臨床検査 63巻7号 (2019年7月)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常

佐藤 尚武
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 造血器腫瘍の遺伝子異常に関する知見は近年飛躍的に進歩し,その検査は診断上重要な役割を果たしています.造血器腫瘍のWHO分類においても,一部の造血器腫瘍に関しては,特定の遺伝子異常の検出が診断・分類上の最優先事項となっています.一方で,さらなる情報の集積とその解析が必要な疾患もまだ数多くあります.また,造血器腫瘍でみられる遺伝子異常には,診断や予後の推定,治療方針の決定に有用なものもあれば,それらにほとんど寄与しないものもあります.

 本特集では,造血器腫瘍でみられる遺伝子異常について,その現状を概説的に解説していただきました.臨床検査の担当者にとっても,造血器腫瘍の遺伝子異常に関する知識は重要度を増しています.本特集を通じて,知識と理解を深めていただきたいと願うものです.また,検査担当者に対する期待も一部述べられていますので,読者のなかからこれに応える人材を輩出することがあれば,望外の喜びです.

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Point

●骨髄増殖性腫瘍(MPN)は,病型特異的な遺伝子変異が生じ,その遺伝子産物が細胞内のシグナル伝達経路を恒常的に活性化することで,発症する.

●疾患を引き起こす病型特異的な遺伝子変異の検出が,診断や治療効果判定に不可欠である.

●病型特異的な遺伝子変異のほかに,エピゲノム制御因子などの遺伝子変異の検査も,予後予測の観点から重要である.

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Point

●骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)は骨髄異形成症候群(MDS)と骨髄増殖性腫瘍(MPN)の両方の特徴を併せもつ疾患であり,2017年の世界保健機関(WHO)分類第4版の改訂において5つの病型が定義された.

●鑑別診断のために一定の遺伝子検査が必要であるが,若年性骨髄単球性白血病(JMML)と環状鉄芽球と血小板増加を伴うMDS/MPN(MDS/MPN-RS-T)を除いて診断の根拠となるような遺伝子異常は同定されていない.

●遺伝子異常についての知見が集積され,疾患の予後にかかわる遺伝子異常が報告されている.

●MDS/MPNに特徴的な遺伝子異常を標的とした薬剤はまだ臨床に供されていない.

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Point

●骨髄異形成症候群(MDS)は形態学的特徴とともに染色体異常の種類によってそのリスクが分類され,遺伝子異常の種類が病態を規定すると考えられている.

●MDSにおいては染色体転座の頻度が低く遺伝子異常の同定が進んでいなかったが,近年の全ゲノム解析技術の進歩により原因となる遺伝子異常が多数同定された.

●MDSにおいて変異がみられる遺伝子パネルを用いたターゲットシークエンシングによって,MDSの症例のほとんどにおいて遺伝子変異が認められる.

●最新の世界保健機関(WHO)分類においてSF3B1変異が取り入れられるなど,遺伝子異常の同定はMDSの診療に不可欠のものとなりつつある.

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Point

●急性骨髄性白血病(AML)はさまざまな染色体異常や遺伝子異常がその発症に関与しているheterogeneousな疾患である.

●AMLでは染色体異常や遺伝子変異によって予後を層別化し,同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)の適応を決める.

●AMLにおいてFLT3 ITDは頻度が高く最も重要な予後不良因子である.

●AMLにおいてNPM1変異,CEBPA変異などが予後因子として重要となってきている.

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Point

●白血病の発症には複数の遺伝子変異獲得が必要とされ,急性リンパ芽球性白血病(ALL)でもさまざまな融合キメラ遺伝子や遺伝子変異の存在が明らかになった.

●ALLで認められる融合遺伝子,遺伝子異常は,小児から成人までの各世代でその発現頻度に特徴があり,各世代の予後とも深くかかわっている.

●ALLにおけるこれら遺伝子異常,融合遺伝子などの分子病態に基づく診断,治療層別化,新規治療法の開発が試みられている.

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Point

●悪性リンパ腫の分類は世界保健機関(WHO)分類(2017)に基づき行われ,疾患数は50種類を超える.病理組織学的所見,細胞表面抗原,染色体転座による鑑別に加え,遺伝子変異情報も診断のうえで重要である.

●染色体転座の検出は悪性リンパ腫を診断するうえで極めて有用である.蛍光in situ・ハイブリダイゼーション(FISH)法による染色体転座の検出は濾胞性リンパ腫(FL),マントル細胞リンパ腫(MCL),Burkittリンパ腫(BL)の診断に応用されている.

●次世代シーケンサーの登場により,悪性リンパ腫の遺伝子変異が次々と明らかとなった.シグナル伝達経路異常やエピジェネティック制御因子群の異常など,疾患に特徴的な遺伝子変異群も徐々に明らかとなっている.

●有毛細胞白血病(HCL)におけるBRAF変異,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)におけるRHOA G17V変異など,疾患特異的な遺伝子変異が報告され,将来的には補助的診断としての臨床検査への応用が期待される.

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Point

●多発性骨髄腫(MM)の病態形成,疾患進行と治療抵抗性獲得は,多種多様な染色体や遺伝子異常の多段階獲得によるクローン性進化とサブクローン形成による.

●MMの病態形成において,分子細胞遺伝学的異常はNF-κB経路,RAS/ERK経路などのシグナル経路活性化や細胞周期制御,DNA修復,転写制御,RNAエディティング,ヒストン修飾,小胞体ストレス反応,蛋白翻訳などに多様な効果をもたらす.

●MMにおける分子細胞遺伝学的異常プロファイルは,症例ごとの相違が大きいのみならず,1症例内でもサブクローン間での相違が大きく,不均一である.

●t(4;14)やt(14;16),17番染色体短腕欠失,1番染色体長腕増多などの染色体異常,TP53遺伝子異常などの分子細胞遺伝学的異常は予後不良バイオマーカーとなる一方,治療薬選択の指標ともなる.

今月の特集2 COPDを知る

河合 昭人
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 COPDは喫煙などによる炎症性疾患で,500万人以上の患者が存在するとされ,多くの方は未治療のままともいわれています.そのCOPDを診療するうえで必要な疫学や検査の最新の知見を解説いただきました.呼吸機能検査以外に,普段,閲覧することはあってもなかなか判読することがない画像診断の基本である胸部X線検査や,詳細な検査として行われる胸部CT所見についてわかりやすく執筆してもらいました.臨床検査技師としてぜひとも知っておいてほしい治療の話なども網羅し,薬物療法以外の非薬物療法についても論じてもらいました.また,最近話題となっているACOの概念とその概要についても簡単に解説いただきました.

 生理検査に従事している方はもちろんですが,そうでない方にも知識のアップデートとしてご一読いただければと思います.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

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Point

●慢性閉塞性肺疾患(COPD)は呼吸機能検査による評価に基づく診断病名である.

●COPDは死因の第3位に位置付けられている.

●COPDを正しく診断できれば,COPDガイドラインに基づく適切な治療を提供することができる.

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Point

●慢性閉塞性肺疾患(COPD)は喫煙歴のある中高年者に多く発症するが,喫煙や加齢はどちらも数多くの疾患の誘因となるものであり,鑑別疾患は非常に多岐にわたる.

●さらに,COPD患者では全身ないしは肺局所の併存症も多くみられ,それらがCOPDの症状を増強あるいは修飾するため,併存症の診断とその管理も重要である.

COPDと呼吸機能検査 田村 東子
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Point

●呼吸機能検査において気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であれば,慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断される.

●COPDの病期の分類には,予測1秒量に対する比率(対標準1秒量:%FEV1)を用いる.

●COPD患者では,肺の縮まろうとする力が弱まるため気道が狭くなり,呼気に時間がかかる.

●努力呼気で強い気道閉塞が起こると,その気管支部位よりも末梢の肺胞が閉じ込められる動的気道圧迫(dynamic compression)が起こる.

COPDの画像所見 本多 紘二郎 , 滝澤 始
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Point

●慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病型には,肺気腫病変が優位である気腫型と,末梢気道病変が優位である非気腫型とがある.

●胸部X線検査は,画像診断の基本であるが,早期病変の検出は困難な面がある.

●胸部CTでは,気腫病変は肺野低吸収域,気道病変は内腔の狭小化や壁肥厚として認められる.

●胸部CTは気腫病変と気道病変の両者を同時に評価でき,COPDの病型分類に有用である.

COPDの治療 田口 修
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Point

●COPDの原因はわが国の場合ほとんどが喫煙によるものであり,COPD患者を減らすためには専門医だけでなく,一般診療においても健康に対する喫煙の影響を説明し,禁煙を積極的に助言する必要がある.

●患者の状態に応じて積極的な治療介入が必要であるが,中心となるのは長時間作用型気管支拡張薬である.治療開始したら臨床的な効果を評価し,その治療が適しているかを判定することが必要である.

●吸入ステロイド薬(ICS)は気管支喘息合併例(ACO)で使用すべきで,重症度の高いCOPD患者では肺炎のリスクが高まるとされている.

●非薬物療法として,禁煙,ワクチン接種,呼吸リハビリテーションが重要であり,日常生活における身体活動性を高めることが生命予後の改善につながる.

ACOの概念 松元 幸一郎
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Point

●喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)のオーバーラップ(ACO)は慢性の気流閉塞を示し,喘息とCOPDの特徴を併せもつ疾患である.

●咳,痰,息切れを示す他疾患を問診,身体所見,画像などで除外し,呼吸機能検査,血液検査,呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)検査などを実施し,喘息とCOPDの各特徴を参考にACOを診断する.

●治療は吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合薬,あるいはICSと長時間作用性抗コリン薬(LAMA)で開始し,効果不十分であればこれら3剤を併用する.

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症例

57歳,男性.

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■“心臓のお助けホルモン”であるナトリウム利尿ペプチド(NP)

 脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド〔brain(B-type)natriuretic peptide:BNP〕は,心筋ストレスのバイオマーカーとして,神経体液性因子のスクリーニング検査,心不全の診断・重症度評価,治療効果判定および予後予測のために,実臨床で広く活用されている1).また,心不全ばかりでなく心筋梗塞の入院加療後においても,退院時の血漿BNP濃度(血中BNP値)が180pg/mL(Log BNP 2.26pg/mL)を超えていると,その後の心臓死が有意に多いという報告もあり,予後予測に有用である2).ナトリウム利尿ペプチド(natriuretic peptide:NP)は,いわゆる“心臓のお助けホルモン”として臨床上で理解されている.特にBNPは心筋内で産生され,過剰に亢進した神経体液性因子に拮抗して,ナトリウム利尿による体液量減少,血管拡張などの効果をもたらす.心不全の原因は心筋梗塞,心筋症,弁膜症などさまざまであるが,心不全におけるBNP上昇は,これらの病態の変化を反映している.

 なお,BNPの基準値は18.4pg/mL以下であるが,実臨床ではなんら心不全の症状がみられなくても,この値を超える症例が散見される.筆者らは,多施設共同研究J-ABS(Japan Abnormal BNP Standard)3)を行い,新たな心機能障害診断のためのカットオフ値を,60歳未満では40pg/mLとして報告した(60歳以上群の95パーセンタイル値は139.8pg/mL).この研究では,明らかな心疾患がなくても,加齢により血中BNP値は上昇することが示された.同時期に日本心不全学会より,「血中BNP値やNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」4)のステートメントが発表され,同様にBNP 18.4pg/mL以上で40 pg/mL〔BNP前駆体N端フラグメント(N-terminal fragment of brain natriuretic peptide precursor:NT-proBNP)では125pg/mLに相当〕以下は,心不全の可能性は低いが可能ならば経過観察と設定された.

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Summary

 腟分泌物から分離した非溶血性A群連鎖球菌(GAS)に関して,細菌学および遺伝子学的検討を行った.菌は複数の病原遺伝子を保有しており,見逃さない検査法を実施する必要がある.

INFORMATION

第41回第2種ME技術実力検定試験

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目次

書評 照井 正

書評 木村 琢磨

「検査と技術」7月号のお知らせ

バックナンバー一覧

次号予告

あとがき 関谷 紀貴
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 令和元年もはや2カ月が過ぎ,初めての夏を迎えようとしています.今年の9月にはラグビーワールドカップ,来年の7月には東京オリンピックが控えており,一大スポーツイベントの連続に楽しみが尽きない方々も多くいらっしゃるかと思います.

 世界的なイベントでは海外からの観光客対応が頭に浮かびますが,最近は平時においてもさまざまな地域で外国人を見掛けるようになりました.日本政府観光局のホームページでは,前回の東京オリンピックが開催された1964年以降の訪日外客数と出国日本人数の統計をみることができます.1964年と2017年のデータを比較してみると,訪日外客数は35万人から2,869万人と大幅に増加しており,海外からの観光客や就労者にとって,日本は一般的な渡航先になっているといえます.また,出国日本人数をみるとこちらも22万人から1,789万人まで増加しており,日本人にとっても海外はより身近で当たり前のものになっていることが伺えます.

基本情報

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臨床検査
63巻7号 (2019年7月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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