臨床婦人科産科 70巻9号 (2016年9月)

今月の臨床 卵管は脇役か?─その生理と病態

卵管の生理

  • 文献概要を表示

●卵管壁は粘膜,筋層,漿膜からなる.粘膜上皮は主に線毛細胞と分泌細胞からなり,性周期性に形態学的および機能的に著しく変化する.

●粘膜固有層の支質細胞は,筋線維芽細胞としての形態学的特徴をもつ.

●卵管は,中腎の外側で中皮の陥入によって形成されたミュラー管に由来する.卵管形成は,卵巣の分化に伴う内分泌制御を受けて出生後まで継続する.

  • 文献概要を表示

●上部女性生殖器(FRT)の上皮細胞は密着結合により物理的障壁をなすと同時に自然免疫および獲得免疫の哨戒役を担う.卵巣ホルモンの変動はFRTの免疫系に影響する.

●グラム陰性菌由来のリガンドであるリポ多糖類(LPS)がTLR4を介する骨盤内炎症の伝播や子宮内膜症成長に関与していると考えられ,子宮内膜症の病理に「細菌混入仮説」という新しい概念を提案する.

●卵管上皮の精子および胚に対する免疫寛容に,ERβとPRを同時発現したCD8陽性Tリンパ球が関与する.卵管上皮細胞はTLR3を介して,ウイルス感染に敏感に反応する一方で,TLR4発現がないためLPSには反応しない.

  • 文献概要を表示

●卵管上皮の繊毛細胞は平面内細胞極性を持しており,卵巣─子宮軸に沿った一方向の繊毛運動を行う.この方向性をもった繊毛運動は卵を膨大部まで運ぶのに十分である.

●繊毛運動のほかにも,卵管の蠕動運動が卵の動きに影響を与える.卵巣─子宮軸に沿って並ぶ上皮ヒダなどの卵管の構造も卵の輸送にかかわる可能性がある.

●卵輸送以外にも,卵管が初期胚の発生において役割を果たすことが報告されてきており,その働きの多くはまだ十分に解明されていない.

卵管の病理

卵管炎─診断と治療 野口 靖之
  • 文献概要を表示

●クラミジアや淋菌による卵管炎は,放置すると不妊症や異所性妊娠の原因になる.自覚症状がわずかであっても積極的に検査し,速やかに治療を行う.また,パートナーに必ず検査を勧める.

●卵管炎や骨盤内炎症疾患を疑う症例は,経腟超音波検査などの画像診断を併用し,卵管水腫や卵管留膿腫の有無を確認する.

●治療は,原因菌に応じて適切な抗菌薬を選択し行う.黄色ブドウ球菌,大腸菌は,耐性菌が存在するため,難治例は薬剤感受性試験の結果に基づき抗菌薬を変更する.また,淋菌性卵管炎の治療は,経口薬でなく,セフトリアキソン(注射剤)を第一選択とする.

  • 文献概要を表示

●卵管瘤水腫はその重症度で大きく治療方針が異なり,軽症例では腹腔鏡下卵管采形成術や開口術,癒着剝離術によって自然妊娠が十分見込める一方,重症例では術後妊娠成績は厳しい報告が多い.

●卵管瘤水腫に対する術式は,重症度に加え患者年齢や背景,卵巣予備能などを総合的かつ慎重に判断し,安易な切除や逆に不利益となる温存を回避するため,術前の十分なインフォームド・コンセントが重要である.

●体外受精の際にも卵管瘤水腫の存在は,着床へ悪影響を及ぼすことが数多く報告されており,胚移植前に外科的処置によって卵管貯留液の子宮内流入を防ぐことが妊娠成績の向上につながる.

  • 文献概要を表示

●異所性妊娠は診断技術の向上などにより,破裂前に発見できる症例が増えているが,本邦では年間に異所性妊娠による妊産婦死亡が数例あることを肝に銘じ,限りなく0にするよう努めるべきであろう.

●異所性妊娠の発生にはさまざまなリスク因子や病因が挙げられてきたが,必ずしも原因が解明されているわけではなく,半数以上はリスク因子が認められない.

  • 文献概要を表示

●卵管病変に対する治療は,病態によって選択する.卵管病変の治療は卵管内腔と外面の病変によってアプローチと手法が異なる.卵管周囲病変,卵管留水症は一般的に腹腔鏡手術により治療を行う.

●卵管鏡下卵管形成術 : 卵管内腔に挿入するフレキシブルな卵管鏡と,卵管内腔へシステムを安全に導入するためのバルーンカテーテルを組み合わせた卵管カテーテルシステムを用いて行う,卵管鏡下卵管形成術は,卵管内腔の観察と同時に治療が可能である.

●病変の部位の頻度 : 病変部位は,近位部の卵管病変の頻度が高く,左右ともに間質部である場合が最も多く,ともに峡部である場合がそれに次いでいる.検査で卵管通過性が確認されていても,潜在的な狭窄をきたす癒着病変も存在する.

  • 文献概要を表示

●傍卵巣囊腫は卵巣もしくは卵管とは離れた位置に存在する囊腫でしばしば経験される.胎生期の生殖管の遺残により発生する.

●超音波断層法やMRIにて卵巣と離れた位置に囊胞状の構造を認める場合は傍卵巣囊腫と診断できるが,術前診断が困難な症例も多い.

●大きさが大きいものや腹痛などの症状がある場合は囊腫摘出術の適応となる.稀ではあるが悪性・境界悪性の傍卵巣腫瘍が存在することに留意する.

  • 文献概要を表示

BRCA遺伝子変異を有する女性に対するrisk-reducing salpingo-oophorectomy(RRSO)によって摘出された卵巣および卵管の詳細な病理学的解析の結果,骨盤腔内に進展するhigh-grade漿液性腺癌が卵管上皮を起源としている可能性が示された.

●骨盤腔内に生じるhigh-grade漿液性癌の発癌機構の解明のためには,卵管采を含めた卵管の全長にわたる網羅的な病理組織学的検討が重要である.

  • 文献概要を表示

適応(候補者)

 妊娠36週0日で胎位を検査し記録を開始,妊娠37週0日で骨盤位の場合,骨盤位外回転術(ECV)の候補者となる.その理由は以下である.

1)頭位への自然回転は妊娠37週0日までに起こる可能性がある

 単胎妊娠310例について,妊娠32週に超音波で胎位を確認し,その後毎週確認した結果,頭位への自然回転は177例(57%),骨盤位を持続したのは133例(43%)であった.(BJOG 92 : 19, 1985).

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

  • 文献概要を表示

はじめに

 悪性腫瘍は,血液凝固能が亢進し,さまざまな病態を引き起こすことが知られている.特に卵巣癌は,骨盤内に巨大腫瘤を形成することによる大血管の圧排も重なって,血栓塞栓症を起こしやすく,治療法に苦慮することがある.術前に肺血栓塞栓症を認め周術期管理中にヘパリン起因性血小板減少症と脳梗塞を併発した症例を経験したので報告する.

連載 FOCUS

  • 文献概要を表示

はじめに

 最新の3D超音波や胎児MRIなどの画像診断技術によって,脳形成障害を胎児期に診断あるいは疑うケースが増加している.そうしたなかで常に問題となるのは,実際の画像的な所見とその病態および予後との関係が必ずしも単純ではない点であり,方針を決める際にも,背景となる病因と予後についての難しい判断がしばしば求められる.

 筆者は出生後のそうした中枢神経系の障害の診療を行う立場であり,本稿では子宮内発症胎児中枢神経系障害について主に病因や予後の観点から見た胎児診断の問題点について検討をしてみた.比較的頻度が高く非特異的な所見である脳梁欠損と脳室拡大を取り上げ,背景となる最新の知見を交えて出生前の診断と課題について述べたい.

 例えば,脳梁欠損のみで他の合併奇形がない新生児を診察した際に,われわれ小児科医もその予後は正直なところ予測不可能である.先天性の脳梁欠損で,全く正常な発達と思われる児も多く,そうした場合にはそもそも奇形と言えるのかすら疑問になる場合もある.まして,胎内での診断でどこまで言えるのか,その背景となる疾患群の最近の病態も紹介しながら考察したい.

  • 文献概要を表示

 がん治療のため,あるいは更年期後に見る腟粘膜の萎縮性変化に対しては,経口的に,あるいは局所的にエストロゲン製剤が使用される.しかし,患者にエストロゲン依存性腫瘍の既往がある場合には,それが局所的使用であっても,エストロゲンではなくまず非エストロゲン製剤を使用すべきだ,と最近の米国産婦人科学会(ACOG)Committee Opinion No.659は述べている.

 さらに,そのうえで,乳癌既往のある女性で血管性運動神経症状,性的機能障害,尿路下部感染症などの症状が継続するときには,まず非エストロゲンの使用で対処すべきであるとしている.

  • 文献概要を表示

▶要約

 当院では骨盤臓器脱に対し腹腔鏡下仙骨腟固定術(laparoscopic sacrocolopopexy : LSC)を2013年より行っている.術前画像検査で付属器に異常所見を認めなかったにもかかわらず,LSCを施行した後に行った病理学的検索で卵巣病変を認めた2症例について報告する.

 現在までに当院でLSCを行った31例中2例において,術前診断し得なかった線維莢膜細胞腫と漿液性囊胞腺腫・傍神経節腫を認めた.この比較的稀な2種類の病変は,いずれも悪性所見は呈しておらず,予後への影響の可能性は低い.しかし近年Kindelbergerらが報告した卵巣癌への移行を示す顕微鏡的な卵管所見なども考慮すると,今後LSCを施行する際は,整容的に優れたモルセレーターよりも,敢えて腹腔内播種の予防が担保される小開腹での回収式バッグを使用した検体回収の方法が望ましいと考えられた.

  • 文献概要を表示

▶要約

 子宮平滑筋肉腫は子宮に発生する悪性腫瘍の1.3%を占める稀な疾患であり,標準治療は確立されておらず予後はきわめて不良である.今回私たちは子宮全摘16年後に肺,肝,骨転移をきたした子宮平滑筋肉腫の1例を経験した.

 症例は64歳,女性,主訴は右胸痛.既往歴は1996年筋腫分娩のため子宮全摘術が行われ,病理診断はleiomyosarcomaであった.2012年右胸痛が出現,近医にて,胸部X線上全肺野に広がる粒状影を指摘され,当院呼吸器内科を紹介された.同科の画像診断にて原発性肝癌,肝内転移,多発肺転移の疑いと診断され,この後,消化器内科の肝生検にて子宮のleiomyosarcomaの転移と判明し,当科受診.他施設にて呼吸器インターベンション,ステント挿入,肝転移巣に対するラジオ波治療が行われた.この後,当院にて骨転移などに伴う疼痛に対し放射線照射が行われ,岐阜大学にてバゾパニブが投与されたが,2か月後に死亡した.初回治療後長期間を経て再発した子宮平滑筋肉腫につき,若干の文献的考察を加えて報告する.

お知らせ

--------------------

バックナンバー

次号予告・奥付

基本情報

03869865.70.9.jpg
臨床婦人科産科
70巻9号 (2016年9月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月14日~9月20日
)