呼吸と循環 24巻3号 (1976年3月)

巻頭言

Re-entry 雑感 土肥 豊
  • 文献概要を表示

 浅学の筆者が,この巻頭に一文を書くなどあまりにもおこがましい限りであるが,筆者自身の励ましのためにもと思い平素の考えなどを思いつくままに記して責を果す次第である。

 Re-entry,とりわけreciprocal beatという言葉程筆者の郷愁をさそい,同時にまた今もって不思議な魅力を感じさせるものはない。古く1913年Minesがカエルの心房と心室が交互に収縮をくりかえすリズムに対して与えたこの名称は,White (1915,1921), Drury (1924)の症例をへてScherf&Shoskoffの実験的作成および房室伝導系における縦方向の機能的解離という想定にすすみ,さらにMoe (1956)1)による詳細な研究およびその成果としてのdual pathwayの証明へと発展して行ったことは衆知の通りである。土肥一郎博士と共に筆者らも犬を用いた実験によって多少の知見を得た(1958)。

  • 文献概要を表示

 呼吸生理研究の基本的な命題であるガス交換機序の解明については,さまざまなアプローチの方法があり,多くの実証的な知見が得られている。しかしたとえば肺胞でのガス交換では,"肺胞"というきわめて近寄りがたい存在は,数学的にいわゆる"モデル"として解析される現状1)である。肺でのガス交換はいわば運搬媒体としての血液循環を介在して,組織のガス交換と結びついている。組織でのガス交換は,肺胞でのそれに比較すればはるかに取扱いが容易であるように感ぜられるが,事実は,Verzar2),Krogh3-4),Hill5)ら先人の理論が脈々と生きつづけていて,比較的最近の類似の研究6-8)は,それらのsophisticationであるとするのはいい過ぎであろうか。

 組織でのガス交換を取扱う場合に,O2あるいはCO2を対象とすると,たとえば拡散して行く組織そのものでのO2消費であるとか,気体としてだけの扱いができないCO2の問題などがあって,容易なことでは現実的なものが得がたい感がある。そこでいわゆる不活性ガスについてのみ考えることは,現象を若干単純化でき,組織ガス交換の理解に役立つであろう。

  • 文献概要を表示

I.硬さと硬化

 生体組織の変形や変質に伴う硬さの変化を色々なindexで対比評価する時に,そのindex本来の物理学定義から逸脱して言葉の持つニュアンスにのみとらわれて誤用している場合も散見する。このままでは討論や発展の障害になる。まず硬さと硬化の差は質的変化を伴うかどうかにあることに注意を払うべきである。硬さは既知の外力とそれに伴う変形程度の比(弾性率)で示すが,硬さの増大が硬化によるかどうかは等しい外力を再び与えて変形が以前より少なくなったことを知らねばならない。即ち血管の伸縮弾性にほとんど無関与な内膜にアテローム沈着があってatheromatous sclerosisといえるか疑問のある所で中膜に線維化のような変質がなければ血管弾性は失われないはずだと筆者は考える。同一の鉄材に焼き入れすれば鋼鉄になって磁性を帯びやすくなり,また焼きなますと軟鉄になるのは分子構造の熱による配列変化で質的変化に伴う硬さの増大,硬化である。そこで生体組織の場合も組成中で最も硬く配列もそろいやすい線維成分含量の増加でもなければ,内圧が高いだけなどから硬化と判定するのは早計である。そこで今回はこれら硬さを示すindexについて復習する。

小児の肺高血圧症 小田 禎一
  • 文献概要を表示

 人の一生を通じてもっとも劇的な変転をとげるものの一つが肺循環であると言えよう。とくに,胎児から新生児への移行,すなわち出生をめぐる時期にそれはクライマックスに達する。その後の小児期は,胎児型肺循環の特質を次第に捨てさりながら成人型肺循環へ移行する時期であり,その間におこる肺高血圧症その他の肺循環の異常は,上のような背景を認識することなしには理解しがたい。この胎児的特質は,成人に達してもなおいくらか残存しており,成人の肺循環を理解するためにも発達的な見方をとりいれることが必要であろう。

呼と循ゼミナール

  • 文献概要を表示

 急性心筋硬塞(AMI)は,30分以上持続する胸痛発作,血清酵素および心電図の異常によって診断される。しかし胸痛は客観性に欠け非典型例も多い。血清酵素もisozymeによる分類が行われ,最近ではCPKのMB bandがAMIの発症早期(約3時聞後)から上昇しspecificであることが知られているが48時間以後は血中から消失しはじめてしまう。

 また心電図も万能ではなくAMIの診断率は約80%である。心電図が典型的なAMIの像を呈さないか確診しにくいものには,下壁硬塞,高位側壁硬塞,高位後壁硬塞,心内膜下硬塞,左脚ブロックやWPW症候群を伴った場合の他,右室硬塞や心房硬塞がある。

  • 文献概要を表示

 拡散diffusionに関するFickの第一法則では,ある物質Xの単位時間の移動量Mxは,拡散面積A,拡散係数Dx,濃度勾配△Cxに比例し,拡散距離Eに反比例する。すなわち,Ṁx=Mx/△t=A・Dx・△Cx/E,である。

 Eが不明の条件では,Dx/Eという単位をpermeability coefficientと定義することがある。呼吸におけるガス拡散現象の取扱いでは,濃度勾配の代りに分圧勾配△Pxを導入する必要があり,Ṁx=A・Dx・βx・△Px/E,となる。βxは,ガスXのcapacitance coefficientで,不活性ガスあるいはヘモグロビンなどを含まぬ溶媒を扱う場合は溶解係数に等しい。上式の移行で,Dx・βx=Ṁx・E/A・△Px,を得,このDx・βxがKroghの拡散係数といわれるものである。呼吸生理学などでの実験条件下では,Dx,βx,A,Eなどの値が不明のことが多く,Ṁx/△Px=A・Dx・βx/E=Gx,のように,単位時間に,単位分圧勾配のもとに拡散する物質Xの量を,diffusive conductance, Gxと扱うと便利で,これが肺機能検査でいう拡散能力,DLの定義でもある。

  • 文献概要を表示

 心臓のある特定の時相に与えられた刺激が容易に心室細動を発生させることは,かなり以前より知られていたが,それを最初に報告したのはDeBoer1)であった。その後,その時相と細動発生との関係に注目し研究が続けられ,1940年Wiggers and Wegria2,3)らは詳細な研究を行ない,心室細動の発生しやすい時相を受攻期と名づけた。そしてこの時相は心臓の拡張期の後半のかなりの部分をしめ,単発パルスで細動を容易に発生させることができ,その受攻期は正常心臓にも存在していると述べている。その後受攻期と相対不応期,また心電図T波との関係についての研究はあるが,はっきりしたデータは少ない。

 著者らは興奮性回復曲線を描くことによって,受攻期と相対不応期との関係を明らかにしようと細胞外刺激による方法で行なってきたが,その結果の一部をここで紹介する。

装置と方法

Magnetocardiogram 真島 三郎 , 春見 建一
  • 文献概要を表示

 magnetocardiogramは心臓の活動に伴って微弱な磁場が発生するのを検出,記録するものである。心電図electrocardiograrnに対応して訳出すれば心磁図となる。心臓の活動に電気現象が伴うことはよく知られ,これを記録した心電図はすでに広く応用されている。すなわち心臓の活動に伴なって生体内では一定の電流が流れており,電流のある所には必ず磁場を生ずる筈である。しかしここに発生する磁場ならびにその変動はきわめて微弱なものであり,普通の方法ではなかなか検出できない。表1は各種の磁場の強さを比較したもので1),心臓によるものはきわめて小さく,特に地磁気その他の周囲の各種の電気装置による磁場の中にあって,これと識別して取り出すことが困難であることが想定される。

 電場と磁場との相互作用の点からすれば心臓による電流は周波数成分が低く,従来むしろ準定常的として扱われている。すなわち磁場の変動も小さくて電流の受けるinductiveな影響も無視され,取扱いが簡単化しているわけである。この扱いは充分な近似を以て正しいと考えられるが,一方磁場自体を検出して分析しようという試みは1960年代初期から試みられており2,3),心電図から得られない新しい情報が得られることが期待された。

Bedside Teaching

  • 文献概要を表示

 1952年Lown, Ganong, Levineら1)はPR短縮(0.12秒以下),正常QRS波を示す200例の病歴を調査し,このうち23例(11%)が発作性頻拍の既往を有するのを認めた。彼らはこれをWPW症候群とは発生機序の異なる,別の症候群と考え,その成因として内分泌または自律神経系異常を考えた。現在ではこの症候群は3人の提唱者名の頭文字をとってLGL症候群と呼ばれている。1938年には既にClercら2)がPR間隔0.12秒以下で,心疾患のない13例のうち3例に頻拍発作の既往を認め,報告したのは興味深い。

  • 文献概要を表示

 いわゆるび慢性間質性肺線維症の主な換気力学的特徴としては,肺内線維増殖の結果生ずる弾性収縮力増大があり,呼吸機能上拘束性換気障害,肺コンプライアンスの低下および肺拡散能の低下などが特徴的とされている1-3)。また通常は気道病変を伴うことが少なく,1秒率や気道抵抗は正常範囲にあることが多いとされている3,4)。一方PaO2が低下し,A-aDO2は増加する。このガス交換障害の発生機序は,従来いわれてきたA-Cブロックという概念では説明しえないとされ2-4),換気血流比不均等性にその因を求める趨勢にある。ここで肺線維症において換気の不均等分布が存在するか否かが問題となるが,従来より肺内ガス分布は非常に良好とされている5)。すなわち不活性ガス洗出曲線におけるコンパートメント解析で,肺はあたかも一つのturnover rateを持つ肺胞群の集合を思わせ3,4),またV-V曲線でもその下降枝が直線的に下降し,もしくは上に凸の曲線を呈し,時定数の低下傾向およびその分布の均等性が示唆されている3,4)。肺内時定数の不均等分布を最も鋭敏に検出するのは動肺コンプライアンスの周波数依存性と考えられているが,肺線維症での動肺コンプライアンスに関する報告はみられない。

  • 文献概要を表示

 気管支喘息の発作中の死亡は近年増加していると言われる1,2)。しかも発作中の死亡例の大部分は,気管支れん縮,粘膜浮腫および粘液栓閉塞などによる窒息が死因とされている3,4)。従来のいかなる薬物療法にも反応しなくなり,放置すれば生命の危険のある,いわゆるintractable status asthmaticusに対する気管内挿管JPPBおよび気管支内洗滌法(tracheobronchial lavage)などの積極的呼吸管理法5-7)は,本邦においてもここ数年,主として麻酔科領域から普及しつつある8-10)

 これら積極的人工呼吸管理によっても寛解しない重積発作に対する全身麻酔の応用に関しては,エーテル11-14)やハロセン7,14-16)の使用の報告が若干あるのみである。

  • 文献概要を表示

 Noonan症候群は,短躯,翼状頸,外反肘など,いわゆるTurner様症候と両眼開離,眼瞼下垂など,特異な顔貌を呈し,男女両性に発症し,正常染色体を示す家族性遺伝性疾患である。本症に,合併する心奇形は,弁性肺動脈狭窄症を筆頭に,右心系の奇形が多く,Turner症候群における左心系奇形と対比されている。

 著者らは,最近,16歳の男子に,右室漏斗部狭窄症を合併した,Noonan症候群を経験し,これに開心術を施行し,心雑音はもとより,自覚症の消失をみたので,ここに報告する。

  • 文献概要を表示

 His束心電図(以下HBE)は主として伝導遅延あるいはブロックなどの伝導障害の解析に有用であるが,さらに伝導時間が短縮している場合の検索や発作性頻拍の機序を知る上にも利用されている1-12)

 1952年,Lown, Ganong, Levine13)は,PR間隔が0.12秒以下と短縮し正常QRSを有する例に発作性頻拍が発生しやすいことを報告して以来,PR短縮,正常QRSを示し発作性頻拍を生じやすいものはLown-Ganong-Levine (以下LGL)症候群と呼ばれるようになった。われわれはLGL症候群の典型的な1例を経験しHBEおよび心房刺激により本例の電気生理学的検索を試みたので報告する。

基本情報

04523458.24.3.jpg
呼吸と循環
24巻3号 (1976年3月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

文献閲覧数ランキング(
7月27日~8月2日
)