Modern Therapy 母乳
未熟児保育と母乳
山内 逸郎
1
Itsuro Yamanouchi
1
1国立岡山病院小児医療センター
pp.809-814
発行日 1981年11月10日
Published Date 1981/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409206516
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Ⅰ.歴史の流れの中で
未熟児保育の長い歴史の中で,現在ほど人乳の価値が強調されたことはこれまでなかった。かつては人工栄養との対比において,人乳栄養の未熟児保育における価値について,熱っぽい論議が繰り返された時代もあった。その論議の焦点が,「人乳と人工乳との組成の粗略化学的比較論」に終始していた頃である。
しかし現在では事情は大きく変わった。「未熟児は人乳で育てよう!」という声が,最も大きく叫ばれ始めたのは,ほかでもない米国からである。数年前まで,あれほど人工栄養一辺倒だった米国の母乳率が,どの州でも1)明らかに上昇してきた。「流れは変わった」のである。これまでになかった新しい動きが,実際におこりはじめたのである。そのこと自体について論じようというのではない。しかしそのような情勢ならばこそ,「未熟児は人乳で!」と叫ばれ始めたということは,まことに理の当然なのである。その変わり身の早さたるや,いささかアッケにとられるほどである。何しろ十年前までは,未熟児の人乳栄養のことなど誰れも口にしなかったのだから,何とも不思議な気持さえしてくるのである。こうして1978年のJ.Pediatr.には,「人乳銀行の見通し」という題で,HelsinkiのSiimensら2)の論文が掲載された。
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