臨床検査 61巻12号 (2017年12月)

今月の特集1 推奨される抗核抗体検査

山田 俊幸
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 間接蛍光抗体法を用いた抗核抗体検査は,HEp-2細胞という培養細胞を核材に用いるという現在の方法になって30年以上経過しています.暗室内で,何倍まで光っているか,どのような型かなど,修練された方は多いと思います.昨今,免疫血清検査は,多くが自動化され,この抗核抗体検査にも,細胞に代わる核抗原の使用,自動判定などの波が押し寄せてきています.しかし,いまだほとんどの施設が従来の方法を自己免疫疾患のスクリーニングとして重用しているのは,この検査法に捨て難い意義があるからだと思います.今回の特集では,この伝統的検査の臨床面,技術面を再度俯瞰していただきます.臨床検査技師の腕の見せ所になるべき検査ですが,委託検査になりやすい現実も踏まえ,その視点での紹介も取り入れました.また,本検査の推奨をテーマにした海外の総説についても取り上げていますので,国際的な知見も視野に入れながら,現時点での理解を整理していただけたらと思います.

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Point

●対応抗原や疾患特異的自己抗体が同定されていなくても抗核抗体(ANA)を検出できる点から,間接蛍光抗体(IIF)法がゴールド・スタンダードである.

●全身性エリテマトーデス(SLE)の分類基準や自己免疫性肝炎(AIH)の診断基準項目にANA陽性が含まれる.

●健常人でも20〜30%は陽性を呈するため,膠原病(類縁疾患を含む)や自己免疫疾患が疑われる場合にスクリーニング検査として実施する.

抗核抗体検査のrecommendation 三枝 淳
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Point

●欧州と米国を中心とする臨床検査技師,研究者,臨床医で構成されるエキスパートグループが抗核抗体(ANA)検査のrecommendationを発表した.

●膠原病スクリーニング時のANA検査の標準法として間接蛍光抗体(IF)法が推奨された.

●IF法によるANA検査のカットオフ値として1:160希釈が推奨された.

●ANA/自己抗体検査における臨床検査技師と臨床医とのコミュニケーションの重要性が強調された.

抗核抗体の検査法の現状 諌山 拓也
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Point

●抗核抗体(ANA)検査のゴールドスタンダードは間接蛍光抗体法(IIFA)である.

●HEPASERATM-1は国内のIIFAによるANA検査(FANA)標準品として,標準化に寄与することが確認された.

●ANA検査の標準化は,自動化が普及することで,よりいっそう進展すると予想される.

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Point

●抗核抗体測定は蛍光抗体(IF)法と酵素免疫測定(ELISA)法がある.膠原病特異抗体測定時にELISA法の定量は有効である.一方IF法は,未知の自己抗体を含めた全ての抗核抗体の検出に優れている.

●抗DNA抗体には放射免疫測定(RIA)法とELISA法がある.RIA法が疾患活動性をより正確に表す可能性があるが,環境保全の面では,アイソトープを使用しないELISA法が優れている.

●ENA抗体の測定は二重免疫拡散法(DID法,別名Ouchterlony法)とELISA法がある.ELISA法では,高γグロブリン血症が存在する場合の偽陽性に注意をする.抗SS-A抗体がDID法で32倍以上の場合は胎児の完全房室(AV)ブロックの予測になり,ELISA法での抗体価の追跡が有用である可能性がある.

●近年,RNAポリメラーゼⅢ抗体,抗ARS抗体,抗MDA5抗体,抗TIF-1γ抗体,抗Mi-2抗体などの測定が保険収載され,膠原病の診断,治療の進歩が期待される.

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Point

●間接蛍光抗体(IF)法は,膠原病の診断や治療経過観察などに古くから広く用いられている検査法であり,自動化も可能になった.

●IF法は自動化が可能になったとはいえ,まだまだ用手法で行われている施設も多く,蛍光顕微鏡や暗室などが必要のため外注化の傾向にあるが,医師からの需要は多い.

●化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)などの自動化法は,迅速な測定が可能であり,今後省力化に貢献できる方法として期待できるが,日常検査として普及するにはもう少し時間が必要と思われる.

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Point

●抗核抗体検査(蛍光抗体法)は年々外注化が進んでいる.検査センターには品質を維持しながら結果を迅速に報告することが常に求められている.

●検査員の育成には,指導者との目合わせやスピードチェックなどの教育プログラムを実施することで,安定した人員確保に工夫をしている.

●品質管理として,日々の精度管理,月に1度の技能検定を実施している.また,検査員同士の意見交換で情報共有をしている.

今月の特集2 新鮮血を用いた血算の外部精度管理

佐藤 尚武
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 血球計数(血算)に関しては,自治体レベルの精度管理調査を中心に,新鮮血を用いたサーベイが実施されています.新鮮血によるサーベイは,調査試料のマトリクス効果を受けることなく,実検体に近い条件での評価が可能になる点が最大のメリットです.しかし,新鮮血を用いるが故の,技術的課題や限界も存在しています.

 本特集では,新鮮血を用いた血算の外部精度管理調査について,その現状と課題について解説していただきました.特に新鮮血調査試料を作製するための条件や注意点について,その道のエキスパートによる解説が掲載されています.新鮮血を用いた血算の外部精度管理調査は,今後も行われていくものと予想されます.その際は,本特集で解説されているさまざまなノウハウを,ぜひご活用いただきたいと願う次第です.実際に広く利用されることになれば,特集の企画者として,これに勝る喜びはありません.

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Point

●地域の自動血球分析項目の外部精度評価(EQA)においては,調査試料として新鮮血を使用している例は多い.

●新鮮血EQAで使用する調査試料の調製方法,評価基準,倫理的配慮などにEQA団体間差を認めた.

●EQA評価結果のばらつきを少なくするためには,新鮮血EQA実施方法の標準化が必要である.

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Point

●抗凝固剤として,エチレンジアミン四酢酸二カリウム塩二水和物(EDTA-2K)とCPDA液それぞれを単独で使用する場合は,白血球数の減少や血小板凝集のリスクを伴う.

●試料作製時の水素イオン指数(pH)が低いと平均赤血球容積(MCV)が大型化し,保存によるNaの低下や血糖値の低下は経時的なMCVの上昇と関連する.

●試料の性状変化による測定値への影響は,自動血球分析装置によって異なる.

●白血球数の変動には供血者間差が存在する.

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Point

●血球計数項目の外部精度評価(EQA)時に配布する新鮮抗凝固血液試料を作製する際は,分注時の攪拌操作が誤差要因となりうる.

●攪拌容器容量が大きい場合はロータリーミキサーによる攪拌のみでは十分に攪拌できないことがあり,用手法による転倒攪拌が不可欠である.

●適切な攪拌後30秒以内に分注した複数試料中ヘモグロビン濃度は,ほぼ一定である.

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Point

●全血球計数〔全血算(CBC)〕の外部精度評価(EQA)に加工血試料を用いると,マトリックス効果によって機種間差が顕著に表れる項目〔白血球数(WBC),平均赤血球容積(MCV),血小板数(PLT)など〕がある.この場合,同一メーカーの機器でも測定原理が異なると測定値の乖離がみられる.

●新鮮血試料は,マトリックス効果の影響を受けないためWBC,MCVは良好な成績が得られるが,PLTは臨床的許容限界を超える差が認められ,なお改善の余地がある.

●新鮮血試料は大量に作製することが困難かつ劣化が早いので,大規模精度管理調査には向かないが,自治体規模の調査には適しており,機種間差の実態が調査可能である.

●新鮮血試料は作製法によって保存安定性が異なるので,調査結果の解析・評価法を含め新鮮血EQA実施法の標準化が望まれる.

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Point

●都道府県の医師会,臨床(衛生)検査技師会が実施している外部精度管理(EQA)では,新鮮抗凝固血液(以下,新鮮血)のみ,もしくは加工血と新鮮血との併用で調査を実施している.

●ボランティアによって新鮮血の安定性が異なることから,事前に経日的安定性を確認する必要がある.

●自動血球計数項目には国際的認証標準物質が存在しないため,国際標準測定操作法を用いて値付けされた新鮮血を用いてトレーサビリティが確保されているが,自動白血球5分類(5-Diff)の計量計測トレーサビリティの概念は確立されていないことから,メーカー間差が生ずることが推察される.

●5-Diffの評価においては,日本検査血液学会(JSLH)がフローサイトメトリー(FCM)による白血球分類参照法の検討を進めていることから,さらなる標準化が期待される.

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Point

●東京都衛生検査所精度管理調査では,新鮮血を使った血算の外部精度管理調査を,オープン調査とブラインド調査の2種類の方法で実施している.

●ブラインド調査では,協力医療機関を通じて,調査試料を通常の検体として検査依頼する.

●ブラインド調査は,オープン調査以上に,対象施設の日常検査における精度管理の状況を知ることができる.

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Point

●日本衛生検査所協会では,血球計数項目の新鮮血サーベイを24年間にわたり実施してきた.

●新鮮血サーベイでは実際の検査に近い状況での精度管理調査が可能であり,有用と考えられる.

●新鮮血試料の準備および搬送には注意すべき点があり,適正なサーベイの実施には課題も残る.

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■血小板輸血不応(PTR)

 血小板輸血を行っても,期待したように血小板数が増加しないことを反復する場合,血小板輸血不応(platelet transfusion refractoriness:PTR)と呼ぶ.

 血小板輸血を行った際に,予測される血小板増加数は,表1①のように計算される1).一方,血小板輸血効果判定には補正血小板増加数(corrected count increment:CCI)を用いる.CCIは表1②のように計算される.血小板輸血後1時間のCCIが7,500/μL未満,または輸血後20〜24時間のCCIが4,500/μL未満の場合,PTRと判定する2)

Salon deやなさん。・7

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 「今日はわれわれ,クリニカルシーケンスに携わっている病理検査技師の熱意とヤル気と,必要としているものについてお話します!」街頭演説のようなセリフで始まった柳田の講演…….

 Precision Medicine実装に動き始め,国内でがんゲノム医療中核拠点病院(仮称)を指定すると厚生労働省が発表した.現在,院内完結型クリニカルシーケンスでがん遺伝子網羅解析を行う施設は数施設.そのうえ,ある程度の臨床でのデータ数と経験値をもつ施設は限られている…….

寄生虫屋が語るよもやま話・22

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 前回に続いて尿の話で恐縮している.世間を見渡せば,トイレが近い男性は結構多いものである.多分に精神的なものであろうが,膀胱の緊張性が少々過敏に過ぎるのであろう.中学生時分に,同級生で試験が始まろうかというときに必ずトイレに駆け込む男がいて,本人自ら“ベンジョミン(便所民)・フランクリン”と自虐名を名乗っていた.現在の職場の事務職員を伴って海外出張したことがあったが,彼も“ベンジョミン”で,飛行機で着席する間もなくトイレに行き,離陸してシートベルトサインが消えたら脱兎のごとくトイレに駆け込む図に思わず笑いを漏らしたものである.私の研究仲間にも“ベンジョミン”先生がいて,通常の人に比べてトイレに通う頻度が1.5倍はあろうかと思うが,その彼が尿を用いた免疫診断に命を懸けているのは,自身の排尿の際に浮かんだアイデアなのだろうか.ご本人の承諾を得ていないので実名は伏せる.彼とは同じ研究室で仕事をした仲であるが,寄生虫病の免疫診断を血清ではなく尿を使って行うというのである.尿中に排出される特異抗体を検出することで診断することができれば,採血よりも簡単な診断方法であることは疑いない.

 さて,尿検査では定性的に尿蛋白が陰性であることが正常である.当然ながら抗体はγグロブリン分画の蛋白質であるので,尿中には抗体は出てこないでしょう,というのが当初の議論であった.彼は“微量の蛋白質は通常の尿中にも出ているだろうし,ELISAのように感度が十分に高い方法を使えば特異抗体を検出できるはずだ”と主張を曲げない.それでは,と当時実験室で維持していた日本住血吸虫感染マウスの尿を集めて,それを使って抗体を検出できるかを調べることになった.しばらくして,彼から“尿は免疫診断に使えますよ”と言ってきたのである.“マウスではとんでもない量の虫を感染させているので可能だったのではないか?”と,なお疑問を抱く私に,それでは中国の流行地で,ヒトの尿を使って調べてみようということになり,早速検証することになった.

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「検査と技術」12月号のお知らせ

バックナンバー一覧

次号予告

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ENGの重要性を再認識させる著者渾身の一冊

 この度,医学書院から『ENGアトラス』が出版された.著者は小松崎篤先生(医科歯科大名誉教授)である.

 小松崎先生は,わが国のめまい・平衡障害疾患を牽引してきた先生で,この世界では知らない人はいない.先生は,私の師匠であり恩師である.既に大学を退職されてから20年近くになった今,なぜENG(electronystagmography)なのだろうか.また,このような400ページを優に超える著書のなかに芸術的ともいえる700余枚のENG記録を収録して出版されるエネルギーに,弟子の私は唖然となり,内容を見て二度三度と感激している.

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検査技師が出合って良かったと思える一冊

 本書の書評を書くにあたり,評者は『臨床検査技師のための血算の診かた』というタイトルに興味を抱きました.なぜかというと,臨床検査技師(以下,検査技師とします)であれば,誰もが口にすることをためらってしまう,“診断”の“診”という文字が使われていたからです.まず,タイトルに惹かれて読み進めました.読み終えた今,期待以上の本であったと感じています.

 この本は,著者が医師向けに書かれた『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』(医学書院,2011年)の姉妹本ですが,血算データを病態診断につなげていくというスタイルは同じです.症例数は医師向けの本よりは少ない35症例ですが,血液検査に携わる検査技師が遭遇するだろう血液疾患はほぼ網羅されています.血算データから病態診断までがQ&A方式で導かれており,血液検査に携わる検査技師の指導書として,また自己学習書としてぴったりな本です.検査技師は1日に数百という検体を扱うので,血算の時系列を全て確認することは困難ですが,この本では「血算を時系列で診る」という医師の視点を学ぶことができます.評者が検査技師になった頃は紙カルテだったので,患者さんの状態や投薬情報などを得ることは大変なことで,同じ検査室で測定している他の検査結果さえすぐに知ることが難しい時代でした.今は電子化されているので,検査技師でも,患者情報も血算の時系列も簡単に見ることができます.そういう意味からも,この本は時代にマッチしています.

あとがき 関谷 紀貴
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 今年も残すところ1カ月となりました.青山学院大学が三連覇を果たした箱根駅伝に始まり,トランプ政権誕生後から世界情勢の流れに大きな動きがあった1年間であったと感じます.私が専門とする感染症分野では,薬剤耐性対策に関連した話題が最もホットでした.

 “かぜやインフルエンザに抗菌薬が効く”といわれたら,皆さまはどう答えるでしょうか.正しいという方はいらっしゃらないでしょうし,そんな当たり前のことは今更考えるまでもない,というご意見が大半かと思います.ところが,今年の3月に国立国際医療研究センターが行ったインターネット調査では,医療従事者でない一般国民3,390人の40.6%が“正しい”,24.6%が“間違い”,34.8%が“わからない”と答えました.なんと,非医療従事者の3/4が,抗菌薬に関する最も基本的な事実を知らなかったことになります.

基本情報

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臨床検査
61巻12号 (2017年12月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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