呼吸と循環 51巻6号 (2003年6月)

特集 動脈硬化の臨床

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はじめに

 Rossらによって,動脈硬化の進展に血管の炎症が中心的な役割をもっていることがこの10年間で明らかにされてきた1).また,動脈硬化病変における炎症が全身の炎症反応を引き起こしていることが生化学的に検出され,心血管病診療に新たな展開がみられている.例えば,血漿中CRPやIL6濃度が高値の群では,心血管イベントのリスクが高い.そして炎症性サイトカインだけでなく,CRPも直接的に動脈硬化病変の形成に関与している可能性が提唱されている.さらに,冠動脈疾患の重要なリスク因子として炎症が認識されるようになって,一次予防,二次予防の戦略が大きく変わってきている.

 本稿においては,動脈硬化の成因を炎症の観点から述べてみたい.

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はじめに

 血管造影のみでは評価困難な血管病変の診断を目的として,血管内視鏡は血管内エコーとともに血管造影の補助検査として開発され,動脈硬化病変の直視的肉眼病理学的診断を可能とした.すなわち,血管内にある病変をありのままの色調で直接目に映すことが可能となった.しかし,観察には血流を遮断しなければならないなどの技術的煩雑さや定量的解析に劣る点などにより,現状では血管内エコーよりも普及していない.

 一般に,血管内視鏡で観察される血管内腔評価のポイントは内膜面の色調と形態,そして血栓の性状の3点に集約される.本稿では血管内視鏡による心血管領域における動脈硬化病変の治療評価について,病理学的検討も併せて概説する.

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はじめに

 動脈硬化の進展には複雑な血管因子が多様に関与するといわれているが,病的に刺激された血管内皮細胞の活性化がtriggerとなり,マクロファージ,平滑筋細胞,Tリンパ球の浸潤と脂質の蓄積が主体となる.冠動脈ではこれが狭窄病変となり,動脈硬化性プラークの破綻が起こると急性冠症候群の病態を呈する.

 今日,その病態は血管内超音波法(intravascular ultrasounds;IVUS)を用いて血管壁および内腔の構造を観察することにより,早期から病態の把握が可能となった.このため臨床での有用性が広く認識されるようになった.

 本稿では,冠動脈病変を中心としてIVUSからみた動脈硬化性病変について概説する.

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動脈硬化と非侵襲的診断法

 生活習慣病の原因である動脈硬化の診断は臨床の場における重要な問題のひとつである.動脈硬化の画像診断において,血管内腔表示である血管造影法は狭窄あるいは拡張病変の診断にはなくてはならない放射線診断法であった.しかし,血管造影法はあくまでも内腔自体の描出であって,病変の原因を解明する血管壁の状態の描出には不適当である.

 冠動脈に関していえば,最近では虚血性心疾患を考えるうえで,acute coronary syndrome(ACS)という新しい概念が提唱され,動脈壁の性状の把握が治療あるいは予後を考慮するうえでなくてはならない情報となりつつある.すなわち,冠動脈疾患を含めて血管疾患診断においては,プラーク診断が血管内腔診断よりも急務となっている.虚血性心疾患に対する診断法が発達しても,特に急性冠症候群に対しては無効であり,また冠動脈造影法の有用性が疑問視されている(図1).前述のように,血管造影は内腔診断であるので,血管壁評価には無力である.

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はじめに

 近年の超音波装置の発達はめざましく,カラードプラ法などの併用で詳細な血流表示も可能となり,全身の血管を確実に観察することが可能となってきた.また,高周波プローブの開発が進んだことで,表在血管に対しても高解像度の画像を得ることができるようになり,大型の大動脈だけでなく,中~小動脈の頚動脈や四肢の動脈においても,「動脈硬化」によって起こりうる血管の変化を超音波法で容易に観察できるようになった.

 動脈硬化は,比較的大型の動脈に生じるatherosclerosis,中型の動脈にはMoönkeberg硬化,細動脈ではarteriolosclerosisが特徴とされているが,超音波で直接検索が可能な範囲は大動脈から四肢末梢動脈までである.更に細くなった臓器内での小動脈は血流表示による観察(脳血流検査や腎臓内分枝動脈の観察など)は体表面からも可能ではあるが,細動脈レベルでの観察は現段階では,体表面からは一般的ではない.

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 脈拍数を測定するために橈骨動脈に触れて,高齢で血圧の高い方に当たった時に,なんて硬いのだろうと思ったことがあるだろう.一方,血圧も正常な若年者では非常に柔らかな血管として触れることができる.このような血管の硬さを中心とした情報は脈波を記録することにより客観的に評価することができる.

 動脈硬化に陥った血管の素材としての特徴は,簡単にいえば,「厚い」,「硬い」,「狭い」の三要素である.「厚い」の中心はコレステロールの血管壁への沈着による血管壁の肥厚である.「硬い」の要素は肥厚も直接関与するが,コラーゲンの変性や中膜エラスチン含量の低下,さらには石灰化もこれに関与してくる.「狭い」は血管壁の肥厚の結果として内腔が狭くなるという単純なメカニズムでも起こるが,実際にはリモデリングといって血管内腔を保つための代償機転として血管外膜が拡張する現象(positive remodering)や,逆に外膜方向への拡張がみられず血管外膜周も小さくなってしまうといったnegative remodeling(shrin-kageともいう)が複雑に絡み合っている.このような動脈硬化に伴って生じた血管の変化,つまり厚い,硬い,狭いの状態は脈波速度を促進させ,動脈反射波を増大させることとなる.

巻頭言

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 わが国においても本格的な高齢化社会を迎え,それにつれて心房細動の発生頻度が年々高まってきている.心房細動そのものは決して致死的な不整脈ではないが,特有の症状やそれによるQOLの低下,心不全や脳梗塞の発症など,実際臨床においては極めて大きな問題を抱えている.

 以前から,心房細動の管理は内科医の腕の見せ所であった.私が医師になった30年前頃は,心不全を伴った心房細動の患者さんが入院すると,ジギタリスの急速飽和治療を行うのが一般的で,心拍数,呼吸数,脈拍数などを頻回にチェックし,投与量を細かく調節するために,よく泊まり込みで治療に当たったものである.当時は抗不整脈薬としてはキニジンとプロカインアミドぐらいしかなく,心房細動の治療といえばジギタリス製剤を用いた心拍数コントロールが好んで行われた.

 その後,ジソピラミドを嚆矢として強力な抗不整脈薬が次々と開発された結果,電気的あるいは薬理学的に除細動を行って洞調律化し,さらにこれらの抗不整脈薬を積極的に用いて洞調律を維持しようという治療,すなわちリズムコントロールの時代が訪れた.特にこの十数年間は,重篤な基礎心疾患のない若年者の発作性心房細動例などを中心に,多くの臨床例でこのリズムコントロール治療が行われている.これによって長期間にわたって洞調律が維持されれば,心房細動特有のさまざまな自覚症状は消失し,さらにQOLの改善,血栓塞栓症リスクの低減など,患者さんにとって多くの福音がもたらされる.

綜説

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はじめに

 心筋梗塞に対する急性期治療は近年目覚しい発達を遂げ,より重症例の生存が可能となったが,その結果,梗塞後に慢性心不全を呈する症例はむしろ増加するというパラドックスが生じている.心筋梗塞後には,梗塞部伸展に引き続いて非梗塞部心筋の代償性肥大・拡張が生じるが,この代償機構が慢性期に及んで破綻すると,進行性の左室容積増大から慢性心不全へと移行する.このいわゆる左室リモデリングの規定因子として,梗塞サイズ,左室壁応力,神経体液性因子などがこれまでに報告され,急性期再潅流療法,β遮断薬,ACE阻害薬を用いた左室リモデリングの予防が試みられてきた.

 しかしながら,左室リモデリングを規定するもう一つの重要な因子である梗塞後の治癒過程については,過去にも僅かな報告が散見されるのみであった.最近,梗塞後に活性化される細胞外マトリックス分解酵素や炎症性サイトカインが,左室リモデリングに影響を及ぼすことが知られるようになり,梗塞後炎症とリモデリングの関係が着目されるに至った.

 本稿では,梗塞後リモデリングにおける炎症・免疫応答の役割について概説する.

Bedside Teaching

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はじめに

 近年,誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible isoform of nitric oxide synthase:iNOS)由来の大量に産生された一酸化窒素(nitric oxide:NO)が,気管支喘息をはじめとする炎症性呼吸器疾患の病態に関与している可能性が動物モデルなどにより示された.またヒトを対象とした研究では,呼気NO濃度が測定され,特に気管支喘息患者では健常人に比べ有意に上昇,かつ気道炎症の程度と相関することが判明し,気管支喘息の診断や気道炎症をモニタリングする簡便かつ有用な方法であるとの報告が増えてきている.また,呼気NO濃度測定は他の検査(気道過敏性検査,喀痰好酸球,ピークフローなど)と比較し,その手軽さや非侵襲性から小児や肺機能の低下した高齢者でも繰り返し施行できるという利点がある.さらに他の検査に比べより鋭敏に炎症状態のみをモニターできるという特異性から,今後呼気NO濃度測定の重要性は高まっていくと考えられる.

 本稿では,肺におけるNOの産生機序および生理的作用,呼気NO濃度の測定方法,各呼吸器疾患において呼気NO濃度がどのような意味をもっているかを述べていくことにする.

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)をめぐる最近1年間の話題

1・概説

 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)では,無呼吸および夜間低酸素血症に起因し,心血管系疾患の合併が数多く認められ,高血圧,肺高血圧,虚血性心疾患,心不全,脳血管障害,不整脈,肺動脈血栓塞栓,ならびに夜間心臓突然死との関連が指摘されている1~3).最近1~2年間では,心血管系疾患とSASとの疫学調査,さらに循環器疾患に対する治療介入に関する研究が報告され,注目されている.

 SASは,従来から肥満との関連が重視されてきた.わが国のSAS患者に関する肥満度(body mass index:BMI)の調査では,無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index;AHI)が20以上の日本人SAS患者4,814例におけるBMIの平均は28.2kg/m2であり,日本肥満学会の基準(BMI≧25kg/m2)を満たす肥満者は全体の70%,WHOの基準(BMI≧30kg/m2)は全体の28%で満たしていた4)

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最近の急性心筋梗塞のクリニカルパスをめぐる話題

 急性心筋梗塞症に対する血栓溶解療法および経皮的冠動脈形成術(PCI)による早期再潅流療法は,死亡率および合併症を減少させ,現在確立した急性期の治療法となっている.急性期死亡率や合併症の減少に伴い早期退院が可能となった.一方で,高度医療が進めば高額な医療費が必要となる.わが国では,高齢化社会の進行とともに医療費は増大し,例外なく罹患率の高い循環器診療のあり方にも医療経済上注目されている.わが国の医療経済は緊迫しており,不必要な治療や入院期間の延長は許されない現状にある.よって,現在は医療の質を維持または向上させ,医療コストは軽減させる効率的な医療が求められている.このことを実現するために用いられているのがクリニカルパス(Clinical Pathway)である1)

 クリニカルパスは,クリティカルパス(Critical Pathway)やケアパス(Care Pathway)という別名でも知られている.元来,クリニカルパス手法は1950年代から製油や化学産業のプロジェクト管理目的で使用されていたが,現在では医療現場で定着しつつある.医療現場でのクリニカルパスは,患者のための目標(アウトカム)を設定し,最善の効率でその目標に到達するために適切な時期に評価(アセスメント)および行動(タスク)をできるように示したmanagement planである2)

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要旨

 本邦における糖尿病(DM)患者集団での閉塞型睡眠無呼吸症候群(OSAS)有病率に関する従来の論文は,パルスオキシメーターの記録や問診による診断結果に基づく報告が多く,検出率や特異性に問題がある.われわれは,OSAS有病率を明らかにするためDM教育入院患者34名(男性20名,女性14名)を対象に,ポリソムノグラフと高い相関を示す睡眠呼吸モニター装置を用いて前向き検討を行った.無呼吸低呼吸指数(AHI)<5の対象は17名(50.0%),5≦AHI<20は10名(29.4%),20≦AHIは7名(20.6%)でいずれも閉塞型であった.臨床検査値およびDM合併症頻度において3群間で有意差を認めなかった.DM教育入院患者におけるOSAS有病率は50.0%と高率だが,臨床所見のみからその存在を検出することは困難である.DM教育入院患者では適切な感度を有する機器を用いたOSASのスクリーニングが必要である.

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要旨

 患者は45歳の男性で,入浴後より胸痛が出現したため救急車で来院した.心電図では,Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導で0.2mVのST部分の上昇が認められた.心筋梗塞と診断し,心臓カテーテル室へ搬送した.搬送途中で,意識レベルの低下および呼吸状態の悪化,脈拍の消失が認められたため,蘇生術を施行しながら搬送した.到着後,心電図で心室頻拍(以下VT)および心室細動(以下VF)が認められたため,直ちに直流除細動および人工呼吸器管理を行うとともに,リドカインの単回静注および持続静注を開始した.心臓カーテル検査中も頻回にVTおよびVFが出現するため,直流除細動を行いながらニフェカラントの単回静注および持続静注を開始した.冠動脈造影では右冠動脈の中枢部に完全閉塞が認められたため,胃管より粉砕したアミオダロン1,000mgの経管投与を行った.約30分後よりVTおよびVFは消失した.ニフェカラントとアミオダロンは,同じⅢ群抗不整脈薬であるが,作用機序や特性が異なる.難治性のVTおよびVFにおいて,ニフェカラントが無効である場合には,アミオダロンの経管投与を早急に考慮する必要があると考えられた.

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要旨

 患者は30歳の健康女性.冠危険因子は喫煙だけである.第三子出産の6週間後,突然の胸痛を自覚し救急来院した.心電図上Ⅱ,Ⅲ,aVFでST上昇を,心臓超音波検査で下壁壁運動低下を認めた.白血球数軽度増加以外は末梢血血球数,生化学検査,凝固系検査,自己免疫検査などは正常範囲内であった.緊急冠動脈造影にて右冠動脈に完全閉塞を認め,閉塞部に血栓様部分を認めたため血栓溶解療法を行い,造影遅延なく再開通を得た.3週間後,再造影にて右冠動脈に中等度狭窄を認め,エルゴノビンによる冠スパスム誘発にてtotal spasmが誘発された.以上より,厳しい冠スパスムと二次的な血栓に関連した急性心筋梗塞と診断した.産褥期の急性冠症候群は時折報告されるが,その発症機序の詳細はわからず,特に産褥後期における急性冠症候群の報告自体少ない.今回産褥後期の急性心筋梗塞で冠スパスムの誘発試験により発症機序を推定できたので報告した.

基本情報

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呼吸と循環
51巻6号 (2003年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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