臨床検査 63巻5号 (2019年5月)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査

関谷 紀貴
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 1981年の症例報告から約40年が経過したHIV感染症は,抗レトロウイルス療法(ART)の進歩により長期予後の大幅な改善が得られた一方で,時代とともに優先すべき課題が変化してきています.また,累積患者数は経年的に増加しており,HIV感染症に触れる機会が少ない医療機関においても,一般診療として対応可能な検査・治療・フォローアップに関連する知識を整理しておくことは重要です.

 今回の特集では,現在のHIV感染症を取り巻く状況と問題点の概要を理解し,依頼された検査の背景と意図,基礎知識の再確認を目的にしています.

 疫学,診断と耐性検査,AIDS指標疾患,予防の項は,疾患および検査の全体像と予防に関する近年の状況を整理していただくうえで大変有用です.また,慢性期合併症で取り上げた悪性腫瘍,糖尿病・内分泌代謝異常,慢性腎臓病の3点は,一般診療と共通する部分に加え,HIV感染症に合併した場合の特徴にご注目いただければ幸いです.HIV感染症を有する患者の検査実施に際し,臨床現場との効果的なコミュニケーションを行う一助となることを願っています.

HIV感染症の疫学 塚田 訓久
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Point

●世界のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者数は,2017年時点で3,690万人と推定されている.

●わが国の新規HIV感染者の報告数は年間1,400〜1,500例で推移しており,そのうち約1/3が診断時に後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症している.

●日本人感染者の9割以上が男性であり,主な感染経路は男性同性間性交渉である.

●HIV感染症の感染予防ワクチンは実用化されておらず,感染拡大を阻止する目的で“予防としての治療(TasP)”と“曝露前予防(PrEP)”が世界的に推進されている.

HIV感染症の耐性検査 横幕 能行
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Point

●薬剤耐性検査の結果に基づき抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)療法を行うことは,治療成功に有用である.

●薬剤耐性検査は,抗HIV療法開始前やウイルス学的治療失敗が疑われる時に実施する.

●薬剤耐性検査の結果の解釈には,服薬アドヒアランス,治療履歴および治療中のウイルス量の変化の確認を併せて行うことが必須である.

AIDS指標疾患 鯉渕 智彦
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Point

●国内のヒト免疫不全ウイルス(HIV)/後天性免疫不全症候群(AIDS)の年間報告数のうち,AIDS発症者は約3割を占める.HIV/AIDSの早期発見にはなお改善の余地がある.

●AIDS指標疾患のなかで,最多はニューモシスチス肺炎,次いで食道カンジダ症である.その他,サイトメガロウイルス(CMV)感染症や抗酸菌感染症も多い.

●ニューモシスチス肺炎の多くはCD4陽性Tリンパ球数が約200/μL以下の場合に発症し,播種性非結核性抗酸菌症,CMV網膜炎や消化管潰瘍はCD4陽性Tリンパ球数が約100/μL以下の場合に好発する.

長期合併症—悪性腫瘍 味澤 篤
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Point

●抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)療法の進歩によりHIV感染者の予後は改善し,日和見感染症の減少のみならず,後天性免疫不全症候群(AIDS)指標悪性腫瘍(ADC)である非Hodgkinリンパ腫(NHL)およびKaposi肉腫(KS)の頻度は低下した.

●HIV感染者の死因として,非AIDS指標悪性腫瘍(NADC)をはじめとする非AIDS関連疾患の重要性が増している.

●HIV感染者では,非HIV感染者に比べ,大腸・直腸癌,膵臓癌,喉頭癌,肺癌,メラノーマ,乳癌,前立腺癌の予後が不良である.

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Point

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症に対する多剤併用療法(cART)が著しく進歩し,予後が改善したことから,HIV感染者は内分泌代謝疾患に注意を払うべき長期療養時代を迎えた.

●HIV感染者の虚血性心疾患(CVD)の罹患率は非HIV感染者に比べて高く,糖尿病・脂質異常症に留意をすることが大切である.

●HIV感染者の透析に関する感染管理についての正しい知識が,医療者に必要である.

長期合併症—慢性腎臓病 安藤 稔
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Point

●慢性腎臓病(CKD)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者の生命予後に多面的に関連する合併症であり,その診断とリスク評価には,蛋白尿またはアルブミン尿および糸球体濾過量(eGFR)の測定が必要である.

●わが国のHIV感染者のCKD全有病率は20%,ハイリスクCKDの有病率は5%程度と推定される.アルブミン尿,シスタチンC(Cy)値,尿細管マーカーは独立した予後関連因子である.

●HIV感染者のCKDおよび透析患者は増加している.HIV診療医と腎臓専門医の連携による重症化予防や,一般クリニックによる透析患者受け入れなどの社会的整備が必要である.

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Point

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は,感染者の血液や体液などの,粘膜や血流への曝露によって感染するため,針刺しや感染リスク行為があった場合には予防(PEP)が必要である.

●職業的感染曝露による感染例はほとんどないが,予防(oPEP)では,曝露後72時間以内にツルバダ®(もしくはデシコビ®)+アイセントレスを開始する.

●性行為などリスク行為後の非職業的感染曝露後予防(nPEP)はPEPとほぼ同じであるが,肝炎や梅毒など他の性感染症の検査も行う必要がある.

●ハイリスク患者に対して,リスク行為にかかわらず,普段から抗HIV薬を服用する曝露前予防(PrEP)が試みられているが,課題も多い.

今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

佐藤 尚武
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 フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)を用いた血液細胞抗原分析(immunophenotyping:IPT)は,現在では造血器腫瘍の診断に必要不可欠な検査です.特にリンパ球系腫瘍において,B細胞性か,T/NK細胞性を診断する際は,決定的な役割を果たします.しかし,FCMを用いたIPTの結果を評価するには,専門的な知識と経験がある程度必要であり,血液学検査の従事者でも苦手意識をもっていることがあります.そこで今回,実際の症例を提示して,その解析・評価法の考え方を解説してもらうことを企画しました.

 本特集では,急性白血病を中心に,代表的な造血器腫瘍について,症例提示による結果の読み方が解説されています.また,FCMによるIPTの総論的解説もあります.本特集を読んでFCMによるIPTを疑似体験していただき,多くの方に本検査に対する理解と興味を深めてもらいたいと願う次第です.

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Point

●造血器腫瘍細胞解析の検査材料として末梢血や骨髄穿刺液,リンパ組織などが解析の対象となるが,事前に腫瘍細胞の形態学的特徴や比率などを把握しておくことが重要である.

●正確な検査を得るためには,臨床検査所見や細胞形態検査から予測される病型に応じたゲーティング(gating)法の選択が重要であり,CD45 gatingやCD38*CD138 gatingが解析の基本となる.

●腫瘍細胞の比率が低い検体においては,特に細胞系列特異的なCD3抗体やCD19抗体,造血幹細胞の指標となるCD34抗体などを組み合わせた解析が結果解釈を容易にする.

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Point

●急性リンパ芽球性白血病(ALL)の診断は各臨床研究のなかで厳密に定義されているが,“芽球のペルオキシダーゼ(POX)染色陽性率が3%未満”であることが前提である.

●B細胞系はCD19,CD22,CD79aのうち2つ以上陽性であることが必須で,κ鎖かλ鎖のどちらかが発現している場合は成熟B-ALL,いずれも陰性の場合はB前駆細胞性(BCP)-ALLである.

●T前駆細胞性(T)-ALLは,細胞質内あるいは細胞表面のCD3に加えて,その他のT細胞抗原が発現している.

●細胞系統を逸脱した異常な抗原の発現はまれではなく,遺伝子異常と密接に関係し,このうち複数の細胞系統の基準を完全に満たす場合は混合型白血病と診断される.

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Point

●細胞表面マーカー検査は,病型に特徴的な発現マーカーを理解して診断に利用する.

●ゲーティングは,目的となる細胞形態を観察してから実施する.

●陽性率の評価は,数値とスキャッタグラムを確認して実施する.

●t(8;21)(q22;q22)を有する急性骨髄性白血病(AML)は,CD19やCD56が陽性となる場合があり,細胞形態と細胞表面マーカーから病型の推定が可能な場合がある.

●単球性白血病では,細胞帰属と細胞分化傾向を評価するために細胞表面マーカー検査が重要であるが,M4,M5a,M5bの鑑別は細胞形態と併せて実施する.

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Point

●フローサイトメトリー(FCM)は,急性前骨髄球性白血病(APL)の診断時に必須の検査である.APLに合致する所見であるかどうか,予後因子であるCD56の発現の有無も確認する.

●APLではCD13,CD33陽性,CD34,HLA-DR陰性が特徴的である.CD56陽性はAPLの11〜15%でみられ,予後不良因子である.

●APLのmicrogranular variant(FAB分類M3v)では,CD34やCD2が陽性になることが多い.

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Point

●ミエロペルオキシダーゼ(MPO)陰性の急性白血病では,フローサイトメトリー(FCM)検査が診断に有用である.

●白血病の診断には的確な細胞化学染色の判別,FCM検査においては的確な抗体の選択が必要である.

●血小板増加症例で,巨核球系マーカー使用時の評価には注意が必要である.

形質細胞腫瘍 永井 直治
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Point

●形質細胞はCD38++,CD138,CD45dimの特徴的な免疫形質を有するため,これらを組み合わせた階層化ゲートにより高感度な解析が可能である.

●形質細胞腫瘍は,CD19,CD56,CD45RAなどの正常形質細胞とは異なる特徴的な抗原異常を高頻度に認める.上記6つのマーカーを加えた多重染色を行うことにより,腫瘍細胞を特異的に検出することが可能である.

●細胞質内免疫グロブリン(cIg)解析は,軽鎖制限により腫瘍性を確認できる.また,蛍光強度の観察により免疫グロブリン(Ig)の産生量の把握が可能であることから,ベンスジョーンズ型や非分泌型が推測できる.

Salon deやなさん。・21【最終回】

「what wonderful days!」 柳田 絵美衣
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 「記録的大寒波により,東京は積雪の恐れ.交通機関に影響か」

 テレビのニュース番組で,数日前から大騒ぎ.よりによって,そんな日に当たってしまう運の悪さ……いや,ある意味すごい!

Essential RCPC・9

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症例

4歳,男児.

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Summary

 外毛根鞘性囊腫(TC)は比較的まれな囊腫で,その大部分が被髪頭部に発生することが知られている.今回3例の超音波像と病理組織像を対比することができたため,超音波像の特徴について報告する.超音波検査では3例とも,皮下組織内に境界明瞭,辺縁整の後方エコー増強した低〜無エコー腫瘤を認め,内部に高エコースポットを認めた.病理組織において3例ともTCと診断され,石灰沈着を認めた.超音波検査における石灰化の有無,開口部の有無が,表皮囊腫との鑑別に有用と思われる.

INFORMATION

第25回第1種ME技術実力検定試験

第6回栄養管理研修会

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目次

「検査と技術」5月号のお知らせ

バックナンバー一覧

次号予告

あとがき 河合 昭人
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 2019年5月は歴史的な月となります.

 今月から新元号が始まりました.本稿を執筆している時点ではどのような元号になるかはもちろんわかっていません.元号がどのようになったか,今からドキドキしています.今までの元号の数は247あり,新元号は248番目だそうです.その元号ですが,自由に決めることはできません.国民の理想としてふさわしいような意味をもつものであること,2文字であることなど厳格なルールがあり,それに従っていないと,元号とすることができないため,作成に難渋することは容易に想像できます.調べてみると,元号を使用した長い歴史のなかで,一番多く使われていた文字は“永”でした.私は,“永”という字を見ただけで,よい意味だと感じます.激動の平成時代から安定した時代を想像する意味でも,“安”という文字を使ってみたいという気持ちになります.したがって,新元号を“永安”,“安永”と想像してみました.正解は5月にはもうわかっていますが,どんな元号となっていようと,国民の理想としてふさわしいものであることは間違いないでしょう.

基本情報

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臨床検査
63巻5号 (2019年5月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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