臨床検査 64巻3号 (2020年3月)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題

関谷 紀貴
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 Clostridioides difficile感染症(CDI)は,代表的な医療関連腸管感染症として知られており,臨床検査技師にとっても大変身近な感染症の1つです.近年は,微生物名の変更,わが国における微生物および臨床疫学情報の蓄積,核酸増幅検査(NAAT)の実施を前提とした診断方法,新たな治療選択肢の登場など,さまざまな面で新たな知見が得られています.

 今回の特集は,近年のCDIに関する話題のポイントを理解し,日常業務の見直しとレベルアップにつなげることを目的にしています.

 前半部分は,微生物学的特徴と病態,サーベイランスと臨床疫学,診断検査に関してアップデートが必要な重要知識をバランスよく整理できる内容です.後半部分は,糞便微生物移植を含む治療選択肢と感染対策について,経験豊富な先生方からご解説いただいています.本特集を通して,CDIに関する知識の整理と新たな知見のアップデートを行い,日常診療における対応の見直しと改善につながる一助となるよう願っております.

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Point

●Clostridioides difficile感染症(CDI)の略称に影響が及ばない範囲で,菌名がClostridium difficileからClostridioides difficileに変更となった.

●トキシン産生株がCDIの病態にかかわるが,腸管への定着はトキシン産生性にはかかわらない.

●乳児は腸管定着率が極めて高く,CDIを発症しにくい.

●海外では強毒株が知られている.

●抗菌薬による腸内細菌叢の乱れは,腸内の代謝産物の乱れも伴い,CDI発症にかかわる可能性があることがわかってきた.

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Point

●Clostridioides difficile感染症(CDI)は,医療関連感染(HAIもしくはHCAI)の1つであり,院内下痢症の主要な原因疾患である.

●CDIのリスク因子として過去の抗菌薬使用が最も重要であり,抗菌薬適正使用の指標の1つとなりうる.

●日本国内では,国家的なCDIのサーベイランスは存在しないが,感染対策上のインパクトの大きい感染症であり,各医療施設での持続的なモニタリングと定期的な報告が期待される.

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Point

●Clostridioides difficile感染症(CDI)は,産生される毒素が発症に関与するため,毒素の検出が診断において重要である.

●C. difficileの診断法として,培養法やイムノクロマト法検査に加えて,遺伝子検査が保険適用となった.CDIの診療ガイドラインの診断アルゴリズムでは,イムノクロマト法と遺伝子検査の2段階診断法が紹介されており,遺伝子検査を診療に生かす機会が増えてきた.

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Point

●Clostridioides difficile感染症(CDI)に対する新規治療薬としてフィダキソマイシン(FDX),再発予防薬としてベズロトクスマブが使用できるようになった.

●FDXは多くのグラム陰性菌や嫌気性菌に対する抗菌活性はなく,芽胞形成や芽胞からの発芽を抑制する.

●ベズロトクスマブは,再発リスクの高い患者においてCDI治療中に投与する.

●治療薬の選択には,患者背景,臨床症状,検査所見,画像所見を総合して選択する.

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Point

●糞便微生物移植法(FMT)は,多様性が低下した患者の腸内細菌叢を健常人の腸内細菌叢に置換する治療法である.

●FMTの歴史は古いが,基礎医学的な研究の進展に伴って近年急速に普及している.

●FMTの有用性が立証されている疾患は,再発性(難治性)Clostridioides difficile感染症(CDI)のみである.

●FMTの安全性・簡便性を向上させるために,糞便バンクや,カプセル化した細菌カクテルの開発など,さまざまな試みが進められている.

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Point

●Clostridioides difficile(CD)感染症の感染対策では手指衛生および環境制御が重要である.

●日常的なCD感染症の患者のケアではアルコール手指消毒で対応する.アウトブレイクのときにはせっけんと流水による手洗いを行う.

●CD感染症の患者の周囲環境や手指の高頻度接触表面は次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒する.検査室の実験台の表面も同様に消毒する.

●CD感染症の患者には接触予防策で対応する.検査室で便検体を取り扱うときには標準予防策を順守する.便検体を取り扱うときには必ず手袋を着用する.

今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

佐藤 尚武
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 質量分析とは,分子をイオン化し,質量荷電比に基づく分離検出を利用して,分子の質量とその相対量を測定する分析技術です.臨床検査における質量分析法(MS)の利用は,これまで非常に限られたものでした.しかし,マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を組み合わせたMSによる微生物の同定が実用化され,これが新たな臨床検査としてのMSの可能性を見事に示してくれました.

 本特集では,MSについて,臨床検査関連領域における利用の現状と,臨床検査としての利用に際しての課題,今後の展望について解説していただきました.微生物検査にみるように,MSは従来の臨床検査を劇的に変える大きな可能性を秘めています.本特集を通じてその息吹を感じていただくことができれば,特集を企画した者としてこれに勝る喜びはありません.

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Point

●マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)は蛋白質をイオン化するソフトイオン化法であるとともに,試料中の不純物や夾雑物質による感度低下に強いイオン化法である.

●MALDI微生物同定システムは,質量分析計(MS)が特定の疾患に対する検査機器として普及した新しい例である.

●免疫沈降法(IP)とMALDI-MSを組み合わせたIP-MALDI-MSによる血液アミロイドβ分析は,Alzheimer病の早期発見のための次世代検査技術として広く注目されている.

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Point

●質量分析法(MS)による測定系は,複数の分析技術の組み合わせによる集大成的な構成ゆえ多層的な原理特性を有し,それが臨床検査への導入におけるハードルの高さの一因となっている.

●MSによる測定系は,前処理過程,クロマトグラフィや電気泳動による分離過程,イオン源によるイオン化過程,質量分析過程,最終的なデータの取得過程から成立する.

●測定現場で実施できる質量分析計の改変・変更はごく限られているため,前処理過程,分離過程,最終的なデータの取得過程が測定系の開発や改良の主たる標的となる.

●多層的な原理特性に立脚して可能性と落とし穴を極めることが,臨床検査へのMSの導入のための王道かつ近道となる.

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Point

●液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)は臨床分野で広く用いられ,その応用として治療薬物モニタリング(TDM)へと発展している.

●最近のLC-MSを用いたTDMにおける研究報告を紹介する.

●疼痛緩和TDMのLC-MSモニタリングの実例を示す.

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Point

●新生児マススクリーニング(NBS)は出生した全ての児を対象として行う検査である.発症前に患児を発見し,治療することで障害予防を目指す行政による保健事業であり,臨床検査とはその性格が異なる.サンプルには現在は血液ろ紙が用いられている.

●液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)によるアシルカルニチンおよびアミノ酸分析はタンデムマス・スクリーニング(TMS)と呼ばれる.3mm大の血液ろ紙片をサンプルとして,22疾患を同時にスクリーニングしている.

●LC-MS/MSを用いたNBS検査法はさらに発展しつつあり,多疾患の酵素活性同時測定や既存のTMSでの測定物質追加などが試みられている.

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Point

●質量分析法を用いた菌種の同定は,“データベースに登録されている菌種のマススペクトルとのパターンマッチング”である.

●マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF MS)は一般細菌だけでなく,嫌気性菌,抗酸菌,酵母様真菌,糸状菌の同定も実施できることが大きな利点である.

●系統的に類縁のコンプレックスやグループに属する菌は,菌種レベルとしてスコア値の高い菌種が複数菌存在するので,コンプレックスやグループとして報告することが望ましい.

●MALDI-TOF MSを用いた迅速な菌種同定とその結果に基づいた抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship)は,効果的な抗菌薬治療までにかかる時間や入院期間の短縮,死亡率の低下につながる.

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Point

●Caprioliらによって開発されたMALDIイメージング法は,病理診断の補助的/相補的な情報を提供できる解析手段として臨床の現場で利用されるだろう.

●アミロイドーシスの検査診断およびその病態解明にはMALDIイメージング法が最適であり,レーザーキャプチャー・マイクロダイセクション法と組み合わせれば起因蛋白質の同定効率が向上する.

●単毛髪縦断面上を連続走査するMALDIイメージング解析は,すでに鑑識科学・薬毒物解析に応用されているが,さらに安定同位元素標識体を用いれば,定量MALDIイメージングが可能で臨床検査領域で応用できる.

●二次イオン質量分析法を用いれば,その利点である超高分解能(<50nm),超高感度(ppmオーダー)を生かし,“1細胞内”の生理活性分子の発現量,代謝や分布が明らかになり,細胞内小器官,例えばミトコンドリア内のオミクス解析が可能となる.

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■はじめに

 血小板輸血後に血小板数の増加が不良な病態を血小板輸血不応(platelet transfusion refractoriness:PTR)と呼び,その原因は非免疫学的機序によるものと免疫学的機序によるものに大別される.非免疫学的機序によるものは全体の約80%を占め,出血,発熱,感染症,脾腫,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)などが原因となって起こる.一方,免疫学的機序によるものはヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)抗体,ヒト血小板特異抗原(human platelet antigen:HPA)抗体などの同種抗体が主因であり,そのほとんどはHLA抗体によると考えられている1).本稿では,HLA抗体によるPTRを中心に解説する.

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Summary

 血液培養1セット率(SBCRs)を低下させた当院の10年間の推奨活動を報告する.SBCRsは,2007年11月には94%であったが2009年1月に感染症専門医が入職して低下しはじめた.2010年11月から文書で情報提供し,2014年2月から電子カルテ画面上で注意喚起し,2014年4月から2年目研修医へ自身の1年目の施行状況を通知した.それらにより,SBCRsは2016年第3四半期から10%未満を維持している.

第26回第1種ME技術実力検定試験

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目次

書評 西村 善博

書評 柴田 綾子

次号予告

あとがき 涌井 昌俊
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 このたび,編集委員を拝命し,当方にとって初あとがきとなります.新参者の拙い文章に寛容にお付き合いいただけますと幸いです.今後ともよろしくお願いいたします.

 令和も2年目に入りましたが,元号の開始は5月1日でしたので,この号が出るとまもなく訪れる桜の開花は令和初ということになり,あちらこちらで令和初の卒業式が催されます.希望と緊張に満ちた若者たちの別れと旅立ちの季節です.ただし,卒業というのは学業だけに限ったものではなく,あらゆる物事に大小さまざまな卒業が存在します.社会人として親元を離れて自立する子をもつ親は,子育てから卒業します.近年では,結婚の卒業,卒婚という新しい形態も誕生しました.婚姻関係を維持しながら個々の人生に旅立つという,“お互いからの卒業”と定義付けられています.多様化の時代といわれて久しいですが,卒業もまさに多様化進行中といったところでしょうか?

基本情報

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臨床検査
64巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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