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はじめに
胸部X線像,特にその正面像ほど一般に普及しているX線写真はない。かつては装置の未開発のためもあって正面像一枚だけが,唯一の診断の頼りであった時代もあった。従って,その一枚について,できうる限りの検討が加えられ肺野の陰影に関してはもとより,その中央陰影の大部分を占める心臓陰影についても,全ゆる角度から計測がなされた。古くはGroedel, Moritz (1900)の心臓実大測定法,Köhler (1908)の遠距離撮影像による計測からGeigel (1914),Rohrer (1916)等の心臓容積の測定まで,微に入り細を穿って計測が行なわれた。当時としては,それなりの意義があり立派な仕事ではあったし,またその後現在に到るまでに,さらに一歩をすすめて,実物模型および一部は摘出心臓との撮影像の対比において容積そのものの実大を知ろうとする研究がある,清瀬(1955),Kaisila, K. T. (1970, Finland)。特に遠距離像(普通我々が撮影している正面像)における計測は,どの教科書にも触れている(図1)。
しかしながら血管撮影技術が進歩し,冠状動脈まで撮影可能になるに及んで,これらの計測法は特殊な目的を除いては,それのみにては次第に日常一般には用いられなくなってきた。これらの内ただ心肺係数計測のみは,心臓陰影に対する一つの標準を定める上で,その簡易さと相俟って,なお依然として重要な役割を占めている。特に,成人病対策の一環として心臓疾患への関心がたかまり,その発見に力が入れられている現在ではこの計測法を主として集団検診間接撮影像に応用し,心拡張,心肥大の発見を集団的に容易ならしめようという試みがなされてきた。
こういった立場から,ここでは間接撮影像についての計測,それも主に心肺係数計測法について,いかに簡易により効果的に測定しうるかということに関しての試みの経過を,主として私どもの研究のあとを追いながら述べてみたいと思う。
単に"直接像の小さなもの"といった考えで,直接像における計測法を,そのまま持込むことは,像の成立において異なる間接像においてはかなりの無理がある。従って,間接撮影法の使命の一面であるいわゆる集団を対象とするscreeningに徹することと,なんらかの工夫をして,その簡易さを生かしつつできうる限り直接像に劣らない数値を出そうという試みとは,自ら分けて考えるべきかもしれない。
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