臨床婦人科産科 35巻11号 (1981年11月)

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 最近の日本母性保護医協会の外表奇形調査によると,分娩総数160,563名中奇形児総数1,435名,罹患率0.894%であったという(昭和54年度)1)。これは,それと同頻度で母体が先天異常児出産を経験したことを意味するが,今日,先天異常の範囲は単に外表や内部器官の形態異常だけにとどまらず,染色体異常や酵素蛋白,代謝免疫学的な面での先天的異常にまで及び,さらに拡がりと深さを持っている。従って先天異常児出産経験婦人も,ある調査によると4.5%の高頻度に認められている2)。しかも反復して先天異常児出産を経験している婦人も少なくない。

 一方,その原因は容易につかみ得ないことが多いが,先天異常児出産婦人の次回の妊娠管理において,「前回の原因の追求」は極めて重要であり,加えて「次回のそれに対する予防」という,二つの側面からの管理が要求されてくる。

Modern Therapy 母乳

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 母乳栄養児の感染症罹患率や死亡率が低いことは古くから知られていたが,近年になって感染免疫学の急速な進歩を背景として,母乳の免疫学的意義が解明されてきた。

 母乳には多くの非特異的および特異的免疫因子が含まれており,児の消化管からはほとんど吸収されないが,気道や腸管で主として局所免疫的に働き,感染やアレルギー感作を防御している。

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 乳汁分泌の現象は哺乳類の生殖過程で,排卵,妊娠,分娩と同様に重要な意義をもつことは明らかであり,ほとんどすべての動物で新生仔の生命,その発育,成長は母乳に依存する。したがって,十分な乳汁分泌を保つことは種の生存には不可欠である。新生児は妊娠中と同様に母体の代謝を変化させて乳汁分泌を誘発させ,母体から栄養を吸収する。一方,母体は自己を犠牲にして乳汁を産生し,また授乳期の初期では母体の排卵周期も停止する。

 乳汁分泌の生理は従来主としてラット,マウス,モルモットなどの実験動物,あるいはウシ,ブタ,ヒツジなどの家畜で研究されてきた。

母子相互作用と母乳哺育 小林 登
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 Ⅰ.育児行動の発現に関して

 母乳栄養でわが子を育てる母親の育児行動は,母乳保育breast feedingとよぶ。それは,生き物,すなわち哺乳動物としての人間の自然の「いとなみ」である。

 生まれたばかりのわが子を,産んだばかりの母親のわきにそっとおいた時,母親がとる行動をビデオにとり分析した研究がある。それによると,母親は指先で,ついで手掌でわが子の四肢,さらに躯幹にふれ,次いでわが子を胸に抱き,乳頭をふくませる行動をとるという。その行動のパターンは,ほぼ一定していて,人による差があまりないという(spieces-specific pattern of maternal be—havier)。

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 母乳栄養の優れた意義については,生化学的側面,あるいは社会科学的側面から,他の著者により述べられているとおりである。われわれの新生児室でも,このように優れた母乳栄養を押し進めるため,昭和51年以来,新生児に生後5日目までは絶対に人工乳を与えない,『母乳中心主義栄養法』を行なってきた。その結果,高い母乳栄養の確立を見ているが,今回われわれの新生児室における具体的な母乳栄養のすすめ方から,退院後の具体的な管理方法について述べ,母乳栄養を推進するための1方法として紹介したい。

未熟児保育と母乳 山内 逸郎
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 Ⅰ.歴史の流れの中で

 未熟児保育の長い歴史の中で,現在ほど人乳の価値が強調されたことはこれまでなかった。かつては人工栄養との対比において,人乳栄養の未熟児保育における価値について,熱っぽい論議が繰り返された時代もあった。その論議の焦点が,「人乳と人工乳との組成の粗略化学的比較論」に終始していた頃である。

 しかし現在では事情は大きく変わった。「未熟児は人乳で育てよう!」という声が,最も大きく叫ばれ始めたのは,ほかでもない米国からである。数年前まで,あれほど人工栄養一辺倒だった米国の母乳率が,どの州でも1)明らかに上昇してきた。「流れは変わった」のである。これまでになかった新しい動きが,実際におこりはじめたのである。そのこと自体について論じようというのではない。しかしそのような情勢ならばこそ,「未熟児は人乳で!」と叫ばれ始めたということは,まことに理の当然なのである。その変わり身の早さたるや,いささかアッケにとられるほどである。何しろ十年前までは,未熟児の人乳栄養のことなど誰れも口にしなかったのだから,何とも不思議な気持さえしてくるのである。こうして1978年のJ.Pediatr.には,「人乳銀行の見通し」という題で,HelsinkiのSiimensら2)の論文が掲載された。

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 産褥期に母乳が十分分泌され,母乳で哺育することは自然の姿であり,人工栄養に比し種々の利点が認められている。その主なものは 1)栄養成分の組成が理想的であり,牛乳の場合にみられるアレルギー症状を起こさず, 2)抗体が含まれているので乳児の病気に対する抵抗性が強くなり,死亡率が低く, 3)母児のスキンシップが保てるので,母親の愛情をはぐくみ,乳児の精神情緒的発達によく, 4)哺育は簡便で,衛生的でかつ経済的であり, 5)哺乳刺激は子宮復古を促進し,排卵が回復するのを遅らせる,などである。

 世界的には1974年にWHOとUNが母乳化を推奨し,わが国でも1975年から厚生省が中心となって母乳化運動を行なっており,近年徐々に母乳栄養の率が上昇している1)(表1)。1981年3月にはFIGOから母乳化促進のための具体的な勧告が出されている(本号822頁参照)。

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 国際産婦人科連盟は母乳が児にとって唯一のふさわしい栄養源であることを再確認する。すなわち,母乳の有する抗感染力はとりわけ乳児罹患率を減少させることになり,初期には抗体の経胎盤移行によって付与されていた児の抵抗力を維持するのに大切であり,心理的,精神的な面から母乳栄養は母児の健康にとって重要である。また規則的な完全母乳栄養は分娩後短期間はある程度,避妊にも役立つことになる。

 母乳栄養を奨励し,促進するためのあらゆる努力が必要であり,この点で産婦人科医は非常に重要な役割を担っていることをあらためて再確認するものである。

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 子宮摘出そのもの自体は著しい卵巣機能を直ちに衰退させるものではないが,更年期障害様症状を呈することが知られている。この子宮摘出後にみられるゆううつ,のぼせ,尿症状,疲労,頭痛,めまい,不眠症などを一括して,Richards1)は「子宮摘出後症候群(post-hysterectomy syndrome)」とすることを提唱した。その後Kaltreiderら2)はこれらの症状は子宮摘出により子供を生む能力が消失した反応として起こるものとして「ストレス反応症候群(stress response syndrome)」とすることを提唱している。

 しかし,これらの多くの研究は子宮摘出以前の精神状態を考慮に入れず,手術後に出現した何らかの症状を子宮摘出に伴って出たものと過剰に評価してきたところに問題がある。そこですでにHunter3)は従来のretrospectiveの研究でなくpro—spectiveの研究により,術前にすでに存在していた症状が頻回に出てきたことによるとして,むしろ「子宮摘出前症候群(pre-hysterectomy syndrome)」とすべきであるとしている。しかし,この研究は術後わずか3ヶ月ほどのfollow-upに基づいたものにすぎない欠点があった。

最新号目次

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 今回,米国Mosby社の御好意により,世界的な産婦人科雑誌である上記の最新目次を,日本の読者にいち早く,提供できるようになりました。下記の目次は,発売前にファックスで送られてきたものです。この雑誌の御購読は,医学書院洋書部(03-814-5931)へお申込み下さい。本年の年間購読料は,施設¥29,400,個人¥22,900です。雑誌は,ST.LouisのMosby社より,直送いたします。

BREAST FEEDING MEMO

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 昭和56年10月11日付のサンデー毎日に,「母乳で育児したい」といって主役をおろされた米人気女優の24億円訴訟—ハリウッド報告—という記事があって,興味深く読んだ。この事件の主は,女優リン・レッドグローブとその子のアナベル・ルーシー・クラークで,彼女は,撮影の空き時間に,自分の化粧室で授乳したいと申し出たために主役を降ろされたとして,MCAとユニバーサルに対して1,050万ドルの損害賠償裁判をロサンゼルス最高裁にもちこんだということである。

 この記事の中で興味があったのは「いま,ハリウッドの女優の間では,映画やテレビ撮影の空き時間を利用して,母乳で自分の子どもを育てるのがちょっとした流行になっている」という事実である。

Fetal Monitoring講座 基礎から臨床応用へ

XIII.羊水情報(最終回) 久永 幸生
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 羊水によるfetal monitoringは胎児心拍数などと異なり,acute fetal distressのmonitoringとはなりえない。羊水成分の大部分(98〜99%)は水であるが,わずかに含まれる蛋白,炭水化物,脂質,無機塩類および細胞成分などの分析によって羊水中のある種の物質は胎児の状態を反映するindexとして臨床に応用されている。現在使用されている主要な羊水情報の臨床応用は,遺伝的ハイリスク妊娠の診断,Rh不適合の重症度の診断,胎児成熟度診断,奇形児妊娠の補助診断などである。羊水の多種類の物質が必ずしも羊水情報として臨床に応用されない主な理由は,その起源や羊水中出現径路,生理的役割りが現段階では必ずしも明らかでないものが多いためである。したがって,将来その役割りが明らかになるならば,重要な意義をもつようになる物質も多いと考えられる。そこで,現在羊水情報として臨床に応用されているもののほかにも,topicとなっているいくつかの物質を含めて述べることにする。

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 ホルモン産生腫瘍は全卵巣腫瘍の1%以下であり,しかも大部分は女性化腫瘍で男性化腫瘍は極めてまれである。事実,これまでに世界で報告された男性化腫瘍,androblastoma (arrhenoblastoma)は,250例を数えるにすぎない1)

 男性化腫瘍はSertoliおよびLeydig細胞様の腫瘍細胞からなり,胎生期睾丸組織に類似していることより,病理組織学的にSertoli-Leydig cell tumorとも呼ばれている。臨床的にはアンドロゲン活性が著明なものがほとんどで,脱女性化ないし男性化徴候を特徴とするが,内分泌活性を示さないもの,あるいは女性化徴候を示すものも少数ではあるが報告されている2)

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 子宮内膜症のホルモン療法としては,エストロゲンとゲスターゲンの混合剤であるピルを長期漸増方式で服用する偽妊娠療法(Kistner)が有効で,主として用いられている1,2)。近時,ethisterone誘導体であるdanazolによる偽閉経療法は,本邦でも紹介され1〜5),治験検討されつつあるが,欧米での治療成績は偽妊娠療法より症状改善率並びに副作用の点でよいことが報告されてきており,その評価は確立されたものといえる6〜12)

 ところで,一般的にわれわれ産婦人科医が新しく導入される薬剤を実地に使用する場合には,その有効性はさておき,一般国民の現今の医療意識の亢まりとも関連して,副作用の発生が念頭からはなれないのである。

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 授乳中の褥婦の血漿プロラクチン値は,開発途上国と先進諸国の褥婦とでは異なることが知られている1)

 同じように授乳しているにもかかわらず,開発途上国の褥婦では先進国の褥婦に比較してプロラクチン値は高く,非妊状態に復帰するのに要する期間も明らかに延長している。この差は授乳の仕方,特に授乳回数の差に基づくと説明する者もあるが2),必ずしもそうとはかぎらず,その理由は不明であった。

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 子宮外妊娠,特に卵管妊娠は産婦人科臨床上しばしば遭遇する急性腹症であるが,中絶症状発現以前の診断は極めて困難で,結局はそのほとんどが緊急手術の対象となっているのが現状である。今回われわれは超音波電子スキャン装置により卵管妊娠と診断した症例に対し,中絶症状発現以前にMTXを使用し,非観血的保存的に治癒させることに成功したので報告する。

基本情報

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臨床婦人科産科
35巻11号 (1981年11月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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