贈呈式は11月17日(水),早期胃癌研究会の例会会場にて行なわれた.本賞は「胃と腸」誌創刊10周年を記念して設けられ毎年「胃と腸」に掲載された論文の中から優秀論文を選び贈呈されることになっている.

 入賞論文は五ノ井哲朗・五十嵐勤・安斎幸夫氏共著「胃潰瘍の瘢痕区域narbiger Bezirkとその臨床的意義について」(「胃と腸」第10巻2号153~161頁).

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 第18回「胃と腸」購読の諸先生全国大会は,消化器合同秋季大会に先立って10月27日午後6時より三重県伊勢市商工会議所にて開催された.会場には約300名が出席,3時間にわたって熱気にあふれる雰囲気に包まれ,地元諸先生の熱心さのほどをうかがわせた.今回は,市立伊勢総合病院消化器センター,渡辺病院,愛知県総合保健センター,市立伊勢総合病院外科から呈示された4症例をめぐってX線,内視鏡,病理の各面から詳細な検討が加えられた.

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Marginal Ulcer in Achlorhydric Patients: R.V.Tauxe, L.F.Wright., B.I.Hirschowitz (Ann Surg. 181: 455~457, 1975)

 消化性潰瘍で手術した患者の胃空腸吻合部の潰瘍は,胃の分泌機能の残存に由来する潰瘍とみなされる.Spiroは,術後の無酸胃では,吻合部潰瘍はおこらないと述べている.ところが著者らは,ヒスタミン無酸胃例で内視鏡的に吻合部潰瘍を証明した3例を報告している.1960年から1972年の間に内視鏡的に証明した100例の吻合部潰瘍中3例で,ヒスタミン無酸を証明した.ヒスタミンの使用量は,0.04mg/kg.第1例,56歳白人男子.22年前に十二指腸潰瘍でBillroth Ⅱ法の胃切除を受けた.吻合部の空腸側に潰瘍あり,ヒスタミン刺激で無酸,pHは6.9だった.第2例は,65歳黒人男子.10年前胃潰瘍でBillroth Ⅱ法の胃切除をうけた.その後5回にわたり出血性吻合部潰瘍が発生.胃液は無酸で,pH 7.0だった.第3例,55歳白人男子.10年前再発性出血性十二指腸潰瘍でBillroth Ⅱ法の胃切除をうけた.最近吻合部潰瘍発生.胃液のpHは6.5だった.

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Palliative Irradiation for Liver Metastases: M.Turek-Maischeider, I.Kazem (JAMA 232: 625~628, 1975)

 有症状肝転移患者における肝への照射による姑息的効果を報告している.

 対象は11人の肝転移を有する患者で,原発は細網肉腫2例,乳癌3例,Ewing肉腫1例,結腸癌1例Wilms腫瘍1例,乳癌とラグビッツ腫瘍の合併1例,血管内皮肉腫1例だった.4人は黄疸を示し,9人は悪心を訴えた.肝は全例に触れた.11人中9人で肝機能障害あり.治療はコバルト対向2門で肝臓全体に,1日150radsで週5回,合計1,600~2,500radsを照射した.

書評「手術基本手技」 梶谷 鐶
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 秋山博士の手術基本手技が昨年10月30日医学書院より発刊された.

 運動競技,例えば野球を例にとってみると,3割打者になるにはある程度天分が必要だそうであるが,大抵の人なら一生懸命練習すれば2割台の打率はあげられる.外科の技術の上達にもある程度の適性の存在は認めなければならないが,一般の手術技術については医師の資格を取得できた人なら,不適格者はまれで,一生懸命努力すれば頭脳でカバーできて大いに上達する筈であるし,私もその1人のつもりである.

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 ウイルス肝炎は戦場で兵士のあいだに流行したことから,流行病としての病態が早くから明らかにされていたが,その病原ウイルスに関しては,既知のあらゆる手法を用いても分離できず,A型,B型という2つのウイルスが想定されていながら幻のウイルスとさえいわれ,その分離同定が待望久しいものがあった.

 B型肝炎の病原ウイルスに深い関連性をもつHB抗原の発見は,血清タンパクの研究者であるBlumbergによって発見されたオーストラリア抗原であるが,肝炎との関連をはじめて指摘したのは,著者の1人,鈴木宏博士と同門の現九大臨床検査部の大河内一雄教授の功績に負うことが大きい.鈴木博士は厚生省の血清肝炎研究吉利班の事務局にあって,班研究のまとめ役として活躍され,難治性肝炎研究の織田班になっても引き続きHB抗原研究班の中枢にあり,該博な臨床経験と相俟ってウイルス肝炎研究の第一線にある研究者である.

編集後記 白壁 彦夫
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 将来,達成されるであろう究極の満足点に立って,各テーマを切る,という拗ねた立場をとってみた.

 まず,放射線医学史評論を書いてもらった.そしてクリールに話をつないだ.クリールは頭の切れる人,何でも器用に一流のレベルをこなす激しい気性の人である 長年のよしみでこころよく書いてくれた.この方面では,有用な高価なものを天から授かったようなもので,世はテンヤワンヤである.ロッキード報道と同じ騒ぎである.生きたものにするか高価なおもちゃにするか,が問題である.やってみた,しかし満足しない,という話も沢山耳に入る.

基本情報

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胃と腸
11巻12号 (1976年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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