呼吸と循環 18巻11号 (1970年11月)

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 従来より気管支喘息患者の大多数は天寿を全うするといわれてきたが,最近英国およびオーストラリヤにおいて喘息死亡者の増加が報告され,厚生省人口動態統計より本邦の喘息死亡率をみても乳幼児と老年者を除けば増加のきざしが明らかである。喘息死亡者増加の原因については十分検討されねばならない。

 喘息死亡者346例の死因を分類すると,292例が発作時に死亡し,その70%は発作そのもののために死亡している。この事実は重症発作の処置が生命を守るうえにいかに重要であるかを物語るものである。定型的な発作死の剖検例では,特有な病理学的所見として気管支の痙縮像(気管支平滑筋の肥大・攣縮,気管支粘膜のひだ状隆起,それらによる気管支内腔の狭窄)と気管支の粘液産生亢進像(気管支粘液腺の肥大・分泌亢進,気管支上皮の盃細胞様化および脱落,気管支腔の粘液栓)が観察される。これらの所見は症例により,同一症例でも気管支の部位により一様ではないが,両両あいまって気管支閉塞,すなわち窒息死の主因をなすものと断定できる。

綜説

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はじめに

 僧帽弁膜症はもっとも代表的な弁膜症であり,その歴史はある意味で近代心臓病学の歴史そのものである。すなわち,古くはJohn Mayow (1668年)による僧帽弁狭窄の記載に始まり,Laennecによる聴診器の発明(1816年)によって,僧帽弁狭窄から僧帽弁閉鎖不全が独立した(James Hope, 1832年)。いわゆる聴診器の黄金時代を通じ,Bertin, Williams, Bouillaud, Skoda, Fauvel, Duroziez, Flint, Graham Steell, Rouches, Potain, Guttman, Guttmann, Samsonなどによる徹底的な臨床的ないし臨床病理学的観察によって,これらの疾患は独立疾患として基礎づけられたのである。今世紀に入ってからは診断面を離れてもっぱら予後的意義,弁膜症の成立機序(White, Blandなど),生理学的研究(Wiggersなど)が行なわれ,なかんづく僧帽弁閉鎖不全を良性の疾患とみなすか(MacKenzie, Le—vine),重大な予後を含む疾患と考えるか(White, Friedberg)についての見解の相違,あるいは心尖部収縮期雑音の診断的評価に関する対立した意見は,結局最近におけるより精密な診断手技による裏付けによる解決を必要としたのであった。そしてその結果は,近年における手術的治療にも直結するものとなった。

 しかしこれで僧帽弁膜症に関する諸問題がすべて解決したわけではない。問題を本稿の内容に照して僧帽弁閉鎖不全に限っても,Braunwald1)の講演に述べられているように,まだ複雑かつ未解決の問題が多数とり残されているのが実状である。

 僧帽弁膜症が大動脈弁膜症に比して問題解決に遅れをとっている最大の理由は,その弁組織の複雑性に由来しているといって過言ではない。元来,僧帽弁の機能が正常に営まれる為には,弁輪(valve ring, mitral an—nulus),弁帆(valve leaflets),腱索(chordae ten—dineae)および乳頭筋(papillary muscles)の四者,つまり弁およびその支持組織である僧帽弁複合(mitral complex2)の解剖学的および機械的な統一性(完全性)が必要であり,また同時に乳頭筋の収縮と心室自由壁の収縮が,時間的に適切な統一性を有していなければならない。もちろんわれわれはこの原則を知らぬわけではなく,またたとえば僧帽弁閉鎖不全の成因にしても,弁および支持組織その他の病変が存在することは,以前から述べられていたことである。しかしこの疾患に関するぼう大な文献が,理学的所見を含めた詳細な臨床像についてあます所なく述べつくしている反面,僧帽弁複合の各成分の異常を分離検討するところまで到達していなかったことも事実である。このことは,臨床的には弁炎(val—vulitis)と腱索炎(tendinitis)を主体としたリウマチ性僧帽弁膜症が観察の主対象であったに反し,実験的には支持組織の損傷による閉鎖不全が主として論じられていた,というような事実をみても明らかである。かくして近年,これら各組織成分のそれぞれについて,基礎と臨床の面から新たな検討が加えられ始め,1966年,僧帽弁閉鎖不全の年(the year of mitral insufficiency—W. P. Harvey)の幕がきっておとされた3)4)

 本稿は,これら各種の僧帽弁疾患のうち,特に最近問題視されている乳頭筋機能不全症候群(syndrome of papillary muscle dysfunction)について概説せんとするものである。

講座

能動輸送 高垣 玄吉郎
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はじめに

 分泌とか吸収という用語に代って,能動輸送(active transport)という言葉が用いられるようになってから,すでに久しい。しかし,今日でも,能動輸送の概念は必ずしも確立しているとは言えない。したがって,この問題を詳しく論じれば,一冊の成書になるはずだが,それは筆者の能力ではとても叶わぬことだ。また,多くの生物学の教科書の一章のような無難な記述にとどめれば,理解し難いものとなるだろう。

 能動輸送の最も一般的な定義は次のようである。すなわち,拡散からも電気化学的勾配からも,またその組合せからも,説明しえない物質の動きを能動輸送というのである。本稿では,「講座」の本来の目的にかんがみて,能動輸送の基本を理解しうるように,まず比較的単純なNaイオンの輸送について,記述しようと思う。生物膜は多くの物質を輸送しているのであるから,それを一々記述しては,かえって読者は混乱するだろう。そして,能動輸送を支えているエネルギー供給系の問題,具体的にはNa, K-ATPaseについてやや詳しく述べたいと思う。

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はじめに

 多くの生物現象と同様に,加齢ないし老化も,成長,成熟を経て死に至る一連の経年性変化の中で,明確に一線を画することが困難なことは当然である。

 しかしながら,一方では老人性疾患と生理的老化との差異を正しく把握することが老人性疾患を取扱う上に必要となってくる。

 心臓の加齢による形態学的変化については,すでにLev5)7),McMillan and Lev8)9)の詳細な報告にほとんど記載しつくされているといって良い。またlipofuscinに関してもStrehlerら17)の研究以後,焦点はlysosomeとの関連性,生化学的特性などへ移ってきているように思われる。

 しかし老人心に関する病理解剖学的な面からの定量的研究はきわめて少ない15)17)18)

 特に心力を規定する最大要素である心筋重量に関しては,Reiner15)が少数例の検討を行なっているのみで,他に報告はほとんどなく,我が国でも特に老人心を対象とした研究は見られないように思われる21)。また,いわゆる褐色萎縮といわれる状態は高度のlipofuscin沈着という老化の形態学的表現を一つの特徴とする心萎縮の状態であり,しばしば臓器老人性萎縮の一つの典型とされるものであるが,栄養障害を伴う慢性疾患においても見られるものであり,これが老人性変化とどのような関係にあるか明らかでない。このような理由から我々は日本人老人心および褐色萎縮心に関して特に両心室を中心として若干の計測を行なった。

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はじめに

 COガスを用いる肺拡散能力DLCOは肺における拡散障害の程度を示すために広く臨床で測定されている。この測定法の1つである1回呼吸法はM. Krogh1)によって1915年すでに創始されているが,1954年,Forsterら2)が試験用吸入ガスに混合したHeの稀釈され方から,息こらえ初期における肺胞気CO濃度を推定する方法を開発して以来,この方法が普及し,肺機能検査の項目に取り入れられてきた。1回呼吸法においてはDLCOは次式にしたがって評価される。

  DLCO=(-60・VA/(Pb-47)・tb)1n(FACO0/FACO0)…………………(1)

ここで,VAは全肺胞気容積(STPD),tbは息こえ時間,FACO0およびFACOは息こらえ初期およびt秒後の肺胞気CO濃度を示す。一般に,息こらえ時間は吸入開始時から呼気採取時までとして計算している。しかしながら,換気障害のある被験者では吸入時間が延長することが多く,純粋の息こらえ時間の評価はかなり面倒になる。そこで理想的な息こらえ時間を求めるための補正の方法について著者ら3)は理論的な考察を進めてみた。

ジュニアコース

Bicarbonatee 本田 良行
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はじめに

 Van Slykeが"予備アルカリ"の概念を唱えて以来,bicarbonateは,血液中のいわゆる固定酸・塩基の蓄積の示標として,重要視されてきた。血液,体液に炭酸以外の不揮発性酸(HA)が加わると,

   HA+BHCO3—→CO2+BA+H2O…………(1)この反応により生じたCO2は,すぐに肺から体外に排出されるため,酸の中和はbicarbonateの消費の下に非常に効果的に進行する。また,塩基の蓄積は,CO2との結合を招来して,   BOH+CO2—→BHCO3……………………(2)となり,bicarbonateが生成される。CO2は,生体内で絶えず生成され,どこにでも存在するから,体内の固定塩基は,最も効果的にbicarbonateの増加により中和されることになる。

 一方,CO2が体内に蓄積したときには,   CO2+H2O—→H2CO3—→H+HCO3……(3)となり,bicarbonateが増加する,しかしこのときは,〔H〕も増加し血液は酸性に傾く。従って,同じbicar—bonateの増加でも,(2)式の場合とpHが反対方向に動いていることになる。CO2が減少した場合は,(3)式が左の方向に進んで,bicarbonateは減少する。この場合も,(1)式と反対にpHはアルカリ性に傾く。

 このように,bicarbonateの消長が固定酸・塩基の増減だけでなく,CO2の増減によっても変化する。このような,CO2による呼吸性の要因をなくして,固定酸・塩基だけの増減の示標としてのbicarbonateの値を求めることが,Van Slyke以来,今日においても充分解決されていない課題である。このことについて,今までも数多く論ぜられてきたし,本誌でもとりあげられてきたことなので,ここでは,主として問題に対する定量的なアプローチの現状について述べる。また,体液のうちできわめて特異な動態を示す脳脊髄液(CSF)のbicar—bonateについても若干ふれることにする。

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はじめに

 胸部X線像,特にその正面像ほど一般に普及しているX線写真はない。かつては装置の未開発のためもあって正面像一枚だけが,唯一の診断の頼りであった時代もあった。従って,その一枚について,できうる限りの検討が加えられ肺野の陰影に関してはもとより,その中央陰影の大部分を占める心臓陰影についても,全ゆる角度から計測がなされた。古くはGroedel, Moritz (1900)の心臓実大測定法,Köhler (1908)の遠距離撮影像による計測からGeigel (1914),Rohrer (1916)等の心臓容積の測定まで,微に入り細を穿って計測が行なわれた。当時としては,それなりの意義があり立派な仕事ではあったし,またその後現在に到るまでに,さらに一歩をすすめて,実物模型および一部は摘出心臓との撮影像の対比において容積そのものの実大を知ろうとする研究がある,清瀬(1955),Kaisila, K. T. (1970, Finland)。特に遠距離像(普通我々が撮影している正面像)における計測は,どの教科書にも触れている(図1)。

 しかしながら血管撮影技術が進歩し,冠状動脈まで撮影可能になるに及んで,これらの計測法は特殊な目的を除いては,それのみにては次第に日常一般には用いられなくなってきた。これらの内ただ心肺係数計測のみは,心臓陰影に対する一つの標準を定める上で,その簡易さと相俟って,なお依然として重要な役割を占めている。特に,成人病対策の一環として心臓疾患への関心がたかまり,その発見に力が入れられている現在ではこの計測法を主として集団検診間接撮影像に応用し,心拡張,心肥大の発見を集団的に容易ならしめようという試みがなされてきた。

 こういった立場から,ここでは間接撮影像についての計測,それも主に心肺係数計測法について,いかに簡易により効果的に測定しうるかということに関しての試みの経過を,主として私どもの研究のあとを追いながら述べてみたいと思う。

 単に"直接像の小さなもの"といった考えで,直接像における計測法を,そのまま持込むことは,像の成立において異なる間接像においてはかなりの無理がある。従って,間接撮影法の使命の一面であるいわゆる集団を対象とするscreeningに徹することと,なんらかの工夫をして,その簡易さを生かしつつできうる限り直接像に劣らない数値を出そうという試みとは,自ら分けて考えるべきかもしれない。

Bedside Teaching

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はじめに

 ものが燃焼するときに発生するガスの有毒作用は古代から知られており,ギリシャ,ローマでは死刑執行や自殺に使われた記録が残っている。しかしそのガスの本態,作用については長い間不明のままであったが,1870年に至って,Claude Bernardにより解明された。すなわち彼は実験的にCOとHbの強い親和性のために,酸素の組織への移行障害が起きるとした。さらにHal—dane (1895)は,COとO2の分圧によりHbCOは血中で平衡状態にあること,HbCOが血中に存在するとHbO2の解離曲線が左方に移動することを発見した。

 一旦COの作用機序が解明されると,この問題の研究は著しく発展し,生化学,病態生理,病理,産業衛生の分野において,多数の報告が発表されている。さらに最近治療法として高圧酸素療法が著効あることから,その分野の医学的興味も高まった。

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緒言—歴史的背景

 自然科学における多くの新発見がそうであるように,新しい疾患の発見も,一般の臨床家にとっては日常茶飯の見慣れた現象の中から,鋭い観察力によって見出されるのが常である。この場合,豊富な経験と知識を基礎として不断に疑問をもちつづけることが新発見への手がかりとなる。近年その特異な病像によって一躍世界の注目をあびた本疾患の最初の臨床例を報告した英国Sir  Russel Brock1)の場合もその例外ではない。すなわち,当時肺動脈弁狭窄症手術において狭窄を完全に拡大しても右室流出路の肥厚は残存し,右室からの血液駆出が妨げられ,その収縮期圧が正常化するのに年余を要することはよく知られた事実であった。右室に起こったことが左室にも起こりうるであろうという仮説を立てることは,当時大動脈弁狭窄症の手術を盛んに手がけていたSir Brockにとってごく自然のことであった。

 1956年,彼は狭心痛と眩暈を有し,大動脈弁下のレベルで著明な圧較差を示した58歳女性を手術で失う。この症例の剖検で大動脈弁は全く正常であり,膜性弁下狭窄もなく,ただ左室流出路心筋の著明な肥大のみが唯一の異常所見として認められたことは,流出路の肥厚のみでその部の狭窄が起こりうる可能性を示すものとして,Sir Brockに強烈な印象を与えたのである。翌1957年に至り,今1例の類似症例を再び手術で失った彼は大動脈弁は正常で,左室流出路の肥厚による弁下狭窄を本態とする新しい疾患をfunctional obstruction of the left ventricleとして発表,Teare2)による病理所見,Bra—unwaldら3)による精力的な臨床成績の集積その他全世界よりの夥しい報告がこれに続いた。もっとも歴史的には1907年Schmincke4)による剖検報告が最初というべきで,左室流出路心筋のびまん性hyperplasiaが駆出にさいして流出路の閉塞を起こし,これが左室の肥大を促進,さらにhyperplasiaを増強し閉塞を強める悪循環を想定したことは正しく,現在の本疾患に対する理解と等しく,その洞察の深さに驚く他はない。ついでその名前を冠した症候群で有名なBernheim5)の報告,Daviesの家族性心疾患の報告6)などがあり,その中には本疾患と思われる例も含まれているが,剖検台上よりは生前拍動心においてそのdynamicな本態がより正確に把握できる本疾患の特徴を考えれば,臨床所見,手術所見を含めた最初の報告としてSir Brockの発表が有する意義は大きい。わが国においても木村ら7),前川ら8)の発表以来その報告例が散見され,第34回日本循環器学会総会(昭和45年3月)では,シンポジウム「特発性心筋症」(座長鷹津正)の一環として取上げられたが,本疾患の認識が深まり診断技術が進歩すれば,決して現在程稀な疾患ではないと思われる。著者らも前川ら8)との協同発表例以来,左室流出路狭窄5例,右室流出路狭窄1例,計6例の本疾患を確認しているが,本稿では最近の自験例を中心に解説を進めたいと思う。

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緒言

 最近,小型の血流計probeが開発され生体内埋没が可能になるにつれて,冠状動脈においても本幹や分枝の慢性血流測定実験が行なわれるようになり報告されている1)3)4)6)9)〜11)16)。この方法は急性実験の時に問題となる手術の侵襲や麻酔剤,人工呼吸などの影響を除外し,できるだけin situにおける測定値を得たいという意図のもとに行なわれた方法であるから,単にprobeを埋没して生存させただけでは必ずしも慢性実験としての目的を達しているとはいえない。

 著者は左冠状動脈の本幹における慢性血流測定実験で,より良い測定値を得るための手段を検討するとともに慢性実験の問題点を探って見た。

基本情報

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呼吸と循環
18巻11号 (1970年11月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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