精神医学 56巻6号 (2014年6月)

巻頭言

「家族等」の先へ 八木 深
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 精神保健福祉法が2013年に改正され,医療保護入院に関し,保護者の同意から「家族等」の同意へと変更され,2014年4月から実施された。この改正の先に何があるかを明確にしたい。

 今回の改正議論は,閣議決定「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が,精神障害者の強制入院について保護者制度の在り方を含めて検討を求めたことに始まる3)。厚生労働大臣設置の「新たな地域精神保健医療の構築に向けた検討チーム」は,保護者制度を振り返り検討した。保護者は,当初,精神障害者の自傷他害を防ぐ監督義務を負わされたが,保護者といえども,精神障害者を保護拘束することは禁じられており,保護者がこの監督義務を負うには,精神障害者に医療を受けさせることしか考えられず,1999年の精神保健福祉法改正で,この監督義務は廃止され,保護者は精神障害者に治療を受けさせなければならないと改正された2)。検討チームは,家族の高齢化などに伴い負担が大きくなっているなどの理由から,保護者に関する規定は削除すべきと結論した。

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はじめに

 私たちは,未治療の大うつ病患者さんがこれから治療を受けようとしたときに,①ファーストラインの抗うつ剤はどこまで増量するのがより効果的でかつ安全か,②ファーストラインで反応しなかった場合にセカンドラインの治療は何をするのが良いのか,そしてそれをいつから始めれば良いのか,③これらのファーストラインからセカンドラインへの治療戦略のうちどれが継続治療まで含めて最も効果的なのかを明らかにするために,目標サンプルサイズ2,000人の実践的な無作為割り付け比較試験(pragmatic randomized controlled trial;pragmatic RCT)を2010年12月から実施中である。今回,編集委員会から本メガトライアルについての展望の執筆を依頼された。まだようやく折り返し点を越えたところではあるが,結果が出る前に本試験の経緯や意義を簡潔にまとめて,広く日本の臨床精神科医の皆様に知っていただくことは意味のあることと考えてここにご報告する。

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抄録

 当院の外来を受診した大うつ病性障害の患者でparoxetine IRからparoxetine CRへの切替えに同意した患者68名に対して,効果と薬剤に関する好み(飲み心地),アドヒアランス,およびQOLへの影響を検証した。51例が16週間の観察期間を終了したが,有害事象による脱落は1例のみであった。CRへの切替えにより,飲み心地やアドヒアランスがより向上し,その結果,約3割の患者でCGIのさらなる改善がみられた。CRテクノロジーを導入したparoxetine CRへの切替えによって,症状の安定化やさらなる改善が可能であり,QOLの向上が期待できる。

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抄録

 本研究では,単一市内の全公立小中学校の児童生徒の保護者を対象に調査を実施し,ASD傾向およびADHD傾向が小中学校の友人関係問題に与える影響について検討した。ASSQによってASD傾向を,ADHD-RSによってADHD傾向を,SDQによって友人関係問題を測定した。小学1年生から中学3年生までの計7,413名の児童生徒のデータに対する相関および重回帰分析の結果,小中学校の友人関係問題とASD傾向に強い関連がある一方で,友人関係問題とADHD傾向との関連は小さなものであることが示された。これらの結果から,友人関係問題に対するASD傾向とADHD傾向の影響の違いが示唆された。

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抄録

 統合失調感情障害での緊張病性昏迷にolanzapine速効型筋注製剤(OLZ筋注)が有効であった1例を経験した。症例は49歳,男性。人格解体や性的逸脱行動などに対し,haloperidol 39mg,risperidone 12mg,levomepromazine 400mgなどを含む多剤大量処方が行われていた。緊張病性昏迷に対しOLZ筋注10mgを施行したところ,翌日には昏迷は消失した。Olanzapine 20mg経口剤に切替えたが,精神症状の悪化は認めず,自発性が改善した。OLZ筋注の薬物動態がカタトニアの早期改善に有効であったと考えられた。

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はじめに―Ψ21Planプランナー会議と本提言を行う動機の説明

 Ψ21Planプランナー会議は,福島県の精神科医療保健福祉サービスのあり方を,21世紀の世界水準に相応しいものに改革していくために,県内の同サービス従事者が共有できる理念的目標を作ることを目的として2002年2月に発足した有志の集まりである。シンポジウムなどでの検討を重ねた上で,プランナー会議は福島の精神科医療を21世紀に相応しいものとするための「県民への提言」1)を2006年3月に,「精神科医療従事者への提言」2)を2009年3月にまとめて発表した。「精神科医療従事者への提言」の中では,起こりうる原発事故への対応についても提言していたが,2011年3月の東京電力福島第一原発事故に際しては,その提言を活かすことができなかった。この苦い経験を踏まえて私たちプランナー会議では,東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から学んだ教訓,精神科医療保健福祉の観点で大災害から災害弱者と市民を守る上での教訓を,県内外の精神科医療保健福祉サービス従事者と共有できるよう取りまとめた。本提言は,プランナー会議内に設置された提言作成のためのタスクフォースにより原案が作成され,プランナーからの修正を受けたのち,2013年12月21日のプランナー会議で承認されたものである。なお,Ψ21Planプランナー会議のプランナー一覧を文末に資料1として記した。また,本提言の要点のみ抜粋したものを資料2として文末に付し,私たちが経験した問題事象と本提言に用いられる用語の相互関係を図に示した。加えて,本提言に用いられる用語の説明は資料3にまとめて文末に示した。

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抄録

 本研究は日本の精神科診療における患者-医師関係やコミュニケーション,意思決定についてのエビデンスを整理するために,システマティック・レビューを行った。5つの学術データベースおよびハンドサーチの結果,363研究が検索され,7研究が本研究の対象となった。良好な患者-医師関係の構築や患者との良好なコミュニケーションは,サービス満足度や薬物治療に対する態度,診察場面において患者が真実を話すこと,服薬の継続などと関連する可能性がある。他方,対象研究のエビデンスの水準は高くなく,厳密な方法で計画された研究の実施が期待される。また,アドヒアランスや処方内容,処方量などをアウトカムに含めることが望まれる。

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抄録

 精神皮膚科学(サイコデルマトロジー;psychodermatology)とは,皮膚と精神の関連について,包括的医療の立場から皮膚科学と精神医学・心身医学双方の知識と技術を用いて臨床および研究を行う領域である。

 サイコデルマトロジーが扱う主な病態として,皮膚寄生虫妄想,強迫性障害に関連する障害(抜毛症やスキン・ピッキング障害など)およびアトピー性皮膚炎についての報告を示し,精神科での治療においては,掻痒や皮膚異常感覚を伴う皮膚症状と精神症状の連動への理解,スキンケア行動とストレス対処行動の改善が重要であることを指摘し,皮膚科と精神科の地域連携について考察した。

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はじめに

 不安を主要症状とする精神疾患において,“失神”は時に観察される劇的な臨床症状である。精神疾患を持つ患者にこのような症状が出現すると,器質的背景が十分に吟味されないままに精神科的な治療のみが進められてしまうことが珍しくない。今回我々は,経過中に多彩な“失神”を合併し,診断に苦慮したパニック障害の1例を経験したので報告する。報告にあたって個人情報が特定できないよう一部内容を改変した。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

病識と病態 西園 昌久
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病識の理解をめぐる今日の状況

 筆者のように,操作的診断法が開発され,一般化する以前に精神科医になった者にとっては,病識の理解は精神科診断を進めていく上できわめて重要なことであった。操作的診断法が普及した今日でも,病識という言葉が消え去ったわけではない。米国精神医学会治療ガイドライン「精神医学的評価法」(日本精神神経学会監訳)1)の中の「精神状態の検査」の項の中に,「さらに,治療方針や適切な治療場所の選択について決まったことを伝えるために,患者の病識,判断力,抽象的な思考力についての成績を得る」と記載されている。ただ,病識の定義や意味については何も論じられてはいない。

 そもそも,我々が学んだ病識の概念はJaspers K3)の説明に基づくものであった。Jaspersは,患者の疾病体験に対する態度の中で,あらゆる症状や病気全体の種類も重きも正しく理解されているのを病識と呼んだ。病の存在に対する自覚を欠くということは人格のはなはだしい歪みなしには起こらないと考えられ,病識欠如を精神病とし,病識出現を精神病の寛解とする臨床的判断がなされた。その意味で病識の統合失調症の診断上の意義は高かった。

追悼

中根 晃先生を偲んで 市川 宏伸
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 中根先生は旧制武蔵高校を経て,東京医科歯科大学医学部を卒業後,神経精神医学教室に入局された。島崎敏樹教授のもと,精神病理グループの一員として,幻覚・妄想を中心に研究されていた。一時東京都立梅ヶ丘病院に勤められたのち大学に戻られ,自閉症児病棟(第一種自閉症児施設:医療型を併設)が設置されたのを機に,再び梅ヶ丘病院に勤務され,病院長まで勤められた。

 1982年筆者が病院に赴任した頃は,就学前病棟と学童病棟,各々20床ずつの自閉症児病棟があった。入院自閉症児は,重度ないし中等度の精神遅滞を伴い,自傷・他傷行為も頻繁で,身辺自立も厳しい子どもも多かったため,スタッフは予想外の行動への対応に追われていた。その頃社会は右肩上がりであり,幼児も多く,幼稚園,保育園は手のかかる子どもは受け入れてくれなかった。入院希望者が殺到し,就学前病棟は入院半年待ちという状況であった。ここは福祉的入院も可能な病棟であり,医療スタッフの中に,保育士さんも配置されていた。メリル・パーマー,CLACなどのアセスメントツールを導入され,看護師,心理士,保育士たちと一緒になって病棟運営を促進されていた。また言語聴覚士や作業療法士による行動療法的な対応を重視し,病棟スタッフへの指導を始めていた。

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 統合失調症の精神療法で世界的に有名なスイス,バーゼル大学名誉教授ガエターノ・ベネデッティ(Gaetano Benedetti)教授が2013年12月2日逝去された。享年94歳であった。1920年,イタリア・シシリー島Cataniaで外科医の息子として生まれ,当地の医学校を卒業。精神科医として研修をはじめて間もなく1947年,スイスに移りチューリッヒ大学精神科ブルクヘルツリのマンフレット・ブロイラー教授(Manfred Bleuler)の弟子となる。グスタフ・バリー(Gustav Bally)に教育分析を受ける。1951年アメリカに留学し,ローゼン(John Rosen)の直接分析を見聞する。帰国後,ブロイラー教授の勧めにより統合失調症の精神分析的精神療法に向かった。ベネデッティはスプリッティングを客観的に眺める代わりに,文字通りその中に飛び込みスプリットした世界を対話的関係にもたらそうとする。「隣人と―関係をもって―とどまらねば―ならない」という真っただ中で,患者は「隣人のほうに向けられて―存在する」ことが不可能になっている。しかし,自閉のただ中においても何かに向かおうとする動きがみられる。それに気付くには精神療法的に長くつき合わねばならない。ベネデッティの基本姿勢である。

 1953年,チューリッヒおよびローマで教授資格を取得,1956年バーゼル大学精神衛生・精神療法の教授に就任,1985年退任し名誉教授となった。その間,1963年,ミラノ精神分析研究所の設立に参加し,以後もイタリアで活躍した。ドイツ精神分析協会名誉会員,アメリカ精神分析アカデミーのフェローでもあった。1949年結婚,4人の子どもに恵まれる。シシリー島出身であることが大きな誇りであり,家族の結びつきが強かった。1961年脳神経外科手術を受けるが回復,それを契機に神経心理学の本を書いている。20冊を超える著書と500の論文がある。

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 精神科医のてんかん離れが言われて久しい。確かに,精神科医に代わって小児科医や神経内科医,脳神経外科医がてんかん診療に関わるようになり,精神科医の関与が減っている。しかし,ある調査によれば,精神症状を併発している場合や知的障害や行動面の障害のあるてんかん患者の診療には困難を感じると答える小児神経科医や神経内科医が多いという(渡辺雅子ら,てんかん研究,2013)。このことは,精神科医の関与なくして適切なてんかん診療はできないことを意味している。

 「臨床てんかん next step」は,TrimbleとSchmitzによって編集されたThe Neuropsychiatry of Epilepsy, Second Editionの邦訳である。Michael Trimbleはロンドンで,Bettina Schmitzはベルリンで長くてんかんの精神症状に関わってきた研究者である。北米大陸と異なり,ヨーロッパのてんかん学は精神医学と神経学が密接な関係を持って発展してきたこともあって,日本のてんかん学と共通する考え方も少なくない。

学会告知板

第32回日本森田療法学会
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会 期 2014年11月7日(金)~9日(日)

会 場 東京慈恵会医科大学大学1号館3階・5階・6階講堂

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テーマ Trend and Innovation of Psychiatry in Asia

会 長 神庭重信(九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野教授)

開催日 2015年3月3日(火)~6日(金)

会 場 九州大学医学部百年講堂(〠812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1)

第61回日本病跡学会総会
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会 期 2014年7月12日(土),13日(日)

会 場 東京慈恵会医科大学大学1号館3階・5階講堂

論文公募のお知らせ

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「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

投稿規定

著作財産権譲渡同意書

編集後記
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 この編集後記の担当にあたり,ちょうど3年前の6月号にも書いた記憶が浮かんできた。3.11の年である。あの時にはパソコンに向かいながら,津波の映像とそこにおられた方々のことがずっと頭から離れず,同時に精神医学の力に虚脱感を覚えたことを思い出す。多くの人が亡くなり,被災し,悲嘆にくれても,しょせん精神医学は1対1でしか成り立たないのだ,と。折しも本号には,3.11での経験を踏まえた,丹羽先生らによる提言が「資料」として掲載されている。『方丈記』に見られるごとく,日本は大地震から逃れることはできず,そこから日本的な無常観が脈々と育まれてきたが,今は諦観してはいられない。1対1を越えて,丹羽氏が結びに記されているように,まさに「私たちが経験した苦労が今後に生かされるように切に願うものである」。

 私事で恐縮であるが,この3月末で40年間勤めた大学を退職して臨床をゆっくりやっていると,精神医学における進歩とは何か? ということをいつも考えてしまう。1対1で患者さんと接していて,駆け出しの頃と現在とでは何がどう変わったのだろうか,と。ちょうど八木先生が「巻頭言」で書かれているように,法律は変わった。この背景には,患者の医療保護を適切に行うということ以前に,個々人の努力だけではどうすることもできない家族というものの在り方の社会的変化があるだろう。古川先生らによる「SUN☺Dの展望」は大きな期待を抱かせてくれる。これだけ抗うつ薬の種類が増えると,いくら工夫しても,もはや治療者の経験や勘だけでは対処できないだろう。肥田先生によるparoxetineのIR錠からCR錠への切替えに関する「研究と報告」も同様である。どう頭をひねっても限界がある。個人的な名人芸は通用しにくくなっているのである。DSM-5への爆発的関心(解説書がベストセラーになっているという)をみても,確かに精神医学は変化し,精神科医もそれを求めているのだろう。

基本情報

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精神医学
56巻6号 (2014年6月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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