- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
Van Slykeが"予備アルカリ"の概念を唱えて以来,bicarbonateは,血液中のいわゆる固定酸・塩基の蓄積の示標として,重要視されてきた。血液,体液に炭酸以外の不揮発性酸(HA)が加わると,
HA+BHCO3—→CO2+BA+H2O…………(1)この反応により生じたCO2は,すぐに肺から体外に排出されるため,酸の中和はbicarbonateの消費の下に非常に効果的に進行する。また,塩基の蓄積は,CO2との結合を招来して, BOH+CO2—→BHCO3……………………(2)となり,bicarbonateが生成される。CO2は,生体内で絶えず生成され,どこにでも存在するから,体内の固定塩基は,最も効果的にbicarbonateの増加により中和されることになる。
一方,CO2が体内に蓄積したときには, CO2+H2O—→H2CO3—→H++HCO3—……(3)となり,bicarbonateが増加する,しかしこのときは,〔H+〕も増加し血液は酸性に傾く。従って,同じbicar—bonateの増加でも,(2)式の場合とpHが反対方向に動いていることになる。CO2が減少した場合は,(3)式が左の方向に進んで,bicarbonateは減少する。この場合も,(1)式と反対にpHはアルカリ性に傾く。
このように,bicarbonateの消長が固定酸・塩基の増減だけでなく,CO2の増減によっても変化する。このような,CO2による呼吸性の要因をなくして,固定酸・塩基だけの増減の示標としてのbicarbonateの値を求めることが,Van Slyke以来,今日においても充分解決されていない課題である。このことについて,今までも数多く論ぜられてきたし,本誌でもとりあげられてきたことなので,ここでは,主として問題に対する定量的なアプローチの現状について述べる。また,体液のうちできわめて特異な動態を示す脳脊髄液(CSF)のbicar—bonateについても若干ふれることにする。
Copyright © 1970, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.