臨床泌尿器科 71巻8号 (2017年7月)

特集 前立腺肥大症に対する手術─古くて新しい泌尿器科の標準治療

企画にあたって 小島 祥敬
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 この時期,新しく泌尿器科医となった若い後期研修医の先生たちが,膀胱鏡の操作に悪戦苦闘している光景をよく目にします.私が若い頃も,まずは膀胱鏡検査において,特に男性への無理のない内視鏡の挿入と,膀胱内のローテーションが理解できるようになれば,次のステップに進めると指導されました.その次のステップの1つが,経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of the prostate : TURP)でした.

 私がTURPを始めた20年前は,先輩医師たちに,「昔はモニターなんかなかったから,後ろから執刀医の手や肩の動きを見て手術を覚えたものだ」とか,「ときどき執刀医に内視鏡をのぞかせてもらったけど,血だらけで結局何もわからなかった」と,手術習得の難しさを武勇伝のように語られ,手術用モニター登場による革命的変化を強調されたものでした.そして,この20年の間に,前立腺肥大症手術もさらなる変化を遂げました.機器開発の進歩とともに,多くの新しい術式が開発され,最近では有効性のエビデンスが数々の大規模RCTにより蓄積されつつあります.しかしながら,どの術式にも一長一短がありますし,TURPは今でも標準術式であり,必ずしも劣った術式というわけではありません.本年4月に改訂された『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』にも,「それぞれの術式にはそれぞれの特徴があり,手術治療の術式選択は,前立腺肥大症の特性,前立腺以外の患者特性,医療施設の設備,術者の習熟度などを考慮して行う必要がある」と記載されています.

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▶ポイント

・前立腺肥大症に対する外科的治療のゴールド・スタンダードはTURPであるが,PVPやHoLEPは,周術期の侵襲性が低く,治療効果にも差を認めない.

・2017年度版の『前立腺肥大症診療ガイドライン』ではPVPが新しく推奨グレードAに追加されている.

・前立腺肥大症患者は高齢であり,心血管リスクの合併などにより抗凝固剤を内服していることが多い.HoLEPやPVPは抗凝固剤内服中でも安全に施行することが可能であり,今後さらに普及していく可能性が高い.

〈経尿道的前立腺切除術〉

TURP 三井 貴彦 , 井原 達矢 , 武田 正之
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▶ポイント

・TURPは,手術手技が確立している術式であり,有効性が高く長期成績が安定している.

・TURPでは周術期ばかりでなく長期にわたる合併症が明らかとなっている.

・TURPを安全にかつ有効に施行できるように習得したうえで,その他の術式も学ぶことが重要である.

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▶ポイント

・TURPと比較しTURisは切れ味がよいが,切除開始までの時間にタイムラグがある.

・TURisおける凝固は,TURPのピンポイントな凝固とは異なり,出血点を中心に広くさらには長い時間凝固することが重要である.

・TURisではTUR症候群は起きにくいが,被膜穿孔した場合は早急に手術を終える必要がある.

〈経尿道的前立腺核出術〉

HoLEP 岩本 秀安 , 賀本 敏行
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▶ポイント

・HoLEPの導入当初は手術手技も確立しておらず,術後尿失禁が多いとの印象をもたれて敬遠されがちであった.

・最近では前立腺の外科的被膜の解剖の認識と手術手技の改良が進み,またレーザー特性の理解と機器の進歩もあり,ほとんど合併症なく治療できるようになった.

・現在すでにスタンダードな治療法であることは間違いないと考えられる.

TUEB 米山 高弘
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▶ポイント

・TUEBはTURPに比較し出血量が少なく,灌流液として生理食塩水を用いるためTUR症候群が回避可能である.

・術式はHoLEPに準じたものであるが,内視鏡システムはTURPと同様のものを利用する.

・2017年度版の『前立腺肥大症診療ガイドライン』における推奨グレードはBであり,TURPと比較し,より大きな前立腺で有用である.

〈経尿道的前立腺蒸散術〉

PVP 神田 英輝 , 杉村 芳樹 , 有馬 公伸
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▶ポイント

・PVPの手技は容易であるが,側射型レーザー照射の基本操作を理解しておく必要がある.

・PVPは低侵襲な手術であり止血能に優れているため,抗凝固療法中の症例でも安全に手技が行える.

・治療成績はTURPと同等と考えられるが処理できる体積に限界があるため,大きな前立腺に対する再手術率はTURPよりも高くなる可能性がある.

TURisV 高橋 良輔
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▶ポイント

・TURisシステムを利用した蒸散術であり,機器の汎用性が高く導入しやすい.

・シンプルかつ平易で止血効果に優れた安全性の高い術式であり,中程度の大きさの前立腺肥大症に対する治療成績はTURPと比較しても遜色ない.

・80mLを超える大きな前立腺に対する対応が課題である.

〈合併症〉

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▶ポイント

・性機能保存の観点からは,レーザー治療が有効である.

・射精障害を危惧する患者に対しては,十分なインフォームド・コンセントのうえ,外科的治療の決定がなされるべきである.

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▶ポイント

・高齢前立腺肥大症患者は心血管系合併症を有する場合が多く,適切な術前評価を『非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン』に基づき行うべきである.

・高齢者の肥大症手術後の自覚症状改善は,非高齢者よりやや遅れるものの,数か月で同等に達する.

・HoLEPやPVPなどのMISは抗血栓薬内服下でも実施可能で,高齢者でも重篤な合併症が少ないので,今後の第一選択となる.

綜説

小児尿失禁 野口 満
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要旨

 小児の昼間尿失禁は,排尿障害,尿路感染症,腎機能障害の症状のほか,患児の精神的負担も夜尿症より大きい.治療介入は排尿が自立した5歳以降となる.病態把握と診断のためDVSS(dysfunctional voiding symptom score)などの問診票を利用し,排尿状況を聞き取るほか,排便状況や精神的・心因的問題も拾い上げる.初期評価は膀胱部エコー,尿流量検査,残尿測定など,侵襲性のない検査が行われる.治療は,尿失禁を来しうる併発疾患があればそれを加療し,なければurotherapyが第一選択となる.治療抵抗性であれば薬物療法を併用するが,器質的疾患の可能性も念頭に置かねばならない.

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 20歳男性.ペットボトルを陰茎に挿入したが,浮腫が進行し,抜去できなくなったために当院に救急搬送となった.病院到着時には絞扼してから約2時間半経過していた.動機は自慰行為目的であった.ペットボトルの口部は歯科用エアタービンを用いて作業開始から約1時間程度で合併症なく絞扼解除できた.歯科用エアタービンは硬性絞扼物の絞扼解除に有用な器具であると考えられた.

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 本書は,筆者の國頭先生が「死に臨んだ患者さんにどう対応したらよいか」について,看護大学の一年生,つまり,ついこの前まで高校生だった人達と問答したり対話したりした様子をまとめたものである.死にゆく患者さんと話をするのは,がん領域の医療者であっても,しんどいことである.私も昔,乳がんで骨転移のある患者さんに「良くならないのだったら,いっそのこと早く死にたい」と言われて往生した.医療者がへどもどする姿がみっともないのは自明であり,なるべく避けているのが無難でもある.「この病院ではできることがなくなりましたので,転院をお勧めします」という常套句は患者さんが言われたくないセリフの1つであるが,医療側にとっては救いの抜け道であるが故に,今日もどこかで「がん難民」が生まれているのだろう.

 しかし,「それをやっちゃあ,おしめえよ」と國頭先生は言う.「“どうせ治らないから”といって患者を見放すことは許されない.死んでいく患者といかに向き合い,少しでもベターな“ライフ”を過ごしてもらえるか,というのは我々の使命である」と序盤から活を入れる(「はじめに」より).理由も単純明快で,患者さんは死を迎えるその日まで生き続けるわけだし,果てしない孤独と山のような不安を抱えながら歩くのはつらかろう,だからそれを理解している人が三途の川の手前までついて行かなきゃいけないのは道理でもあり,人情でもある.それに,心を穏やかに保てさえすれば限られた時間を豊かに過ごすことができるだろう.おお,シャクにさわるくらいかっこいいではないか.実際は,かわいい学生たちに囲まれて,やに下がっているひひジジイにしか見えないのだけれど.それはともかく,問題はどうやって実現するかだ.出される課題は,先生が監修されたTVドラマ『白い巨塔』(平成版)などに登場する,「恩知らずで,気紛れで,偽善者で,尊大で,臆病で,自分勝手で,欲張りで,厚かましくて,けちで助平で馬鹿」な(p.248)患者や家族と医療者が織りなす,リアルでややこしい事例である.さあ,みんなどうする?

学会印象記

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第105回日本泌尿器科学会総会が,鹿児島大学教授の中川昌之会長のもと,2017年4月21〜24日にかけて鹿児島市で開催されました.私は前日から鹿児島入りしましたが,鹿児島市までは富山市から特急サンダーバードで新大阪まで行き,九州新幹線「さくら」に初めて乗りました.新大阪から鹿児島中央駅まで乗り換えもなく,普通席でしたがグリーン席並みに広くとても快適でした.鹿児島は南国のイメージがあり,この時季はさすがに暑いのだろうなと勝手に思い込んでいたぶん,同日は雨で肌寒かったことは意外でしたが,学会開催日以降は晴れて暖かく,心地よい気候のもと進んでいきました.学会は城山観光ホテル,かごしま県民交流センター,宝山ホールの3つの会場で行われました.城山観光ホテルは標高108mの高台に建っているため,鹿児島のシンボルの桜島や鹿児島市街地の素晴らしい景色を一望でき,宝山ホールの会場前広場においてはやや遠目ではありますが西郷隆盛像を拝見することができました.学会場に足を運んだだけでも十分観光した気分になりました.

 さて,学会に参加した印象ですが,抄録集を見ても例年に比べ,国際セッションが増えているように思いました.毎度のことながらヒアリングに難がある私は流れるスライドを目で追うことに必死でしたが,AUAやEAUのLectureや合同Symposiumだけではなく,UAA Lecture,Asian Urology SymposiumやJUA International Oral Sessionではアジア各国からの演題が多数あり,近年発展の著しいアジア諸国におけるJUAの役割というものを垣間見たような気がしました.

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第105回日本泌尿器科学会総会が「今,求められる泌尿器科─心・技・知の結集と展開」のテーマで,鹿児島大学教授の中川昌之会長のもと,2017年4月21〜24日にかけて鹿児島市で開催されました.私が学会に参加した22〜23日の2日間を含めて開催期間中は天候にも恵まれ,暖かで快適な気候でした.

 4月22日の早朝8時に名古屋を飛び立ち鹿児島に向かい,11時には会場の城山観光ホテルに到着しました.同ホテルは標高108メートルの高台に位置し,鹿児島市街地,桜島を見渡すことができて眺望は抜群でした.会場は城山観光ホテル以外に,かごしま県民交流センターと宝山ホールの計3か所で,ポスター,シンポジウム,セミナーなどが開催されました.各会場間は比較的距離はありましたが,会場間のアクセスとして頻回にバスによるピストン輸送があり,会場間の移動は大変楽でした.本学会の総演題数は1888題で,昨年の2倍の国際セッションが予定されており,アジア泌尿器科シンポジウム開催も加え,国際色が強い学会になると会場に入る前から期待していました.

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 大家 基嗣
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 酒井英樹教授のご高配で訪れた長崎は,長い冬の終わりを感じさせるすっきりと晴れた午後でした.長崎は滞在するだけで癒される私が好きな街のひとつです.長崎市立美術館をめざして散歩しながら理由を考えてみました.

 広い空,海,山,そして路面電車,この4つがそろっていることが理由です.私が好きな松山,高知にも共通しています.路面電車は眺めているだけでも,もちろん乗車しても魅力的です.大きな音をたてて走る姿は懸命で,1日走りきると疲れが溜まるだろう.車庫に戻ってゆっくり休んで欲しいと,気遣ってしまいます.昭和を彷彿とさせるノスタルジーでしょうか.

基本情報

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臨床泌尿器科
71巻8号 (2017年7月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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