呼吸と循環 9巻5号 (1961年5月)

巻頭言

研究成績の再吟味 上田 泰
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 わが国では近年殊にここ数年は学会ばやりである。各教室,研究室は年中学会に追いまわされている。学会における発表演題も多岐にわたり,自身の研究領域を一歩出ると殆んど理解出来ないものが少くない。

 一方研究発表における各種検査も広範かつ詳細をきわめ,見事なデータが羅列されているが,門外漢には殆んど文句をつける余地もなく,いたずらに感心するばかりである。

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I.はじめに

 解離性大動脈瘤は古くから知られている疾患であつて,すでに1760年にMorgagni氏の記載があるといわれている1)が,従来専ら病理解剖学的興味をもつて取り上げられることが多く,臨床的に意義のある疾患として扱われるようになつたのは比較的最近のことのように思われる。

 これは元来この疾患の頻度がそれ程高くないことにもよるが,最大の原因は経過が非常に急激で,診断も治療も出来ないうちに患者が死亡してしまうことによるものであろう。Levinson氏2)によれば58例の本疾患の症例中36%が発病後48時間以内に,37%が3〜60日の間に死亡し,わずかに25%が,いわゆる慢性解離性大動脈瘤という一種の自然治療の形態をとつて,3ヵ月〜8年生存したにすぎない。

特発性心肥大症の病理 岡田 了三
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 特発性心肥大症はJosserand, Gallavardin(1901)の報告以来,約半世紀間に主としてアメリカ・イギリス・フランスなどから約100例1〜22)の剖検例が報告されている。臨床的には原因不明の心肥大を呈して比較的急速に心不全症状が悪化して死亡し2,9,23),時に家族的発生19)も証明される。剖検上は心筋の原因不明の肥大が主徴で,弁膜疾患・リウマチ・梅毒・種々の感染症または中毒による心筋炎・冠状動脈疾患・高血圧・栄養障害・ビタミン欠乏症・貧血・内分泌異常・呼吸器疾患・心膜炎・心内膜炎・先天性奇型などが病因として否定された場合に4,7,10),特発性心肥大症1,12,14〜17)・原因不明の心筋疾患2,3,10,13)・原因不明の心肥大症5,7,11)・心肥大をともなう心筋変性症4)・家族性心肥大症19)などと呼ばれて来たわけである。ところがこの名称が,臨床的にも病理学的にも使いやすいことから広く愛用されるにつれて,次第に種々の異質な心疾患をその中に包括する結果となり,今日かなりの混乱がおこつている17,21)。これは,一つには今世紀前半の目覚しい医学の進歩が,従来不明であつた心筋内代謝過程を次第に朋らかにし,一方診断技術の進歩は種々の心疾患の生前診断を可能にしつつあるために特発性心肥大症と綜括されていた疾患群より,いくつかの新しい疾患単位が誕生したこと24)とも関連している。

特発性心肥大症の臨床 大鈴 弘文
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 I.特発性心肥大症と家族性巨大

 既知の心疾患の症状てはなく,また既に知られている心肥大を来すべき原因がないのに心肥大を主徴とする疾患を特発性心肥大症といつている (Friedberg1))。臨床的に心肥大を証明し,病理解剖で心肥大を確認しながら,肥大機転の説明できない症例については,既に前世紀の末Simonds2)によつて報告され今世紀にJosserand et Galla—vardin3)以来,最近Spodick a. Littmann4)の自験例に至るまで,世界文献で80例に及ぶものである。しかし我国では甚だ少なく,著者5)及吉良6)の報告のみであつた。厳密に云えば,心肥大は病理解剖によつて確実にし得る異常であつて,臨床的には打診上心濁音界拡大または胸部レントゲン像中央陰影の拡大があつても必ずしも心肥大と速断はできない。心室拡張,心嚢内液の貯留,縦隔洞または心の腫瘍等中央陰拡大に与る因子は他に多い。諸検査から心容量増大が心肥大(心室筋肥大)に基くものであることが確実になつたとしても心弁膜症,冠動脈疾患,心筋炎,先天性心畸型等の心肥大の原因疾患がないということは病理解剖によらなければ断言できないし,グリコーゲン貯留疾患(v. Gierkes disease),心臓血管膠原病,心内膜線維弾性症,心筋線維症などの所見の有無もまた形態学的研究によらなければ,明かにできない。

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 頸動脈系の閉塞と脊椎脳底動脈系の閉塞とに二大別する。何れも脳外の動脈硬化性の節状狭窄が注目されて来たが,実は脳内外何れの部にも,また一個所のみならず発生しうるものである。臨床症状を病態生理に結びつけ3段階にわかつ。現在は間歇的な動脈系不全にすぎないが,必ず近いうちに重人な永久的の傷害を招くとおもわれる段階をimpend—ing(incipient)strokeとよぶ。血流の減少した脳部位に応ずる神経症状が5〜20分ほど発作的にあらわれる。こうした阻血発作が累積するとそれだけで脳細胞は永久的変化を招きうる。脊椎脳底動脈系では単麻痺・片麻痺などの発作,両側性の知覚障害・視野障害・複視・メマイ・嚥下障害・意識障害の発作など。これは全部揃うとは限らぬ。数個の症状で診断する,頸動脈系では1側性の筋力減退・知覚障害の既往,発語障害・岡側視力障害,剛側頸動脈搏動減少,同側網膜動脈圧低下など。これらの発作は動脈硬化に加えて,一過性低血圧・赤血球増多・外部からの該動脈圧迫屈曲・貧血・血栓・喫煙・血管収縮などが惹起因子となつている。もう少し進むとadvancing (progressing)strokeとなるので,阻血の程度時間が高度となり,だんだん永久的な傷害に変るので,血栓がつよくなつて閉塞が増悪し,副血行が不十分であり,かなり広い脳細胞機能が久損しているのである。

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I.はじめに

 肺生理学の分野において「CO2の問題」が大いに注目されるようになつてきた。もちろん現在の肺生理学の骨組はCO2動態の上に組立てられたものであると云つても過言ではないほどであるから「何をいまさら……」と思われる読者も少なくないであろう。冒頭の一文は肺生理学におけるCO2の役割の再評価,再認識という点で注目されていると訂正した方が正しいかも知れない。

 肺の機能の本質が血中にCO2を摂取し,CO2を血中より肺胞気中に排泄するガス交換作用にある以上は肺生理学においてCO2動態が重要な地位を占めることは当然であろう。CO2の血中から肺胞気中に移行しやすい性質,云いかえればalveolarequationにおいて動脈血CO2分圧は肺胞気CO2分圧に等しいと規定される事実に抑えて血液の酸・塩基平衡に占めるCO2の役割,換気調節機序においてCO2の占める役割などを考えるとき換気機能,肺胞機能,肺循環動態などを有機的に結びつけるいわば「狂言まわし」の役割をしているのがCO2であるということができよう。とくに肺性心あるいはそれと病態生理学的に類似した右心不全に進展するいわゆる肺胞低換気症候群syn—drome of alveolar hypoventilationの概念が導入されるに及んでその重要性が一そう注目されてきている。

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I.はじめに

 近年各種の降圧剤が登場し,高血圧症の治療法はいちじるしい進歩をとげつつある。特に本態性高血圧においては,血圧下降剤を長期使用することにより動脈硬化の進行をおくらせ,さらに重要臓器の障害を防ぎうることはすでに多数の報告がなされている。しかしながら,ひるがえつて本疾患の高い頻度と重要性を考えると,この分野におけるなお一層の努力と研究が要求される段階である。

 最近,まつたく新しい持続性降圧剤としてCIBA 5864 Su(Guanethidine)が合成され,注目されつつある.本剤は交感神経末梢の遮断剤の一種と考えられており,副交感神経遮断作用がなく,持続性降圧作用をもつことが特徴とされている。今回われわれも本剤の提供をうけ,本態性高血旺症を中心として降圧効果を検討しその投与法について若干の知見を得たのて報告し,同時に動物実験の成績を中心に木剤の作用機序について考察をこころみたい。

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I.はじめに

 Riley9,10)等の研究によつて動脈血中のCO2分圧(Paco2)と肺胞内のCO2分圧(PAco2)とは効果的に等しいことが明らかにされて以来,血中の炭酸ガス分圧(Pco2)の測定は重要な位置を占めるようになつて来た。ことに肺胞内O2乃至CO2分圧,静脈血混合量,死腔量あるいはdiffusing capa—city等最近の肺機能検査上欠くことの出来ない項目の算出には,動脈血中Pco2は必要な測定値であり,血中O2分圧の定量化に伴つてその簡便且つ精密な測定法の確立は強く要望されている研究課題である。

 従来,血中Pco2の測定法には,間接的方法と直接的方法との二つがある。間接的方法とは,血中のpHとvan Slyke装置によつて求めた血漿中CO2含量とを基にして次のHenderson-Hassel—belchの式に従つてPco2を算出する。

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 司会(笹本)それでは第30回呼吸と循環談話会を開催いたします。今回の呼吸と循環談話会は主としてスパイログラムを中心としたテーマということに絞つたわけです。その理由はいろいろありますけれども,一つ申し上げますと,今年の4月からじん肺法が改正になりまして,御承知のように日本全国で法律によつてじん肺患者の検査をしなくてはならないということになりました。その際検査の主力は胸部レントゲン写真と,それから肺機能検査でございます。しかもその肺機能検査がやはり設備その他の普及との関係からして,換気曲線を中心にして行かざるを得ない。こういうことであるので,一応この辺でもう一度しつかりした換気曲線に対する考え方というようなものをきめておきたいことが大きな理由の一つであつたわけです。

 それからもう一つの理由として,これはつい最近ですが,偶々昭和36年日本結核病学会会長であるところの日比野教授が名古屋から来られまして,昭和36年の結核病学会でも自由集談会という名前でやりたい,自由集談という形式でやりたい,その中でやはり肺機能の何かをやつてくれないか,というお話があつたんです。ちようどいい機会ですから,ここで換気曲線について,大いにもんで頂いて,これを第1次もみ会にします。

われわれの研究室

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 九大医学部心臓血管研究所は国立大学におけるこの方面の研究施設としては最初のものである。本態性高血圧症,動脈硬化症その他の心臓血管系統の病気が悪性新生物と共に国民衛生の中心課題として注目されるに至つた事が,本研究施設が設置された社会的背景であるが,その設置場所として九大が選ばれた事は故なき事ではない。病理方面に於ては田原淳教授の刺戟伝導系統に関する世界的な業績があり,臨床循環器方面は呉建教授により開拓され,金子,操,山岡教授と受け継がれた輝かしい伝統があり,その業績は内科学会,循環器学会に於ける幾多の宿題報告,シンポジウムとして結実している。

 この様な社会的背景及び学問的環境のもとに設立された本研究所は洋々たる将来が期待される。昭和33年4月1日設置認可になつてから日尚浅いが設備及びスタッフの充実は着々と進んでいる。人員構成としては施設長・天児民和(九大医学部長),教授・山岡憲二(第1内科教授兼任),助教授・森博愛,講師・中村元臣,助手・大宅善衛,中谷己佐子の他に九大医学部の基礎及び臨床にわたる循環器の権威者14教授が兼任所員として研究室の運営指導に関与している。その他に他教室からの大学院学生又は研究生で当研究所で研究に従事しているものは13名である。

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 解離性大動脈瘤の生前診断は困難である。その理由は,殆どが急死をするためであるが,なかにはreentryをおこし,遷延する型のものがある。

 しかし,後者の例は,きわめて珍しいので,そのことが生前の診断を困難にする。われわれは最近,急死例と遷延型とをつづけて経験したので,比較対照の意味から,ここに合わせて報告する。

基本情報

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呼吸と循環
9巻5号 (1961年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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