臨床婦人科産科 44巻10号 (1990年10月)

特集 今日の子宮内膜症

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 子宮内膜症は婦人科学領域で最もホットな疾患であり,病理・病態等でさまざまな特異性を持っている。原因・発生機転も未解決であり,不可解な“なぞにみちた”疾患といわれている。従来,内・外性内膜症と大別されてきたが,内性内膜症は腺筋症として,1つの疾患entityであり,外性子宮内膜症とは別であるという考えが欧米では主流である。本症での診断,臨床進行期分類,および治療,特にホルモン療法では,近年新しい治療薬が次々と導入されており,一変した。本稿では子宮内膜症臨床の最新の進歩に焦点をあてつつ概説した。

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 子宮内膜症は近年増加傾向にあると言われている疾患である1)。また,その診断に腹腔鏡が広く施行されるようになった今日,症状および内診所見と実際の子宮内膜症の進行期との間に時として格差が認められることが判ってきた2)。子宮内膜症は生命予後に大きく影響する疾患ではないが,不妊症の原因としては大きな問題の一つと考えられている。本邦において頻繁に使用されてきた子宮内膜症の臨床進行期分類法は,内診所見によるBeechamの分類3)(表1—a),腹腔鏡所見による杉本の分類4)(表1—b).開腹時所見によるAcostaの分類5)(表1—c)の3種類があったが,これら各分類とも,診断後の治療指針を示唆する意味からは優れた分類法である反面,分類法に臨床的な簡便化の要素が含まれているためか,実際に分類が困難な症例にしばしば遭遇する。最近はアメリカ不妊学会の提唱したいわゆるAFS分類の改訂版revised-AFS分類6)(表2)が,本邦でも普及してきている。この分類法は前出の各分類法の短所を補うべく,病態を詳細に分類し,点数制を採用したために他の分類にない長所を持っている。本論文では,約3,000例の腹腔鏡施行例中約600例の子宮内膜症例をrevised-AFS分類でstagingし,それぞれの症状,内診所見をはじめとする各診断法の所見,治療法別の予後等を解析し,子宮内膜症のStagingにおける腹腔鏡の必要性およびrevised-AFS分類の有用性について検討した結果をまとめてみた。

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 外性子宮内膜症(以下子宮内膜症とする)が不妊と関係あることは以前よりよく知られている。重症の子宮内膜症が発生すれば不妊の原因になることは理解できる。しかし最近,不妊症と関連して子宮内膜症が論じられるのは,これらの重症の子宮内膜症ではなく,初期あるいは軽症の子宮内膜症が不妊を惹起するか否かであり,ひいては治療が必要か否かという問題である。

薬物療法の選択と限界 多賀 理吉
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 子宮内膜症の治療は,薬物療法,手術療法,薬物—手術併用療法の3つが基本である。このうち薬物療法は,薬物だけで治療する場合も,手術療法との組み合わせで用いられる併用療法でも,使用される薬剤はホルモン剤が主体である。これは,本症の病態の基本である異所性子宮内膜組織の増殖,進展が,ホルモン(エストロゲン)デペンデントであるからにほかならない。そして,これまで本症の治療薬の候補として,その病巣を萎縮,退行させる作用効果を有するさまざまなホルモン剤に試行錯誤が繰り返されてきた。子宮内膜症のホルモン療法は,まさに有効なホルモン剤の開発の歴史といってよい。このことは,エストロゲン療法,偽妊娠療法,ダナゾール療法,そしてGn RHアナログ療法が,それぞれ約10年毎に登場してきた過去の変遷の中にみることができる。今後も,さらに効果的な新しいホルモン剤の開発は続くであろう。しかし,このようにすぐれたホルモン剤が登場してその種類が増加し,ホルモン療法が多様化してきても,ホルモン剤のみで本症を完治させることは不可能に近く,また,薬理作用が強力であればある程,副作用の問題も無視できず,ホルモン療法にもおのずから限界があることも事実である。そこで本稿では子宮内膜症の薬物療法(ホルモン療法)の選択と限界について概説する。

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 子宮内膜症は生殖年代の女性の5〜15%位に存在すると言われ,特に不妊症との関連が強いことで注目されている疾患である。

 特にこの病気が生殖年代に集中しておこることから,女性ホルモンであるestrogenと深い相関があることは以前より多くの報告がある。また最近ではこのステロイドホルモンであるestrogenがimmunomodulatorとしての役割をもっていることが判明してきており,その意味でも子宮内膜症の発症や進展に何らかの免疫的機序が関与している可能性は大いにある。

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 子宮内膜症に対してはさまざまな治療法が試みられてきたが,最近ダナゾール,GnRHアナログ,ゲストリノンなどが使用可能になり,以前に比べると効果的な治療を行えるようになってきた。しかし薬物療法のみでは臓器間の癒着あるいはチョコレート嚢胞に対する治療効果には依然限界がある。さらに子宮内膜症患者数も増加してきているが,その理由のひとつに不妊症の検査として腹腔鏡が盛んに行われるようになったことがあげられる。

 子宮内膜症と不妊症との関連についても最近注目されてきており,免疫的因子の関与からの研究もさかんに行われている。またチョコレート嚢胞を合併している不妊症例は妊娠率が低いことも報告されている1)

臨床研修セミナー 手術手技

VI.子宮形成手術 子宮奇形の形成手術—主に不妊・不育症治療法として

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 子宮奇形に対する手術療法は,Ruge(1884)1),P. Strassmann(1907)2)の報告以来いくつかの方法が報告されているが,Jones & Jones法3),Strassmann法4),Tompkins法5)の3術式が主なものであり,子宮奇形による習慣性流産に対して良好な治療成績が多く報告されている。

 子宮奇形の種類には図1に示すような種類6)があり,奇形の種類に応じて術式を選択する必要がある。

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Ⅰ.子宮形成術の概要

 子宮奇形の形態的分類は未だ完全に統一されたものはなく,名称には若干の混乱が見られる。Buttram & Gibbons1)によって提唱されたMüller管の発育異常の分類が発生学的に合理的であるが,ここで直ちに引用すると理解し難いむきもあると思われるので,従来本邦で慣用されているStrassmannの古典的分類に従って記述することとする。

 いわゆる重複子宮などの子宮奇形を有する婦人に流産率が高く,かつ不妊も多いことは古くから知られていた。子宮形成術の最初の報告はMauriceau F(1672)といわれるが,Ruge P(1984)9)は2回の流産歴を有する婦人に子宮中隔切除を行って満期産で生児を得たと報じ,Paul Strassmann(1907)7)は経腟的に8例の形成術を施行し,その息子のErwin Strassmann(1962)は自験例と他の報告例を合わせた多数例をまとめて報告6)し,Strassmann手術として以後広く知られるようになった。

VI.子宮形成手術 子宮頸管の手術療法

マクドナルド手術 髙畠 弘
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 頸管無力症に対する頸管縫縮術の術式は,以下の二つに大別される。すなわち,①子宮頸部の脆弱組織部分を切除し,頸部の整形・強化を計るのがLash法(1950)1)やBaden法(1960)2)であり,一方これと異なって,②子宮頸部に輪状縫合を施して頸管の開大阻止を計る方法が,Shirodkar法(1955)3)やこのMcDonald法(1957)4)である。

シュロッカー手術 本郷 基弘
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 妊娠中期の頸管無力症による習慣性流早産を頸管の輪状縫合で予防する手術療法の一法である。もう一法のマクドナルド手術に比べて縫縮部位が高いので,頸管開大阻止効果は確実だが,膀胱剥離などの繁雑な操作や抜糸の困難さなどの短所もある。

エンメット手術 高橋 克幸
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 分娩直後の頸管裂傷の縫合が癒合しないような場合,裂傷を放置すれば習慣性流早産や頸管粘膜外反症の原因となる。これに対して一般にエンメット手術が行われる。

臨床研修セミナー 外来診療指針

II.不妊外来

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 不妊外来診療をすすめていく上で最も大切なことは,系統的な取扱い方針を立てて,迅速かつ的確に不妊原因を検索し,その原因に応じた個別的治療を行うことである。不妊婦人の診療は一般の婦人科診療とは異なり精神的苦痛を持つ人が少なくなく,時間をかけた対応が要求される。したがって,不妊症専門外来を設けて診療にあたる必要がある。本稿では,私どもの教室における不妊外来取扱い方針の概略をflow chartで示し,診断過程における検査の意義や問題点について述べる。

 まず不妊外来患者に対し,詳細な問診を行った上で基礎体温(BBT)の記録をもとに排卵例と無排卵例に大別し,系統的な検査を進めていく。したがって,初診時にBBTの記録がなされていない場合は少なくともBBTを1〜2ヵ月間記録させた後に診療方針を立てる。

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 外来に妊娠を希望して訪れる不妊症患者では卵管性不妊がいちばん多い。したがって,卵管疎通性検査は欠くことのできない重要な検査である。外来における卵管通過性検査法としては,主に子宮卵管造影法(Hysterosalpingography以下HSGと略),通気法,通水法の3方法がある。

 女性不妊症の外来検査における卵管と子宮内腔の情報も得られるHSGの価値は大きい。それに対して通気法,通水法は診断の確実性に欠ける点から,その意義については問題視されてきた。

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 近年医療機器の飛躍的な進歩,とくに超音波診断や内視鏡検査,X線CT,NMRなどが婦人科疾患に応用され,その診断に正確性がさらに加えられるようになってきた。子宮卵管造影法(Hysterosalpingography:HSG)はCary1)(1912),Rubin2)(1914)らによって報告された古い婦人科疾患診断法であるが,今なお撮影法,読影に工夫3,4)が加えられ,とくに不妊症診療,中でも卵管不妊因子検索になくてはならない診断法の一つである。以下女性不妊症診断におけるHSGの役割とその実際,とくにHSG像の読影を中心に述べる。

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 不妊女性において排卵障害は卵管因子とともに重要な要因の1つであるが,その排卵障害を引き起こす病因を適切に把握し,それに適した治療を行うことが大切である。ここではわれわれが行っている無排卵,ホルモン異常に対する診断,治療について述べることにする。

男性不妊外来 香山 浩二
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 健全な夫婦生活を続けているにもかかわらず2年以上妊娠に至らないような,いわゆる真の不妊症夫婦の中では男性不妊因子の占める割合は高く,30〜50%と報告されている。中でも精液所見に異常の認められるものが多く,男性因子を念頭において精液検査を行うかどうかが男性不妊因子検出の鍵となる。従来,精液検査といえば,一般に精液の肉眼的所見に精子数,運動率,奇形率などの顕微鏡的所見を加えたものが主であったが,最近では精液の生化学的,内分泌学的,免疫学的あるいは細菌学的検査が行われるようになり,さらに受精現象の解明に伴って精子自身の受精能検査も可能となってきた。治療面においても従来の姑息的な薬物療法や人工授精に加えて,体外受精,顕微受精が行われるようになり,従来Donor精液による人工授精(AID)でしか妊娠の望めなかった不妊夫婦に夫自身の精子による妊娠が望めるようになってきた。本稿で最近のトピックスも含め男性不妊検査とその治療指針について述べる。

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 広汎性子宮全摘術を実施した子宮頸癌患者200例を対象に下肢浮腫の発生に関する調査を行い,その結果53.5%(107/200)に下肢浮腫の発現がみられた。また広汎性子宮全摘術後に放射線治療を併用した群では,下肢浮腫の発現率は68.1%で,手術単独群の40.6%に比べ有意に高かった。下肢浮腫の発現率は臨床進行期が進むにつれて上昇し,Ⅲ期では75.0%であった。下肢浮腫の発現部位は,片側性に発生したものが68.3%であり,発現時期は63.4%が1年以内に集中していた。

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 レッドプラノは2種類の抗hCGモノクローナル抗体(抗hCG—β抗体と抗hCG—αβ抗体)を用い,ラテックス凝集反応を原理とした新しい尿中hCG検出試薬である。われわれは今回その基礎的および臨床的検討を行ったので報告する。

 1.感度および特異性に関する検討:測定感度は公称感度の200IU/lよりも低い100IU/lであり,100IU/l以上ではすべてに陽性を示した。特異性に関しては,LH 2,500IU/lでは交叉による陽性反応がみられたが,1,000IU/l以下では陽性反応はみられなかった。

 2.異常尿による影響:glucose 4%以下,赤血球尿では1×108 cells/ml以下,pHでは4〜8,細胞浮遊尿では1×105cells/ml以下,比重では1,000〜1,030の範囲でそれぞれ正常に反応した。

 3.臨床的検討:正常妊娠では妊娠4週以降ですべて陽性を示し,異常妊娠例においても鋭敏に反応した。

 以上よりレッドプラノは有用な妊娠診断薬であると考えられた。

基本情報

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臨床婦人科産科
44巻10号 (1990年10月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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